やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに
 現代社会における子どもと家族の健康問題は,社会や環境の急速な変化に伴い,子どもの生活習慣病の予防,子どものストレスやこころの問題,育児問題に絡む虐待など,より複雑化してきているといえます.そのなかで小児看護に携わる看護職が果たすべき役割も拡大し,子どもの健やかな成長,発達のためには,その時代に生きる子どもと家族に何が起きているのか,何を必要としているのかを考え,行動することが求められているといえます.そのためには,より幅広い視点に立ち,状況を俯瞰し,子どもと家族の問題を判断する能力がより重要となってきます.
 小児看護においては,常に子どもの発達段階を考慮したアセスメントが求められていることは周知の事実です.著者は,看護の次世代を担う看護学生の指導を通して,ゴードンの機能的健康パターンを基盤として,とくに子どもの発達段階を意識し,統合された機能をアセスメントすることを目指してきました.
 小児看護の看護過程に関する本書の企画を機に,これまで取り組んできた内容を整理して書籍としてまとめました.アセスメントの枠組みとしてはゴードンの機能的健康パターンを用いながらも,本書ではより発達段階に応じたアセスメント内容を明確にしています.さらに,子どもの健康問題に影響を与える家族の状況についても具体的にアセスメントすべき内容を入れています.本書は3章で構成し,小児看護の看護過程の解説,小児看護で重要となる発達等のキーワードとなる概念を概観し,最後に5事例を用いてアセスメントから看護計画立案までの具体的なプロセスを展開するものとなっています.
 本書は,小児看護を学ぶ看護学生がゴードンの機能的健康パターンを活用するために整理してきたものを基盤としていますので,看護学生が看護過程を理解するうえで広く活用されるものであると考えます.しかし,小児看護をすでに実践している方々にとっても,子どもと家族のアセスメントの視点を整理する際などに活用できるものであると考えています.本書が,看護職者を通して子どもと家族への支援の一助となることを願っております.
 2012年5月 ライラック満開の札幌にて
 茎津智子
第1章 小児看護における看護過程(茎津)……1
 1.小児看護の変遷……2
 2.小児看護の対象と目標……3
  (1)小児看護におけるキーワード……3
    発達/健康/生活
  (2)子どもの特徴……3
    子どもは心身の機能が発達途上にある存在である/子どもは環境からの影響を受けやすい存在である/子どもと親は愛着という関係で結ばれている存在である
  (3)小児看護の目標……4
 3.小児看護における看護過程の展開……5
  (1)看護過程とは……5
  (2)小児看護の看護過程の特徴……6
   1 アセスメント……6
   2 看護問題の明確化……6
   3 計画立案……6
    目標設定/計画立案
   4 実施(看護介入)……8
   5 評価・修正……8
 4.小児看護におけるアセスメントプロセス……9
  (1)ゴードンの機能的健康パターンを基盤としたアセスメント……9
   1 アセスメントとは……9
   2 ゴードンの機能的健康パターンとは……9
  (2)小児看護への応用……10
  (3)アセスメントの実際……14
   1 面接(インタビュー)……14
    親とのコミュニケーション/子どもとのコミュニケーション
   2 観察……15
    観察技術/全身の観察および計測
   3 アセスメントガイド……16
    健康知覚-健康管理パターン/栄養-代謝パターン/排泄パターン/活動-運動パターン/睡眠-休息パターン/認知-知覚パターン/自己知覚-自己概念パターン/役割-関係パターン/セクシュアリティ-生殖パターン/コーピング-ストレスパターン/価値-信念パターン/機能的健康パターンに影響を与える因子
第2章 小児の看護過程展開に必要な知識(井上)……25
 1.小児の成長・発達……26
  (1)成長・発達の概念と一般的原則……26
   1 発達の方向性……26
   2 発達の連続性……26
   3 発達の臨界期……26
   4 発達の個人差……26
  (2)成長・発達に影響を与える要因……27
  (3)小児各期の成長・発達の特徴……27
   1 乳児期(生後1カ月〜1年未満)……27
    身体的特徴/心理社会的特徴/認知・思考的特徴
   2 幼児期(1歳〜6歳)……28
    身体的特徴/心理社会的特徴/認知・思考の特徴
   3 学童期(6歳〜12歳)……29
    身体的特徴/心理社会的特徴/認知・思考の発達
   4 思春期(12歳〜18歳)……30
    身体的特徴/心理社会的特徴/認知・思考の特徴
 2.小児の病気・入院の理解……32
  (1)乳児期……32
  (2)幼児期……32
  (3)学童期……33
  (4)思春期……34
 3.子どもの権利と小児看護における倫理……35
  (1)小児看護と倫理原則……35
    自律/善行/正義/誠実/忠誠
  (2)医療を受ける子どもの権利……36
   1 インフォームドコンセントとアセント……36
   2 子どもの権利とプレパレーション……38
   3 親に付き添ってもらえる権利……38
   4 教育・遊びに対する権利……39
 4.子どもの痛み……41
  (1)子どもの痛みの特徴……41
  (2)子どもの痛みの反応……41
   1 新生児期……41
   2 乳児期……42
   3 幼児期……42
   4 学童期……42
   5 思春期……42
  (3)子どもの痛みの評価……43
   1 痛覚閾値……43
   2 痛みの測定スケール……43
    自己申告スケール/行動スケール/痛みの履歴書
第3章 看護過程の実際―事例展開……47
 1.事例展開のイントロダクション(茎津)……48
   1 事例紹介……48
   2 アセスメントから結論まで……48
   3 看護問題の明確化……48
   4 関連図……48
   5 看護計画……48
 2.事例展開の実際……49
  (1)急性期の症状で入院となった子どもの事例展開(工藤)……49
    Aちゃんの紹介/アセスメントから結論まで/看護問題の明確化/看護介入
  (2)手術を受ける子どもの事例展開(草薙)……62
    B君の紹介/アセスメントから結論まで/看護問題の明確化/看護介入
  (3) 長期療養が必要となる思春期の子どもの事例展開(田中)……74
    C君の紹介/アセスメントから結論まで/看護問題の明確化/看護介入
  (4)医療的ケアを必要とする在宅療養の子どもと家族の事例展開(宮部)……85
    D君の紹介/アセスメントから結論まで/看護問題の明確化/看護介入
  (5)小児がんの発症がわかった学童期の子どもの事例展開(岩城)……98
    E君の紹介/アセスメントから結論まで/看護問題の明確化/看護介入

 索引……111