やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに
 女性にとって一大ライフイベントである妊娠・出産は,妊娠という事実を受け止めながら体の変化を受け入れ,心には喜びと不安が入り交じっている時期です.妊婦さんは,わが子を胸に抱き,母となる瞬間を想像しながら妊娠期を過ごします.そして,その後に続く子育てが女性を母とし,たくましく育てていきます.妊婦さんは,妊娠期から大切にされることが,出産後の子育てにも影響を及ぼすといわれています.また,この時期の出会いや体験は,妊婦さんのアイデンティティの確立や再構築に影響を及ぼし,主体的に産むことが自己肯定感や自尊心に関わるといわれています.妊婦さんが妊娠期を快適に過ごすには,家族と助産師さんの影響力が大きいと考えられます.
 私は第一子を妊娠した時,仕事優先で健診にいくことを面倒に感じていました.しかし,私が関わった年配の助産師さんは,「健診は赤ちゃんが正常に育っているかを診るだけでなく,赤ちゃんを産む心構えや取り上げる私との関わりを深めるためにも必要だからね」と語りました.健診を重ねていくうち,私の不安や心配事は解消し,助産師さんに会う日が楽しみになっていきました.また健診時に私のお腹に触れる助産師さんの皺くちゃで温かい手が,私の緊張をほぐし,どんな子が生まれようと育てていこうという意志と妊娠の喜びを育ててくれました.さらに,お腹に触れ赤ちゃんの位置を教えてくれたことは,同時にお腹の赤ちゃんの成長を感じ,幸せな瞬間を積み重ねることが大切であることも教えてもらいました.
 現在,私は助産院や産科クリニックで母親教室やお灸教室を担当しています.出産や母乳育児の導入は,妊娠期からの体作りと関連していることや妊娠経過を追った助産師さんとの関わりが重要であると教室での実践を通してお伝えしています.安全で快適で満足感の高い出産だったと妊婦さんが感じるのは,主体性を発揮するお産に導かれた時や医療者から守られ温かい励ましをされた時です.
 東洋医学では病気の主な原因は精神的ストレス,過労など日常の過ごし方にあると捉えています.出産に対する不安を解消し,食生活や生活習慣を見直すことは体の抵抗力を向上させ,妊娠期間を元気に過ごすことに通じます,それが妊婦さんの主体性を育み,満足した安全な出産につながると考えます.未病の段階で発見し,自然治癒力を高めることは,出産に携わる医療者の負担も軽減すると考えられます.本書で紹介している東洋医学の養生の視点は日常生活の過ごし方,体の使い方など,妊婦さんが手軽に取り組みやすい方法です.産科医療の現場で,東洋医学の視点を含めた統合医療の立場からアドバイスやケアをすることで,妊娠生活がより充実すると考えます.本書が妊婦健診や助産外来で利用されることを願っています.
 本書の編集担当者は,本書の企画・制作の進行と同時期に妊娠・出産を迎えました.そのことは本書の内容へのアドバイスとなり,よい本を産み出すことにつながりました.今後さらに内容を充実させていくためにも読者の皆様からのご意見を仰ぎたいと思います.
 2012年11月
 辻内敬子

助産師の立場から
 成熟した女性は,結婚と妊娠をきっかけに身も心も素晴らしく変化します.幸せに満ち溢れています.特に身籠るとお腹の赤ちゃんのために努力を惜しみません.今まで自分の好みで使っていた化粧品ですら,内容成分をチェックしたり,嗜好品のあれこれも赤ちゃんのためにびっくりするほどあっさりとやめられます.そして助産師の言葉一つひとつにとても敏感になる時期ともいえます.
 常日頃,妊婦さんたちを診ていて,体の冷えや腰痛,便秘に悩んでいる人がとても多いことを感じます.
 妊娠期は普段の生活スタイルや食習慣を見直すチャンスと捉え,助産師自身も妊婦さんと一緒に学ぶ姿勢で本書を活用してもらいたいと願っています.
 私自身が長年元気で助産師活動をしてこられたのも,辻内さんとの出会いがあったからこそです.
 本書は,目からうろこの内容がぎっしり詰まっていて,明日から元気になること間違いなしです.
 そして,早く結婚して早く赤ちゃんを産みたくなります.
 2012年11月
 豊倉節子
 はじめに(辻内敬子)
 助産師の立場から(豊倉節子)
第1章 東洋医学の考えを取り入れた実践型マタニティクラスを始めよう
  1.実践型マタニティクラスで行動を促そう
  2.親近感を高めるには,触れることから始めてみよう
  3.未病の発見
  4.実践型マタニティクラスの目的・目標
第2章 出産力を培う生活習慣―東洋医学と妊婦さんの養生
  1.妊婦さんの養生ってなに?
  2.東洋医学とは
  3.東洋医学の治療
  4.東洋医学での女性の一生
  5.東洋医学が考える妊娠
  6.妊娠に関係する臓腑・経絡
  7.妊婦さんとお腹の赤ちゃんの関係
  8.妊娠・出産に関連の深い経絡の流れとツボ
  9.自然の生活リズムを大切に
第3章 妊婦さんのための出産力チェック
  1.体のチェック法・チェックリスト
  2.心のチェック法・チェックリスト
  3.環境のチェック法・チェックリスト
  4.生活のチェック法・チェックリスト
第4章 心身の調え方
 1 妊婦さんに自分の体を知ってもらう
  1.冷え
  2.歩き方(筋力をつける,冷えない体を作る)
  3.姿勢(姿勢と筋肉・経絡との関係を知る)
  4.お腹の硬さと張り
 2 妊婦さんに自分の体を作る食事について知ってもらう
  1.地の気で命を養う―食養生について
  2.体質別の対処法
 3 妊婦さんによるセルフケアの方法
  1.つぼ療法
  2.温熱療法
  3.セルフケアの応用-妊婦さんに寄り添う人が行う陣痛緩和法
第5章 妊婦さんのマイナートラブルのセルフケア
  1.つわり 2.不眠 3.冷え 4.耳鳴り 5.腰・背痛 6.下痢 7.便秘 8.痔 9.むくみ 10.足の静脈瘤 11.足のけいれん,こむら返り 12.帯下 13.頻尿 14.めまい・立ちくらみ(妊娠中期以降の) 15.皮膚のかゆみ,トラブル 16.肩こり 17.手足のしびれ,手首の痛み 18.動悸 19.髪の毛のトラブル 20.妊娠高血圧症候群の予防 21.疲労 22.お腹の張り,下腹部痛 23.貧血 24.不安の解消
第6章 母乳育児に向けて
  1.乳房のケア
  2.産後の養生とベビーマッサージ
つぼ一覧