やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

第4 版の発行にあたって
 本書「看護学概論 看護追求へのアプローチ(An Introduction of Nursing)」は,2005 年の初版出版から13 年が経過しました.看護を取り巻く社会状況が大きく変化しているなか,第4 版を発行できますことは望外の喜びです.
 看護学概論は,看護学を学ぶ目的で入学してきた学生が最初に接するIntroduction to Nursingに相当する専門科目であり,各看護学の基盤となる基礎看護学の一部として位置づけられています.「看護とは何か」「専門職としての看護職者は何をするのか」「看護学とはどのような学問か」という看護の本質と看護全般の概念をとらえ,看護の位置づけと役割の重要性を認識する科目です.また,同時に,看護学への興味・関心を高め,各専門看護学へつなげる科目でもあります.しかし,看護の本質や看護理論など,目に見えない抽象的な内容も多く,初学者にとっては難しく感じるかもしれません.
 そこで本テキストは,初版の“はじめに”で述べているように,看護の哲学的アプローチの考えを根底に置きながら,わかりやすく簡潔な記述を心がけ,探求心を刺激しながら具体的に理解できるよう演習も設けました.
 今回の改訂にあたっては,全体的な見直しを行い,本書の骨格・特徴を保持しつつ,執筆者を増やし,新しい情報や動向を盛り込み,時代に応じた知識と考えを補充しました.
 全体構成は,Introduction「看護の哲学」,Chapter1「看護の歴史」,Chapter2「看護実践に必要な諸概念」,Chapter3「看護実践と看護活動の場」,Chapter4「看護と法律」,Chapter5「看護と倫理」,Chapter6「専門職としての看護と教育」,Chapter7「看護理論の概要」,Chapter8「看護過程と看護診断」,Chapter9「看護研究」からなり,それぞれの冒頭に「本章で学ぶこと」を示しています.
 内容としては,質の高い看護実践(技術),医療安全,災害看護,国際看護に関する記述を加筆しました.さらに,今後の看護のあり方にも影響を及ぼすことから,マネジメント,医療保険制度と介護保険制度についても言及しました.看護と倫理,看護理論の概要,看護過程と看護診断では,理論と実践との関係について考え,看護実践の素地を形成するというねらいをもった内容になっています.とくに看護理論では,日本の薄井理論を加えるとともに,各理論家の似顔絵を添えて親しみやすく,具体例をあげてわかりやすくしました.また,看護師国家試験出題基準とも照合し,大切な用語や概念はきちんと理解できるように心がけています.看護学概論は,看護学全般の内容を含んでいますので,当科目以外にも必要時に活用していただけると思います.
 本書が,看護学を最初に学ぶ学生の知的好奇心を刺激し,看護を具体的にイメージし,看護への関心や探究心を養い,自らの看護観を築く礎になってほしいと願っています.最後に,第4 版への改訂にあたり,たいへんお世話になりました医歯薬出版編集部に感謝申し上げます.
 2018 年1 月
 編著者を代表して 小山敦代,田中幸子


はじめに―初版の序文
 新しく看護の道を目指して入学した学生のなかには,まだ本当に看護の仕事はどのようなものかを理解せず憧れにも似た感情や,目的なしに看護を選んだという複雑な気持ちをもつ人がいると思います.このように看護について白紙状態の看護学生が,看護の重要性や看護は実際どのような仕事であるか,また看護を提供するためにはどのような基本的な知識が必要かを短期間で学習するのは大変なことです.1年次に学ぶ看護学概論がその役割を果たすものですが,わずかな期間で,学生がしっかりとした概念をもつに至るのは至難の技です.学生たちのなかには4 年生になってはじめて看護学概論がわかったとコメントをする人もいます.
 このような状況を改善するためには,看護教員は抽象的な概念や理論をいかに具体的にわかりやすく教えるか工夫することが必要ですが,難しい用語が羅列された情報過多の教科書では学生が内容を把握しきれません.ともすれば国家試験のために教科書の文章をそのまま丸暗記してしまいがちな学生の傾向に対して,本書は彼らの知的好奇心を刺激し,自己学習により学びを深め,自らの看護観を築いていく,そうしたきっかけとなることを目指した看護学概論の教科書を目指しました.そのため,極力煩雑な説明を省いてできるだけ簡潔な記述を心がけ,また演習を適宜取り入れ,学生の積極的な探求心を刺激するように構成しています.
 PartIの序章(第4 版ではp5)では,ケリー(Kelly)の看護学の哲学的アプローチを参考にし概要(schema;シェーマ)を作成しました.学生がシェーマのコアを頭のなかに入力(インプット)することにより,看護は何かという基本的な概念を理解し,次第にコアの外部へと広がりをもち,看護の全体像をイメージできるように工夫をしました.また,患者中心の看護の図(第4 版ではp8)は,筆者自身が1960 年代コロンビア大学ティーチャーズカレッジのネルソン教授の授業“Fundamentals of Nursing”の授業で教わった資料を使用しました.40 年以上前に学んだ知識が現在の看護の世界でも通用するのを再確認し,ネルソン教授の偉大さを実感しました.
 さらに,本書の特徴のひとつとして,後半で看護理論を大きく取りあげていることがあげられます.看護理論は看護の基礎であり,実践の素地となります.現在,多くの看護理論が発表されていますが,実際に現場で活用できなければ理論としての意味がありません.また,今紹介されている多くの看護理論のなかには,完全に,また正確に解釈し理解することは困難な理論もあります.看護理論を自分の能力に応じて理解,解釈し,自分の哲学(philosophy)として変形し活用できればよいと思います.また,看護理論の学習を通して理論と実践の関係について考え,実践の素地を形成し,さらに自らの看護観を養ってほしいと願います.
 そうした考えから理論の選択にあたっては現在の看護現場で活用できるものとし,また,前半と同様に記述は簡潔を心がけ,演習を追加して学生が自ら学んで身につける姿勢を育むように工夫しました.ロジャース(Rogers M)の演習の資料は,青森県立保健大学のリボウィッツ(Leibowitz)学長(当時)が米国においてロジャースの研修会でいただいたものを提供してくださいました.そして,筆者が自分なりに解釈,理解して活用したものです.
 学生が看護理論の醍醐味に気づき,将来,研究や看護理論の構築に興味をもつことを願っています.
 最後に,この看護学概論の作成にあたって協力してくださった先生方,医歯薬出版の担当者各位に感謝いたします.
 2005 年3 月
 ライダー島崎玲子
Introduction 看護の哲学
 1.哲学とは何か(五十嵐靖彦)
 2.看護の哲学(ライダー島崎玲子)
 3.看護への接近法(ライダー島崎玲子)
  1)形而上学的アプローチ
  2)認識学的アプローチ
  3)価値哲学的アプローチ(倫理学的アプローチ)
  4)論理学的アプローチ
   なぜ人間は研究するのか/問題解決と研究の相違
Chapter1 看護の歴史
 (ライダー島崎玲子・田中幸子)
   [演習]看護の価値を知り,看護師としての自覚を高める
 1.近代以前からの看護の歴史
  1)近代以前の看護
  2)近代看護の芽生え
   ナイチンゲールと看護/赤十字社の創立とその活動/アメリカの看護
  3)日本の近代看護の夜明け
   看護教育の発足/戦争と看護
   [演習]戦争と看護について話し合う
 2.現代に至る日本の看護の歴史
  1)大日本帝国の崩壊と戦後改革
   アメリカ主導による改革/看護改革
  2)日本看護協会の設立と看護の専門職化
   日本看護協会へ1 本化するプロセス/看護の専門職化に関する政策活動
Chapter2 看護実践に必要な諸概念
 1.看護の概念(山本直美)
  1)看護の概念定義とその普遍性
   ナイチンゲールの看護の定義/ヘンダーソンの基本的看護=看護師独自の機能/薄井坦子「科学的看護論 初版」
  2)日本と諸外国における看護組織団体が提唱する看護の定義
  3)看護(Nursing)とケア(Care)/ケアリング(Caring)
  4)看護の役割機能の拡大
   療養生活から生活そのものへ/グローバル社会へ/災害医療の担い手として
 2.人間の理解(堀 良子)
  1)人間をどうとらえるか
  2)生命体と生活体のかかわり
  3)人間の基本的欲求と看護
   マズローのニード階層説/ヘンダーソンの基本的看護の構成要素
  4)人間と環境
  5)人間は生涯を生きる
  6)発達理論
   ハヴィガーストによる発達理論/エリクソンによる発達理論
  7)人間の心理行動の理解
   ストレス/孤独,感覚遮断
 3.健康(堀 良子)
  1)健康の概念
   生理学的にみた健康/WHOの健康の定義/動的健康概念の登場/今日の健康観
  2)健康の実現
   プライマリー・ヘルスケア(アルマ・アタ宣言)/ヘルスプロモーション(オタワ憲章)/健康日本/ノーマライゼーション
  3)健康に影響する要因
  4)わが国の現代生活における健康問題
 4.環境(社会)(山本直美)
  1)環境とは
   内部環境/人間
  2)看護理論家がとらえた環境の概念
  3)病者の生活環境と看護の役割
Chapter3 看護実践と看護活動の場
 1.質の高い看護実践(技術)の原則(山本直美)
  1)看護実践(技術)の科学性―自然科学と人間科学から説明できる看護実践
  2)看護実践(技術)の特徴
  3)看護技術を実践している看護師の思考
  4)看護実践の原則
   患者主体性(個別性)/安全性と安楽性/自立性/効率性・合理性・経済性/身体に触れるということ=看護師の『手』を使うこと/看護実践の倫理
 2.質の高い看護を実践するためのマネジメント(大川眞紀子)
  1)マネジメントとは
  2)看護におけるマネジメント
   看護における組織管理の概念/看護マネジメント
  3)効果的な看護マネジメント
   リーダーシップとマネジメント/メンバーシップとマネジメント
 3.保健医療システム
 4.保健医療福祉チームと職種の役割(藤本真記子)
 5.保健医療福祉サービスの場(藤本真記子)
  1)医療施設
   病院/診療所/助産所/介護老人保健施設(老人保健施設)
  2)病院以外の看護の場
   自宅-在宅医療(出張診療),訪問看護/保健施設(地域保健,学校保健,産業保健)/福祉施設/その他
  3)地域連携医療
   退院支援と継続看護/地域包括支援センター
 6.医療保険制度と介護保険制度(大川眞紀子)
  1)医療保険制度
   日本国憲法と生存権/国民皆保険の創設/医療保険制度/診療報酬
  2)介護保険制度
   介護保険制度の概要/介護保険制度の見直し
  3)看護と診療報酬
 7.医療安全(西山ゆかり)
  1)医療安全と法・制度
   医療法の目的と理念/医療安全への制度的取り組み
  2)看護における医療安全対策
   ヒューマンエラー/スイスチーズモデルとハインリッヒの法則/医療安全の用語/看護における事故の特質と構造/医療事故の可視化(インシデントレポートの活用)
  3)医療安全におけるリスクマネジメント
   感染予防/物品管理/情報管理
  4)医療事故に伴う法的な責任
  5)基礎教育としての医療安全教育
   [演習]医療事故の怖さを実感するディスカッション
 8.災害看護(1)〜4)山本加奈子,5)田中幸子)
  1)災害とは
  2)災害看護とは
  3)災害のサイクルに応じた看護活動
   急性期/亜急性期/慢性期
  4)こころのケア
  5)災害看護の歴史
   日本赤十字社看護婦養成所と災害救護/災害看護の幕明け/明治三陸大津波と看護/関東大震災と訪問(巡回)看護事業のはじまり/近年の震災と看護の発展
 9.国際看護(山本加奈子)
  1)国際看護学とは
  2)世界共通の健康目標
  3)世界の健康問題
  4)日本国内の国際化
  5)異文化理解
Chapter4 看護と法律
 (田中幸子)
 1.看護関係法の立法過程
  1)法律とは
  2)戦前の看護制度
   産婆規則/看護婦規則/保健婦規則
  3)占領期の看護制度改革
   保健師法案の廃案と保健婦助産婦看護婦法の成立/保健婦助産婦看護婦法の制定/保健婦助産婦看護婦法の問題点と法改正の動き/保健婦助産婦看護婦法の改正,法律第147 号(准看護婦制度)の成立/講習制度の形骸化と法律第258 号(旧規則看護婦の無条件国家資格)の成立
  4)戦後の保助看法改正の要点
  5)看護師等の人材確保の促進に関する法律
   人材確保法の立法前段階/政策問題の確認段階/人材確保のための政策課題の抽出と政策立案機関の設置/政策の立案と採択段階
 2.看護と法律
  1)医療法
   目的/医療提供の理念/医師等の責務/定義/病床の種別/診療等に関する諸記録
  2)保健師助産師看護師法
   目的/保健師,助産師,看護師,准看護師の定義と業務/免許/相対的欠格事由/免許の取り消し等の行政処分の手続き/行政処分を受けた保健師,助産師,看護師,准看護師の再教育/資質向上の促進/業務/特定業務の禁止/特定行為/助産師の応招義務/助産録の記載および保存/守秘義務/業務従事者の届出/名称の使用制限
  3)看護師等の人材確保の促進に関する法律
   目的/基本指針/国および地方公共団体の責務/病院等の開設者等の責務/看護師等の責務/国民の責務/都道府県ナースセンターの指定/看護師等の届出/中央ナースセンターの指定
Chapter5 看護と倫理
 (岡田朱民)
 1.倫理とは
  1)倫理とは
  2)倫理理論
 2.医療を巡る倫理の歴史的変遷
  1)医の倫理の変遷
  2)看護倫理の変遷
 3.看護における倫理と原則
  1)看護における倫理
  2)看護倫理の原則と看護実践上の倫理的概念
 4. 看護実践のおける倫理的問題と倫理的課題への対応
Chapter6 専門職としての看護と教育
 1.専門職(小山敦代)
  1)専門職とは
  2)看護専門職(nursing profession)とは
   ナイチンゲールの著作にみる専門職業/ブラウン・レポートによる「専門職業看護師」の定義/アメリカ看護師協会(ANA)専門職としての看護師/日本看護協会(JNA)による看護専門職の定義/日本看護系大学協議会学長・学部長会報告にみる期待される看護専門職像/保健師助産師看護師法にみる看護専門職
 2.看護教育(小山敦代)
  1)看護教育とは
  2)看護教育制度
  3)看護基礎教育
   看護基礎教育とは/社会の変化と看護師,准看護師学校養成所数の推移/看護系
   大学数の推移/看護基礎教育の充実に向けて
  4)看護継続教育
   看護継続教育とは/卒後教育機関としての大学院数の推移/資格認定制度
 3.看護専門職団体の役割(西山ゆかり)
  1)日本看護協会
  2)国際看護師協会
  3)国際助産師連盟
   [演習]看護職は専門職か否か(ディベート)
Chapter7 看護理論の概要
 1.看護理論の発達背景(ライダー島崎玲子)
 2.アメリカにおける看護理論と看護の専門職化(ライダー島崎玲子)
 3.看護概念と看護理論(ライダー島崎玲子)
  1)概念(concept)と理論(theory)
  2)看護の概念とその枠組み
  3)看護理論の意味
  4)看護理論の重要性
 4.看護の諸理論(小山敦代・中島小乃美)
   フローレンス・ナイチンゲール(井上美代江)
   ヴァージニア・ヘンダーソン(井上美代江)
   フェイ・G・アブデラ(中島小乃美)
   ヒルデガード・E・ペプロウ(中島小乃美)
   アイダ・J・オーランド(中島小乃美)
   アーネスティン・ウィーデンバック(中島小乃美)
   ジョイス・トラベルビー(岡田朱民)
   マーサ・E・ロジャース(中島小乃美)
   ドロセア・E・オレム(中島小乃美)
   シスター・C・ロイ(中島小乃美)
   パトリシア・ベナー(中島小乃美)
   ジーン・ワトソン(中島小乃美)
   マデリン・M・レイニンガー(中島小乃美)
   薄井坦子(山本直美)
 5.理論をどのように活用するか(小山敦代・中島小乃美)
  1)看護現象を理解するための一般理論(モデル)の活用
   マズローのニード階層説/エリクソン,ハヴィガーストの発達理論/危機理論/ストレス・コーピング理論
  2)看護理論の実践への活用
   はたらきかけ論的な看護理論/人間関係論的な看護理論の活用/対象論的な看護理論の活用
   [演習]看護諸理論活用の例
Chapter8 看護過程と看護診断
 (堀 良子)
 1.看護過程
  1)看護過程(nursing process)とは
   看護過程の意義/看護過程の構成要素/看護職者の看護の見方・考え方
  2)看護過程の各ステップ
   アセスメント/診断(問題の明確化)/計画/実施/評価
 2.看護診断
  1)看護診断とその意義
  2)看護診断の誕生と発達
  3)看護診断の構成要素
   看護診断の種類/看護診断用語
  4)看護診断分類法IIの構造
  5)看護過程に必要な看護実践者の能力
   コミュニケーション(communication)/クリティカル・シンキング(critical thinking)/EBN(Evidence Based Nursing)
Chapter9 看護研究
 (山本直美)
 1.看護学における研究の意義
 2.量的研究と質的研究
  1)看護研究のパラダイム実証主義と自然主義
  2)看護実践における知識の源泉としての理論的推論
 3.看護研究の実際
  1)研究のプロセス
  2)研究疑問の提示と絞り込みから研究課題の明確化
   研究疑問の始まり/研究疑問の絞り込み
  3)研究における文献検索と文献検討
   文献検索の範囲と入手の方法/研究論文の種類/文献検索の具体的方法/研究論文のクリティーク(批評・論評)
  4)研究のためのデザイン
  5)研究の方法論
   質的(帰納的)研究方法/量的(演繹的)研究方法/ミックス研究方法
  6)研究計画書の作成
   研究計画書作成の意義/研究計画書の内容
 4.研究における倫理
 5.研究成果の公表