序
20世紀末から21世紀にかけ,社会,経済,政治,医療,倫理が大きく変わろうとしていました.それは時代の波とともにゆっくりではありますが大きなものでした.その一つが看護の倫理でもあり,最近,とみに医療の現場で直面する倫理的諸問題が大きくクローズアップされるようになりました.
倫理という言葉は古来からありますが新しい課題でもあります.倫理は人の踏むべき道や道徳の規範となる原理をいいますが,日本には古くから儒教や仏教の教えが広く国民に根づき,それらを根底においた道徳があり,文化としても伝承されてきているように感じます.人との和を尊ぶ思想や,日本人独自の文化に由来する考えが多くあるものと思われます.
看護の倫理に押し寄せてくる波は患者サイドのことであったり,また,医療現場そのものの営みのなかから医療者を巻き込んだことでもあります.これを考えることでは看護の質が大きく変わることでもあります.現在,私たちが考えている看護の倫理の多くは,欧米の倫理原則を紹介したもので,それを医療の場に活用しております.これには人権の問題やその擁護に関連ある個人の主張によるものですが,しかし,日本人は和を尊ぶ思想も強いことから,欧米の原則をあてはめたとき何かしっくりとそぐわない気がすることも事実です.このようなことから,日本人の生き方に秘められているものに適合した倫理を検討することもこれからの大きな課題ではないかと考えております.
日本人はすべて自律した個人としての存在よりも,むしろ家族の意見にそって自分自身もそれでよいというような・曖昧模糊としたところも少なくありません.これから日本における看護の倫理として大いに開発される分野でもあり,インフォームドコンセントなども,外国から輸入されたものを日本の土壌にあった,日本人独自のあり方にそってとりこむことが望まれると思います.また,看護研究における倫理におきましても同様に,今まで行ってきたものが果たしてこれでよかったのかと反省させられることも多々あります.研究者としての責任や研究における研究対象者への倫理的配慮についてもしっかりと考えていきたいものです.
このたび,医歯薬出版株式会社のご好意によりこのように一冊の本としてまとめることが実現いたしました.看護の倫理的問題を臨地における身近なことがらとして把握し,看護の実践者としてもつ問題やジレンマを解決するよう看護ケア管理の面から検討してみました.看護学生や臨地の看護職者の皆さまにご活用いただければ幸いと存じます.しかし,これは多くの問題があるなかで現段階の整理をしたにすぎないと思っております.また,ケアの質を高める看護倫理というような,大それたタイトルをつけさせていただきましたが,今後,さらに検討を重ねて洗練されたものにするべく一層の努力がいるものと考えております.
どうぞ,皆様のご意見とご叱正を仰ぎたいものと願っております.
2002年8月
編者ら
20世紀末から21世紀にかけ,社会,経済,政治,医療,倫理が大きく変わろうとしていました.それは時代の波とともにゆっくりではありますが大きなものでした.その一つが看護の倫理でもあり,最近,とみに医療の現場で直面する倫理的諸問題が大きくクローズアップされるようになりました.
倫理という言葉は古来からありますが新しい課題でもあります.倫理は人の踏むべき道や道徳の規範となる原理をいいますが,日本には古くから儒教や仏教の教えが広く国民に根づき,それらを根底においた道徳があり,文化としても伝承されてきているように感じます.人との和を尊ぶ思想や,日本人独自の文化に由来する考えが多くあるものと思われます.
看護の倫理に押し寄せてくる波は患者サイドのことであったり,また,医療現場そのものの営みのなかから医療者を巻き込んだことでもあります.これを考えることでは看護の質が大きく変わることでもあります.現在,私たちが考えている看護の倫理の多くは,欧米の倫理原則を紹介したもので,それを医療の場に活用しております.これには人権の問題やその擁護に関連ある個人の主張によるものですが,しかし,日本人は和を尊ぶ思想も強いことから,欧米の原則をあてはめたとき何かしっくりとそぐわない気がすることも事実です.このようなことから,日本人の生き方に秘められているものに適合した倫理を検討することもこれからの大きな課題ではないかと考えております.
日本人はすべて自律した個人としての存在よりも,むしろ家族の意見にそって自分自身もそれでよいというような・曖昧模糊としたところも少なくありません.これから日本における看護の倫理として大いに開発される分野でもあり,インフォームドコンセントなども,外国から輸入されたものを日本の土壌にあった,日本人独自のあり方にそってとりこむことが望まれると思います.また,看護研究における倫理におきましても同様に,今まで行ってきたものが果たしてこれでよかったのかと反省させられることも多々あります.研究者としての責任や研究における研究対象者への倫理的配慮についてもしっかりと考えていきたいものです.
このたび,医歯薬出版株式会社のご好意によりこのように一冊の本としてまとめることが実現いたしました.看護の倫理的問題を臨地における身近なことがらとして把握し,看護の実践者としてもつ問題やジレンマを解決するよう看護ケア管理の面から検討してみました.看護学生や臨地の看護職者の皆さまにご活用いただければ幸いと存じます.しかし,これは多くの問題があるなかで現段階の整理をしたにすぎないと思っております.また,ケアの質を高める看護倫理というような,大それたタイトルをつけさせていただきましたが,今後,さらに検討を重ねて洗練されたものにするべく一層の努力がいるものと考えております.
どうぞ,皆様のご意見とご叱正を仰ぎたいものと願っております.
2002年8月
編者ら
CHAPTER 1 看護の倫理 田村京子
1:倫理
倫理の特性 倫理と自由 法と倫理 専門職の倫理
2:医療倫理
なぜ倫理が問われるのか 倫理原則 自己決定権の尊重とインフォームドコンセント
3:看護倫理
自律モデルの見直しと臨床倫理 看護の特性 ケアの倫理
CHAPTER 2 ケアに必要な看護者の倫理 岡崎寿美子
1:患者の権利
2:看護者の責任
3:看護師の倫理規定
4:看護ケアにおけるインフォームドコンセント
CHAPTER 3 患者中心の看護倫理を実践するために 小島恭子,近藤まゆみ
1:医療現場における看護倫理の問題点
2:看護業務で直面するジレンマ
3:倫理問題における看護職者の役割
看護者として倫理的ジレンマを感じたとき
CHAPTER 4 看護部門で取り組む倫理的課題 小島恭子,近藤まゆみ
1:看護倫理実践システムの構築
看護倫理実践システムの設計図 準備段階 北里大学病院における看護倫理実践システム
2:倫理的意思決定のプロセス
事例提供の実際
CASE1
倫理的意思決定のプロセスの実際 倫理問題を含む事例の検討方法 事例検討の手順と留意点
3:倫理問題の解決策の決定と実施
看護倫理委員会による検討 医学部・病院倫理委員会への審議依頼と実施 現場へのフィードバック 倫理問題への組織的取り組み
CHAPTER 5 看護倫理問題解決モデル
1:がんケアの看護倫理 猪又克子
CASE1
分析 がん看護において直面する倫理的ジレンマ がん看護における倫理的課題と解決に向けて
2:難病ケアの看護倫理 城戸滋里
CASE2
分析
CASE3
分析
3:痛みコントロールの看護倫理 岡崎寿美子
痛みコントロールにおける看護師のジレンマ 痛みコントロールにおけるインフォームドコンセント 患者が積極的に参加し成果をあげた痛みコントロール
CASE4
分析
CASE5
分析
CHAPTER 6 看護研究と倫理 岡崎寿美子,小島恭子
1:看護研究を行ううえでの倫理的問題
看護職はなぜ看護研究を行うのか 看護研究に必要な倫理的配慮
2:臨床の現場における研究と倫理
現状と今後の課題 審査内容 ヒトを対象とする研究の具体的手続き
3:研究者の抱える倫理的ジレンマ
CHAPTER 7 出生前診断(胎児診断)における倫理 田村京子
1:胎児診断の技術
2:選択的中絶と母体保護法
3:胎児診断の倫理的問題
診断内容 情報 決定主体 胎児の権利
4:胎児診断の賛否
5:胎児診断と医療者
COLUMN
日本国憲法にみる国民の権利
擁護(アドボカシー)
専門職の要件
看護師が日常の臨床場面で直面している倫理的ジレンマとその周辺
死をめぐる最近の諸問題
看護倫理委員会
医学部・病院倫理委員会
事例検討の進め方
クリニカルラダーの実際
北里大学病院の場合
コミュニケーションスキル
ナイチンゲール誓詞
医学研究の基盤となるもの
個人情報の保護に関する法律
索引
1:倫理
倫理の特性 倫理と自由 法と倫理 専門職の倫理
2:医療倫理
なぜ倫理が問われるのか 倫理原則 自己決定権の尊重とインフォームドコンセント
3:看護倫理
自律モデルの見直しと臨床倫理 看護の特性 ケアの倫理
CHAPTER 2 ケアに必要な看護者の倫理 岡崎寿美子
1:患者の権利
2:看護者の責任
3:看護師の倫理規定
4:看護ケアにおけるインフォームドコンセント
CHAPTER 3 患者中心の看護倫理を実践するために 小島恭子,近藤まゆみ
1:医療現場における看護倫理の問題点
2:看護業務で直面するジレンマ
3:倫理問題における看護職者の役割
看護者として倫理的ジレンマを感じたとき
CHAPTER 4 看護部門で取り組む倫理的課題 小島恭子,近藤まゆみ
1:看護倫理実践システムの構築
看護倫理実践システムの設計図 準備段階 北里大学病院における看護倫理実践システム
2:倫理的意思決定のプロセス
事例提供の実際
CASE1
倫理的意思決定のプロセスの実際 倫理問題を含む事例の検討方法 事例検討の手順と留意点
3:倫理問題の解決策の決定と実施
看護倫理委員会による検討 医学部・病院倫理委員会への審議依頼と実施 現場へのフィードバック 倫理問題への組織的取り組み
CHAPTER 5 看護倫理問題解決モデル
1:がんケアの看護倫理 猪又克子
CASE1
分析 がん看護において直面する倫理的ジレンマ がん看護における倫理的課題と解決に向けて
2:難病ケアの看護倫理 城戸滋里
CASE2
分析
CASE3
分析
3:痛みコントロールの看護倫理 岡崎寿美子
痛みコントロールにおける看護師のジレンマ 痛みコントロールにおけるインフォームドコンセント 患者が積極的に参加し成果をあげた痛みコントロール
CASE4
分析
CASE5
分析
CHAPTER 6 看護研究と倫理 岡崎寿美子,小島恭子
1:看護研究を行ううえでの倫理的問題
看護職はなぜ看護研究を行うのか 看護研究に必要な倫理的配慮
2:臨床の現場における研究と倫理
現状と今後の課題 審査内容 ヒトを対象とする研究の具体的手続き
3:研究者の抱える倫理的ジレンマ
CHAPTER 7 出生前診断(胎児診断)における倫理 田村京子
1:胎児診断の技術
2:選択的中絶と母体保護法
3:胎児診断の倫理的問題
診断内容 情報 決定主体 胎児の権利
4:胎児診断の賛否
5:胎児診断と医療者
COLUMN
日本国憲法にみる国民の権利
擁護(アドボカシー)
専門職の要件
看護師が日常の臨床場面で直面している倫理的ジレンマとその周辺
死をめぐる最近の諸問題
看護倫理委員会
医学部・病院倫理委員会
事例検討の進め方
クリニカルラダーの実際
北里大学病院の場合
コミュニケーションスキル
ナイチンゲール誓詞
医学研究の基盤となるもの
個人情報の保護に関する法律
索引





