やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに

 「リハビリテーション看護研究」シリーズ第1号では,多くの方からさまざまな御意見やアドバイスをいただき,幸いにも好評を得られましたことは,本シリーズの刊行を企画した私たちにとって大きな励ましとなりました.臨床でのリハビリテーション看護が根拠に基づく看護(Evidence-Based Nursing)実践として行われ,リハビリテーション看護研究に繋がり,さらに研究による根拠に基づく看護実践に発展していくことが,このシリーズを企画した私たちの望みでもあります.そのため,本シリーズでは幅広い領域からリハビリテーション看護に必要な知識を取りあげ,臨床での日々の活動に参考となるテーマを中心に,実践例のほか,関連する研究の動向や看護理論を紹介することで,理論と実践とを橋渡しできるようにと考えております.
 看護の対象者が現在どのような状態にあるか,すなわち身体的状態や心理精神的状態,社会的な機能などを把握することの重要性は,看護に携わる看護婦(士)であればご承知のことと思います.しかし,リハビリテーション看護の視点で評価することについては,正しい知識と技術とを身につけているでしょうか? そこで「リハビリテーション看護に活用する評価」について本巻と次巻とで,身体面と心理面の2回に分けて取りあげることにしました.対象者の身体の機能障害の程度と残存機能,そこから来る日常生活への影響などをきちんと評価し,しかもその評価が客観的で,誰にでも分かり,援助の方向性が見えるものでなければ,他の看護者にもまたリハビリテーション・チームにも役に立ちません.すなわち,看護過程の最初の段階である「情報収集,アセスメント,看護診断」の部分がしっかりしていなければならないのです.そのためには情報をいかに得るか,どのように観察しそれらを評価するかということが重要です.
 「リハビリテーション看護実践研究」では,食べたい気持ちを支える看護実践として「摂食・嚥下リハビリテーション」への看護のかかわりを見直すことをこころみました.食べることは生命維持のための人間の基本的な本能であり,快楽であり,社会との繋がりであることは自明のことですが,医療の場では時として他が優先されることがあります.「摂食・嚥下リハビリテーション」(以下,嚥下リハ)への関心は,看護でも最近ますます高くなっていますが,嚥下リハには,誤嚥や窒息など生命に関わるリスクも多く,そのリスクを見極めることが重要になります.また,嚥下リハは個別性が高く,今回紹介した事例はあくまでも実践例のいくつかにすぎません.これらは,読者の皆様が嚥下リハの必要な対象者を正しく評価し,その方の状態に適した嚥下リハを安全に行うための援助の参考としていただければと思います.また,嚥下リハの前提となる重要なケアに口腔ケアがありますが,今回深くは触れていないのは,あらためて全身状態の改善のケアという視点から取りあげようと考えたからです.
 皆様からの忌憚のないご意見やアドバイスなどとともに,実践報告や事例などもお寄せいただけば幸いです.
 2001年10月 編者
1 リハビリテーション看護に活用するADL・身体的評価
 1.評価の意義と方法(金城利雄)
    評価とは/ 評価の目的/ 評価の種類/ 評価の方法/ 看護過程における評価の特徴/ リハビリテーション看護における評価の意義
 2.リハビリテーション看護領域での評価尺度に関する開発と研究(金城利雄)
    はじめに/ リハビリテーション看護領域における評価尺度の現状/ リハビリテーション看護領域における評価尺度の開発と研究の今後の課題
 3.リハビリテーション看護におけるADL評価―評価項目と尺度について―(齋藤カツ子)
    ADLとリハビリテーションの定義/ ADL評価では何を評価するのか?/ 看護者が行うADL評価の意味/ リハビリテーション看護への期待
 4.身体的評価をリハビリテーション看護にどう活用するか(石川ふみよ)
    身体的評価の必要性/ 身体的評価の目的と内容/ 身体的評価からの問題点の抽出と看護計画立案・修正,現状認識/ おわりに
2 リハビリテーション看護実践研究
 ■スペシャリストのための理論と実践 「食べたい気持ちを支える看護『摂食・嚥下リハビリテーション』へのかかわり」
  1.摂食・嚥下障害と看護の研究の動向(市村久美子)
    摂食・嚥下障害への看護援助と研究の必要性/ 方法/ 結果および考察/ まとめ
  2.嚥下リハビリテーションへの看護のかかわりがなぜ重要なのか(田中靖代)
    臨床看護での模索と嚥下リハビリテーションの発展/ 嚥下リハビリテーションへの看護のかかわり/ おわりに
  3.嚥下障害へのリハビリテーション看護に活かすアセスメント・ツール(川波公香)
    嚥下障害のリハビリテーション看護とは/ 嚥下障害のリハビリテーションにおける看護アセスメント
  4.嚥下障害への看護実践(茨城県立医療大学附属病院) (古田良恵・市村久美子)
    はじめに/ 事例紹介/ 3事例から考える看護婦(士)の役割とは
  5.嚥下障害に看護がどうかかわってきたか(東京都リハビリテーション病院) (今城博子・石鍋圭子)
    嚥下造影と体力の改善の重要性/ 段階的訓練の方法/ 事例紹介/ おわりに
  6.嚥下障害患者のリハビリテーションにおける看護の実践(聖隷三方原病院) (中村純子・増本あかね)
    はじめに/ 嚥下障害患者の入院から退院までの流れ/ 嚥下リハビリテーションへの看護のかかわりの実践事例/ 看護婦(士)の摂食訓練時の観察と訓練ポイント/ おわりに
  7.地域での嚥下障害への看護実践(田中靖代)
    患者の生活経験を引き金にする/ 患者のサポーターが変わること/ 安全と安楽性を求める工夫/ 地域の連携/ 地域看護の眼
3 リハビリテーション看護の国内外の動き
 1.リハビリテーション領域への看護診断導入の課題(石川ふみよ)
    リハビリテーション看護領域における看護診断導入の調査から/ 看護診断導入における課題の整理と解決に向けて/ おわりに
 2.看護診断をリハビリテーション看護実践にどう取り入れるか(石鍋圭子)
    プレゼンテーション:リハビリテーション専門病院における看護診断導入のための取り組み/ 交流セッションでの討論から考えること
 3.療養型病棟における看護婦の交代勤務制 (宮腰由紀子・渥美宝恵・山崎慶子)
    はじめに/ 調査方法/ 結果および考察/ 今後の課題

トピックス ICN4年毎大会に参加して(大関浩美)

次回配本予告<2002年3月発行>
 リハビリテーション看護研究
 リハビリテーション看護における評価(2)
 *口腔ケアとリハビリテーション看護 奥宮暁子・金城利雄・宮腰由紀子/編集
■「リハビリテーション看護研究」企画委員
 石鍋 圭子(青森県立保健大学健康科学部看護学科)
 泉キヨ子(金沢大学医学部保健学科)
 奥宮 暁子(大阪大学医学部保健学科)
 金城 利雄(広島県立保健福祉大学保健福祉学部看護学科)
 野々村典子(茨城県立医療大学保健医療学部看護学科)
 半田 幸代((財)国際看護交流協会技術参与)
 宮腰由紀子(広島大学医学部保健学科)
 (五十音順)