やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに
 この本を手にとっている方の多くは,病院で働いている医療従事者の方でしょう.近年,医療現場には,リスク・マネジメント,インシデント・レポート,臨床指標(quality indicator;QI)などの医療の質と安全に関することばが溢れているのではないでしょうか.患者さんのために,より良い医療を安全確実に提供することが当然のことのように求められています.非常に忙しい医療現場においても,皆さん方はつねに医療の質と安全の確保に神経を尖らせていなくてはなりません.この本は,そのような医療現場の方々がより良い医療を提供するための手順書(マニュアル)として使えるようにと願って編纂されています.
 QIは医療の質を可視化するために有効なツールです.電子カルテ,DPCデータ,電子レセプトなどの病院内の膨大な電子情報を活用して,いろいろなQIが比較的簡単に測定できるようになってきました.また,多くの診療ガイドラインが普及し,より良い医療を提供するための指針として活用されるようにもなっています.しかし,皆さん方が提供している医療の質をしっかりと確保していくために,これらのツールをどのように医療現場で活用したら良いかを示すマニュアルはこれまでほとんど無かったと思います.
 QIをただ計りっぱなしにせずに,効果的に質の改善活動に結びつけるためには,「PDCAサイクル」の導入が有効です.Plan(計画)-Do(実行)-Check(評価)-Act(改善)は,皆さんよくご存知と思います.でも,医療の質の改善活動に実際にPDCAを導入している医療機関はあまり多くないのではないでしょうか.
 本書は,執筆者たちが国立病院機構の多数の病院に実際にPDCAを導入して,医療の質の改善活動を支援した豊富な経験に基づいて書かれています.また,東京医科歯科大学の医療クオリティマネジャー養成履修証明コースのPDCAサイクルに基づく医療の質の改善の講義を担当し,さまざまな病院に勤める受講生とPDCA活動についての議論を深めており,その経験も本書の実践的な内容につながっています.多くの病院の方にこのような活きた経験をよく知っていただいて,是非,医療の質の改善活動に挑戦していただきたいと思います.
 2017年8月
 東京医科歯科大学大学院医療政策情報学分野 教授
 国立病院機構本部総合研究センター診療情報分析部 部長
 伏見清秀
 はじめに
1章 医療の質の見える化
 (本橋隆子,金沢奈津子)
 1.「医療の質」と「見える化」
  1)医療の質とは
  2)医療の質の「見える化」と臨床指標
  3)わが国における医療の質の見える化の現状
 2.臨床指標の種類,基本構造,作成
  1)臨床指標(CI)や医療の質の指標(QI)の種類
  2)臨床指標の基本構造
  3)分母・分子の設定
  4)良いプロセス指標の条件
  5)臨床指標作成の流れ
  6)臨床指標の落とし穴
 3.臨床指標の課題
  1)臨床指標の測定値を用いた施設間での比較は要注意
  2)臨床指標は臨床現場においても評価すべき診療内容(行為)なの?
  3)臨床指標は適切に分母・分子を抽出できている?
  4)臨床指標のプロセス指標は意味があるの?
2章 PDCAサイクルと医療の質の改善
 (本橋隆子,金沢奈津子)
 1.医療の質の「見える化」から「改善」へ
  1)医療の質の改善とEvidence-based Medicine(EBM)
  2)PDCAサイクルとは?
  3)PDCAサイクルに基づく医療の質の改善とは?
 2.医療の質の改善の現状
  1)PDCAサイクルに基づく医療の質の改善の現状
  2)医療においてPDCAサイクルの実践・継続が難しい原因
 3.PDCAサイクルに基づく医療の質の改善活動を成功させる8つのポイント
  1)成功のポイント1 医療の質の改善活動における臨床指標の役割と改善活動の意義を理解する
  2)成功のポイント2 医療の質の改善に取り組む体制づくり(縦割り組織から横断的な組織へ)
  3)成功のポイント3 小さな課題設定と改善活動における成功体験の積み重ね
  4)成功のポイント4 客観的な資料に基づく現状分析と問題点の整理
  5)成功のポイント5 活動の目的を明確にするための目標設定と副次指標の設定
  6)成功のポイント6 スタッフ依存型計画から脱却した計画立案
  7)成功のポイント7 定期的な活動結果のフィードバックと活動結果の院内共有
  8)成功のポイント8 Act(改善)の強化
 4.PDCAサイクルに基づく医療の質の改善活動の波及効果
  1)診療への効果(プロセス改善効果)
  2)診療体制への効果(ストラクチャー改善効果)
  3)病院経営への効果(アウトカム改善効果)
3章 ゼロからはじめる医療の質の改善のPDCAサイクル(実践編)
 (金沢奈津子,本橋隆子)
 準備&Plan(計画)の実践例の見かた
 実践例1 バンコマイシン投与患者の血中濃度測定率
 実践例2 外来糖尿病患者に対する管理栄養士による栄養指導の実施率
 実践例3 股関節大腿近位骨折手術施行患者における抗菌薬3日以内中止率
 実践例4 安全管理が必要な医薬品に対する服薬指導実施率
 実践例5 急性脳梗塞患者に対する早期リハビリテーション(4日以内)実施率
 実践例6 75歳以上入院患者の退院時処方における向精神薬が3種類以上の処方率
 実践例7 誤嚥性肺炎患者に対する嚥下造影検査の実施率
 Do(実行)&Check(評価)をやってみよう
 Act(改善)をやってみよう
 活動の管理方法
  Column1 治療薬物モニタリング(TDM)
  Column2 「気をつける」「周知する」「協力を呼びかける」は悪い計画?
  Column3 外来レセプトデータを用いた指標の注意点
  Column4 気づきを促す環境づくり
  Column5 ポリファーマシーについて
  Column6 嚥下内視鏡検査による嚥下機能評価について
  Column7 ヒアリングって何をすればいいの?
4章 ゼロからはじめるデータ分析(データ分析編)
 (平岡紀代美,本橋隆子,金沢奈津子)
 4章を読み進めるにあたって
 データ分析1 バンコマイシン投与患者の血中濃度測定率
 データ分析2 外来糖尿病患者に対する管理栄養士による栄養指導の実施率
 データ分析3 股関節大腿近位骨折手術施行患者における抗菌薬3日以内中止率
 データ分析4 安全管理が必要な医薬品に対する服薬指導実施率
 データ分析5 急性脳梗塞患者に対する早期リハビリテーション(4日以内)実施率
 データ分析6 75歳以上入院患者の退院時処方における向精神薬が3種類以上の処方率
 データ分析7 誤嚥性肺炎患者に対する嚥下造影検査の実施率
 4章で使うEXCEL操作
 4章で使うEXCEL関数

 おわりに