やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに
 今日,医療環境は激変している.この流れを止めることはできない.激変のなかにあっても,医療の受け手である人びとのニーズはより安全で質の高い医療・看護を求める傾向が強くなり,多くの医療機関では費用対効果も含めた変革を迫られているのが現状であろう.
 看護は“患者中心の看護・患者さんとともに創りだす医療・看護”を理念とし,安全なケアの提供と健康に関する問題を専門的知識・水準の高い技術を用いて効果・効率的に解決することを目指して進んできた.
 その実践を確かなものにするためには,ナースをほんものの専門職者としてキャリア発達できるように支援し育成していくことが重要となる.
 すなわちシステム化された現任教育と一人一人の学びの積み重ねによって,看護理念の実践はなしうるのである.多くの先輩が残した患者中心の看護への遺産を,報恩の心として受け看護がさらに発展できるような地道な努力が重ねられることである.
 本書は,急性期医療を提供している大学病院の臨床の看護職者を中心に,クリニカルラダー(臨床看護実践能力習熟段階)制度を用いて新人ナースからエキスパートナースに至るまで段階を踏んで育成するシステムを紹介したものである.
 クリニカルラダー制度の基盤には,Patricia Benner(パトリシア・ベナー)の看護論“達人ナースの卓越性とパワー“を据え,“技能修得に関するDreyfus(ドレファス)モデルの看護への適用”に示された技能の修得レベルを適用した.ベナー看護論を翻訳された井部俊子聖路加看護大学学長はじめ訳者の方々に深謝申し上げたい.また,管理者育成のためのマネジメントラダー(看護管理者習熟段階)制度については松下博宣氏の著書「看護経営学」をもとに当院が独自に作成した役割機能・評価システムについて提示した.
 人は仕事を通じて成長をする.系統的に教育を受けて育った人材は,次の人材を育てる能力を発揮する.そして,活気にあふれた職場へと変化させていく.これは現任教育に取り組むなかで日々受けとめている実感である.
 本書を医療機関の機能や専門性に応じてお使いいただけることを期待し,改訂を重ねてより良いものへと発展させたいと願っている.多くのご批判をいただければ幸いである.
 2003年12月に急逝された久保田満子前北里大学東病院看護部長は,これらの教育的課題にいつも率先して取り組まれ,今日の北里大学病院看護教育の基礎創りに多大なる貢献をされた.この本の完成を最も喜んでくださっている一人に違いない.この本の完成を報告し,さらに精進を重ね進んでまいりたいと誓ってこの本をささげたい.
 最後に,本書が完成するまでに尽力してくださった医歯薬出版の担当者の方々に感謝いたします.
 2005年2月
 小島恭子

序文
 北里大学病院が30年の歴史を経た今,看護継続教育についてのとりまとめとして“専門職としてのナースを育てる看護継続教育”が出版されることを,心からお祝い申し上げます.また,前看護部長として序文を書くようにとの依頼を受けて戸惑っておりますが,お祝いの気もちを込めて書きたいと思います.このようなとき,初代看護部長大森文子先生がご存命でいらしたらたいへんお喜びになったことでしょう.そして生き生きとして元気の出る序文をお書きになったことと思います.
 北里大学病院看護部の開設に関与された先輩の方がたをはじめ,開設後は北里の看護の確立と充実,質の保証への取り組みに惜しみない貢献をされた方がたの努力があってこそ完成された“専門職としてのナースを育てる看護継続教育”だと考えます.その方がたの思いも込めて書かせていただきます.
 1971年7月に北里大学病院は誕生しました.誕生の2年前から企画・準備がなされ,看護部では一貫した目標である“患者さん中心の看護”を実現すべく準備が進められ,そのための人材育成に力を入れていました.開院後は毎年150人前後の新人ナースを迎え,ほとんどOJTを中心とした継続教育が実施され,新人ナースもそれに応えて患者さん中心の看護を実践することに熱中してきました.その時代に企画し実施した継続教育は卒後3年までの教育体系でした.卒後教育3年を修了したナースのその後の教育は,新人ナースの教育にかかわることにより,相互学習を通して指導者・チームリーダーとして成長してきました.看護部全体が学習する集団で,常に患者さん中心の看護の実践にチームの精神を生かすことに努力してきました.いちばん重要なことは一人ひとりが患者さんに責任をもってケアに当たり,チームのなかでは自由に意見交換ができて,病棟は相互に意思の疎通が良く,それが看護部全体の雰囲気を良く発展させ,生き生きとした風土を創り上げてきました.
 継続教育は対象の変化に応じて改良されながら続行するなかで,看護の大学教育拡大により新人ナースに占める大卒ナースも増えてきて,新人の個性化,多様性,また21世紀の医療の変化,患者の権利,リスクマネジメントなどに対応できるナース一人ひとりの看護実践能力を強化して,自己のキャリアを自分で設計して力を習得する必要が出てきました.そこでさまざまな討議を重ねてキャリア開発のための“クリニカルラダー”の導入を決定しました.その変革の過程は,係長会議で変革の必要性,北里方式の全体像を提示し納得のいくまで時間をかけて,納得できたら今度は各セクションで検討が始まり,それをたたき台として熱心な取り組みが始まりました.タイミングをみて教育担当が全体の体制を整えていきました.そしていよいよ各セクションがそれぞれの特徴を踏まえた独自の取り組みが始まったのです.いずれもユニークなものであり,次にそれを実践しては,会議体のなかで討議して修正され,ひとつの形に整えられて今日に至っています.
 開院時から積み重ねてきた“患者さん中心の看護“が受け継がれながら発展してきています.何ごとも“患者さんにとって”からの発想で考えることを大事にしてきた結果と言えます.何かを実践するときに上司からの指示・命令で実施するのではなく,看護管理者はそのことを自分のこととして,また,セクションのこととして考え,実施案を作成する習慣をもった自立した集団であると思います.それは看護管理が結果として自己の管理者としての責任(権限)が問われることを学習した成果であると考えます.
 20世紀はナース不足で,質より量の時代と言われ,特に患者さんの安全を守り抜くことに努めてきました.21世紀は質が限りなく求められています.それには一人ひとりのナースが専門家として自律し,ケアの責任をとることが求められています.ナース一人ひとりがプロフェッショナリズムを目指して自己のキャリア開発に取り組むことです.
 その一つの方法の提示だと解釈し,この書を活用していただければ幸いです.
 最後に北里大学病院・東病院看護部のたゆまない努力に敬意を表します.
 2005年2月
 前北里大学病院看護部長
 熊本保健科学大学保健科学部看護学科教授
 古庄冨美子
●Chapter1 当院の理念・方針と看護継続教育
  当院における看護部の理念・方針
   理念/方針
  組織化された教育プログラムの必要性
   なぜクリニカルラダーか
  看護部における継続教育方針と位置づけ
   継続教育/看護部の教育方針
  看護職者の生涯学習ニーズとその支援システムに関する研究
●Chapter2 クリニカルラダーシステム
  クリニカルラダーの構築
  クリニカルラダーの評価
   レベルIの評価/レベルIIの評価/レベルIIIの評価/レベルIVの評価/クリニカルラダー評価委員会/レベルIII,レベルIVのナースの評価結果/業務に対する態度の評価/評価基準/レベルの認可/評価の時期
●Chapter3 スタッフナース育成の実際
 ・概論
  新人ナース(クリニカルラダーレベルI)の育成
   入職時の研修/1カ月フォローアップ研修/3カ月フォローアップ研修/6カ月フォローアップ研修
  一人前ナース(クリニカルラダーレベルII)の育成
   看護過程と看護記録研修/“看護実践と看護理論”研修/アサーティブトレーニング/医療現場における看護倫理/医療経済と診療報酬
  中堅ナース(クリニカルラダーレベルIII)の育成
   中堅ナース研修/プリセプターシップ研修/看護研究の方法についての研修/臨床指導者研修
  エキスパートナース(クリニカルラダーレベルIV)の育成
   北里専門看護師の研修
  認定看護師,専門看護師
   日本看護協会認定看護管理者および認定看護師研修などの派遣/専門看護師/海外研修
  キャリア開発を支える看護職員各自の計画に関する申告制度
 ・1.新人ナース─レベルIの育成
  1カ月フォローアップ研修
  3カ月フォロ-アップ研修
  6カ月フォローアップ研修
 ・2.一人前ナース─レベルIIの育成
  “看護実践と看護理論”研修
 ・3.中堅ナース─レベルIIIの育成
  中堅ナース研修
   中堅ナース研修の目標/事前レポートの提出/本研修を受ける/行動計画Iを作成する
 ・4.エキスパートナースの育成─レベルIVの育成
  エキスパートナースを必要とする理由
  “北里大学看護教育推進協議会”設置の経過
   臨床と大学教育の連携
  沿革
  北里専門看護師システム検討会の活動目的・目標
  “北里専門看護師制度”の概要
  北里専門看護師循環器看護育成プログラム
   受講者要件,聴講者/プログラムの実施/コース修了者の評価/北里専門看護師の認定
  院内で活動するエキスパートナースと看護部のサポート
  北里専門看護師(神経難病・難病看護)育成コースの特徴
 ・北里循環器専門看護師活動の実際
  活動内容の実際
   患者・家族への直接ケア/看護師への支援/他専門職との協働・連携・調整/教育活動
 ・北里神経難病専門看護師活動の実際
  活動内容の実際
   患者・家族への直接ケア/看護師への支援/他専門職との協働・連携・調整/教育活動
●Chapter4 各セクションでの育成の実際
 ・1.心臓血管センター
  新人看護師がベッドサイドケアを安全に提供するために
  領域別チームの活動
  プライマリナースの役割発揮
 ・2.消化器外科病棟
  レベルIのナースの育成
  レベルIIのナースの育成
  レベルIIIのナースの育成
 ・3.ICU
  新人・既卒看護師および院内ローテーターに対する教育
   新人/既卒看護師や院内ローテーター/プリセプターによる育成/教育内容の統一
  クリニカルラダーI
  クリニカルラダーII
   看護展開/看護研究
  クリニカルラダーIII
   看護研究/看護管理/スタッフ育成
  クリニカルラダーIV
 ・4.産科病棟
  特徴と現状
  看護体制と助産師の活動範囲
  助産師の現任教育
   新人助産師への教育的かかわり/レベルI,IIへの教育的かかわり/レベルIII,IV(主任)への教育的かかわり
 ・5.精神科病棟
  特徴と現状
  クリニカルラダーIの習得に向けてのエンカレッジ
   看護基本技術向上のための働きかけ/コミュニケーション技術向上のための働きかけ
  看護理論を活用して事例を書く─クリニカルラダーIIの習得に向けて
   精神科でよく使われる理論/自分の看護を語ろう/すぐ前を歩く先輩看護師の存在をつくる
  モデルを示す─クリニカルラダーIII,IVを目指して
  各レベル共通で行う取り組み
   患者の人権/リスクマネジメント
  看護師のメンタルヘルス
   患者の死に向き合う/患者の症状に影響されたとき
●Chapter5 看護管理者の育成と評価
  リーダーシップと管理
   リーダーシップ・管理の概念
  看護管理
  リーダーシップの行動様式
   専制的リーダーシップ/民主的リーダーシップ/自由放任型リーダーシップ/状況型リーダーシップ
  管理ならびにリーダーシップの理論
   特性発達理論/科学的管理理論/人間関係管理理論/管理の過程/X理論,Y理論/変革理論
  看護管理者に期待される行動
   計画立案/組織化/スーパービジョン―指示・指導/統制
  看護部門の成り立ち
   看護部門の位置づけ/組織のねらい/看護部組織
  病棟
  中央診療系サービス部門
  看護体制と看護方式
   当院における看護方式
  マネジメントラダー(看護管理者習熟段階)の実際
   なぜマネジメントラダーか?
●資料
 資料1 看護職者の生涯学習ニーズの支援システム(モデルの提示)
 資料2 継続教育の目標およびプログラム
 資料3-1 臨床実践能力習熟段階 レベルI
 資料3-2 臨床実践能力習熟段階 レベルII
 資料4-1 共通項目の評価 レベルI
 資料4-2 共通項目の評価 レベルII
 資料4-3 共通項目の評価 レベルIII
 資料4-4 共通項目の評価 レベルIV
 資料5 業務に対する態度評価
 資料6 臨床看護実践レベル更新申請書
 資料7 臨床実践能力習熟段階 レベルIII
 資料8-1 クリニカルラダー評価委員会
 資料8-2 クリニカルラダーレベルIII評価結果
 資料8-3 クリニカルラダーレベルIV評価結果
 資料8-4 レベル更新決定通知書
 資料9-1 新人ナース(レベルI)フォローアップ研修
 資料9-2 一人前ナース(レベルII)研修
 資料9-3 中堅ナース(レベルIII)研修
 資料9-4 エキスパートナース(レベルIV)研修
 資料10 『看護過程と看護記録』研修のお知らせ
 資料11 『看護過程と看護記録』の提出物に関するお願い
 資料12 『医療現場における看護倫理』お知らせ
 資料13 平成15年度プリセプター研修のお知らせ
 資料14-1 レベルII研修『看護実践と看護理論』研修のプロセス
 資料14-2 No.1事前レポート用紙(受け持ち事例の整理)
 資料14-3 No.2講義後の理論選択用紙
 資料14-3 No.2学習の整理 1),2) 127,128
 資料14-3 No.3学習の整理(新しい事例の紹介)
 資料14-3 No.4研修後レポート
 資料15 平成15年度中堅ナース研修お知らせ(B)
 資料16 レベルIII中堅ナース研修 係長レポート(A)
 資料17-1 平成15年度中堅ナース研修行動計画I-1(C)
 資料17-2 平成15年度中堅ナース研修行動計画I(C)
 資料18 平成15年度 中堅ナース研修フォローアップ研修のお知らせ(E)
 資料19 平成15年度 中堅ナース研修行動計画II(中間評価後の課題)(F)
 資料20 北里大学看護教育推進協議会規約
 資料21 北里専門看護師認定に関する規則
 資料22 北里専門看護師認定申請書
 資料23 北里専門看護師『難病看護』育成プログラム
 資料24 北里専門看護師(難病看護)育成プログラム実施要領
 資料25 北里専門看護師(難病看護)育成プログラム科目と時間数
 資料26 平成15年度北里専門看護師(難病看護)に期待される能力および評価表
 資料27 平成16年度 心臓血管センター看護連携について
 資料28 平成16年度 新人年間教育計画
 資料29 臨床実践能力習熟段階 レベルI
 資料30 臨床実践能力習熟段階 レベルII
 資料31 臨床実践能力習熟段階 レベルI
 資料32 臨床実践能力習熟段階 レベルII
 資料33 臨床実践能力習熟段階 レベルI:新人
 資料34 臨床実践能力習熟段階 レベルII:一人前
 資料35 周産期看護臨床実践能力 レベルI
 資料36 周産期看護臨床実践能力 レベルII
 資料37 クリニカルラダー レベルIN1・2チェックリスト
 資料38 クリニカルラダー レベルIに沿った技術チェックリスト
 資料39 北里大学病院・北里大学東病院看護部マネジメントラダー
 資料40-1 マネジメントラダー【管理I】評価ツール
 資料40-2 マネジメントラダー【管理II】評価ツール
 資料40-3 マネジメントラダー【管理III】評価ツール
 資料40-4 マネジメントラダー【管理IV】評価ツール
 資料41 マネジメントラダー別成果責任
 資料42 マネジメントラダー別の成果責任と能力特性一覧表