やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに
 別冊総合ケア『訪問看護ハート&アート』が出版された平成4年,訪問看護ステーションが各地で立ち上がり,平成12年には介護保険制度の開始とともに,さらに訪問看護ステーションの数が増えました.
 しかし,数として増えた訪問看護ステーションの質はどうでしょうか.利用者に満足していただける訪問看護が本当にできているでしょうか.訪問看護の働きによって,施設や病院ではなく,家での生活を継続してみようと自己決定する利用者は増えているでしょうか.訪問看護の適切な指導により,家族の介護力,対処能力が上がっているでしょうか.訪問看護の導入により,医療依存度の高い利用者の再入院の頻度が抑えられているでしょうか.人々は自分の晩年や終末期をイメージしたときに,在宅で訪問看護を受けたいと思うでしょうか.
 本書では,今一度,訪問看護の基本に立ちかえり,第1章では訪問看護師が,病院ではなく,その方が主人公として生活している家庭・地域に出向くなかで,どのような看護が求められているかを,再確認しています.第2章では,訪問看護のスキルアップの一助として,それぞれのエキスパートに書いていただきました.第3章では,訪問看護ステーションとしての成長を目指して,第4章では,訪問看護の基本を押さえた上で,訪問看護がこれからどこへ向かうのかを読者の皆様と共に考えていただけるように構成しました.
 本書はこれから訪問看護を始める方から訪問看護ステーションの所長,そして医師をはじめ在宅ケアチームのさまざまな職種の方々にも読んでいただきたいと思います.また,一般の方々に訪問看護というものを知っていただいたり,現在訪問看護を受けている方が,利用している訪問看護ステーションのケアを評価する手がかりにしていただければと思います.
 なお,この本は訪問看護の質の向上に尽力された紅林みつ子さんが,一人でも多くの方に,訪問看護の真髄に触れ,日々のケアにいかしていただけることを願い,病をおして主筆に着手されたものです.天に帰られた紅林さんの訪問看護師としての生涯を思うとき,私たちは彼女の訪問看護の現状への憂いと期待を,この本を通じて受け止め,それぞれの立場で実践に活かしていく者でありたいと思います.
 2005年11月
 栗栖真理
 ・はじめに(栗栖真理)
 ・座談会――いま訪問看護は(紅林みつ子 栗栖真理 奥山 尚 角田直枝)
I 訪問看護,基本は大丈夫か
 (1)責任をもつということ(紅林みつ子)
 (2)相手を尊重する,マナー,態度(紅林みつ子)
 (3)在宅に関する倫理(紅林みつ子)
 (4)生活をみること,その中で命に責任をもっている(紅林みつ子)
 (5)判断すること(紅林みつ子)
 (6)訪問時に心がけること(紅林みつ子)
 (7)記録の意味(櫻井尚子)
 (8)連携(奥山 尚)
II 訪問ナースのスキルアップのために
 (1)フィジカルアセスメント 基本的知識――どこを見るか(角田直枝)
 (2)ターミナルケア(角田直枝)
 (3)認知症ケア――考え方と事例(吉野靖子)
 (4)対人援助技術(奥川幸子)
  その1.対人援助の基盤――すべての対人援助者に必要な視点)
  その2.相互援助を基盤として実践される対人援助のしくみへの理解)
 (5)家族支援(鈴木恵子)
 (6)精神疾患の基礎知識(掃部関克子)
III チームで進める訪問看護
 (1)訪問看護の有効性(櫻井尚子)
 (2)直行直帰に見る問題点(栗栖真理)
 (3)朝のカンファレンスおよび訪問後の報告の重要性(栗栖真理)
 (4)訪問看護ステーション所長の役割,スーパーバイザーについて(栗栖真理)
 (5)在宅をスタンスとしたものの考え方を伝えていく(栗栖真理)
 (6)利用者・家族とともにつくるケア(栗栖真理)
IV 訪問看護はどこへ向かうのか――訪問看護に求められているもの
 (1)後ろ盾になること(栗栖真理)
 (2)在宅支援チームの育成(鈴木恵子)
 (3)看護職の啓発(櫻井尚子)
 (4)幅広い地域での実践(栗栖真理)
 まとめに代えて――紅林みつ子さんに学んだこと,そしてこれからの訪問看護(栗栖真理 二見典子 鈴木恵子)

 ・コラム
  介護しやすい環境整備(栗栖真理)
  病状の安定が第一(栗栖真理)
  口から食べること(栗栖真理)
  統合失調症について(掃部関克子)
  24時間対応について(栗栖真理)
  朝のカンファレンスのひとこまから(栗栖真理)
  入院か在宅か(栗栖真理)
  介護家族の健康(栗栖真理)
  コミュニティー,市民との接点はありますか?(栗栖真理)
  これからの看取りと訪問看護師(二見典子)