やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

第2版の発行にあたって
 初版の発行からほぼ10年ぶりに改訂することができました.おもな変更点を以下に列挙します.
 (1)統計データを最新のものに改めた.
 (2)食事療法に新しい考えかたの解説を入れた.
 (3)経口血糖降下薬に新しい薬剤を追加した.
 (4)保健機能食品について書き換えた.
 (5)新しいインスリン製剤を追加した.
 (6)新しい注射薬―GLP-1受容体作動薬の項目を設けた.
 (7)新しい血糖測定機器を追加した.
 (8)合併症に関して,新しい病期分類に変更した.
 (9)血糖,血圧,脂質に関して新しい治療目標に変更した.
 (10)小児・思春期糖尿病の治療目標を改訂した.
 (11)老年期の糖尿病について,新しい治療目標を解説した.
 (12)妊娠に関連する糖尿病に関して定義や治療目標を変更した.
 改訂を進めながら,この10年の間に,糖尿病治療にとって本当に大きな改革や変革がなされてきたことを思いました.こうやって眺めてみると,それは科学の進歩,エビデンスの集積など,糖尿病の科学的側面の変化によるものが大きいことに気づきます.
 一方で,新しい統計データを眺めていますと,糖尿病による透析導入者数はまだ減少しておりませんし,糖尿病による医療費は増加しております.平均寿命は延びているようですが,科学的進歩がまだ望ましい医療アウトカムに反映されていないといえそうです.
 また,患者さんのこころの問題に関する記述にはあまり大きな変化がありませんでした.こころの問題への対処は,科学的側面の進歩に比較して,より長い時間を必要としているようです.
 今回の改訂は,医歯薬出版関係者の粘り強い後押しがあってやりとげることができました.心より感謝いたします.初版同様,本書が糖尿病医療に携わる方々の一助になれば,幸いです.
 2017年5月吉日 奈良県立医科大学糖尿病学講座 石井 均


はじめに
・患者さんからの質問に答えることの難しさ
 診察室で,または糖尿病教室で,患者さんから何気なく尋ねられた質問に,糖尿病に関する極めて重要な(あるいは未解決の)問題が潜んでいることに気づき,ドキッとすることがあります.
 その代表が,「糖尿病は治るのでしょうか?」という質問です.これに答えようとすると,医療者としての糖尿病に関する科学的理解のかなりの部分をつぎ込まなくてはなりません.糖尿病がどのようにして成立するか,進展するか,治療がどのような効果をもたらすか,などについての深い知識です.それらを総合して,「全く治ってしまうことはありません」という回答を準備したとします.これをそのまま伝えてよいものでしょうか.
 説明にあたって,同時にもう一つ重要な問題があります.それは,患者さんが「治る」という言葉にどのような意味を持たせているか,あるいは「全く治ってしまうことはありません」という表現をどのように受け止めるか,ということです.

・医療者の説明は治療そのもの
 患者さんからの糖尿病に関する質問に答えていくことの難しさは,純粋に科学的な説明だけでは不十分であるという点にあります.それが治療意欲を削ぐものであったり,非現実的な夢を抱かせるものであってはなりません.だからといって,科学的に正しくないことは言えません.
 医療者の説明は,科学的な事実に裏付けられた,正しい治療意義と可能性を伝えるものである必要があります.すなわち,医療者の説明は治療そのものなのです.糖尿病治療にかける患者さんの希望を育んでいくものなのです.
 そのような考えに立って「患者さんの素直な疑問に適切に答える」ために,この本を作成しました.この本の目標を三点にまとめると次のようになります.
 (1)糖尿病について基本となる重要な考え方と最新の情報を伝える.
 (2)糖尿病とつき合っていくために本当に役に立つ情報を伝える.
 (3)図表やイラストを使って,できるだけわかりやすく親しみやすく伝える.
 質問群は糖尿病治療のできるだけ幅広い範囲から選択し,回答については文献的考察と日々の診療における体験と知恵を盛り込みました.また多彩なイラストは,患者さん説明用の媒体づくりに活用できるようCD-ROMに収載しました.(原案は第一三共の糖尿病情報サイトにネット公開され,幸いにも多くの医療者から好評を博しました)本の形にすることにあたっては,第一三共関係者のご理解と医歯薬出版関係者のご協力をいただきました.
 本書が,糖尿病治療に携わる医療者の一助になれば幸いです.
 2008年1月吉日 天理よろづ相談所病院内分泌内科 石井 均
 第2版の発行にあたって
 はじめに
1 糖尿病の基本
 Q1 糖尿病の病型と病態
  糖尿病は治るのでしょうか?
 Q2 糖尿病の原因
  なぜ糖尿病になるのですか?
 Q3 糖尿病の治療
  なぜ治療が必要なのでしょうか?
2 食事療法
 Q4 食事療法の意義
  食事療法って簡単ですか?
 Q5 食品の特徴
  食品についてちょっといい話,ちょっと気になる話,教えてください.
 Q6 食事の心理と行動修正
  食事療法を続けるコツってありますか?
3 運動療法
 Q7 運動の効果
  運動していれば食べても大丈夫ですか?
 Q8 運動の強さと時間
  運動は長くて激しいほど効果が高いのでしょうか?短くてはダメですか?
 Q9 運動の心理と行動修正
  運動療法を続けるコツってありますか?
4 肥満と減量
 Q10 肥満の基準
  肥満に基準ってあるんですか?
 Q11 脂肪細胞の働き
  脂肪細胞にはびっくりするような働きがあるって本当ですか?
 Q12 肥満の心理と行動修正
  減量をしても,リバウンドは必ず起きてしまうのでしょうか?
5 飲み薬
 Q13 経口薬の種類と効果
  糖尿病に効く飲み薬にはどのような薬剤がありますか?
 Q14 経口薬の服用と注意点
  薬はいつ飲むのがよいのですか?またどのようなことに注意すればよいのでしょうか?
 Q15 健康食品と民間療法
  健康食品や民間療法は糖尿病に効くのでしょうか?
6 注射薬(インスリンおよびGLP-1受容体作動薬)
 Q16 インスリン治療
  インスリン治療はなぜ必要なのですか?
 Q17 インスリンの種類と投与法
  インスリンにはいくつかの種類がありますが,どのように使うのでしょうか?
 Q18 インスリン自己注射
  怖くない注射の始め方,教えてください.
 Q19 GLP-1受容体作動薬
  インスリンとは別の注射薬が出たと聞いたのですが.
7 非常時
 Q20 低血糖
  低血糖はとても怖いと聞いたのですが,本当ですか?
 Q21 セルフモニタリング
  自分の血糖値を知る方法はありますか?
 Q22 シックデイ/ケトアシドーシス
  具合が悪くて食べられないとき血糖はどのようになりますか?またどうすればよいのでしょうか?
8 合併症予防
 Q23 細小血管症
  糖尿病によって眼や腎臓が悪くなることがあると聞きましたが,本当ですか?
 Q24 大血管症
  糖尿病によって動脈硬化が進むというのは本当でしょうか?
 Q25 コントロール基準
  合併症を防ぐためには,血糖などをどの程度コントロールすればよいのでしょうか?
9 ライフステージ
 Q26 思春期と糖尿病
  糖尿病の患者さんにおいて,特に思春期に,注意することはどのようなことですか?
 Q27 老年期と糖尿病
  糖尿病の患者さんにおいて,特に老年期に,注意することはどのようなことですか?
 Q28 女性と糖尿病
  糖尿病の患者さんにおいて,女性特有の課題にはどのようなことがあるのでしょうか?
10 こころのケア
 Q29 行動変化
  食事療法や運動療法をしなくては…と思っているのですが,なかなかできません.何かよい方法はありますか?
 Q30 ストレス
  どのようなことがストレスになるのでしょうか?また糖尿病に影響はありますか?
 Q31 燃え尽き
  糖尿病で「燃え尽きる」とはどのようなことですか?また対処法にはどのようなことがありますか?
11 お金と情報
 Q32 医療費
  糖尿病の治療と医療費について教えてください.
 Q33 一次・二次・三次予防
  糖尿病の一次予防,二次予防,三次予防について教えてください.
 Q34 インターネット
  インターネットでは,糖尿病について,どのような情報が得られるのでしょうか?

 文献リスト/参考ホームページ
 さくいん