やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

第2版 改訂の序
 本書は,初版の発行から既に7年が経過しました.この間に,看護技術に関する研究は積み重ねられ,また初版で掲載していたガイドラインの刷新等もあり,改定の必要性に迫られました.そこで,初版発行後に新たなエビデンスが出てきたものを検討し,全面的に基本技術項目・根拠の見直しを行い,内容の差し替えを行いました.
 なお,本書では,ひとつひとつの看護技術のケアの根拠を多角的に捉え,それらを丁寧に解説することに努めています.なぜなら,看護職は根拠をふまえた基本技術を修得しているだけでは,ユニークな存在である対象者に適した看護を実践することは困難だからです.看護の現場では,基本的知識を踏まえて,対象に応じた看護技術の応用・発展のさせ方を考えることが必要になります.したがって本書は,対象者に適した看護援助を創意工夫していくことができるように,臨床での技術のポイント,実証報告,さらに検証,と思考を深めていけるように構成しています.また,禁忌事項の項目は,医療安全教育にも役立てられると考えます.
 看護職が目指す,個別的で質の高い看護,説明できる看護実践のためには,ホリスティックな観点でのアセスメント能力,コミュニケーション能力,看護技術力,そして科学的思考が求められます.本書がその一助になれば幸いです.「看護技術は発展する」という考えのもと,今後も看護技術に関連する理論と実践を注意深く見つめ,さらなる検討を重ね,本書を発展させていきたいと思っています.
 改訂にあたり,これまで本書を活用していただいている読者の皆様,そして医歯薬出版編集部の皆様のご支援に深く感謝申し上げます.
 2013年1月
 編者ら

はじめに
 看護専門職は,看護の専門的知識と技術を活用して,対象者に最適な個別的で創造的な看護ケアの実践を目指します.そのヒューマニスティックな行為には,科学性や論理性が求められることは言うまでもありません.期待する看護の結果が論理性をもって予測でき,学問に支えられた自信ある行動がとれれば,どんなにかいいでしょう.しかし,科学性や論理性という側面では,臨床看護研究の困難さも影響してか,特定の看護ケアの根拠が示されるケースは決して十分ではありません.
 これまで,看護学に関連する医学的知識や看護研究による実証,さらには経験に基づく知識などを基盤として,看護教育では看護技術の原理が教えられてきました.また,現状では,学んだ基本をどのように応用すればよいかについては,実習体験からの学びや卒後教育に委ねられている部分が大きいと言えます.基本だけを覚えてきた学生にとっては,臨床の場で,柔軟に考え,技術を変容させて応用することができず,戸惑うこともあります.
 そこでこの本では,基本技術の応用や発展のさせ方に重点をおき,臨床への適応の助けとなること,今後の臨床看護実践と看護研究の発展に役立つことを目指した内容にしました.この本をもとに“学び”“試し”そして“調べる”という学習が,EBNの実践に必要な,根拠を“探し出すこと”や“つくり出すこと”そして“使うこと”という態度の習得にもつながるのではないかという期待もあります.
 この本の章立ては,「看護基礎教育における技術教育のあり方に関する検討会報告 看護基本技術」の項目を考慮して決定しました.各章の内容は,(1)看護援助の必要性,それを判断するためのミニマムデータとアセスメントの概念図,(2)基本技術/一般的な技術(安全・安楽・動作経済の面で効果的な方法,臨床における禁忌事項)とは何か,(3)応用技術(基本技術のままでは何が不足なのか,守っているポイントと応用しているポイント,実証報告はあるがさらに追加検証が必要なケースの検証方法,経験知の場合どのような観点で検証するとよいか)とは,どのようなものかを取り上げています.
 「学ぶ・試す・調べる 看護ケアの根拠と技術」という本書のタイトルは,根拠がわかることで技術の応用力・発展力が身につき,「臨床では個別的で創造的なケアをすることができる」「看護技術は発展する」という考え方に根ざしています.そのため,本書についても,理論と実践を注意深く見つめ,さらなる検討を重ね,発展させていきたいと思います.
 2005年7月
 編者ら
1 環境調整
 (玉木ミヨ子・本多和子)
  1 24時間臥床している患者の場合,病床の清掃 をしながら寝床内の換気をする(ベッドの上下または左右の片側ずつ,リネン類を1枚ずつ剥いで,ハンドクリーナー,粘着ロールテープなどでリネン類の塵埃,皮膚の落屑を除去しながら気流を起こし寝床内の温度,湿度を調節する)
  2 枕の内部の温度,湿度を調節する(枕カバーをはずし,枕を軽くたたいて内部の空気を入れ換える)
  3 ベッドの高さやベッド柵,および点滴ラインやドレーンの位置を調整する
  4 ベッド周囲の物品を整え快適にする
2 感染予防の技術
 (青木涼子)
 1 手指衛生
  1 擦式消毒用アルコール製剤を用いて,手指消毒をする
  2 手洗い後は手をよく乾燥させる
  3 手荒れを予防する
 2 個人防護具(PPE)の使用:手袋
  1 手袋の外側に触れずに装着し,ケア後は手袋の外側に触れずに外す
  2 手袋の装着前後には手洗いをする
  3 PPEを装着する際,手袋は最後に装着する
  4 採血は,患者ごとに手袋を交換する
 3 個人防護具の使用:ガウン・エプロン
  1 着脱テクニックを正しく行う
  2 1回使用するごとに破棄する(シングルユースとする)
 4 個人防護具の使用:マスク・ゴーグル・フェースシールド
  1 着用時,目・口・鼻を十分に覆う
  2 PPEを取り外す際は,マスクは病室を出て,最後に外す
  3 N95マスクは,フィットテストで選択し,シールチェックで確認して装着する
  4 咳嗽,くしゃみ等の呼吸器症状のある人が,医療施設に入る場合は,サージカルマスクをする
3 活動の援助技術
 (三宮有里・北代直美)
 1 廃用症候群(生活不活発病)の予防
  1 早期に離床を促す
  2 生活機能を復する,維持する
  3 深部静脈血栓症を予防する
 2 関節可動域(ROM:Range of Motion)訓練
  1 正常な関節可動域範囲をふまえて,患者の関節可動域を観察する
  2 健側の上肢から始め,麻痺側の上下肢を行う
  3 ゆっくりと十分に伸ばす
  4 拘縮が起こりやすい肩関節,股関節,膝関節,足関節を優先して行う
  5 痛みや筋の緊張が高い場合は,実施前に関節周囲を温める
 3 起き上がり・立ち上がり・移乗の介助
  1 運動機能や障害の程度を把握する
  2 起立性低血圧の状態を回避するための工夫をする
  3 ベッド上,やや浅めの端座位の姿勢をとってもらう
  4 車椅子はベッドとの角度を30°程度になるように設置し,ゆっくりと腰を掛けてもらう
  5 車椅子乗車時,姿勢を整え,褥瘡を予防する
 4 歩行介助
  1 介助者は,転倒防止のため,患者の側方もしくはやや後方に位置する(片麻痺の場合は麻痺側につく)
  2 患者の運動にかかわる能力や状態に応じて用具を選択する
 5 移送(ストレッチャー)の介助
  1 移送時の介助は原則として2人で行う
  2 不安を軽減し,不安感,不快感,恐怖感,めまいを感じさせないようにする.
   2-1 患者の足を進行方向に向ける
   2-2 坂道の場合,頭部を足部より高く保持する
   2-3 段差時はストレッチャーを一度止める.ゆっくり進むなど振動を最小限にする
   2-4 角を曲がるときは,ゆっくり大きく円を描いて曲がる
 6 体位変換
  1 正しい姿勢を保持(ポジショニング)しながら,体位を変える
  2 仰臥位・側臥位の正しいポジショニングを行う
  3 仰臥位から側臥位への体位変換
4 食行動の援助技術
 (関口恵子)
 1 食事介助
  1 食事摂取時の体位は,なるべく座位にする
  2 頸部を軽度前屈する
  3 摂食・嚥下障害がある場合,嚥下機能の評価を行い,状態に応じた間接訓練,直接訓練をプログラムする
 2 経腸栄養法を行っている患者の介助
  1 経腸栄養剤の注入速度を適切に調整する
   1-1 注入開始時は,速度20〜30ml/時,濃度を1kcal/mlを原則とする.持続投与(24時間)の場合は,フードポンプを使用する.腸瘻の場合の速度は,上限100ml/時である
   1-2 下痢や悪心,嘔吐などの消化器症状などがなく,間欠的に注入可能な場合は,経腸栄養剤の注入速度の原則は200ml/時
  2 経腸栄養剤注入前にチューブが胃に挿入されていることを必ず確認する
  3 経鼻経管栄養法のカテーテルは,テープで鼻翼に固定する
  4 経腸栄養剤の注入が終了したら,白湯または番茶でチューブ内を洗い流し残渣のないことを確認する
  5 持続投与の場合は,8時間ごとに容器を交換する.また,経腸栄養の投与に使用する容器は3日ごと,胃チューブは1回〜2週を目安に交換する
  6 流動食注入時は座位または30°から45°の半座位にする.注入終了後,30分から1時間は頭部を挙上した状態で安静にする
5 排泄援助技術
 (登喜和江)
 1 排便促進のための援助
  1 水分・食物によるコントロール:十分な水分摂取と,食物繊維や発酵食品・オリゴ糖などを含む食事内容とする
  2 腹部マッサージを行う:上行結腸から横行結腸,下行結腸に向かって,両手指で腹壁に3〜5kgの圧(腹壁が3cmへこむ程度)を加える
  3 腹部,腰背部への温罨法:腹部または腰背部(第4,第5腰椎を中心に)温罨法する
  4 温水洗浄便座(ウォシュレット)による肛門刺激で排便を誘発する
 2 摘便
  1 挿入する示指全体に十分に潤滑剤をつける
  2 摘便時の体位は,側臥位または仰臥位とする
  3 痔疾患のある患者には慎重に行う
 3 浣腸
  1 体位は側臥位とする
  2 カテーテルの挿入の長さは5cm程度とする
  3 注入液の温度は,直腸温よりやや高めの40〜41℃程度とする
  4 注入液は40〜60mlを15秒程度かけて注入する
 4 導尿
 (1)一時的導尿
  1 尿道の長さを考慮して,カテーテルの清潔部位を確保する
  2 消毒液や潤滑剤の適用範囲を確認する
  3 カテーテル挿入の長さの確認とともに,抵抗がある場合は無理に挿入しない
 (2)持続的導尿
  1 膀胱留置カテーテル挿入時には無菌操作を徹底して行う
  2 閉鎖式尿回路システムの使用により感染を防止する
  3 膀胱訓練は実施しない
 5 失禁への援助
  1 局所のかぶれや感染を防止する
  2 失禁のタイプに応じたケアを行う
  3 貯留尿の適切な把握を行う
  4 排泄時の室内環境を調整する
6 清潔・衣生活援助技術
 (岡田淳子)
 1 全身清拭
  1 室温は23℃以上に設定する
  2 ウォッシュクロスの表面温度が42℃に維持できるようにすすぎの湯を準備する
  3 体温が低下しないように,バスタオルや綿毛布を効果的に使う
  4 洗浄剤は患者の皮膚の状態に応じ,刺激の少ないものを選択する
  5 石けん分は拭き取り用タオルで十分に拭き取る
  6 循環促進を期待する場合は熱布清拭を併用する
 2 部分浴
 (1)足浴
  1 湯温は40±2℃の範囲で浸水時間は10分程度とする
  2 不眠がある場合,睡眠を促すために実施する
  3 足部の褥瘡ケアとしても実施する
 (2)手浴
  1 1日に1回は行う
  2 38±2℃の湯にゆっくり沈め温める
  3 爪と指間は石けんを泡立てて丁寧に洗う
 3 陰部洗浄
  1 毎日,外尿道口を洗浄する
  2 洗浄にはよく泡立てた石けんを使用し,十分な量の微温湯で洗い流す
  3 尿道カテーテルが留置されている場合は挿入部とカテーテルも一緒に洗浄する
  4 洗浄後は十分乾燥させて,肌着(紙オムツ)を新しいものに交換する
 4 寝衣交換
  1 療養に適した寝衣を選択する
  2 直接肌に接している寝衣(肌着)は,毎日交換する
  3 着脱は身体の障害部位に合わせて行う
 5 洗髪
  1 最低3日に1度の割合で実施することが望ましい
  2 洗髪は短い時間(10分程度)で実施する
  3 シャンプーを泡立て汚れを除去して,十分なすすぎで洗浄剤を洗い流す
  4 実施中は苦痛を伴わない体位の工夫をする
   4-1 洗髪台でリクライニングの椅子を使用し,半座位か前屈姿勢で行う
   4-2 ベッド上で洗髪車を使用して行う
   4-3 ケリーパッドを使用する
   4-4 頸部の挙上が困難な場合は洗髪シートを使用して行う
 6 入浴介助
  1 脱衣室と浴室の室温は26〜28℃に温めておく
  2 湯の温度は37〜39℃の微温浴にする
  3 心尖部以下の入浴か仰臥位に近い体位で入浴する
  4 入浴後は乾燥防止のためにスキンケアを行う
 7 シャワー浴介助
  1 シャワー浴に伴う一連の行為が安全に行えるよう準備する
  2 身体が冷えないように身体の一部を温めながら実施する
  3 抜糸前の手術創やカテーテル挿入中でも皮膚を清潔にして感染予防を行う
7 口腔ケア
 (鈴木小百合・戸田由美子)
  1 口腔ケア実施の目安は,各食後および就寝前
  2 経口摂取の有無に関わらず,口腔ケアは必ず行う
  3 意識障害または気管挿管中の患者では,安全を確保しながら口腔ケアを実施する
  4 口腔ケアの体位は座位または半座位とし,頸部は前屈位とする
  5 口腔清掃は,洗口法と歯ブラシによる歯磨きあるいは清拭法を組み合わせると効果的である
  6 適宜保湿ケアを行い,口腔内乾燥を防ぐ
  7 義歯は毎食後取り外してブラッシングおよび義歯洗浄剤により歯垢を除去する
8 睡眠の援助
 (寺岡三左子・堀之内貴代子)
 1 入眠の援助
  1 規則正しい生活をする
  2 環境を調整する
   2-1 光環境を調整する
   2-2 快適温度・湿度にする
   2-3 騒音を除去する
  3 寝具・寝衣の調整をする
  4 就寝の儀式を援助する
   4-1 イブニングケアを行う
   4-2 入浴を行う
9 苦痛の緩和・リラクセーションの技術
 1 氷枕の貼用(蒲生澄美子)
  1 氷枕の氷は約〜入れ,コップ1〜2杯の水を入れる
  2 氷枕内の空気を抜く
  3 表面に付着した水滴は拭き取る/カバーをかけ,カバーは乾燥した状態を維持する
 2 電気毛布の使用(蒲生澄美子)
  1 寝具を温める
 3 ゴム製湯たんぽ(宮崎 素子)
  1 身体に直接貼用する場合,湯の温度は38〜40℃程度,間接的に使用する場合,湯の温度は50〜60℃にする
  2 厚手のカバーを用いる
 4 リラクセーション:アロマセラピー(今野葉月)
  1 目的とする効果が期待できる精油を選択し,吸入・マッサージ・入浴(足浴)の方法を用いて体内に吸収させる
  2 効果のある香りの強さであることを確認する
  3 簡便で効果が見込まれる投与方法を選ぶ
 5 リラクセーション:指圧(今野葉月)
  1 全身にあるツボを患者の呼吸に合わせて,ちょうどよいと思える程度の弱い力で指圧する
 6 リラクセーション:マッサージ(今野葉月)
  1 頭部・背部・四肢に対して,揉捏法や軽擦法などのマッサージを求心性に行う
10 与薬の技術
 (脇坂豊美・川西千恵美)
 与薬に関する基本的知識
  1 さまざまな与薬の方法
  2 薬物の投与・吸収・全身への作用経路
  3 薬物の代謝・排泄経路
  4 与薬に関わる法律
  5 薬物の保管と取り扱い
  6 処方せん
  7 与薬における看護師の役割:正しい患者に,正しい経路で,正しい時間に,正しい薬を,正しい量投与する
 1 経口・外用薬の与薬
  1 内服薬
   1-1 対象者の生活習慣,セルフケア能力,アドヒアランスを把握し,内服薬の自己管理の可能な程度を判断し,指導する
   1-2 内服薬は,患者の嚥下状態に合わせて適正な剤形を選択するとともに,十分な量の水で服用するよう指導する
  2 皮膚に用いる外用薬:皮膚に用いられる外用薬は清潔な皮膚に塗る(貼る)
  3 坐薬:坐薬を直腸内に挿入する時は肛門より3cm以上奥に挿入する
  4 点眼
   4-1 全身への影響が強い点眼薬を使用する際は,点眼後に約1 分間目頭付近(涙嚢部)を軽く圧迫する
   4-2 2種類以上点眼薬を使用する場合は5分以上間隔を空ける
 2 皮下・皮内・筋肉内注射
 (1)注射の準備
  1 アルコールベースの速乾性手指消毒剤を用いて手洗いを行う
  2 処方せんを確認し,注射方法・薬液の量・薬液の質・穿刺部位に適した注射器,注射針を準備する
  3 注射器に必要量の薬液を無菌的に吸い上げる
   3-1 アンプルの頸部をアルコール綿で拭く
   3-2 アルコール綿でアンプルの頸部を覆ってカットする
   3-3 アンプルのカット面に,注射針が触れないようにする
   3-4 注射器の内筒に触れないように薬液を吸う
  4 注射器の中の空気を抜く
 (2)注射の実施
  1 患者の体位や姿勢を整え,安全な注射部位を選択する
  2 注射部位を「拭き残し」がないように確実に消毒する
  3 注射部位の皮膚消毒にはディスポーザブルの単包パックのアルコール綿を用いる
  4 選択した部位に薬液を確実に注入できるように針を刺入する
  5 注射時の痛みを軽減させる方法を活用する
 (3)注射実施後
  1 注射実施後のマッサージ(注射部位をもむこと)は薬剤の添付文書を確認したうえで実施の要否を判断する
  2 注射実施後は患者にも注射部位を「もむ」のか「もんではいけない」のかを説明,指導する
  3 効果と副作用を観察する
  4 使用した針は,針刺し事故を防ぐために,リキャップはせず廃棄ボックスに捨てる
 3 静脈内注射
  1 アルコールベースの速乾性手指消毒剤を用いて手洗いを行い,手袋(清潔な未滅菌手袋)を装着する
  2 駆血帯もアルコール綿で消毒する,もしくはディスポーザブルのものを使用する
  3 駆血帯を締め,血管の走行,太さ,弾力性を確かめて穿刺部位を選択する
  4 静脈注射の際の穿刺時にも,筋肉内注射,皮下注射と同様に「痛みやしびれがないか」を患者に確認し,訴えがあるときはすぐに針を抜く
 4 点滴静脈内注射・中心静脈カテーテルの管理
 (1)血管内留置カテーテルの挿入
  1 組織損傷を起こす可能性のある薬剤に注意する
  2 カテーテルの挿入に伴う合併症を防ぐ
   2-1 血管内留置カテーテルに関連する血流感染(以下,CRBSI)を防止するためには,穿刺部位の消毒にグルコン酸クロルヘキシジン(ヒビテンR,マスキンR,ヒビテンアルコールRなど)を用いた方がポビドンヨード(イソジンRなど)を用いるよりも効果的である
   2-2 中心静脈カテーテル挿入時は,マキシマムバリアプリコーションを行う(CDC,カテゴリーIA)
   2-3 中心静脈カテーテルの挿入部位は鎖骨下静脈を選択する(CDC,カテゴリーIA)
   2-4 中心静脈カテーテルの挿入はIV専門チームが行う
   2-5 末梢静脈カテーテルに関連する静脈炎・感染の防止に関する事項
  3 患者の活動性を妨げないことを考慮し,確実に固定をする
 (2)血管内留置カテーテルの管理
  1 輸液ラインはクローズドシステムを使用する
  2 輸液ラインは曜日を決めて週2回交換する
  3 末梢静脈カテーテルのキープには生食ロックを行い,ルートの開存を維持する
  4 カテーテル留置に伴う合併症を防ぐ
   4-1 末梢静脈カテーテルは,漏れる,詰まる,発赤などがなければ96時間を目安に交換する
   4-2 静脈炎(ほてり,圧痛,紅斑,触診可能な索状静脈など)の症状があれば,カテーテルを抜去する
   4-3 中心静脈カテーテルの穿刺部は,透明フィルムで覆う.透明フィルムは7〜10日ごとに交換する
   4-4 中心静脈カテーテルを定期的に交換する必要はない
 5 輸血
  1 輸血の際に必要な確認を確実に行う
  2 血液製剤の融解あるいは加温時の手順を守り,取り扱いに注意する
11 創傷管理技術
 1 ドレッシング(野原みゆき)
  1 創傷の治癒形式や創の状態,創傷治癒阻害因子の有無を観察する
  2 創傷治癒に適した環境調整を行う
   2-1 治癒過程に応じたドレッシング材を選択する
   2-2 適切なドレッシング交換(交換間隔,処置方法)を行う
 2 褥瘡のケア(片山 恵)
  1 褥瘡の深達度,創面の色調,感染の有無などを観察する
  2 適度な湿潤環境を保つ
  3 生理食塩水,水道水などを用いて十分な洗浄を行う
  4 シャワーや入浴は積極的に行う
12 症状・生体機能管理技術
 (片山 恵)
 1 体温測定
  1 対象者に合った測定方法,部位を選択する
  2 電子体温計は,測定値として予測値か実測値を 用いるかの判断をする
 (1)腋窩での測定
  1 測定前にあらかじめ腋窩を閉じておく
  2 体温計を腋窩の最深部に挿入する
  3 腋窩の汗は基本的に除去しなくてもよい
  4 測定中は体位を保持する
  5 片麻痺の体温測定は,基本的に健側を使用するが,麻痺側での測定が禁忌ではない
 (2)口腔での測定
  1 一定の外部環境下で測定を行う
  2 測定前の飲食は避ける
  3 挿入部位は舌下.実測温は4分以上測定する
 (3)直腸での検温
  1 体温計を挿入する長さは成人で5〜6cm
  2 測定時間は3分以上(実測温)
 (4)鼓膜での測定(非接触式赤外線体温計での測定)
  1 外耳道をまっすぐにして,体温計を正確な位置に挿入する
  2 寒冷な環境下での測定は避ける
 2 呼吸測定と診査
  1 測定前に活動していた場合は,しばらく安静にする(目安,5〜10分)
  2 呼吸の測定体位はファーラー位か座位が望ましい
  3 呼吸の深さ,リズム,左右対称性,努力性呼吸の有無を観察する
 3 パルスオキシメトリー測定
  1 パルスオキシメータの臨床的な信頼性を知っておく
  2 装着したままにしない
  3 測定時は安静にしてもらう
 4 脈拍測定と診査
  1 脈拍の変動要因を極力取り除いてから測定する
  2 脈拍の触知は3指(示指,中指,薬指)の指腹部分を平行にそろえて血管の走行に沿って軽く押さえる
  3 基本的には1分間測定を行う.整脈の場合は30秒間の測定でよい
  4 不整脈が触知された場合は,脈拍の欠損をとらえ,心拍数を聴取する
 5 血圧測定
  1 血圧測定の前に使用機器の状態を確認する
  2 測定環境を整えるため,22〜24℃に気温を保つ
  3 活動,入浴,食事,喫煙など対象者の状況をみて,安静時の血圧が測定できるかどうかを見極める
  4 聴診器は,膜面,ベル面どちらを用いてもよい
  5 カフを巻く測定部位を心臓の高さと同じにする
  6 上腕の太さ(上腕周囲長)は個人差がある.上腕の太さに合ったカフを選択する
  7 カフを巻くときは,下端が肘窩より2cmくらい上にくるようにし,ゆとりをもって巻く
  8 加圧は速やかに,減圧は心拍もしくは1秒毎に2〜3mmHgずつ行う
  9 コロトコフ音は第5点で拡張期血圧を測定する
13 呼吸を整える技術
 (山下裕紀・松下恭子・川西千恵美)
 1 酸素吸入
  1 適切な酸素吸入の方法を選択する.それぞれの特徴や注意点を理解しておく
  2 酸素吸入の際は加湿を行う
  3 中央配管式アウトレットでは,酸素用に接続する
  4 酸素使用時は5m以内で火気は使用しない
  5 ボンベは直射日光を受けない場所に置く
  6 酸素ボンベは専用のスタンドに立てて保管する
 2 気道内加湿法
  1 治療目的に適した器具を選択する
   1-1 薬液吸入を目的とするときは,ジェット式(コンプレッサー式)ネブライザー,または超音波式ネブライザーを使用する
   1-2 メッシュ式ネブライザー(超音波式ネブライザーの改良型)を使用する
   1-3 咽頭までエアロゾルが到達すればよい場合には,蒸気型ネブライザーを使用する
  2 体位は座位または半座位(ファーラー位)とする
  3 食事の直前や食後は避ける
  4 一度セットした薬液は使い切るか,廃棄する
  5 患者間で使い回しをせずその都度消毒する
  6 吸入器の操作方法,マウスピースのくわえ方や呼吸は目的に合わせた介助や指導をする
  7 吸入液は嚥下させない
  8 吸入後効果的な咳嗽をさせる
 3 気管内吸引
  1 気管内吸引は聴診により痰の位置を確認し,他の指標からも必要と判断した場合のみ行う
  2 低酸素血症が予測される場合,実施前後に酸素を投与するなどの予防を行う
  3 吸引カテーテルは,カテーテルの外径が気管内チューブの内径の半分以下で,多孔式のものを選択する
  4 吸引カテーテルの挿入は気管内挿管チューブの先端から数cmまでで十分である
  5 気管内吸引は無菌操作で行う
  6 設定吸引圧は,成人の場合10.7〜20kPa(80〜150mmHg)程度とする
  7 吸引は10〜15秒以内で行う
  8 滅菌手袋を用いてカテーテルをつまみ,こよりを作るような操作を行うことで気管内チューブ内のカテーテルが回転する
  9 気管内洗浄は一般的には行うべきでない
14 救命救急処置技術
 (吉武幸恵・阿部美香)
 1 意識レベル把握
  1 対象者に近づき,軽く肩をたたきながら大きな声で呼びかけ,覚醒の状態を観察する
  2 意識障害の有無と程度を評価する
  3 救命の連鎖(Chain of Survival)を確立する
 2 心肺蘇生法
  1 心停止の初期評価を行う
  2 胸骨圧迫心臓マッサージを行う
   2-1 胸骨圧迫の手の位置を決定する:胸骨圧迫部は胸骨の下半分とし,その目安は「胸の真ん中」とする
   2-2 胸骨は,少なくとも5cmの深さで圧迫する
   2-3 胸骨は少なくとも100回/分のテンポで圧迫する
  3 気道確保をする
   3-1 頭部後屈―顎先挙上法を行う
  4 人工呼吸を行う
   4-1 バッグ・バルブ・マスクを用いて人工呼吸を行う
   4-2 口対口人工呼吸法,口対マスク人工呼吸法など,適切な方法を選択する
  5 徐細動,評価
   5-1 速やかに除細動をする.除細動器を準備する間にも胸骨圧迫は続ける
   5-2 BLSのアルゴリズムを継続し,二次救命処置につなげる
 3 家族支援
  1 できるだけ早く,対象者の状況を家族に説明する
  2 家族の感情表出を促す
15 死後のケア
 (松崎和代・川西千恵美)
  1 医師の死亡確認後,外観的にも痛ましい医療器具を除去し,目や口を閉じて寝衣や掛け物を整える
  2 家族で,お別れができる「時間」と「場」がもてるよう調整する
  3 死後のケアには,家族の意向を取り入れ,一緒に参加をしてもらうことにより,家族のグリーフケアにつなげる
   3-1 家族が望む儀礼を把握し,その意味を理解して可能な限り対応する
   3-2 家族の状況を判断し,死後のケアに参加を促すことで,家族のグリーフケアのきっかけ(第一歩)とする
  4 死後のケアにおいても,スタンダードプリコーション(標準予防策)を遵守する
  5 死後の変化(死後硬直,漏液)を考慮して死後のケアを行う
   ・これまでに行われてきた死後のケア方法を再考する
    1 綿詰め
    2 下顎の固定
    3 手の合掌
    4 閉眼処置
  6 医療器具抜去後の処置を適切に行う
   6-1 創部を圧迫固定する
   6-2 医療器具抜去後の処置を行う
   6-3 ペースメーカーの除去
  7 死化粧をし,生前の姿に近づける
  8 死後のケアを通して,看護師の死生観を育む