やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに

 ようやく「新版 小児のことばの障害」をお届けできることになりました.本書は,こどものことばの相談を受ける若い医師だけでなく,看護婦,保健婦,心理士,言語聴覚士などコ・メディカルスタッフ,またそれ以上に,こどものことばについてご心配をお持ちのご家族の方に読んでいただけたらとの思いで書き上げたものです.科学技術の進展により,聴性脳幹反応や耳音響放射など検査法がめざましく進歩しただけでなく,それらが日常的に使われる時代になりました.こどものことばの問題を考える際の前提条件がわずかな期間に大きな変化を遂げたことになります.本書では,最近の進歩やトピックス的な事項も加え,小児科の視点からこどものことばの問題をとりあげました.
 この本の「前身」は帝京大学耳鼻咽喉科前教授田中美郷先生が中心になってお書きになったものです.小児科外来を受診なさる,ことばの心配のあるたくさんのこどもたちの診療に際して,私は田中先生の前著をよく参考にさせていただきました.事実,前著は1980年の発行以来,14版まで改訂改版を重ね,活字がすりへって「それ以上印刷できなくなった」とのことです.そのため新しい時代に即した新しい本を出版することになり,田中先生に御執筆をお願いしたところ,先生は「加我牧子が書くように」とおっしゃったとのことでした.私としては大変光栄ではありましたが,一面大変な責任を感じました.
 本書は私が所属する研究部のスタッフとともに執筆いたしましたが,最終的な調整や書き直しは私の責任で行いました.前著のように,あるいは前著以上に読んで下さった方々の参考となる書であることを期待してはおりますが,不十分な点も多いかと思います.ご意見やご批判をいただければ幸いです.
 執筆の機会をいただきました田中美郷先生に深謝しております.本書の刊行に際して故・鈴木昌樹先生,小池智登世さん,また医歯薬出版の関係者の方々に大変お世話になりました.ありがとうございました.
 2000年5月12日 国立精神・神経センター 精神保健研究所知的障害部 加我牧子
 口絵
 はじめに  加我牧子

第1章 脳の働きとしての言語
 1.内言語と話しことば
 2.中枢神経系の基本的な構造と機能
  1)神経系の部分
  2)ニューロンとシナプス
  3)グリア
  4)大脳灰白質と白質
  5)大脳皮質の層構造と部位
  6)脳の発生と解剖・機能
  7)言語機能に直結する脳の部分
 3.脳の成熟と発達
  1)脳の発生
  2)神経細胞の発生と分化
  3)グリア細胞の働き
 4.感覚情報の脳への伝達
  1)聴覚伝導路(耳から脳へ)
  2)視覚伝導路(眼から脳へ)
  3)体性感覚伝導路
 5.発声発語の機序
  1)発声と発語
  2)構音(調音,発音)
  3)構音の発達
 6.言語と大脳の働き
  1)現在までの研究の流れ
  2)いわゆる言語中枢について
  3)発話の中枢
  4)聴くことと,聴いたことばの理解(聴覚的理解)の中枢
  5)読み書きの中枢
  6)言語に関する右半球の役割
 7.行為,認知,記憶と大脳
  1)行為
  2)認知
  3)記憶

第2章 子どもの言語発達
 1.ことばの発達
 2.ことばの意味の発達
 3.語彙の発達
 4.発音の発達
 5.言語発達を左右する要因
  1)環境要因-臨界期と可塑性
  2)知能の発達
  3)情緒の発達
  4)社会性の発達
  5)感覚,運動機能の発達

第3章 子どもの言語障害の診断・検査法
 1.診察
 2.日常生活における子どもの聴性行動反応
 3.臨床検査
  1)脳波検査
  2)神経放射線学的検査
  3)血液検査,その他
 4.聴力検査
  1)自覚的聴力検査法
  2)他覚的聴力検査
 5.ことばの検査
  1)発話についての検査
  2)聴覚的なことばの理解についての検査
  3)読むことによる理解についての検査-視覚認知と関連のある神経心理検査
  4)書字についての検査
 6.心理・神経心理検査
  1)一般的検査(いわゆる知能検査,発達検査など)
  2)神経心理検査
  3)検査施行や解釈に関する注意事項
 7.運動機能検査
  1)構音器官の運動機能
 8.神経生理学的検査
 9. 神経機能解剖学的検査
  1)CT・MRI検査
  2)SPECT・PET検査

第4章 言語障害の治療総論
 1.言語障害治療や療育,リハビリテーションの考え方
 2.言語機能訓練
 3.心理面への対応
 4.家族への対応
 5.保育園,幼稚園,学校への対応

第5章 子どもの言語障害の原因と治療
 1.言語障害とその緊急度
  1)小児の言語障害のターミノロジー
  2)言語障害の緊急度
 2.聴覚障害
  1)診断のチェックポイント
  2)診察の実際
  3)難聴の種類
  4)難聴の特徴
  5)鑑別のポイントと診断努力
  6)難聴の原因となる疾患
  7)聴能訓練
 3.精神遅滞
  1)定義
  2)発生頻度
  3)症状
  4)原因疾患
  5)進行性の有無
  6)合併症
  7)治療
 4.自閉症・広汎性発達障害
  1)対人関係の障害
  2)言語発達の異常
  3)常同行動と執着行動(こだわり)
  4)感覚の異常
  5)年齢や発達による変化
  6)疫学
  7)合併症
  8)神経生理学的検査
  9)生化学研究
  10)脳の形態学
  11)療育・教育
 5.環境性言語遅滞
 6.場面緘黙
 7.発達性言語遅滞(予後のよいもの)運動型
  1)定義
  2)原因
  3)合併症状
  4)治療
 8.学習面に障害が起こりうる言語遅滞
 9. 脳性麻痺
  1)定義
  2)原因
  3)分類
  4)言語症状
  5)その他の障害
  6)治療について
 10. 発音の障害と音声障害
  1)口蓋裂・開鼻声
  2)声の異常
  3)吃音(どもり)
  4)発達性構音障害(機能的構音障害)
  5)脳性麻痺
  6)その他神経筋疾患によるもの(小脳疾患,重症筋無力症,筋疾患など)
 11. 後天性障害による言語の障害
  1)失語症と関連の高次脳機能障害
  2)大脳の解剖学的損傷部位が証明されていない失語症
  3)Landau-Kleffner症候群
 12. 読み書きと関連の障害
  1)読み書き障害
  2)読み書き以外の学習障害

第6章 子どもに言語障害があるときのアクセス

 〈参考図書〉
 索引