やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

●はじめに
 かねてより急速な変化を経て生まれた日本の核家族にみられる家族機能の変化と,その家族を支える家族・社会システムの立ち遅れを実感し,看護における家族支援の重要性を痛感していました.特に,子どもが抱える健康問題の原因,解決,ケアのどの点を取り上げてみても,家族の存在,関与を抜きにして看護を語ることはできません.日頃から温めていたこのような思いを,既刊「小児看護学1」(医歯薬出版,1999年発行,著者代表 岡田洋子),「小児看護学2」(2001年発行,著者代表 岡田洋子)のシリーズの1冊としてこのたびまとめました.
 本書の姉妹編である「小児看護学1」は,看護学の体系化と系統的アプローチを意図して,小児看護学の体系化・系統的アプローチの実際を「総論」と「各論」にあたる内容から構成しました.さらに,器官系別・発達段階別事例を用いて,展開の実際を示しています.「小児看護学2」は,「小児看護学1」で展開した看護学の体系化・系統的アプローチと実践科学に必要不可欠なケア技術を連動させて展開することを意図しました.具体的には「思考に代表されるアセスメント」と「実践に代表されるケア技術」を連動させ展開しています.
 そして,本書「小児看護学3 家族への系統的アプローチの実際」は,成長・発達,社会化の過程にある小児と,小児の成長・発達とともに変化・成長する家族の機能や発達課題に着目し,「家族への系統的アプローチの実際」を意図しました.
 本書の構成は,「小児看護学1」と同様に,家族看護学の体系化と系統的アプローチの実際を「総論」にあたる内容と「各論」にあたる内容から構成しています.具体的には第1章,第2章は家族看護の総論にあたり,現代家族の特徴,家族看護の対象と看護の役割,さらに家族を取り巻く健康問題と家族看護における倫理的課題について概観しています.第3章,第4章は家族看護の各論にあたり,家族看護を支える理論的枠組みとこれらの枠組みを用いた事例展開例を紹介しています.家族看護を支える理論的枠組みとして,システム論的枠組みを中心に,(1)構造・機能論的枠組み,(2)発達論的枠組み,(3)相互作用論的枠組み,(4)ニード論的枠組みを取り上げました.
 看護の方略として広く用いられている看護過程は,個人,家族,集団,地域のいずれの場においても適用可能であり用いられています.看護過程は,看護の系統的アプローチを意図した1つの方法論であり,問題解決の基本的な過程であります.個人に働きかける場合でも,家族に働きかける場合でも,その展開に基本的な違いはありません.しかし,家族看護では,家族という集団を対象とする点から,いくつか特徴(相違)がみられるため,第3章において家族看護展開の方略(看護過程)について整理しました.大きくはこのような2部構成で,本書は展開されています.
 家族機能の変化・低下,家族と社会の関係性の希薄化・複雑化と,家族を取り巻く環境は,変化し続けています.家族構成員1人に生じた健康問題は,他の家族構成員の生活をも一変するような影響を及ぼします.また,病んだ家族関係のなかから病を有する個人が生じます.家族を1つの単位として,成長・変化する家族を支援する家族看護の役割は高まる一方です.
 多様な問題を抱えながらも「信頼」と「敬愛」に満ちた本来の家族であるために,あるいは本来の家族を取り戻すために求められる家族看護の向上,普及に,本書が少しでも役立つことができれば幸いに思います.
 平成18年4月吉日 暖かな春の日差しが注ぐ札幌にて
 著者代表 岡田洋子
1章 「家族」とは―現代家族の特徴(岡田)
 1.家族の定義
 2.家族を取り巻く環境と家族形態・家族機能の変化
  1)核家族化
  2)高度経済成長期以降に育った世代による子育て
  3)女性の社会進出
  4)離婚率の上昇
  5)情報化社会
  6)親役割機能の変化と低下
  7)家族機能の変化と偏り
 3.小児および家族が抱える健康問題
  1)我慢・自己抑制力の低下
  2)不登校,引きこもり
  3)生活習慣病予備軍
  4)運動能力の低下
  5)生活リズムの乱れ
  6)非行および反社会的行動(いじめ,暴力,犯罪)
  7)モラルの低下と性行動
2章 家族看護とは(岡田)
 1.家族看護の発展の背景
 2.家族看護の目的
  1)家族看護の対象
  2)家族看護の目標
 3.家族看護における倫理的課題
  1)家族看護と倫理的責任
  2)家族の意思決定とそのプロセス
  3)家族の意思決定を支える看護職の役割
   看護師の役割/ 看護援助
  4)家族看護における倫理的意思決定の枠組み
3章 家族看護を支える理論的枠組み
 1.家族看護における家族システムの階層性(岡田)
 2.家族看護を支える理論的枠組みとアセスメント
  1)構造・機能論的枠組み
   家族看護における構造・機能論的枠組み/ 構造・機能論的枠組みとアセスメントの視点
  2)家族発達論的枠組み
   家族看護における家族発達論的枠組み/家族発達論的枠組みとアセスメントの視点
  3)相互作用論的枠組み
   家族看護における相互作用論的枠組み/相互作用論的枠組みとアセスメントの視点
  4)ニード論的枠組み
   家族看護におけるニード論的枠組み/ニード論的枠組みとアセスメントの視点
 3.家族看護を支える理論的枠組みと家族アセスメントの実際(岡田)
  1)家族システムの階層性の実際
  2)家族看護を支える理論的枠組みと具体的アセスメントの実際
   構造・機能論的枠組みとアセスメント(家族の構造/ 家族の機能)/ 家族発達論的枠組みとアセスメント/ 相互作用論的枠組みとアセスメント/ ニード論的枠組みとアセスメント(家族が求めているニード/ 家族構成員個人が求めているニード)
 4.家族に焦点をあてた看護過程(茎津)
  1)家族看護における看護過程の特徴
  2)家族看護における看護職の役割
   健康教育者,相談者/ 保健医療チームのメンバー,コーディネーター/ 身体的ケアの提供者であり家族・個人の代弁者/ 家族に起きていることの発見者であり観察者
  3)家族看護における看護過程
   家族と個人の健康問題の明確化/ 計画立案(目標設定,計画立案およびソーシャルサポート資源の活用)(目標設定/ 計画立案)/実施(介入)/ 評価,修正
4章 家族看護の体系的・系統的アプローチの実際
 1.第1子を迎えた家族の看護(志賀)
  1)事例紹介
  2)家族アセスメントの実際
   この家族を構造・機能論的枠組みから考えてみよう/ この家族を発達論的枠組みから考えてみよう/ この家族を相互作用論的枠組みから考えてみよう/ この家族をニード論的枠組みから考えてみよう
  3)家族システムからみた家族の全体像
  4)家族・個人の健康問題の明確化と計画立案
   健康問題の明確化/ 計画立案・実施(目標/ 計画立案)/ 実施するうえでの看護師の役割
  5)評価
 2.ダウン症の幼児を抱える家族の看護(志賀)
  1)事例紹介
  2)家族アセスメントの実際
   この家族を構造・機能論的枠組みから考えてみよう/ この家族を発達論的枠組みから考えてみよう/ この家族を相互作用論的枠組みから考えてみよう/ この家族をニード論的枠組みから考えてみよう
  3)家族システムからみた家族の全体像
  4)家族・個人の健康問題の明確化と計画立案
   健康問題の明確化/ 計画立案・実施(目標/ 計画立案)/ 実施するうえでの看護師の役割
  5)評価
 3.喘息発作で入退院を繰り返す4歳児を抱える家族の看護(茎津)
  1)事例紹介
  2)家族アセスメントの実際
   この家族を構造・機能論的枠組みから考えてみよう/ この家族を発達論的枠組みから考えてみよう/ この家族を相互作用論的枠組みから考えてみよう/ この家族をニード論的枠組みから考えてみよう
  3)家族システムからみた家族の全体像
  4)家族・個人の健康問題の明確化と計画立案
   健康問題の明確化/ 計画立案・実施(目標/ 計画立案)/ 実施するうえでの看護師の役割
  5)評価
 4.3歳児に暴力をふるう父親をもつ家族の看護(茎津)
  1)事例紹介
  2)家族アセスメントの実際
   この家族を構造・機能論的枠組みから考えてみよう/ この家族を発達論的枠組みから考えてみよう/ この家族を相互作用論的枠組みから考えてみよう/ この家族をニード論的枠組みから考えてみよう
  3)家族システムからみた家族の全体像
  4)家族・個人の健康問題の明確化と計画立案
   健康問題の明確化/ 計画立案・実施(目標/ 計画立案)/ 実施するうえでの看護師の役割
  5)評価
 5.小児悪性腫瘍で長期入院を必要とする患児を抱える家族の看護―病児の同胞に対するケア(岡田)
  1)事例紹介
  2)家族アセスメントの実際
   この家族を構造・機能論的枠組みから考えてみよう/ この家族を発達論的枠組みから考えてみよう/ この家族を相互作用論的枠組みから考えてみよう/ この家族をニード論的枠組みから考えてみよう
  3)家族システムからみた家族の全体像
  4)家族・個人の健康問題の明確化と計画立案
   健康問題の明確化/計画立案・実施(目標/ 計画立案)/ 実施するうえでの看護師の役割
  5)評価
 6.インスリン非依存型糖尿病の学童を抱える家族の看護(井上)
  1)事例紹介
  2)家族アセスメントの実際
   この家族を構造・機能論的枠組みから考えてみよう/ この家族を発達論的枠組みから考えてみよう/ この家族を相互作用論的枠組みから考えてみよう/ この家族をニード論的枠組みから考えてみよう
  3)家族システムからみた家族の全体像
  4)家族・個人の健康問題の明確化と計画立案
   健康問題の明確化/ 計画立案・実施(目標/ 計画立案)/ 実施するうえでの看護師の役割
  5)評価
 7.不登校中の中学校2年生男子を抱える家族の看護(井上)
  1)事例紹介
  2)家族アセスメントの実際
   この家族を構造・機能論的枠組みから考えてみよう/ この家族を発達論的枠組みから考えてみよう/ この家族を相互作用論的枠組みから考えてみよう/ この家族をニード論的枠組みから考えてみよう
  3)家族システムからみた家族の全体像
  4)家族・個人の健康問題の明確化と計画立案
   健康問題の明確化/計画立案・実施(目標/ 計画立案)/ 実施するうえでの看護師の役割
  5)評価
 8.学童期にさしかかった自閉症児を抱える家族の看護―環境の変化への反応と同小学校に通う同胞への影響(岡田)
  1)事例紹介
  2)家族アセスメントの実際
   この家族を構造・機能論的枠組みから考えてみよう/ この家族を発達論的枠組みから考えてみよう/ この家族を相互作用論的枠組みから考えてみよう/ この家族をニード論的枠組みから考えてみよう
  3)家族システムからみた家族の全体像
  4)家族・個人の健康問題の明確化と計画立案
   健康問題の明確化/ 計画立案・実施(目標/ 計画立案)/ 実施するうえでの看護師の役割
  5)評価
 9.繰り返す腹痛で検査入院中の12歳女児を抱える家族の看護(茎津)
  1)事例紹介
  2)家族アセスメントの実際
   この家族を構造・機能論的枠組みから考えてみよう/ この家族を発達論的枠組みから考えてみよう/ この家族を相互作用論的枠組みから考えてみよう/ この家族をニード論的枠組みから考えてみよう
  3)家族システムからみた家族の全体像
  4)家族・個人の健康問題の明確化と計画立案
   健康問題の明確化/ 計画立案・実施/(目標/ 計画立案)/ 実施するうえでの看護師の役割
  5)評価
 10.性感染症の中学校3年生女子を抱える家族の看護(井上)
  1)事例紹介
  2)家族アセスメントの実際
   この家族を構造・機能論的枠組みから考えてみよう/ この家族を発達論的枠組みから考えてみよう/ この家族を相互作用論的枠組みから考えてみよう/ この家族をニード論的枠組みから考えてみよう
  3)家族システムからみた家族の全体像
  4)家族・個人の健康問題の明確化と計画立案
   健康問題の明確化/ 計画立案・実施(目標/ 計画立案)/ 実施するうえでの看護師の役割
  5)評価
おわりに 家族看護の課題と展望(岡田)
索引