やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに
 行動変容を促す保健指導と患者指導では,対象者の「やる気」を引き出し,生活習慣を変えてもらい,それを維持してもらわなくてはなりません.
 そのような指導が簡単ではないことは,現場で指導に当たる保健・医療スタッフの皆さんが,一番よく知っていることだと思います.
 そこで,前著「やる気を引き出す8つのポイント行動変容をうながす保健指導・患者指導」(2007)では,対象者の「やる気」を引き出すポイントについて,行動科学の理論に基づいて説明しました.
 ただ,実際の指導場面では,対象者に行動変容を促す上で,「こういう場合は,どう働きかけたらよいのか?」といった疑問が,数多く存在すると思いますし,私も講演の際に,現場の指導スタッフの方から,そのような質問を頂くことがあります.
 そこで今回は,対象者の「やる気」を引き出す場合の基本的な考え方や,「こういう場合は,このように働きかけてみては?」という,実践的な方法や工夫について,50個のコラムにまとめました.
 行動変容を促す指導をする上で,働きかけの引き出しを増やすための「ワンポイント・アドバイス」集として,ぜひ本書をご活用頂ければ幸いです.
 2009年4月
 松本千明
パート1 総論
 1.「やる気」を引き出す考え方の基本
 2.生活習慣を変えるということは?
 3.行動変容は5つのステージを通る
 4.押し売りになってはダメ
 5.対象者に合わせる
 6.自分だったらどうしてほしいか?
 7.日常生活の中でできることを
 8.説得力のある指導とは?
 9.時間を有効に使う
 10.あなたはどんな指導を目指しますか?
パート2 対象者とその関係について
 11.指導は対象者との関係性
 12.対象者の視点で考える
 13.十人十色の対象者
 14.対象者の考えには理由がある
 15.信頼関係を早く築くには?
パート3 コミュニケーションについて
 16.コミュニケーション・スキルも重要
 17.コミュニケーションの3つの技術
 18.「何をどう伝えるか」が大事
 19.コミュニケーションは言葉だけじゃない
 20.対象者がスタッフから受けるイメージ
パート4 実践場面
 禁煙1 喫煙者のAさんに禁煙を勧める場合
  21.「危機感をあおる」のは本当に効果的か?
  22.「トライ」と「成功」の違い
  23.「不協和音」はしっくりこない
  24.行動変容を妨げるもの
  25.「競争相手」に勝たなくては
 禁煙2 喫煙者のBさんに禁煙を勧める場合
  26.「開いた質問」と「閉じた質問」
  27.「やらなくては」から「やりたい」へ
  28.今までのことも聞いてみる
  29.対象者の考えを点数化する
  30.対象者の点数に合わせて働きかける
 運動1 メタボリックシンドロームのCさんに運動を勧める場合
  31.「やらずじまい」で終わる理由
  32.なぜ「自信」がないの?
  33.「成功経験」が「自信」につながるとは限らない
  34.対象者の「ニーズ」をつかまえる
  35.対象者の「深いニーズ」を探る
 運動2 肥満と2型糖尿病のDさんに運動を勧める場合
  36.行動変容の必要性
  37.何のためだったら「やる気」になるの?
  38.一度に変える生活習慣の数
  39.無理をしてはダメ
  40.「行動目標」に重点を置く
 間食1 メタボリックシンドロームのEさんに間食を控えることを勧める場合
  41.分かっちゃいるけど,なかなか……
  42.「成功事例」を活用する
  43.対象者は何に価値を置いているか?
  44.なぜあの人はストレスに強いの?
  45.ストレスとうまくつき合う
 間食2 肥満と2型糖尿病のFさんに間食を控えることを勧める場合
  46.「セルフ・コントロール」力を高める
  47.記録をつけることのメリット
  48.「やりがい」を感じてもらう
  49.「満足感」を感じてもらう
  50.家族からのサポートの効用
パート5 まとめ