やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

●はじめに
 本書は主に,看護学生や新人ナースを対象としてまとめたものです.読者の方々が,講義や演習などで得た既存の知識を復習・整理することを助け,看護実践(看護学実習)に活かすことができる実践的テキストとして企画しました.
 従来の成人看護学「外科系」や「急性期」,臨床外科看護学などの類書といえますが,周手術期看護perioperative nursing,すなわち「患者が手術療法を選択するか否かに関する看護から,手術前・中・後を経て退院するまでの一連のプロセスに関わる看護」に焦点を絞って内容を整理しました.
 今回のシリーズ5は,看護学生やナースが頻繁に出会うであろう運動器疾患を厳選し,それらの疾患をもちながら手術療法を選択しようとしている/選択した患者とその家族に焦点をあてています.術前〜術後までに求められる「看護の実際とその根拠」についての理解が本書1冊で深まるように,看護実践に必要な基礎知識のみならず,看護関連領域の知識をも含めて内容を構成しています.既刊のシリーズ1「外来/病棟における術前看護」,シリーズ2「術中/術後の生体反応と急性期看護」と合わせて学習することによって,「運動器疾患で手術を受ける患者の看護」の特徴と,全身麻酔で手術療法を受ける患者の看護に共通するものとが明確になることでしょう.
 特に,「手術を受ける患者と家族の心理を理解するための看護の要点」,「手術療法の理解と看護実践に必要な解剖・生理学の知識」,「術後合併症予防のための看護技術と指導」に力点をおいています.これらは,周手術期看護の基礎ともいえる必須概念と技術だからです.そしてその際,現在の医療・看護に応じた最新の知見を盛り込んで記述するように努めました.
 その他の特徴としては,章の内容を適切に理解する助けとして学習目標objectivesを明示したこと,図表やイラストを多くしてビジュアルな紙面としたこと,知識の整理を促進するために看護過程の展開例を入れたこと,各章に適宜Q&AやPLUS ONEとしてコラムを入れ,追加情報や知識の補足をしたことなどがあげられます.
 学生や新人ナースの多くは,手術を受けた患者を適切にイメージすることができず,看護援助が患者の回復の後追いになってしまったり,既存の知識を統合することができず,観察したことを看護に結びつけてアセスメントすることができなかったりするものです.しかし,幾つかのヒントを与えたり,幾つかの参考書を提示すれば,自ら答えを導き出してくることが多いのも事実です.臨床で実習指導や新人ナースの指導を担当しているナースの方々と看護大学の教員らで執筆された本書が,そのような折に有用な手引きとしてお役に立てば幸いです.
 竹内登美子
第1章 運動器疾患で手術を受ける患者の看護に必要な知識――骨,関節と筋,神経の基礎科学(西本 裕)
 ■1 正しい形態は正しい機能を生む
  ●1)運動器系の各組織の構造と機能
   (1)骨
    ―長骨 短骨 扁平骨 種子骨
   (2)関節
   (3)筋,末梢神経
   ・関節軟骨の損傷と治癒
  ●2)股関節,膝関節,脊椎の構造と機能
   (1)股関節
   (2)膝関節
   (3)脊椎
 ■2 人工材料の条件と使用限界
  ●1)種類
   (1)人工骨頭,人工関節
   (2)プレート,スクリュー,髄内釘
   (3)骨セメント
   (4)吸収性高分子材料
   (5)人工骨
   (6)同種骨
   (7)創外固定
  ●2)体内異物の問題点
   (1)バイオフィルム
   (2)メタルアレルギー
 ■3 運動器系のフィジカルアセスメント
  ●1)測定の基本
   (1)基本肢位
   (2)基本軸と移動軸,軸心の理解
   (3)徒手筋力テスト(MMT)
  ●2)全身の観察
   (1)肢位,姿勢,短縮,変形の有無
    ―身長 指端距離 比指極(指端距離/身長×100) 四肢長
   (2)歩容異常(跛行)
    ―痛みによる跛行(逃避性跛行) 下肢短縮による跛行(墜下跛行) 関節変形,拘縮,不安定性による跛行 筋力低下による跛行 麻痺性歩行 痙性歩行 失調性歩行
   (3)過緊張,タイトネス
    ―腰背筋 大ル後面 大ル四頭筋
   (4)関節弛緩性
    Wynne-Davisの基準 東大式
   (5)皮膚の異常
  ●3)関節のアセスメント
   (1)関節の視診,触診のコツ
   (2)肩甲帯,肩関節の観察
    ―視診 触診 計測 誘発テスト 日本整形外科学会肩関節疾患治療成績判定基準
   (3)上腕,肘関節,前腕の観察
    ―視診 触診 計測 上腕骨外側上顆炎(テニス肘)の誘発試験 日本整形外科学会肘機能評価法における日常生活動作
   (4)手関節の観察
    ―視診 触診 計測 誘発試験 手根管症候群
   (5)手,指の観察
    ―視診 触診 計測
   (6)骨盤,股関節の観察
    ―問診による股関節機能判定基準(日本整形外科学会) 視診 触診 計測
   (7)大腿,膝関節の観察
    ―視診 触診 計測 治療成績判定基準
   (8)下腿,足関節の観察
    ―視診 触診 計測
   (9)足趾の観察
    ―視診 触診 計測
  ●4)脊椎のアセスメント
   (1)脊柱の観察
    ―側彎,後彎 可動性の観察
   (2)頸椎の観察
    ―視診 触診 神経学的診察 日本整形外科学会頸椎症治療効果判定基準
   (3)胸椎の観察
    ―問診 視診 神経学的診察
   (4)腰椎の観察
    ―問診 視診 触診 神経学的診察 日本整形外科学会腰椎症治療効果判定基準
第2章 人工関節置換術の周手術期看護
 ■1 疾患に関する基礎知識(西本 裕)
  ●1)変形性股関節症
   (1)定義と病態
   (2)診断
   (3)症状
    ―疼痛 変形,可動域制限 起立,歩行障害 日常生活動作困難
   (4)保存的治療
    ―日常生活上の注意 温熱療法,マッサージ 薬物療法
   (5)外科的治療
    ―筋解離術 骨切り術 人工関節置換術 関節固定術
  ●2)変形性膝関節症
   (1)定義と病態
   (2)診断
   (3)症状
    ―疼痛 変形,可動域制限 腫脹 日常生活動作困難
   (4)保存的治療
    ―日常生活上の注意(3つのポイント) 温熱療法,マッサージ 薬物療法 運動療法,装具療法
   (5)外科的治療
    ―筋解離術 骨切り術 人工関節置換術 関節固定術
  ●3)関節リウマチ
   (1)病態
   (2)症状
    ―局所症状 全身症状
   (3)診断基準,分類
    ―診断基準 分類
   (4)治療
    ―基礎療法 リハビリテーション 薬物療法 手術療法
  ●4)神経原性関節症
   ・深部静脈血栓症(DVT)
 ■2 主な人工関節置換術のアプローチ(西本 裕)
  ●1)股関節置換術
   (1)前方進入
   (2)前外側進入
   (3)後方進入
  ●2)膝関節置換術
 ■3 人工股関節置換術を受ける患者の看護(高橋由起子・竹内登美子)
  ●1)術前の看護
   (1)日常生活上の不都合と手術に対する感情の理解
   (2)全身状態の評価
    ―股関節機能判定基準(日本整形外科学会) 関節可動域(ROM) 日常生活動作(ADL) 徒手筋力テスト(MMT)
   (3)主な術前オリエンテーションと術前練習
   ―術後の回復を促進するための術前練習 術前の自己血輸血 身体の清潔と感染予防 体重コントロール 既往歴に応じた術前管理 身体障害者手帳の申請と自己概念の変化
   ・自動的他動運動(CPM) 松葉杖の使い方 術前患者の心理:ボディーイメージと手術
  ●2)手術室内での看護
   (1)手術室入室
    ―手術室内環境 患者の引き継ぎと不安緩和
   (2)人工股関節置換術に特有な術中看護
    ―体位固定と神経麻痺 術中の出血量 深部静脈血栓症 手術で使用される器具
  ●3)術後の看護
   (1)術後早期の合併症と看護
    ―血管障害・神経障害の予防 後出血の観察 脱臼予防 創部の感染予防 深部静脈血栓症(DVT)の予防 筋力低下予防 褥瘡予防
   (2)社会復帰に向けた患者・家族教育
    ―居住環境の整備と日常生活動作の留意点 術後晩期合併症に関する教育 身体障害者手帳の交付について 日常生活に役立つ道具 術後の共同問題と看護診断
第3章 脊椎外科患者の周手術期看護
 ■1 疾患に対する基礎知識(西本 裕)
  ●1)脊椎疾患の病態と一般的治療
   (1)症状の特徴
   (2)診断
   (3)治療
  ●2)除圧を必要とする疾患に関する知識
   (1)一椎間の除圧が有用な疾患
    ―椎間板ヘルニア 頸椎症,変形性腰椎症 黄色靱帯石灰化症,骨化症 脊椎腫瘍,脊髄腫瘍
   (2)多椎間の除圧が有用な疾患
    ―脊柱管狭窄症(頸髄症,腰部脊柱管狭窄症) 後縦靱帯骨化症
   (3)除圧の方法
    ―前方除圧 椎間孔の除圧 後方除圧,椎弓形成術
   (4)切除方法
    ―骨 軟骨 靱帯,静脈叢
  ●3)固定を必要とする疾患に関する知識
   (1)一椎の固定が有用な疾患(一椎骨の不安定)
    ―腰椎分離症
   (2)椎間の固定が有用な疾患
    ―環軸椎亜脱臼 腰椎分離すべり症,変性すべり症 椎間板症,椎間板ヘルニア,変形性脊椎症
   (3)固定の方法
    ―後方固定 後側方固定 椎体間固定 インストゥルメンテーション
 ■2 頸椎前方除圧固定術を受ける患者の看護(安田美佳)
   頸椎損傷の治療
    ―手術的整復法 手術的固定法 手術的除圧法
  I.保存的治療を受ける患者の看護
   ●1)頭蓋直達牽引時の看護のポイント
     ―疼痛緩和 合併症予防 体位の保持
    (1)トングス(tongs)挿入,脱臼整復時の看護ケア
     ―挿入前 挿入後
    (2)牽引中の看護
     ―牽引中の看護のポイント(患者への説明 合併症予防 ペインコントロール 不安の援助) ケア計画
   ●2)ハローベスト装着中の看護
    (1)ハローベスト(halo-vest)とは
    (2)ハローベスト装着時の看護のポイント
    ・ハローベスト装着時の清拭の仕方
   ●3)頸椎カラー(フィラデルフィア,ポリネック)装着中の看護
    (1)装着時の看護のポイント
     ―皮膚の観察 清潔の保持 固定の確認
  II.手術療法を受ける患者の看護
   ●1)頸椎前方除圧固定術を受ける患者の看護
    (1)術前の看護
     ―頸椎損傷で頭蓋直達牽引を行っている術前患者の看護(看護のポイント 観察計画 ケア計画 教育計画)
    (2)手術当日の看護
     ―手術直前の看護 術中の看護:頸椎前方除圧固定術 (手術室入室時の患者確認 機器の配置と術者などの位置 体位 皮膚の保護 保温 循環動態)
    (3)術後の看護
     ―観察計画 ケア計画 教育計画
    (4)術後リハビリテーションのケアポイント
    (5)退院に向けての看護
     ―ケアのポイント
  III.頸髄損傷の看護
    ―看護のポイント(呼吸 循環 運動 知覚 心理面)
 ■3 腰椎後方除圧固定術を受ける患者の看護/ 114(木根久江)
  ●1)術前の看護:手術決定から手術前日までの看護
   A.入院から手術決定までの患者状況と看護
    ―手術前検査・処置 手術前日の処置
   B.手術に関するインフォームド・コンセントの実際
    ●医師によるインフォームド・コンセント
    ●ナースによるインフォームド・コンセント
   C.主な術前練習
    (1)体位変換の練習
    (2)食事の練習
    (3)洗面・歯磨きの練習
    (4)排泄の練習
  ●2)手術当日の看護
   A.手術直前の看護
   ―手術直前の処置と看護 バイタルサイン測定 身体的準備 家族に対する看護
   B.術中の看護
    ●術中肢位(腹臥位)で注意すべき点―腰椎後方除圧固定術時の体位
     ―腹臥位による影響 四点フレーム 眼球圧迫,耳介・鼻の圧迫 橈骨神経,尺骨神経麻痺 肩関節の脱臼 鼠径部の圧迫 頸部・胸部・腹部の圧迫 前腸骨棘や膝の圧迫 足関節の過伸展・圧迫 陰茎・陰嚢の圧迫
   C.手術終了時の状態
  ●3)術後の看護
   A.術後の観察と看護
    ―バイタルサインの変化 出血量のチェック 神経・循環障害の予防 体位
   B.術後の後療法
    ●術後の運動療法の実際と注意点
    ●コルセット装着中の患者の看護
     (1)入浴・シャワー時の注意点
     (2)コルセットの取り扱い
      ―コルセット装着時は必ず下着を着用する コルセットを正しい位置に装着する コルセットを締めすぎない コルセットの手入れ
  ●4)退院に向けての指導
   (1)生活上の注意点
    ―姿勢 いすの選択 持ち上げ動作 体重コントロール 入浴時
   (2)腰背筋強化に対する指導
    ―腰背筋の引き伸ばし 背筋強化
   (3)予後の見通しに対する説明
   ・整形外科の抜糸時期
第4章 四肢の外傷患者の看護
 ■1 疾患に対する基礎知識(西本 裕)
  ●1)原因
  ●2)症候
   (1)外傷性ショック
   (2)骨折
   (3)捻挫,亜脱臼,脱臼
   (4)靱帯断裂,腱断裂
   (5)開放性損傷(皮膚損傷)
   (6)神経損傷
   (7)反射性交感神経性ジストロフィー(自律神経障害)
   (8)コンパートメント症候群(筋壊死,末梢神経麻痺)
   (9)挫滅症候群(筋損傷)
   (10)脂肪塞栓症候群
   (11)骨壊死(骨壊疽)
   ・骨折部位と出血量
  ●3)骨折の晩期合併症
   (1)関節内骨折後の変形性関節症
   (2)成長期の骨折,骨端線損傷後の変形
   (3)高齢者の骨折に伴う廃用症候群
  ●4)骨折の治療
   (1)考え方
   (2)整復
    ―徒手整復 観血的整復
   (3)固定
    ―外固定 内固定 創外固定
   (4)電気刺激,超音波刺激
   (5)リハビリテーション
   ・大腿骨頸部骨折と手術的治療
 ■2 大腿骨骨折で直達牽引を受けている術前患者の看護 (鮫島由紀子・明神哲也)
  ●1)牽引療法とは
  ●2)牽引中の看護
   (1)牽引の実際
    ―必要物品 装着時のチェックポイント
   (2)牽引中の合併症
    ―神経麻痺,循環障害(腓骨神経麻痺) 皮膚障害,褥瘡 筋力低下,関節拘縮 感染 深部静脈血栓(DVT)
   (3)苦痛の緩和
  ●3)事例の展開
    (1)事例
     ―患者の概要 患者の経過
    (2)看護の目標
    (3)アセスメントと問題点
     ―神経麻痺,循環障害 脂肪塞栓症 感染 深部静脈血栓
    (4)解決目標(期待される成果)と具体策
  ●4)看護の実際と評価
   ―神経麻痺,循環障害 脂肪塞栓症 感染 深部静脈血栓