はしがき
人生の「宝物」
私は,今年で「研究」といわれる分野に携わって,25年となりました.千葉大学看護学部に提出した卒業論文がはじめての論文です.それから,もう四半世紀が過ぎました.「光陰矢のごとし」と言いますが,私は,まるで,さっきまでタイムカプセルの中に居たかのようです.いまも,学生時代を昨日のことのように,鮮明に振りかえることができます.熱い思いが胸に込み上げてきます.
千葉大学看護学部を卒業後,縁あっていくつかの大学,研究機関で,研究について多くの方々から,ご教授いただける機会がありました.大阪大学医学部公衆衛生学教室に研究生として在籍,東京大学大学院医学系研究科への博士論文の提出と博士号の取得,東京女子医科大学大学院看護学研究科での教員としての勤務,そして,現在の長崎県立大学大学院人間健康科学研究科での教授としての仕事です.また,2007年からは,米国ライト州立大学ブーンショフト医学大学院グローバル保健医療システム・マネジメント・政策センターの客員教授としても招聘していただきました.
この間,看護学分野のみならず,医学,社会学,文化人類学,民俗学,心理学,人口学,統計学など多様な専門分野の諸先生方にも出会い,学びました.協働することもできました.米国の文化人類学者と共著で,英国ケンブリッジ大学出版会から,著書を世界に誕生させることもできました.
また,この数年は学術論文の査読,学会誌の編集,学会での座長,学術集会での招待講演,シンポジウムの企画,学会理事,評議員など,研究活動に関連した仕事をさせていただくことが多くなりました.
このような出会いは,まるで「奇跡」のようです.なぜ,私はこのような経験ができたのか,出会いがあったのか,我ながら不思議でしかたがありません.
私は,決して優秀でもなく,勤勉でもありません.超人的な体力があるわけでもありません.英語なんて,全く使い物にならない研究者です(いくらやっても,ダメです.国際会議の発表前には,緊張のあまり具合が悪くなりますし,発表直後,英語で次々と質問されたら,一瞬にして頭が真っ白になって,会場から逃げ出したくなります).
また,マスコミ関係,市民団体,行政機関,大使館などの方々とも,お付き合いさせていただきました.時折,分厚い名刺ファイルの中にある多種多様な方々の肩書きを見て驚きます.本当に,ありがたいことです.
何故ならば,「異なること」との出会いは,そこに新鮮な発見と学びがあるからです.そして,その巡り会いが,私の人生の視野を広げ,豊かにしてくれる糧となりました.これは,私の人生の一番の「宝物」だと思っています.
何故この本を?
さて,前置きが長くなりましたが,「何故,私がこの本を出版したのか」について,述べたいと思います.私はこれまで「研究」で,さまざまな,沢山の失敗をしてきました.時には恥ずかしさで一杯になることもありました.
ところが,最近,ふと気がつくと,看護の研究論文,発表の様子などを目にする際,「ああ〜こうすればいいのになあ」「うっかり,ミスしているのかなあ」「それをしたら,とても失礼なのになあ」「ご存知ないんだろうなあ」と思うことが多くなりました.それらは,自分がこれまでしてきた失敗談とそっくりです.
また,学生からは,「看護研究がよくわからない,論文の書き方がさっぱり分からない,難しい,苦しい」など,看護研究に関する相談をたくさん受けます.臨床の看護師の方々からは,「基本的なことを,具体的に,解りやすく,教えてほしい」との要望が寄せられました.
そこで,私はこれまでの経験を踏まえながら(自分への「戒め」も込めて),誰にでもわかる,研究マナーの本を書こうと思いました.
ですから,この本は「看護研究の専門書」では,決してありません.この本のコンセプトは,「うっかりミスをできるだけ,未然に防ぐことができる心得帳」「だれも教えてくれなかった,研究の基本マナー」「これだけは,絶対知っておきたい知恵袋」「研究の初歩中の超初歩」です(あつかましくて,すみません.「研究の品格」もコンセプトに入れさせて下さい).
この「看護研究こころえ帳―研究の基本からプレゼンテーションまで」が,少しでも看護の臨床現場で懸命に働いている方々,周りに研究指導者がいない,研究指導を受ける機会が殆どない方,看護研究をはじめたばかりの学生諸君の,「研究」に対する心の負担が軽くなり,楽しく,充実した,やりがいのある研究活動の基となれば,筆者として最高に幸せです.また,看護研究に没頭しすぎるあまり,全体が見えなくなりかけている研究者が,いま一度立ち止まる「手帳」となることを願って…
2008年 クリスマスを前にして
李 節子
人生の「宝物」
私は,今年で「研究」といわれる分野に携わって,25年となりました.千葉大学看護学部に提出した卒業論文がはじめての論文です.それから,もう四半世紀が過ぎました.「光陰矢のごとし」と言いますが,私は,まるで,さっきまでタイムカプセルの中に居たかのようです.いまも,学生時代を昨日のことのように,鮮明に振りかえることができます.熱い思いが胸に込み上げてきます.
千葉大学看護学部を卒業後,縁あっていくつかの大学,研究機関で,研究について多くの方々から,ご教授いただける機会がありました.大阪大学医学部公衆衛生学教室に研究生として在籍,東京大学大学院医学系研究科への博士論文の提出と博士号の取得,東京女子医科大学大学院看護学研究科での教員としての勤務,そして,現在の長崎県立大学大学院人間健康科学研究科での教授としての仕事です.また,2007年からは,米国ライト州立大学ブーンショフト医学大学院グローバル保健医療システム・マネジメント・政策センターの客員教授としても招聘していただきました.
この間,看護学分野のみならず,医学,社会学,文化人類学,民俗学,心理学,人口学,統計学など多様な専門分野の諸先生方にも出会い,学びました.協働することもできました.米国の文化人類学者と共著で,英国ケンブリッジ大学出版会から,著書を世界に誕生させることもできました.
また,この数年は学術論文の査読,学会誌の編集,学会での座長,学術集会での招待講演,シンポジウムの企画,学会理事,評議員など,研究活動に関連した仕事をさせていただくことが多くなりました.
このような出会いは,まるで「奇跡」のようです.なぜ,私はこのような経験ができたのか,出会いがあったのか,我ながら不思議でしかたがありません.
私は,決して優秀でもなく,勤勉でもありません.超人的な体力があるわけでもありません.英語なんて,全く使い物にならない研究者です(いくらやっても,ダメです.国際会議の発表前には,緊張のあまり具合が悪くなりますし,発表直後,英語で次々と質問されたら,一瞬にして頭が真っ白になって,会場から逃げ出したくなります).
また,マスコミ関係,市民団体,行政機関,大使館などの方々とも,お付き合いさせていただきました.時折,分厚い名刺ファイルの中にある多種多様な方々の肩書きを見て驚きます.本当に,ありがたいことです.
何故ならば,「異なること」との出会いは,そこに新鮮な発見と学びがあるからです.そして,その巡り会いが,私の人生の視野を広げ,豊かにしてくれる糧となりました.これは,私の人生の一番の「宝物」だと思っています.
何故この本を?
さて,前置きが長くなりましたが,「何故,私がこの本を出版したのか」について,述べたいと思います.私はこれまで「研究」で,さまざまな,沢山の失敗をしてきました.時には恥ずかしさで一杯になることもありました.
ところが,最近,ふと気がつくと,看護の研究論文,発表の様子などを目にする際,「ああ〜こうすればいいのになあ」「うっかり,ミスしているのかなあ」「それをしたら,とても失礼なのになあ」「ご存知ないんだろうなあ」と思うことが多くなりました.それらは,自分がこれまでしてきた失敗談とそっくりです.
また,学生からは,「看護研究がよくわからない,論文の書き方がさっぱり分からない,難しい,苦しい」など,看護研究に関する相談をたくさん受けます.臨床の看護師の方々からは,「基本的なことを,具体的に,解りやすく,教えてほしい」との要望が寄せられました.
そこで,私はこれまでの経験を踏まえながら(自分への「戒め」も込めて),誰にでもわかる,研究マナーの本を書こうと思いました.
ですから,この本は「看護研究の専門書」では,決してありません.この本のコンセプトは,「うっかりミスをできるだけ,未然に防ぐことができる心得帳」「だれも教えてくれなかった,研究の基本マナー」「これだけは,絶対知っておきたい知恵袋」「研究の初歩中の超初歩」です(あつかましくて,すみません.「研究の品格」もコンセプトに入れさせて下さい).
この「看護研究こころえ帳―研究の基本からプレゼンテーションまで」が,少しでも看護の臨床現場で懸命に働いている方々,周りに研究指導者がいない,研究指導を受ける機会が殆どない方,看護研究をはじめたばかりの学生諸君の,「研究」に対する心の負担が軽くなり,楽しく,充実した,やりがいのある研究活動の基となれば,筆者として最高に幸せです.また,看護研究に没頭しすぎるあまり,全体が見えなくなりかけている研究者が,いま一度立ち止まる「手帳」となることを願って…
2008年 クリスマスを前にして
李 節子
Part1 研究とは
1 研究の原点について
「研究」にとりかかる前に
専門分野(領域)と「研究」
「研究」って何?
「研究」によって創られる「言葉」
知的筋肉バトル-「研究」の生みの苦しみと喜び
研究の原点-何のための,誰のための研究なのか
2 看護領域における研究とは
「看護研究」とは,なんでしょうか?
看護研究のテーマ(課題)について
学際的な看護研究
看護研究テーマ(課題)の「切り口」
(資料1)看護研究の動機・テーマ(課題)のチェックシート
Part2 看護における文献検索・文献講読
1 文献検索・文献講読の基礎知識
看護の文献を探して,読むことの意義
文献とは,一次資料・二次資料とは
情報リテラシー(情報活用能力)
クリティカルシンキングとクリティーク
「情報」とは
データとは
概念とは
「看護診断」も「概念」
そのお店のコンセプトは
「愛」は「LOVE」?
「共通概念」
エビデンスとは
2 文献検索の実際
図書館で文献を探す
二次資料(文献検索データベース)の種類
文献カードによる整理
文献検索・キーワードの使い方
「無知の知」そして「自信と勇気」
(資料2)文献検索のチェックシート
Part3 看護研究における倫理
1 医療分野における倫理規制
ニュールンベルグの綱領とヘルシンキ宣言
研究の倫理審査委員会
2 看護研究と倫理規定
ICN看護師倫理綱領
個人情報保護法と看護研究
医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱いのためのガイドライン
看護者の倫理綱領と個人情報の保護
それでは,「適切な判断」とはなんでしょうか?
(資料3)質的記述的研究の倫理的配慮の例
(資料4)子どもを取り巻く地域の「助け合い」と伝承に関する調査のお願い
(資料5)子どもを取り巻く地域の「助け合い」と伝承に関する調査同意書
Part4 看護研究方法論
「素朴な疑問」の解決ステップ
探求のアプローチ法-帰納法と演繹法そして仮説
研究方法の4種類
研究データ収集法の4分類
「研究デザイン」と「概念枠組み」
「独立変数」,「従属変数」とは
量的研究・質的研究
統計学(統計的分析)
4つの測定尺度
信頼性・妥当性
看護研究における量的・質的研究の問題点
Part5 研究論文の構成要素
論文の種類
学術論文の構成
学術論文の投稿から「別刷り」まで
学術論文の「組み立て」
(資料6)量的研究・質的研究 看護研究論文の組み立て(構成)比較
Part6 論文作成の基本ルールとマナー
1 研究に問う
「研究計画」に問われるもの
研究計画書とは
「研究計画書・研究費」雑感
2 学術論文作成の基本ルールとマナー
論文の題名(タイトル)
筆者とオーサーシップ(Authorship)
要旨(抄録,まとめ)
キーワード
研究本文
謝辞
文献
全体の文章の段落文字・番号
投稿規程
(資料7)研究論文「謝辞」の具体的記載例
(資料8)学術論文原稿の内容チェックシート
Part7 プレゼンテーション(発表)
1 研究におけるプレゼンテーション
研究してプレゼンテーションするのは,なぜ?
研究発表・学びの場:学術集会
プレゼンテーション:口演発表とポスター発表
2 日本語の使い方
発表で使う日本語の形式 「ですます調」と「である調」の使い方
3 プレゼンテーションの評価基準
発表全体の内容と構成
発表時間
話し方
服装・身だしなみ
姿勢・態度
スライド・配布資料
美しいスライド作成の工夫
4 座長・演者として
5 自分の「あがり」との付き合い方
(資料9)学会・シンポジウム等における演者・座長の具体的やりとりの一例
(資料10)プレゼンテーション(発表)チェックシート
1 研究の原点について
「研究」にとりかかる前に
専門分野(領域)と「研究」
「研究」って何?
「研究」によって創られる「言葉」
知的筋肉バトル-「研究」の生みの苦しみと喜び
研究の原点-何のための,誰のための研究なのか
2 看護領域における研究とは
「看護研究」とは,なんでしょうか?
看護研究のテーマ(課題)について
学際的な看護研究
看護研究テーマ(課題)の「切り口」
(資料1)看護研究の動機・テーマ(課題)のチェックシート
Part2 看護における文献検索・文献講読
1 文献検索・文献講読の基礎知識
看護の文献を探して,読むことの意義
文献とは,一次資料・二次資料とは
情報リテラシー(情報活用能力)
クリティカルシンキングとクリティーク
「情報」とは
データとは
概念とは
「看護診断」も「概念」
そのお店のコンセプトは
「愛」は「LOVE」?
「共通概念」
エビデンスとは
2 文献検索の実際
図書館で文献を探す
二次資料(文献検索データベース)の種類
文献カードによる整理
文献検索・キーワードの使い方
「無知の知」そして「自信と勇気」
(資料2)文献検索のチェックシート
Part3 看護研究における倫理
1 医療分野における倫理規制
ニュールンベルグの綱領とヘルシンキ宣言
研究の倫理審査委員会
2 看護研究と倫理規定
ICN看護師倫理綱領
個人情報保護法と看護研究
医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱いのためのガイドライン
看護者の倫理綱領と個人情報の保護
それでは,「適切な判断」とはなんでしょうか?
(資料3)質的記述的研究の倫理的配慮の例
(資料4)子どもを取り巻く地域の「助け合い」と伝承に関する調査のお願い
(資料5)子どもを取り巻く地域の「助け合い」と伝承に関する調査同意書
Part4 看護研究方法論
「素朴な疑問」の解決ステップ
探求のアプローチ法-帰納法と演繹法そして仮説
研究方法の4種類
研究データ収集法の4分類
「研究デザイン」と「概念枠組み」
「独立変数」,「従属変数」とは
量的研究・質的研究
統計学(統計的分析)
4つの測定尺度
信頼性・妥当性
看護研究における量的・質的研究の問題点
Part5 研究論文の構成要素
論文の種類
学術論文の構成
学術論文の投稿から「別刷り」まで
学術論文の「組み立て」
(資料6)量的研究・質的研究 看護研究論文の組み立て(構成)比較
Part6 論文作成の基本ルールとマナー
1 研究に問う
「研究計画」に問われるもの
研究計画書とは
「研究計画書・研究費」雑感
2 学術論文作成の基本ルールとマナー
論文の題名(タイトル)
筆者とオーサーシップ(Authorship)
要旨(抄録,まとめ)
キーワード
研究本文
謝辞
文献
全体の文章の段落文字・番号
投稿規程
(資料7)研究論文「謝辞」の具体的記載例
(資料8)学術論文原稿の内容チェックシート
Part7 プレゼンテーション(発表)
1 研究におけるプレゼンテーション
研究してプレゼンテーションするのは,なぜ?
研究発表・学びの場:学術集会
プレゼンテーション:口演発表とポスター発表
2 日本語の使い方
発表で使う日本語の形式 「ですます調」と「である調」の使い方
3 プレゼンテーションの評価基準
発表全体の内容と構成
発表時間
話し方
服装・身だしなみ
姿勢・態度
スライド・配布資料
美しいスライド作成の工夫
4 座長・演者として
5 自分の「あがり」との付き合い方
(資料9)学会・シンポジウム等における演者・座長の具体的やりとりの一例
(資料10)プレゼンテーション(発表)チェックシート