やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに
 老年看護の対象となる高齢者は,多様な経験,価値観,生活行動を持っているため,加齢に伴う心身の変化や疾病の影響に加え,長年の生活習慣からくる価値観や生き方を重視して,何らかの健康課題を持ちながらもその人らしく安全に生活できるような支援が求められています.従来,学生は高齢者に接することが少ないため,長年の生活習慣からの生活をイメージすることが難しいうえ,複数の疾病と加齢が日常生活に及ぼす影響など多くの要因が絡み合うことで老年看護領域での看護過程を理解することは困難でした.
 そこで私たちは,高齢者の生活機能に焦点をあてた看護過程を学生に展開させることを試みました.その結果,学生は疾病や病態生理からではなく,高齢者の日常生活がどのように行われているのかという生活機能からみることで,高齢者の全体像を把握することができるようになりました.また,問題解決型の看護過程ではなく,高齢者のできること,価値観などを大切にした生活を中心に考える看護過程を理解することができました.本書はこのような私たちの試行錯誤から誕生しました.
 本書は3 章から構成されています.第1 章では老年期の身体的,心理的,社会的特徴を踏まえてケアのあり方を述べたうえで老年看護での看護過程を解説しました.看護過程の展開では,生活機能に焦点をあて高齢者特有の情報収集やアセスメントのポイント,健康課題の抽出,計画,実施評価までを示しました.第2章では生活機能について概説し,そのうえで高齢者の基本的な生活機能の特徴と情報収集,アセスメントの手順を説明しました.とくに栄養(嚥下機能を含む)・代謝,排泄,清潔,活動・休憩,認知機能の5 つの生活機能について具体的な例を挙げながらアセスメントツールなどを紹介しました.第3 章では事例を用いて生活機能ごとに,基本情報,アセスメント項目と視点,アセスメントから結論,関連図,課題抽出,看護計画までプロセスを追って展開しました.さらに,これらの各生活機能のアセスメントから得られた情報を統合することで対象者の全体像を示し,優先順位を決定していく考え方までを出すことで,「生活者であるその人全体をとらえた看護」が理解できるようにしました.
 本書は,老年期の特性を押さえたうえで老年看護の特徴や配慮すべき点を述べ,さらに事例を用いて看護過程の流れを説明しているので,老年看護を学ぶ学生にとっても,また教員にとっても理解しやすく,看護実習にも役に立つと思われます.また,高齢者を担当する臨床の新人看護師にも高齢者理解の手引き書にもなると確信しています.
 最後になりましたが,私たちの教育的な試みに関心を持ってくださり,原稿の遅れを粘り強くフォローしてくださった,医歯薬出版の編集担当者に深く感謝いたします.
 本格的な雪の日に 2011 年12 月
 著者を代表して 奥宮暁子
第1章 老年看護における看護過程(奥宮暁子)
 1.老年看護とは
  (1)老年看護の対象
   (1)対象となる高齢者の特徴
   (2)加齢による身体機能・精神機能の変化
    身体機能の変化
    心理面の変化
   (3)多くの疾病をもっている病態生理の複雑さ
  (2)生活機能の考え方
  (3)ケアの特徴
 2.看護過程の概念
  (1)看護過程の基本的な考え方
  (2)看護過程の展開
   (1)第1 段階 情報収集・アセスメント
    情報収集
    アセスメント……整理・解釈・分析
   (2)第2 段階 看護診断 統合・課題抽出・優先順位
   (3)第3 段階 計画立案 目標・期待される成果設定・行動計画
   (4)第4 段階 実践(介入)
   (5)第5 段階 評価
第2章 生活機能と高齢者の看護
 1.生活機能とは(奥宮暁子)
    日常生活活動と対象理解
    日常生活活動と社会との関わり
    生活機能の総合的アセスメント
 2.生活機能別のアセスメントポイント
  (1)栄養・代謝(木島輝美)
   (1)栄養状態
    栄養状態のアセスメント
    必要栄養量の設定
   (2)摂食・嚥下機能
    嚥下障害によって起こる問題
    誤嚥性肺炎
    摂食・嚥下機能のアセスメントと訓練
    食事援助のすすめ方
  (2)排 泄(武田かおり)
   (1)排泄にかかわる機能と動作
   (2)排泄機能
   (3)排尿障害
    排尿障害への看護ケア
   (4)排便障害
    便秘
    下痢
    便失禁
    排便障害への看護ケア
  (3)清 潔(奥宮暁子)
   (1)高齢者にとっての清潔の意義
   (2)清潔ケアにおける留意点
    清潔の必要性と身体状態
    清潔ケアに耐えうる身体状況(心肺機能)か
    清潔ケアが行える身体能力か
    清潔への意識,認知力
    他者に依存することへの遠慮,気兼ね
   (3)清潔ケアにおけるリスク管理
  (4)活動・休息(安川揚子)
   (1)活動の状況
    心肺機能や運動機能の状態
    ADLやIADLの状態
    「できる活動」と「している活動」
   (2)活動低下が日常生活に及ぼす影響
    廃用症候群(生活不活発病)
    転倒のリスクアセスメント
    褥瘡のリスクアセスメント
   (3)休息の状況
    生活リズム
    休息と睡眠
   (4)不眠が日常生活に及ぼす影響
  (5)認知機能(木島輝美)
   (1)認知機能のアセスメント
    認知症の種類
    認知症の中核症状とBPSD
    認知機能の評価スケール
    「せん妄」「うつ状態」との鑑別について
    感覚機能のアセスメント
    言語・コミュニケーション機能
   (2)認知機能低下と安全・健康管理
   (3)認知機能低下が日常生活に及ぼす影響
   (4)認知機能の心理社会的側面
    その人らしいあり方を知る
    社会参加や他者との関係性を知る
   (5)認知症高齢者への援助のすすめ方
第3章 看護過程の実際─事例展開(木島輝美)
 1.事例紹介(Eさんのフェイスシート)
 2.生活機能別の展開
  (1)栄養・代謝についてのアセスメント
    栄養・代謝のアセスメント項目と必要な視点
    栄養・代謝のアセスメント展開
    栄養・代謝の関連図
  (2)排泄についてのアセスメント
    排泄のアセスメント項目と必要な視点
    排泄のアセスメントの展開
    排泄機能の関連図
  (3)清潔についてのアセスメント
    清潔のアセスメントと必要な視点
    清潔のアセスメントの展開
    清潔の関連図
  (4)活動・休息についてのアセスメント
    活動・休息のアセスメント項目と必要な視点
    活動・休息のアセスメントの展開
    活動・休息の関連図
  (5)認知機能についてのアセスメント
    認知機能のアセスメント項目と必要な視点
    認知機能のアセスメントの展開
    認知機能の関連図
 3.統合関連図
 4.優先順位の決定
   (1)抽出されたEさんの健康課題の検討
   (2)決定した優先順位
    目 標
 5.看護計画

 参考・ゴードンの11 の機能的健康パターンを参考にしたアセスメントガイド(老年領域)
 索引