やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに
 産科医療補償制度は2009年に開始され,幸運なことに,私は創設当初から原因分析委員会部会員と再発防止委員を務めさせていただいた.創設から早10年が過ぎようとしており,産科医療補償制度に対する社会的認知はかなり浸透したと感じる.私もずいぶん長くこの制度とお付き合いさせていただいたものである.
 再発防止委員会や原因分析委員会部会のなかで,多様な立場の方々の意見を聞き,また,私自身も助産師として意見を述べるなかで,この制度のおかげで大きく成長させていただいたと実感する.日本の周産期医療を第一線で牽引している医師たちの苦悩,弁護士や有識者から語られる妊産婦や家族の切実な思いなど,通常では耳にすることのない生々しい声に直接ふれ,周産期医療の現状をさまざまな視点から総体的に理解することができた.
 産科医療補償制度は,私ばかりでなく,現場の助産師にとっても存在意義は大きい.その理由の一つに,産科医療補償制度の運営に複数の助産師が参画していることがあげられる.制度創設の当初より運営委員会,原因分析委員会・部会,再発防止委員会のメンバーとして助産師が委員や部会員を務め,産科医師,新生児科医師,弁護士,有識者等と同じ席で,助産師の立場から見解を述べる機会を与えていただいた.そのことは,周産期医療を担う一員として助産師の存在が認められていることを意味し,専門職として大変重要なことと考えている.
 2015年,一般財団法人日本助産評価機構により助産実践能力習熟段階(クリニカルラダーCLoCMiP)レベルIIIの助産師個人認証制度が開始されたことは記憶に新しい.その認証に必要な研修の一部に「助産記録」「分娩期の胎児心拍数陣痛図(CTG)」「子宮収縮剤の使用と管理」「新生児蘇生法(NCPR)」が定められており,公益財団法人日本医療機能評価機構より毎年発行される「産科医療補償制度 再発防止に関する報告書」を反映させた研修内容となっている.また,認証試験の出題範囲にも,当該報告書の内容が位置づけられ,多くの助産師に産科医療補償制度における再発防止の提言の理解を促す仕組みとなっている.
 本書は,私が再発防止委員を務めるなかで実感した助産リスクマネジメントの重要な知見について,内容を吟味,洗練して解説している.現場で分娩に携わるすべての助産師諸姉が,妊産婦に安全な助産実践を提供できるように,ぜひ理解を深めていただきたい.
 本書では,助産師に知っておいていただきたい産科医療補償制度の具体的な内容については,制度を運営している公益財団法人日本医療機能評価機構の上田 茂氏と土屋奈津美氏に執筆をお願いした.また,助産師にとって分娩の安全性を確保するために必須な能力である胎児心拍数陣痛図(CTG)の判読に関しては,産科医師である大分県立病院副院長・産科部長の佐藤昌司氏に執筆をお願いした.ご多忙ななかで,どちらも大変わかりやすく解説いただくことができ,心から感謝している.
 制度創設10年の節目に,この書籍を刊行できることは私にとってもこの上ない喜びである.本書が,助産師のリスクマネジメント能力の向上に少しでも資することができれば嬉しい限りである.
 2018年2月 村上明美
 はじめに
第1章 産科医療補償制度について学ぼう
 (上田 茂・土屋奈津美)
 1 産科医療補償制度とは?
  産科医療補償制度開始の経緯と目的
  産科医療補償制度による補償
  補償対象事例の原因分析
  再発防止に向けた取組み
  産科医療補償制度の効果
 2 補償対象に関する参考事例
  補償対象基準に関する参考事例
  除外基準に関する参考事例
 3 産科医療補償制度 補償申請に関するQ&A
  補償申請手続きについて
  補償対象について
第2章 胎児心拍数陣痛図(CTG)判読のポイントと変化予測
 (佐藤昌司)
 1 分娩時の胎児循環に関する基礎的事項
  分娩時の子宮胎盤循環
  低酸素状態に対する胎児の防御機構
 2 胎児心拍数陣痛図の判読法
  胎児心拍数基線
  胎児心拍数基線細変動
  胎児心拍数一過性変動
 3 胎児心拍数陣痛図による分娩中の胎児健常性および低酸素・酸血症の診断
  胎児の健常性が良好である所見
  胎児低酸素・酸血症を疑う所見
 4 分娩時胎児管理の指針と胎児低酸素・酸血症
第3章 「産科医療補償制度再発防止に関する報告書」の事例から学ぶ助産リスクマネジメント
 (村上明美)
 産科医療補償制度再発防止に関する報告書について
 1 分娩中の胎児心拍数聴取について
  事例1-1
  事例1-2
  助産師が理解しておくべきこと
 2 子宮収縮薬の使用について
  事例2-1
  事例2-2
  助産師が理解しておくべきこと
 3 吸引分娩について
  事例3-1
  助産師が理解しておくべきこと
 4 新生児蘇生について
  事例4-1
  事例4-2
  助産師が理解しておくべきこと
 5 常位胎盤早期剥離の保健指導
  事例5-1
  事例5-2
  助産師が理解しておくべきこと
 6 生後5分まで新生児蘇生処置が不要であった事例について
  事例6-1
  事例6-2
  助産師が理解しておくべきこと
 7 診療録等の記載について
  助産師が理解しておくべきこと

 おわりに