やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに
 「生活と医療を統合する継続看護マネジメント」を手にした皆様へ
 皆さまはどのような期待をもって,この本を手にしたのでしょうか?
 「生活と医療を統合する」というフレーズに惹かれたのでしょうか?
 それとも,古くて新しい「継続看護」という響きでしょうか?
 私たちはこの本に,これからの看護師が責任をもつべき役割,そして看護師が信じてやまないめざすケアの形への思いを込めました.
 この本は,平成22-25年度科学研究費補助金(基盤研究(B))「生活と医療を統合する継続看護マネジメント能力を育成する教育プログラムの開発と検証」(22390440):研究代表者長江弘子の研究成果として生まれました.執筆は研究プロジェクトメンバー全員で行い,私たちの在宅看護学教育・研究活動の道のりで大切にしてきたことをまとめました.
 この研究活動は私と谷垣靜子先生との出会いから始まっています.折しもそれは2009年,二人が岡山大学の在宅看護学領域を担う責任者として着任し,一緒に在宅看護学教育を始めた時のことです.私たちは着任してすぐに,岡山市内で地域連携を促進する看護師の育成を目的とした「継続看護セミナー」を開催しました.これは,退院支援や在宅移行支援にかかわる看護師を対象に,自分の職場にある仕組みや体制を見直し,看護師として何ができるかを考える参加体験型のセミナーで,現場を変えていく看護師の力量開発を狙った教育プログラムです.
 それは,退院支援や在宅移行支援という特定の状況への看護師の取り組みではなく,何のために看護師は退院支援をするのか,その活動の本質を示すものは何か,また看護学基礎教育において在宅看護学が育成すべき人材像や教育方法とは何か,そして地域社会に役立つ看護師をどのように育てるべきなのか,看護師は何をすべきなのかという問いが発端であったと思います.看護師の教育研究者の一員である私たちが大切にしているもの,育てたい「看護師のまなざし」,それを形にして伝えたいという思いの一心で進んできました.それが今このタイミングで世に本として出すことにつながりました.まさに「今でしょ」,そんな気持ちです.
 本書に書かれている継続看護マネジメントの考え方,そして事例展開はどれも特別新しいことではないと思います.ですが,いつも当たり前のように行っている看護に,あえて別の角度から別の言葉でその活動に意味づけをすることで,われわれ看護師の実践の意味や奥深さに気づくきっかけになるとうれしいと思います.しかし,まだできたてほやほやです.言葉も言い回しもまだ洗練されていません.ですので,皆さまからのご意見やご感想をぜひお寄せいただければありがたいです.読者である看護師の皆さまとともに精錬させていきたいと思っております.
 最後になりますが,本書を出版するまでの3年間,医歯薬出版の編集担当の方には根気よく,また力強くご支援いただきました.深く感謝いたします.
 著者を代表して 編者 長江弘子
第1章 生活と医療を統合する看護学を必要とする背景
 1 なぜ,生活と医療の統合なのか
  1.生活を知るために必要な「地域」という視座
  2.生活と医療を統合する継続看護の思考枠組み
  3.生活と医療を統合する看護とは,継続看護マネジメントではないか
 2 わが国の社会背景
  1.高齢多死社会
  2.慢性疾患患者の増加
  3.家族機能の減弱化
  4.国民の生活意識の変化
 3 わが国の医療制度改革と地域包括ケア
  1.地域格差と医療の偏在
  2.在宅医療の推進
第2章 生活と医療を統合する継続看護マネジメントの概念開発
 1 なぜ,継続看護を再考する必要があるのか
 2 概念開発の方法
 3 概念分析のプロセスと概念モデルの構成要素
  1.文献検討
  2.継続看護を必要とする背景:先行要因
  3.継続看護の実践を構成する要素:属性
  4.継続看護のアウトカム:帰結
 4 類似する概念の検討
 5 継続看護マネジメントの再定義
第3章 生活と医療を統合する看護学実践論
 イントロダクション
  1.継続看護マネジメントを適用する場面の考え方
  2.多様な事例にみる継続看護マネジメント実践のポイント
 事例1 慢性疾患とともに生きる一人暮らし高齢者への支援
 事例2 心疾患とともに生きる人への入院回避支援
 事例3 認知症とともに生きる人への支援
 事例4 頸髄損傷とともに生きる人への支援
 事例5 ALSとともに生きる人への支援
 事例6 医療的ケアを要する子どもの在宅療養への支援
 事例7 多系統萎縮症とともに生きる人と家族の在宅生活継続への支援
 事例8 がん終末期を生きる一人暮らしの人への支援
第4章 生活と医療を統合する看護学教育論
 1 生活と医療を統合する思考プロセスの教育
  1.統合分野としての在宅看護学教育の骨子とは
  2.地域という生活の場で展開する看護に必要な思考とは何か
  3.育みたい思考の柔軟性と創造性
 2 看護基礎教育への適応−看護基礎教育における在宅看護教育の教授内容と方法−
  1.「統合分野および在宅看護学教育についての調査」結果を踏まえて
  2.生活と医療を統合する思考を育てる教授方法の具体例
 3 現任教育への適応−継続教育,現任教育における教育プログラムへの適用−
  1.生活と医療を統合する思考を育てる現任者のための教育プログラムの提案
  2.退院支援を通した継続看護研修の試み
 4 看護基礎教育と現任教育の連動
  1.教育機関と臨床現場の協働で新卒訪問看護師を育てる取り組み
  2.教育機関の課題