やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに
 世界的な生活習慣病の増加で,食事を含めた健康管理の重要性が叫ばれています.なかでも,糖尿病は年々増加傾向がみられており,高血圧と並んで治療の対象となる疾患であり,わが国においても,「日本糖尿病学会」を中心に,早期発見・早期治療を行うべく種々の働きかけが行われています.
 青少年よりの運動不足,過食による体重増加や血圧上昇はメタボリック症候群とされ,動脈硬化の促進因子となります.糖尿病と診断されても血糖コントロールが不十分であると,急性ないし慢性の合併症をもたらします.糖尿病は長期の継続治療が必要です.
 今日では,メガスタディで種々のEBMが得られ,糖尿病の勧告やガイドラインが出されて,世界的な視野で導入がなされております.糖尿病の治療の進歩や種々の治療法の併用で,延命効果が得られ,高齢者や高度の重症患者の延命例が増加しています.また,感染症の治療での死亡率の低下,虚血性心疾患での治療で,心臓による死亡の減少を目指した治療がなされています.さらに,脳血管障害例は日本人の主要死因ですが,厳格な保存的治療による予防が図られています.
 このような社会的な背景と治療環境下で,PVD;Peripheral Vascular Disease(あるいはASO;Arteriosclerosis Obliterans)を含めた,Diabetic Foot Careの重要性が見直されてきました.日本ではわずか5年前までは一部の施設での取り組みであったものが,現在では全国的に散見され,明治維新のごとき「開国」の息吹が感じられます.
 糖尿病足病変に関する成書も少なくはありませんが,筆者により以前に出版されたものも含めて,現状では不十分な点が多いため,新たな参考としてフットケアガイドを作成しました.
 筆者の臨床実践からエッセンスを凝縮し,フットケアに関する予防・治療・リハビリテーション・ケアまで,一連の流れをもって提示することを試みた本書が,足病変の診療・ケアに日々かかわっているフットケア実践者,今後フットケアへの取り組みを拡げようとしている方々をはじめ,糖尿病診療科,関連他科の,多くの方々に広く活用していただければ,このうえない喜びです.
 2004年8月
 新城 孝道
糖尿病フットケアガイド 診断・治療・ケアの指針 CONTENTS

1 フットケアの動向
  1)日本におけるフットケアへの取り組み
  2)外国におけるフットケアへの取り組み
  3)糖尿病フットケア外来での診療
  4)在宅医療におけるフットケア
  5)フットケアのレベル
2 足病変の発生機序と分類
  1)発生機序
  2)直接的誘因
  3)糖尿病足病変の種類
  4)足病変に関係する分類
3 糖尿病性神経障害
  1)糖尿病神経障害の分類
  2)検査の実際
   (1)知覚検査
   (2)足底圧測定
  3)シャルコー関節(charcot joint,神経障害性骨関節症)
   (1)シャルコー関節の成因
   (2)シャルコー関節の検査
   (3)シャルコー関節の治療
4 下肢循環障害
 1.動脈疾患
  1)下肢循環障害の分類
   (1)発症様式による分類
   (2)虚血の程度による分類と治療
   (3)慢性下肢虚血の臨床的カテゴリー
  2)検査・診断
   (1)血流検査
   (2)形態学的検査
   (3)核医学的検査
   (4)フットパッケージ Foot Package
  3)治 療
   (1)内科的治療
   (2)Angioplasty(血管形成術)
   (3)血行再建術
   (4)再生医療
   (5)その他
  4)フィンガーケア
 2.静脈疾患
 3.リンパ系疾患
5 感染症
6 糖尿病足病変の診療
  1)問診
  2)診察
  3)診断とコンサルテーション
7 ネイルケア・スキンケア
  1)ネイルケア
  2)スキンケア
8 末期腎症例での注意
  1)糖尿病末期腎症患者と足病変の動向
  2)透析患者,移植患者に起こりやすい問題(かゆみ,爪,乾燥,骨の脆弱性)
  3)糖尿病透析患者のフィンガーケア
9 足と靴の診察と処方
  1)靴擦れに関する動向
  2)靴と足の見方
  3)履物の選択,靴選びの基準
  4)履物の加工・修理
  5)免荷装具
10 Wound Careと壊疽の治療
 1.Wound Care(創傷治療)
  1)基本的治療
   (1)治療方針
   (2)足潰瘍治療の流れ
  2)潰瘍治療の実際
   (1)局所療法
   (2)密封療法(wet therapy)
   (3)免荷
 2.足壊疽の治療
11 下肢切断
  1)切断の適応
  2)切断レベル
  3)治療
  4)切断後のリハビリテーションでの注意点
  5)病理学的所見
12 足病変の予防と患者教育
 索引