やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

序文
 肥満が糖尿病,高脂血症,高血圧などのいわゆる生活習慣病の発症要因として重要な位置を占めることはよく知られた事実ですが,最近は,さらに肥満を基盤として,これらの生活習慣病が一個人に複数発症するいわゆるマルチプルリスクファクター症候群(メタボリックシンドロームとも呼ばれる)が,わが国でも癌と並んで死因のトップを占める心血管病の大きな基盤になっていることが注目されています.このような病態では単に肥満の程度,つまり脂肪組織の蓄積量だけが病態を決めるのではなく,腹腔内内臓脂肪の蓄積が病態発症の鍵を握っていることが明らかになってきました.
 日本肥満学会では,このような背景から,肥満のなかで合併症の存在する場合と内臓脂肪型肥満を,医学的な見地から治療を要する肥満として=cd=b854肥満症=cd=ba25と定義し,その診断基準を設定しました.
 しかし,肥満の背景である飽食と運動不足のライフスタイルによって,成人よりもはるかに大きな影響を受けるのが小児であることは周知の事実であり,これを放置すると将来さらに深刻な問題に発展することが予測されます.
 さて,小児肥満の医学的課題は原則的には成人肥満に準ずるものと思いますが,小児独特の問題点として,乳児期,幼児期,学童期,思春期など成長に応じた生活環境,社会的要因,心理的要因などについて考慮する必要があります.とくに成人肥満と違ってもっとも難しい点は,肥満をどのような基準で判定するか,減量すべき肥満,つまり=cd=b854小児肥満症=cd=ba25をどう診断するか,また成長するための栄養学的問題を考慮した適正な治療はどういうものか,ということでしょう.
 本書では,わが国の小児肥満の専門家が,成人肥満と共通する部分と異なる部分を検討しながら,これらの問題点についても解説しています.日本肥満学会がはじめて発表する小児肥満の診療マニュアルとして,役立てていただければ幸いです.
 2004年4月
 日本肥満学会理事長
 小児肥満症マニュアル作成委員会アドバイザー
 松澤 佑次
小児の肥満症マニュアル Contents

序文……松澤佑次

I 子どもの肥満症の正しい理解
 1.肥満をどのように判定・評価するか
 (1)体重の増加の判定……大関武彦
  Summary
  ● 肥満とは何か
  ● 肥満度(標準体重に対する過体重度)
   肥満度とはどのようなものか
   標準体重はどのようにして設定されるのか
   肥満度法の特徴
   グラフによる簡易法
  ● BMI(Body Mass Index)
   BMIとは何か……5
   BMIの特色
   BMIのパーセンタイル値
  ● 成長曲線の応用
   成長曲線のもつ意味
   成長曲線作成の実際
  ● 腹囲の測定と脂肪分布
   体脂肪の分布
   腹囲の測定法
 1.肥満をどのように判定・評価するか
 (2)体脂肪量と分布の評価……高谷竜三・玉井 浩
  Summary
  ● 身体組成評価の臨床的意義
  ● 身体組成評価方法
   皮下脂肪厚法
   生体インピーダンス法(bio-electric impedance analysis:Bl法)
  DEXA法(dual energy x-ray absorptiometry)
  ● 各種測定法による測定値の違い
  ● 体脂肪率の基準値
  ● 体脂肪分布,内臓脂肪量測定
   超音波法
  CTスキャン
 2.子どもの肥満がなぜ問題なのか……村田光範
  Summary
  ● 子どもの肥満が増加している
  ● 子どもの肥満は健康障害につながる
  ● 肥満が増加する生活環境
   運動不足
   夜型生活習慣の低年齢化
   朝食の欠食
   高学歴社会
 3.ライフステージと肥満
  〜乳児肥満,幼児肥満,学童肥満,思春期肥満……衣笠昭彦
  Summary
  ● 子どもの肥満と年齢区分
  ● 子どもの肥満の予防と治療,予後
   乳児肥満
   幼児肥満
   学童肥満
   思春期肥満
  ● 予後不良な思春期肥満の発生予防
 4.子どもの肥満症とは……朝山光太郎
  Summary
  ● 肥満と肥満症の定義
   子どもの肥満症の病態と治療の意味
   肥満症の診断基準
   腹囲,内臓脂肪面積による診断指標
  ● 子どもの肥満症をどのように判定するか
 5.子どもの肥満はなぜ生ずるか
 (1)遺伝的な要因……花木啓一
  Summary
  ● 肥満は遺伝するのか?
  ● 肥満の成因と遺伝
   遺伝子異常と肥満発症機序の関連が明らかなもの
   遺伝子多型と肥満の関連が指摘されているもの
   遺伝性肥満
  ● 生活習慣病としての肥満と遺伝要因
 5.子どもの肥満はなぜ生ずるか
 (2)摂食の調節・脂肪細胞の機能……西田 誠・中村 正
  Summary
  ● 脳内での食欲の調節
   食欲の中枢と摂食行動のしくみ
   摂食行動と肥満
  ● レプチンの発見
   食欲抑制物質レプチン
   レプチン抵抗性と肥満
  ● 多機能な脂肪細胞
   脂肪細胞の機能
   脂肪細胞とアディポサイトカイン
 5.子どもの肥満はなぜ生ずるか
 (3)生活習慣〜食事・運動など……岡田知雄
  Summary
  ● 乳幼児期の生活習慣
  ● 学童期,思春期の生活習慣
 5.子どもの肥満はなぜ生ずるか
 (4)摂食と精神・心理的要因……大関武彦
  Summary
  ● 精神・心理的な原因と子どもの肥満
  ● 幼児期から学童期の肥満
  ● 思春期の肥満と精神・心理的な特徴
  ● ストレスと肥満の発症

II 子どもの肥満症の治療とケア
 6.肥満症治療の方法とアプローチ……岡田知雄
  Summary
  ● 子どもの肥満の判定
  ● 肥満治療へのアプローチ
   家族歴
   肥満の発症時期
   食事調査
   身体活動の評価
   医学的評価
  ● 肥満治療についての自覚の確認,動機づけ
 7.食事療法のすすめ方……岡田知雄
  Summary
  ● 子どもの肥満に対する食事療法の考え方
  ● 子どもの肥満に対する食事指導の実際
   乳児肥満の食事
   幼児・学童肥満の食事
   思春期肥満の食事
 8.運動療法のすすめ方……原 光彦
  Summary
  ● 子どもの身体活動の現状と肥満症
  ● 子どもの肥満治療における運動療法の位置づけ
  ● 肥満児の運動能力
  ● 運動療法の実際
   運動量の設定
   運動強度の設定
   運動の種類の設定
   運動の持続時間の設定
   運動の頻度
  ● 運動療法を継続させるための工夫
 9.行動療法のしくみと実際……朝山光太郎
  Summary
  ● 行動修正療法と認知行動療法
  ● 子どもの肥満における行動療法の実際
   行動療法の考え方
   行動療法の実践方法
  10.その他の治療と今後の展望……朝山光太郎
  Summary
  ● いろいろな肥満治療法
   超低エネルギー食療法(VLCD:very low calorie diet)
   薬物療法
   外科的療法
  ● 今後の展望

III 子どもの肥満症と合併症
 11.糖尿病と肥満……貴田嘉一
  Summary
  ● 糖尿病とは
   糖尿病のしくみ
   糖尿病の分類
   糖尿病の疫学
  ● 1型糖尿病と肥満
   肥満は1型糖尿病の原因か
   肥満するとどのような弊害があるか
   肥満をどのように予防するのか
  ● 2型糖尿病と肥満
   肥満は2型糖尿病の元凶である
   肥満をともなう2型糖尿病の治療
 12.高脂血症と肥満……貴田嘉一
  Summary
  ● 高脂血症とは
   高脂血症の原因
   肥満にともなう脂質異常
  ● 子どもの高脂血症と心血管系疾患
   高脂血症と動脈硬化
   高脂血症と心血管系疾患
  ● 高脂血症の診断
   成人の基準値
   子どもの基準値
  ● 子どもの高脂血症の治療
   食事療法
   運動療法
   薬物療法
 13.その他の代謝異常症と肥満
  〜高尿酸血症・脂肪肝……有阪 治
  Summary
  ● 高尿酸血症
   肥満で尿酸値が上がる理由
   高尿酸血症と生活習慣病
   高尿酸血症の基準
   生活指導
  ● 脂肪肝
   脂肪肝とは
   肥満による脂肪肝の原因
   子どもの脂肪肝の頻度
   診断
   鑑別診断
   治療について
 14.高血圧・心臓病と肥満……有阪 治
  Summary
  ● 肥満と心血管疾患
  ● 肥満,高血圧,動脈硬化の関係
   肥満で高血圧の起こる理由
   肥満と小児期の左室肥大
   肥満と動脈硬化
  ● 高血圧の判定
   血圧の測定方法
   血圧の基準
  ● 子どもの高血圧の頻度と原因
  ● 高血圧への対応と心臓病の予防
 15.その他の身体的異常……杉原茂孝
  Summary
  ● 黒色表皮腫
  ● 皮膚線状や股ずれなどの皮膚所見
  ● 肥満に起因する骨折や関節障害
  ● 月経異常
  ● 思春期早発傾向
  ● 二次性(症候性)肥満にともなう身体的異常
   内分泌性肥満
   遺伝性肥満(先天異常症候群)
   視床下部性肥満
   薬物による肥満
 16.肥満にともなう精神・心理的問題点……大関武彦
  Summary
  ● 不登校
  ● チック症,心因性咳嗽
  ● 夜尿症,頻尿,遺尿症
  ● 抜毛症
  ● 消化器系の異常(心因性嘔吐,過敏性腸症候群)
 17.摂食異常症と肥満……大関武彦
  Summary
  ● 摂食異常症と肥満の関連
  ● 神経性食欲不振症とは
  ● 神経性過食症とは
  ● 若い女性の低体重について
  ● やせ症と肥満の治療
IV 子どもの肥満症の予防
 18.子どもの肥満をどのように予防するか……村田光範
  Summary
  ● 肥満予防の目的
   乳児期
   幼児期
   学齢期以降
  ● 肥満予防対策
   一次予防対策
   二次予防対策
   三次予防対策
  ● 子どもの生活場面からみた予防対策
   家庭での対応
   保育所,幼稚園,学校での対応
   医療機関での対応
   子どもの肥満の判定には,どの方法がよいでしょうか?
   体脂肪測定では,どのようなことに注意すればよいでしょうか?
   子どもの肥満に対して,具体的に取り組むにはどうすればよいでしょうか?
   遺伝する肥満かどうかは,どのようにしてわかるのですか?
   遺伝による肥満と判明したら,どのように治療するのですか?
   子どもの肥満と親の育て方の関係はありますか?
   運動習慣がある子どもに育てるためには,どうすればよいでしょうか?
   肥満児は治療中に体重を減らす必要があるのでしょうか?
   上昇した血清尿酸値は,薬で下げればよいのではないでしょうか?
   脂肪肝があれば,必ず肝機能異常は出現しますか? 脂肪肝には,何か自覚症状があるのでしょうか?
   子どもの高血圧に対する薬物療法は,どのようなものですか?
   黒色表皮腫は一度できると消えないのですか?
   チックなどの癖へのよい対応はありますか?
   肥満を予防するためには,日常生活でどのようなことに気をつければよいでしょうか?
   成長曲線
   成長曲線を用いた肥満の早期発見
   内臓脂肪,アディポサイトカイン
   アルストレーム症候群
   アディポネクチン
   単純性肥満,症候性肥満
   子どもの肥満に対するダイエットの種類
   倹約遺伝子
   非アルコール性脂肪肝炎
   出生前因子と出生後の高血圧・心臓病との関係
   ボガルサ心臓調査

付表
索引
 表紙デザイン・本文レイアウト・カット/イトーデザインスタジオ
 本文イラスト/新藤良子