やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに

 本書は主に,看護学生や新人ナースを対象としてまとめたものです.読者の方々が,講義や演習などで得た既存の知識を復習・整理することを助け,看護実践(看護実習)に活かすことができる実践的テキストとして企画しました.
 従来の成人看護学「外科系」や「急性期」,臨床外科看護学などの類書といえますが,周手術期看護 perioperative nursing ,すなわち「患者が手術療法を選択するか否かに関する看護から,手術前・中・後を経て退院するまでの一連のプロセスに関わる看護」に焦点を絞って内容を整理しました.
 シリーズ1は外来/病棟における術前看護,シリーズ2は術中/術後の生体反応と急性期看護,シリーズ3は開腹術/腹腔鏡下手術を受ける患者の看護です.これらに共通していることは,頻度の高い幽門側胃亜全摘出術を受ける患者の看護を中心に記述しながら,噴門側手術の場合や,食道あるいは大腸手術,腹腔鏡下手術,開胸手術の場合などと比較検討して知識を広げていけるように構成した点です.麻酔に関する知識についても同様で,全身麻酔と硬膜外麻酔下で手術を受ける患者の看護を中心に学びながら,脊椎麻酔の場合との違いが理解できるように構成されています.
 特に,「手術を受ける患者と家族の心理を理解するための看護の要点」,「手術療法の理解と看護実践に必要な解剖・生理学の知識」,「術後合併症予防のための看護技術と指導」に力点をおいています.これらは,周手術期看護の基礎ともいえる必須概念と技術だからです.そしてその際,現在の医療・看護に応じた最新の知見を盛り込んで記述するように努めました.
 その他の特徴としては,章の内容を適切に理解する助けとして学習目標 objectivesを明示したこと,図表やイラストを多くしてビジュアルな紙面としたこと,知識の整理を促進するために看護過程の展開例を入れたこと,各章に適宜Q&AやPLUS ONEとしてコラムを入れ,追加情報や知識の補足をしたことなどがあげられます.
 学生や新人ナースの多くは,手術を受けた患者を適切にイメージすることができず,看護援助が患者の回復の後追いになってしまったり,既存の知識を統合することができず,観察したことを看護に結びつけてアセスメントすることができなかったりするものです.しかし,幾つかのヒントを与えたり,幾つかの参考書を提示すれば,自ら答えを導き出してくることが多いのも事実です.臨床で実習指導や新人ナースの指導を担当しているナースの方々と,看護教員養成課程および看護大学の教員で執筆された本書が,そのような折に有用な手引きとしてお役に立てば幸いです.
 竹内登美子
第1章 手術室における看護
 1 モニター類の装着と全身の観察 (竹内登美子・志賀由美)
  1)手術室内の環境と患者入室時の看護
   (1)手術室内の環境
   ―清潔・不潔区域と作業動線 室温と湿度調整 空気調整
   (2)入室時の患者の不安緩和に対する看護
  2)機器によるモニターの実際
   (1)血圧モニター
   ―動脈圧モニター 中心静脈圧モニター
   (2)パルスオキシメーター
   (3)体温モニター
   (4)その他のモニタリング
   ―肺動脈圧・肺動脈楔入圧 炭酸ガスモニタリング 麻酔ガスモニタリング 筋弛緩モニタリング
  3)継続的観察法による全身状態の管理
    動脈圧における観血的測定値と非観血的測定値の一般的な関係 中心静脈圧の圧力トランスデューサーによる測定値と,水柱による測定値との関係
 2 麻酔導入時の看護 (竹内登美子)
  1)全身麻酔法の種類と特徴
   (1)吸入麻酔
   ―主な吸入麻酔薬 主な筋弛緩薬
   (2)静脈麻酔
   (3)ニューロレプト麻酔
   (4)完全静脈麻酔
   (5)直腸麻酔
  2)麻酔導入時の看護
   (1)全身麻酔導入の種類
   (2)経口的気管内挿管時の看護
   ―気道の形態と気管内チューブの選択 気管内挿管の方法 気管内挿管時の患者の観察
   (3)全身麻酔導入時の看護の要点
  3)局所麻酔法の種類と特徴
   (1)脊椎(腰椎)麻酔法
   ―穿刺部位と体位 麻酔薬の広がりと症状 術中合併症とその看護
   (2)硬膜外麻酔法
   ―穿刺部位と看護 麻酔薬の広がりと症状 術中合併症とその看護 麻酔深度の判定 気道確保の方法(一次救命,二次救命) 脊椎麻酔と硬膜外麻酔の術後合併症 胃内容物の逆流を防ぐ輪状軟骨圧迫法
 3 手術体位と看護上の注意点 (竹内登美子)
  1)体位が呼吸器系や循環器系に及ぼす影響
   (1)体位が呼吸器系に及ぼす影響
   ―仰臥位 腹臥位 側臥位
   (2)体位が循環器系に及ぼす影響
   ―仰臥位 腹臥位 側臥位
  2)主な術中体位のとり方と,看護上の注意点
   (1)仰臥位
   ―腕神経叢麻痺 橈骨神経麻痺 尺骨神経麻痺 腰痛 後頭部・仙骨部・踵部の循環障害 深部静脈血栓
   (2)切石位
   ―坐骨神経麻痺 腓骨神経麻痺 腰痛
   (3)側臥位
   ―腕神経叢麻痺 頭部・腸骨稜・両下肢の重なり部分・下側になった脚などの循環障害
   (4)腹臥位
   ―眼球圧迫・耳介・鼻の圧迫 橈骨神経・尺骨神経・腓骨神経麻痺 肩関節の脱臼 鼠径部の圧迫 頸部・胸部・腹部の圧迫 前上腸骨棘や膝などの圧迫 術中患者の褥瘡発生要因
 4 術中異常時の対処 (竹内登美子・山田千絵)
  1)体温の異常
   (1)体温低下
   ―原因と生体への影響 体温低下に対する看護
   (2)発熱と悪性高熱症
   ―原因と生体への影響 悪性高熱症に対する処置
  2)血圧の異常
   (1)血圧低下
   ―原因と生体への影響 血圧低下に対する処置
   (2)血圧上昇
   ―原因と生体への影響 血圧上昇に対する処置
   (3)尿量の減少
   ―原因と生体への影響 尿量減少に対する処置 手術中の出血量の測定 抜管の条件と抜管時に生じやすい異常
 5 回復室での看護 (竹内登美子・山田千絵)
  1)回復室での看護
   (1)呼吸器系の管理
   ―気道確保 指示量の酸素投与 呼吸の観察と深呼吸の促進
   (2)循環器系の管理
   ―血圧・脈拍・心電図の観察 体温の観察とケア チアノーゼ・皮膚冷感などの観察とケア INTAKE/OUTPUTの観察と管理
   (3)中枢神経系の管理
   (4)術後の疼痛管理
   (5)嘔吐などの苦痛の緩和
   (6)精神面のケア
  2)回復室からの退室
  3)病棟看護婦・士への申し送り

第2章 術中の看護過程の展開 (原三枝子)
 1 看護過程の展開
  1)事例
   (1)患者紹介
   (2)術前検査データ結果と他の情報
   (3)手術内容と術中経過
   (4)看護展開
  2)評価
   (1)入室〜麻酔導入まで
   (2)術中
   (3)術後

第3章 手術および麻酔侵襲と生体反応 (竹内登美子)
 1 恒常性を保つための生体反応
  1)神経・内分泌系反応
   (1)視床下部・下垂体・副腎・交感神経系
   ―視床下部・交感神経・副腎髄質系 視床下部・下垂体・副腎皮質系 視床下部・下垂体系
   (2)腎・副腎皮質系の反応
   (3)膵島系
  2)サイトカインによる生体反応
  3)損傷の修復に関する代謝系反応
   (1)糖代謝
   (2)脂質・蛋白代謝
  4)手術侵襲に対する生体反応の経過
  5)手術侵襲による生体反応と術中の輸液管理
   (1)術前の身体状況と輸液管理
   (2)術中の体液喪失と輸液管理
    サードスペースとは何か SIRS;全身性炎症反応症候群とは

第4章 術後看護の知識と技術
 1 術後の全身管理 (志賀由美)
  1)術後の全身管理の基本的な考え方
  2)帰室直後から術後2時間までの患者の看護
   (1)帰室直後の患者に行うこと
   (2)帰室後,患者の状態を一通り確認した後,上記に加えて行うこと
  3)術後管理に必要な知識と技術
   (1)IN/OUTバランスモニター
   (2)3点誘導心電図モニター
   (3)疼痛管理
   ―術後の疼痛管理 一般的な術後疼痛管理方法
 看護婦・士の対応 患者管理鎮痛法
   (4)血液・尿検査
   ―血液検査 血液化学検査 尿一般検査
   (5)胸部・腹部X線検査
    出血の性状の表現 術後疼痛管理の新しい流れ 術後の尿色調の変化 被爆防護三原則 放射線の基礎知識
 2 術後合併症の予防に関する知識
  1)循環器系合併症と看護 (志賀由美)
   (1)後出血
   ―原因 リスクファクター 症状 看護
   (2)急性循環不全─ショック
   ―出血性ショック 心原性ショック 敗血症ショック アナフィラキシーショック
   (3)血栓症
   ―原因 リスクファクター 症状・看護 変形トレンデレンブルグ体位の有効性 感染菌によるショックの違い ラテックスアレルギー
  2)呼吸器系合併症と看護 (佐藤和子)
   (1)無気肺
   ―原因 症状 術後無気肺を予防するための看護
   (深呼吸法 咳嗽法 含嗽法 吸入療法 体位
    交換 軽打法:パーカッション バイブレーション 吸引法
   (2)肺炎
   ―原因 症状 看護・治療 肺葉と気管支分節から考える肺音の聴診/120(竹内登美子)
  3)消化器系合併症と看護 (佐藤和子)
   (1)縫合不全
   ―原因 症状 看護 (胃チューブ挿入中の患者の看護 腹腔ドレーン挿入中の患者の看護/)
   (2)腸閉塞(イレウス)
   ―原因 症状 看護 開腹術後に生じやすい単純性イレウスと麻痺性イレウスの相違点 (竹内登美子) 胃液・腸液喪失時の代謝性アルカローシスと脱水 7(竹内登美子) イレウスの保存的治療 (竹内登美子)
  4)泌尿器系合併症と看護 (志賀由美)
   (1)泌尿器系合併症の発生
   (2)泌尿器系合併症と看護
   ―循環血液量不足による尿量減少 カテーテル閉鎖による尿量減少 術式による排尿障害 麻酔による排尿障害 心因性の排尿障害 尿路感染 泌尿器系合併症に関する用語の定義
  5)術後せん妄と看護 (竹内登美子)
   (1)術後精神障害に関する用語
   (2)術後せん妄の定義
   (3)術後せん妄の発症率
   (4)せん妄および術後せん妄の発症要因と促進要因
   ―生理学的要因 心理学的要因と社会学的要因 個人的要因
   (5)術後せん妄の症状
   ―活動過剰型 活動減少型
   (6)術後せん妄に対する治療
   ―不隠,興奮,幻覚,幻聴に対する薬物 不眠に対する薬物 不安,抑うつ状態に対する薬物
   (7)術後せん妄に対する看護
   ―術前の看護 術中の看護 術後の看護 術後せん妄を発症した患者に対する看護

第5章 術後急性期における看護過程の展開 (山下暢子)
 1 看護過程の展開
  1)事例
   (1)患者の概要
   (2)入院までの経過
   (3)入院から手術当日まで
   (4)手術から手術直後まで
  2)アセスメントと問題点
  3)解決目標・具体策
  4)看護の実際と評価