やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに
 (中)日本在宅介護協会
 会長 寺田明彦

 待望の書である.
 常々,現場の疑問に現場が答える,現場のための「Q&A」ができないものかと考えていましたが,本書はまさにこの期待に応えるものだと思います.
 本書の特徴は,掲載されているすべての事例が民間事業所のホームヘルパーが実際に直面した実例であり,しかも,質問ばかりでなく,回答もまた介護現場の成功例や失敗例をもとにして書かれた,現場生まれの回答となっていることです.
 介護保険制度が施行されて,利用者はサービス事業者と契約を結んでサービスを受けることになりました.契約は契約当事者の「納得」のうえに成立し,履行されるものです.
 サービスの提供が措置から契約に変わって,「単に説明すればよい介護」から「納得していただく介護」になりました.この違いは実に大きいものがあります.介護の現場では,つねに「困った問題」が生まれています.ホームヘルパーはご利用者の要望や主張に直面して困惑しますが,それは利用者本位の証なのです.従来の「Q&A」は,まず答えがあって,質問は答えを理解するための手段として設定されたものが多かったように思います.しかし,利用者本位の介護では,Qを重く受け止める介護が求められています.本書はこのような趣旨に沿ったものであり,介護事業に従事するすべての方々のお役に立つものではないかと思います.
 介護保険制度になって訪問介護サービスの担い手は民間企業介護事業所が中心になりました.日本在宅介護協会は,一人のホームヘルパーが直面した問題を一人のなかに閉じ込めないで,事業所みんなの問題として取り上げ,事業所の問題は一事業所のなかに放置せず,介護事業界全体の問題としてバックアップしていく民間システムの確立を目指しています.
 このたび,東海・北陸支部のみなさんがたがいに協力してQ&A集を制作・出版されたことは,民間介護事業の主体性を確立していく活動として大変意義のあることと思います.
 本書は,ホームヘルパーはもとより,サービス提供責任者,ケアマネジャー,事業所の管理者,経営者など,訪問介護事業に携わるすべてのみなさんが介護現場の実態を知るうえで,また問題解決の一助として貴重な資料になると思います.さらに,ホームヘルパー養成講座の副読本や職場研修のテキストとして活用されてもよいのではないでしょうか.
 本書のような現場重視のQ&Aが広く読まれることで,介護従事者のモチベーションが高まり,職場の定着率が上がり,ひいてはサービスの質の向上やクレームの低減につながっていくことを期待しています.
 最後に,本書を出版された日本在宅介護協会東海・北陸支部のみなさんとご協力いただいた先生方のご努力に対し,深く感謝申し上げたいと存じます.
 本書の意図と使いかた
 介護保険が導入されて2年半が経ちました.そのなかで,現場のホームヘルパーたちは,さまざまな悩みをもちながら働いています.介護支援専門員とのかかわりかた,ホームヘルパーによる医療類似行為,家事援助の不適切事例など,これらはほんの一例にすぎないほど,介護の現場からは困ったという事例が多数報告されています.
 本書は,現場のホームヘルパーたちが実際に困ったことのある経験のなかから質問を発し,それに各分野を専門とする執筆者たちが答えたものです.
 もし,制度の問題点や実務上困難な点を考慮して質問項目を作っていったならば,もっと問題点が明解に整理され,あらゆる疑問に答えてくれると思えるような本が作れたかもしれません.しかし,本書ではあえてそれをしませんでした.
 本書を読んだ人は,重要な問題でありながらふれられていないことがあるのに気づくかもしれません.あるいは,質問の内容をもっと整理すれば読みやすくなったと思うかもしれません.しかし,本書は,そのような批判があることは十分承知のうえで,ホームヘルパーが「現場で,実際に困ったことがある」という質問内容にこだわりました.本書は,決してホームヘルプサービスにおけるさまざまな問題を網羅するものではありません.しかし,その質問一つひとつの背後には,現場で困った立場に立たされたホームヘルパーの戸惑いや不安があるのです.
 訪問介護の現場で,ホームヘルパーは利用者と1対1で向かい合っています.それだけホームヘルパーの負担は大きく,悩みや疑問も多いものです.本書は,必ずやその解決のヒントを提供できるものと信じています.質問に対するそれぞれの回答は,現場経験の豊富な専門家,あるいは事業者が執筆しておりますが,必ずしも絶対的なものではなく,別の考えかたができるケースもあると思います.それぞれの現場に応じて,適宜アレンジしてご活用ください.
 実際に何か困ったことが起きたとき,参考となる項目が探しやすいように,キーワードのインデックスもつけるなどし,あらゆる問題に何らかのヒントが提供できることを目指しています.
 現場で活躍するホームヘルパーの皆様にご活用いただくとともに,ホームヘルパー養成講座のテキストや副読本として,あるいはホームヘルパー研修用教材としてもご活用いただければ幸いです.
 なお,平成15年4月から介護保険法の一部内容が変更になることが予定されておりますが,現場でのホームヘルパーさんの行為には影響を与えるものではなく,もっぱら区分の変更になりますので,その個所は読みかえてお使いください.
 編集協力者一同
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 本書の意図と使いかた

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