やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに
 平成9年度から加えられた「在宅看護論」も,さまざまな課題を抱えながら10年の年月が流れました.そしてまた,新たにカリキュラム改正のときを迎え,より安全で,しかも状況に臨機応変に対応できる実践的な能力が求められるようになっています.看護基礎教育のなかでの「在宅看護論」は「統合分野」に含められ,訪問看護に限らず多様な場で実習することが望ましいと謳われています.限られた時間のなかでどのように展開すれば能率よく,効果的に学習することができるのか熟慮しなければなりません.
 ともあれ,在宅看護論のなかでは「訪問看護」は主流になりますし,看護の原点ともいえます.ことに臨地実習においては,看護活動の場が施設内実習とは異なり,学生のみなさんは,ものの見方や考え方の切り替えを求められる体験をすることも多いことと思います.しかも,対象の日常の生活の場に訪問するわけですから,対象によって提供する看護は一様ではありません.すべての人を対象に訪問はできませんので,疑似体験を多くすることによって,在宅看護に必要な基礎知識を効率よく学習してもらいたいと考え,本書を編集しました.
 本書の特長を以下のようにまとめてみました.
 1)本書に取り上げた「事例」は,実際の看護学生の臨地実習体験のアンケートからキーワードを抽出しました.「病状」「年齢」「介護者」「日常生活の看護支援技術」「医療処置」「介護・家族指導」「社会福祉サービス」「看護の連携(退院調整)」の8項目に分けマトリックスを構成した結果,それに当てはまると思われる事例を選択し,限られた体験をなるべくほかの事例にも応用できるよう取り上げてあります.
 2)各事例には「この事例から学ぶこと」を付記し,学びやすいよう明示しました.
 3)在宅看護は施設入院中から始まっていることも重視してもらいたいので,各事例には,入院中の情報を提示してあります.
 4)事例のアセスメントと介入の活用例として,ヘンダーソンの項目に沿った方法を取り入れてあります.
 5)各事例のところどころに,実際の場でどのように看護がなされているのかを知るために,訪問看護師の生の声を「訪問看護師の一言」として記載し,また必要な社会資源も提示しました.
 6)コミュニケーションの項では,学生の臨地実習の体験を基に,実際に必要な事柄を取り上げて説明してあります.「コラム」には学生の実体験での感想を載せました.
 在宅看護においては,どれをとっても正解はありません.体験をするにしても限りがあります.少しでも本書が学生のみなさんの体験の架け橋になることができれば幸いに存じます.
 2007年11月 執筆者一同
I 在宅看護におけるコミュニケーション
 1 在宅看護におけるコミュニケーションの基本
  [1]挨拶
  [2]笑顔
  [3]聴く
  [4]話す
  [5]非言語的表現
 2 在宅看護でのコミュニケーション
  1.訪問看護に至るまでの経過
  2.初回訪問
   [1]初回訪問の目的
   [2]初回訪問の流れ
  3.利用者・家族と接する際の心構えと留意点
   [1]連絡方法
   [2]時間
   [3]服装
   [4]玄関先での振る舞い
   [5]室内での振る舞い
   [6]ことばづかい
   [7]手洗い
   [8]座る位置
   [9]お茶を出されたとき
   [10]情報収集と看護方法
   [11]退居時の挨拶
  4.訪問する際の心構えと留意点
   [1]持って行くもの
   [2]訪問時の観察および情報収集事項
  5.訪問後の記録について
  6.こんなときあなたならどうしますか?
II 在宅看護におけるアセスメントと介入
 1 アセスメントと介入方法
  1.事例紹介
  2.家族機能アセスメント
   [1]家族を把握するうえでの情報収集の視点
  3.社会資源の活用
   [1]社会資源の具体的なアセスメントの考え方
  4.ヘンダーソンの項目に沿った療養者の情報整理
   [1]ヘンダーソンの項目に沿った療養者の情報整理の1例
  5.在宅看護と看護過程
   [1]情報の収集・分析
   [2]看護問題の明確化
   [3]計画・実践34
   [4]評価
III 在宅看護の実際
 1 呼吸不全でHOTを受けている療養者の場合
  この事例から学ぶこと
  退院前
   1.事例紹介
   2.訪問看護指示書
   3.退院にむけて
   4.事前訪問
  在宅
   1.初回訪問
   2.ヘンダーソンの項目に沿ったATさんの情報整理
   3.ATさんの在宅療養生活にむけて
  まとめ
 2 ALSで在宅呼吸器療法を受けている療養者の場合
  この事例から学ぶこと
  退院前
   1.事例紹介
   2.訪問看護指示書
   3.退院にむけて
   4.事前訪問
  在宅
   1.初回訪問
   2.ヘンダーソンの14項目に沿ったSHさんの情報整理
   3.SHさんの在宅生活にむけて
  まとめ
 3 終末期で在宅輸液療法を受けている療養者の場合
  この事例から学ぶこと
  退院前
   1.事例紹介
   2.訪問看護指示書・在宅患者訪問点滴注射指示書
   3.退院にむけて
  在宅
   1.初回訪問
   2.ヘンダーソンの項目での分類と考え方
   3.YKさんの援助について一緒に考えてみましょう
  まとめ
 4 脳梗塞後遺症の老年療養者の場合
  この事例から学ぶこと
  退院前
   1.事例紹介
   2.訪問看護指示書
   3.退院にむけて
  在宅
   1.訪問時の状況
   2.家族の状況
   3.看護過程の展開(アセスメント・看護介入)
   4.優先順位の高いニーズ項目について,看護過程を考える
   5.看護の評価
  まとめ