やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

第2版 序文
 地域看護学領域はめまぐるしく変化する看護学領域です.たえず政治・社会の変動や行政の政策・施策をキャッチしながら,行政機関に所属する保健師としての活動を考えていくことが求められますし,時代の動向と今後の課題をたえず考えられる保健師でありたいと思います.
 2009年度の1年生より看護基礎教育のカリキュラムが改正されます.実習や演習が重視され,実務のできる保健師が求められています.本書は2004年に発刊され,新カリキュラムとなるこの時期に,第2版を刊行することになりました.第2版は,新カリキュラムの内容にマッチしていることは当然ですが,本書を用いた授業を行う中で,学生や教員のみなさんからいただいたご意見を反映させています.
 具体的には,行政,産業,学校の分野の保健活動を重視し,地域看護管理,危機管理の充実と,地域住民の国際化,障害児(者)保健活動,DV被害者や薬物依存者などへの支援活動を追加しました.また,好評である事例集にも今日的な話題の事例を加えました.
 大学で行われる地域看護学の授業は,レジュメを基に行われることが多いと思います.先に述べたように,地域看護学は変化が激しいために,テキストだけの授業では間に合いません.教員が新しい情報を学生のみなさんに提供することが多くなります.そこで本書は,地域看護学の基本的な考え方を示し,現在の保健活動を紹介しています.
 臨床看護は患者さんを対象とした看護になりがちです.地域看護の対象は,個人・家族・集団・地域と対象の範囲がとても広いです.個人だけでは解決できない,家族や集団を含み解決した方が取り組みやすいことや地域ぐるみで考えていかなければならないことなど,対象の範囲が広いので方法や技術に特徴があります.個人や家族だけでなく,グループや集団の変化,地域住民の変化につながるところに,地域看護学の醍醐味があります.
 本書は,学生時代にテキストとして利用するだけでなく,臨床看護師として働いた後に保健師を志す人,地域の健康を考えている人,保健師の活動を見直したい人などに,マイテキストとして自分用の使いやすいテキストとして,使用していただきたいと思います.また,使用後のご意見をぜひお聞かせください.次期改訂時にご意見を反映させていきたいと存じます.
 2009年1月
 編者

序文
 1997年に保健師課程の教育が公衆衛生看護学から地域看護学となり新しいカリキュラムになりました.看護系大学が2003年4月に107校となり,保健師国家試験受験資格の単位を取得するために,大学で学ぶ学生が増えてきました.
 大学教育では学生が自主的に学習するときと,実習前の復習や国家試験を受験するときに手元に置くといったテキストの使い方だと思います.テキストにあることは学生の自己学習で,授業は教員が準備したレジュメを元に進行する方法が多いのではないでしょうか.
 また,地域看護学を学んだ学生の多くは看護師として就職しています.保健師として就職しなくても,地域看護の志向をもった看護師として働いてほしいのです.看護師として採用されても,看護基礎教育において大学で4年間学習した学生は,3年課程の教育を受けた学生とは違うはずです.個人や家族の個別の問題解決を考えるだけでなく,地域看護の志向のある,市民の立場で考えることができる,コミュニティ・ディベロップメントの発想ができる,コミュニティとしての問題解決や課題を考えられる看護職者になっていただきたいのです.
 本書は以上の点を考慮し,5人の編集者の意向にそって構成されています.編集会議では地域看護の夢を語り,地域看護は難しくわかりにくいという学生の問題に応えるにはどうしたらよいか,教育の場における規制や,地域看護として統一できていない現実の問題を話し合い検討しました.その結果,今,ここで,新しく,私たちができる努力をすることにしました.編集者は本書が完璧でないことをわかっています.地域看護学の成長に合わせて改訂版を出版し,完璧をめざしていきます.
 本書は,地域看護学の一貫性をめざし,地域看護の「対象」,対象を「看護過程」のプロセスで支援し,看護をするための「方法論」を理論,方法,技術でわけ,看護職者の活動する場により「役割」が異なるという4つの構成で成り立っています.ポイントで重要点を示し,図表を多くしてわかりやすくしています.キーワードはそのページと用語一覧で説明して,コラムではさらに詳しい説明をしています.事例は別冊にして,方法論を理解しやすいように学習課題で示しましたので,事例で十分考えていただきたいと思います.
 一言でいえば,地域看護学として一貫した内容で,地域看護の4分野の公衆衛生看護,在宅看護,産業看護,学校看護の特徴を表したテキストと言えるでしょう.
 本書をお読みいただき率直なご意見をお聞かせください.ご意見をいただくことで,読者のみなさまとご一緒にテキストを作っていきたいと願っております.
 2004年3月
 編集代表 木下由美子
I 地域看護の考え方
 1. 地域看護の理念と目的
  1)理念と目的(木下由美子)
   (1)個人・家族・集団・コミュニティを対象とした看護領域
   (2)地域で生活する人々の前提となるもの
   (3)行政機関に所属する保健師活動の特性
   (4)対象に対する看護の方法
   (5)地域看護とは
  2)看護職の活動の場と特性(廣部すみえ)
   (1)免許と資格
   (2)活動の場
   (3)活動の場の違いによる看護職の役割
  3)保健師活動と倫理(麻原きよみ(1)〜(3),佐伯和子(4)(5))
   (1)保健師が遭遇する倫理的問題の特徴
   (2)専門職としての保健師
   (3)倫理的意思決定のために
   (4)人権の尊重と権利擁護
   (5)情報社会における倫理と保護
 2. 地域看護の変遷
  1)地域看護の歴史(冲 壽子(1)〜(10),荒木田美香子(9)(10))
   (1)地域看護のはじまり
   (2)公衆衛生看護の発展
   (3)公共としての公衆衛生看護の開始
   (4)第二次大戦後の公衆衛生看護
   (5)高度経済成長期の時代
   (6)成人保健を中心とした時代
   (7)新たな地域保健をめざして
   (8)保健婦の教育の歴史
   (9)学校看護の歴史
   (10)産業保健の歴史
  2)諸外国の地域看護活動(松田正己(1)(2)(4),鈴木千智(3))
   (1)イギリスの地域看護(地域公衆衛生看護)
   (2)アメリカの地域保健看護(公衆衛生看護)
   (3)オーストラリアの地域看護
   (4)タイの PHC開発と健康
II 地域看護の特性/背景/対象論
 1. 人々の生活と健康(塚崎恵子)
  1)日常生活と健康
   (1)地域看護における日常生活の捉え方
   (2)日常生活と健康との関わり
  2)家族と健康
   (1)地域看護からみた家族
   (2)家族と健康の関わり
   (3)地域看護における家族の捉え方
 2. 地域看護と社会(佐伯和子)
  1)コミュニティとは
   (1)コミュニティの構成要素
   (2)コミュニティ形成の意義
   (3)コミュニティの集団と組織
   (4)コミュニティの組織の関係
   (5)生活圏
   (6)変貌するコミュニティ
  2)環境
   (1)自然環境
   (2)環境破壊と環境保全
   (3)社会環境としての都市化と住環境
  3)産業と経済
   (1)地域産業
   (2)交通と輸送
  4)法律と行政
   (1)健康と法律
   (2)地域の組織
   (3)地方分権と住民参加
   (4)安全
  5)文化
   (1)地域看護における文化
   (2)国際化と異文化理解
  6)地域保健医療福祉システム
   (1)保健医療圏と医療計画
   (2)保健医療福祉施設
   (3)救急医療,休日夜間医療,へき地医療
   (4)地域保健医療福祉ネットワークと連携
III 地域看護の方法
 1. コミュニティの支援
  1)コミュニティ支援の目的(麻原きよみ)
   (1)コミュニティの健康増進
   (2)コミュニティ・エンパワメント
   (3)コミュニティの社会資源
  2)コミュニティ支援の方法および技術(麻原きよみ)
  3)コミュニティのアセスメント(麻原きよみ)
   (1)地域診断(コミュニティ・アセスメント)
   (2)支援計画の立案
  4)コミュニティ支援の実践方法(麻原きよみ(1)〜(3)(7)〜(8),安齊由貴子(4)(6),宮ア美砂子(5),宮ア紀枝(1)(7))
   (1)健康教育
   (2)グループ支援
   (3)組織化活動
   (4)施策化
   (5)健康危機管理
   (6)健康づくり
   (7)健康診査・健康診断
   (8)連携・協働(collaboration)
  5)コミュニティ支援の評価(麻原きよみ)
   (1)評価の定義と目的
   (2)評価の枠組み
   (3)量的評価と質的評価
 2. 個人・家族への支援(原 礼子)
  1)個人・家族支援の目的
  2)個人・家族支援のプロセスの特徴と方法・技術
  3)個人・家族のアセスメントと実施計画
   (1)アセスメントの実際と方法
   (2)実施計画
  4)個人・家族支援の実践方法
   (1)家庭訪問
    演習 家庭訪問の計画
   (2)健康相談
   (3)健康教育
    演習 個別健康教育の計画
   (4)セルフヘルプ・グループ
   (5)ケースマネジメント
  5)個人・家族支援の評価
   (1)評価とは
   (2)評価の視点
   (3)記録
IV 地域で実践する看護職の活動の場
 1. 行政
  1)公衆衛生看護分野における看護の特性(後藤順子)
   (1)法的基盤に基づく活動
   (2)行政組織における活動
   (3)地域保健医療計画に基づく活動
  2)公衆衛生看護分野における保健師の役割(後藤順子)
   (1)保健所保健師活動
   (2)市町村保健師活動
  3)母子保健活動(茅山加奈枝)
   (1)活動対象となる人々
   (2)健康課題と社会背景
   (3)活動の基盤となる法律や制度
   (4)具体的活動
  4)成人保健活動(斉藤恵美子)
   (1)活動の対象となる人々
   (2)健康課題と社会背景
   (3)活動の基盤となる法律や制度
   (4)具体的活動
  5)高齢者保健活動(斉藤恵美子)
   (1)活動の対象となる人々
   (2)健康課題と社会背景
   (3)活動の基盤となる法律や制度
   (4)具体的活動
  6)難病保健活動(後藤順子)
   (1)活動の対象となる人々
   (2)健康課題と社会背景
   (3)活動の基盤となる法律や制度(保健医療福祉の支援)
   (4)具体的活動
  7)精神保健福祉活動(萱間真美,柏木由美子)
   (1)活動の対象となる人々
   (2)健康課題と社会背景
   (3)活動の基盤となる法律や制度
   (4)具体的活動
  8)障害児者保健活動(土井有羽子,上野昌江)
   (1)活動の対象となる人々
   (2)健康課題と社会背景
   (3)活動の基盤となる法律や制度
   (4)具体的活動
  9)感染症保健活動(織田初江)
   (1)感染症の予防対策
   (2)健康課題と社会背景(感染症対策の動向)
   (3)活動の基盤となる法律や制度
   (4)具体的活動
  10)DV被害者や薬物依存者,生活保護対象者への支援活動(上野昌江)
   (1)DV(ドメスティックバイオレンス)被害者への支援
   (2)薬物依存者への支援
   (3)生活保護者への支援
 2. 学校(荒木田美香子)
  1)学校看護の目的
   (1)学校保健の目的と学校看護の定義
   (2)学校看護の対象
   (3)養護教諭に求められる職務と能力の拡大
  2)学校保健・学校看護の特徴
   (1)教育の場で,教師という立場で展開する支援活動である
   (2)学校保健関係のヒューマンリソース(校長,担任,学校医など)との協働
   (3)子どもの健康課題
   (4)健康課題の解決には地域の保健・医療・福祉との連携が必須
  3)学校看護で展開される支援の方法および技術
   (1)幼児・児童・生徒・学生個人を対象とした支援の方法および技術
   (2)集団を対象とした支援の方法および技術
   (3)評価とフィードバック
  4)養護教諭の養成教育
  5)今後の課題と展望
    演習 思春期やせと発育曲線
 3. 産業(荒木田美香子)
  1)産業保健と産業看護の目的と対象
  2)就労者を対象とした看護が展開される場
  3)産業保健・産業看護の特徴
   (1)対象者は幅広い年齢の,家計を養う人である
   (2)健康に有害な影響をもたらす労働活動についての理解
   (3)多くの専門職と事業主や労働者とともに行う活動
   (4)5 領域の枠組み: 労働衛生管理体制,作業管理,作業環境管理,健康管理,労働衛生教育
   (5)小規模事業所で働く人が多い
  4)産業看護で行われる支援の方法および技術
   (1)就労者個人を対象とした支援の方法および技術
   (2)事業所としての集団を対象とした支援の方法および技術
  5)産業看護と地域・公衆衛生看護との連携
   (1)地域の健康度を高めるためには働く年代の健康づくりが必要
   (2)地域・職域連携推進協議会
  6)産業保健・産業看護の今後の発展に向けて
   (1)社会の変動,制度の変動に敏感であること
   (2)新たに生まれる化学物質への注意
   (3)産業看護師の継続教育の充実
    演習 健康管理と職場巡視の活用
 4. 在宅
  1)在宅看護の特徴(木下由美子)
   (1)在宅ケアの目的と対象
   (2)在宅ケアの特徴
   (3)訪問看護の活動の特徴
  2)支援の方法および技術(上野まり)
   (1)在宅療養する人々とその家族への支援の方法および技術
   (2)集団を対象とした支援の方法および技術
   (3)訪問看護の活動の根拠となる法律・制度
  3)在宅ケアシステム(原 礼子)
   (1)在宅ケア支援サービスとチームアプローチ
   (2)訪問看護と行政,学校,産業看護との連携
  4)今後の課題と展望(木下由美子)
V 発展・これからの展望
 1. 地域看護の発展
  1)活動の場の拡大(野村陽子)
   (1)地域保健における発展
   (2)産業看護における発展
   (3)医療機関における発展
   (4)在宅サービスにおける発展
  2)地域看護における研究(荒木田美香子)
   (1)保健師業務と研究
   (2)研究の意義およびめざすところ
   (3)地域看護領域の研究テーマと研究方法
   (4)研究を行う際の倫理的な配慮
 2. 地域看護管理
  1)地域看護管理の意義 (荒木田美香子)
   (1)地域看護管理の目的・領域・方法
  2)業務管理(永江尚美)
   (1)地区管理
   (2)事業管理
   (3)事例管理
  3)予算管理(荒木田美香子)
   (1)組織における予算管理の原則
   (2)予算編成の流れ
   (3)決算と事業評価
  4)人材管理(佐伯和子)
   (1)人材育成
   (2)人事管理
   (3)労働環境および健康管理
  5)情報管理(荒木田美香子)
   (1)情報公開と個人情報保護
   (2)医療保健情報の電子化とセキュリティ
   (3)保健医療専門職の守秘義務とインフォームドコンセント
   (4)情報の活用
  6)危機管理(荒木田美香子)
   (1)リスクマネジメントのプロセス
   (2)医療事故防止とリスクアセスメント
   (3)医療過誤と法的責任
    演習 業務分担制と地区分担制
 3. 地域看護の国際的視点
  1)多国籍化する住民,地域の国際化(奥野ひろみ)
   (1)外国人登録者の現状と課題
   (2)保健分野の現状と課題
  2)外国人市民が多い地域での取り組み(山名れい子)
   (1)浜松市での現状
   (2)保健活動現場での現状と課題
   (3)現状の対策と今後の課題
  3)国際協力(奥野ひろみ)
   (1)国際保健・医療協力の方向性と現状
   (2)日本の国際保健医療協力
   (3)開発途上国の健康課題と対策
   (4)国際協力の事例

 用語説明
 索引

 ●事例集内容
  1 新生児と家族の支援-家庭訪問を通して(茅山加奈江)
  2 精神疾患をもつ対象者と家族の支援(柏木由美子,萱間真美)
   (1)本人の生活が破綻し早急な対応を求められた例(2)多くの問題を抱える家族へのかかわり
  3 グループ支援:セルプヘルプ・グループ ―「野の花会」の支援プロセスから(安齊由貴子)
  4 住民主体の「いきいき健康ひろば」を拠点としたコミュニティ・エンパワメント(百瀬由美子)
  5 災害時における保健師の活動 ―新潟県中越沖地震(奥田博子)
  6 発達障害児を抱える家族の支援―行政サービスに拒否的であった家族に他職種と連携してかかわる(宮ア紀枝)
  7 DV被害者への看護支援(米山奈奈子)
  8 職場組織におけるヘルスプロモーション活動―メンタルヘルス対策ワーキンググループ立ち上げについて(荒木田美香子)
  9 学校でパニックを起こす児童と家族を支えるコミュニティ・ケアシステム(荒木田美香子)
  10 多職種との連携,在宅ケアシステム―Werding-Hoffmann病の患児とその家族の在宅療養を支援する(原 礼子)