やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに

 介護保険法における介護認定審査会(以下,認定審査会と略)は,主な機能としては,要介護状態等の判定,要介護状態等区分,さらに第2号被保険者については,特定疾病かどうかの審査判定を行うことである.さらに必要に応じて,要介護の軽減または悪化防止のために必要な療養に関する事項やサービスの適切かつ有効な利用等に関して,被保険者が留意すべき事項について市町村に対して意見を付すことができる.
 この認定審査会は,市町村の付属機関として位置づけられ,保健・医療・福祉の学識経験者からなる委員の合議体であり,市町村長により任命される.
 このように認定審査会には,地域の要介護者に対して重要な審査判定を行う機能があり,地域の介護支援サービスに対して大きな責務をもっている.したがって選抜されたからといってその責務が果たせるわけではなく,各委員は自己研鑽を怠らず,二次判定への責任の重みを感じるべきである.
 また,認定審査会においては一次判定の結果,主治医意見書,特記事項を参考に,さらに中間評価項目,状態像の把握,日常生活動作のとらえかたをマスターしていなければ,認定審査会の委員とはいえない.つまり介護保険法において最も関心が高く,苦情や裁判になりやすいと予想されるのが,この要介護認定の問題であるからである.今後,情報公開により会議の内容を開示せねばならないかもしれないし,非常に重要な責任を伴う仕事であり,委員に選ばれた方々は名誉である.
 さらに,認定審査会委員は要介護度等を判定することで介護報酬を決定することになり,実は地域のサービス量を決定するのはこの認定審査会委員ということになる.あまりコンピュータの一次判定のままでは現状を反映しない場合もあり,認定審査会委員の総合的判断力が必要となる.
 このときに重要なのが判断基準である.認定審査会委員への講習会も開かれているが,おそらく短期間で十分に理解するのは困難であろう.本書はその問題を解決するために緊急に上梓することになった.作成に当たったメンバーは,東海ケアマネジメント研究会の幹事が中心となって,社団法人日本社会福祉士会の見平隆理事に特別に参加していただいた.
 本書は四部構成となっている.I部は認定審査会の概説であり,II部は認定審査会の進めかたを紙上で再現したものである.読者はぜひ二次判定の判断の過程を理解し,現場での応用をお願いしたい次第である.III部は,関係する法規や資料をまとめたものであり,IV部は認定審査会で交わされる用語・略語を取り上げ,共通語の促進を図った.
 介護支援専門員も介護保険を支える有能な人々であると期待されるが,さらに認定審査会委員にはこの制度を中心から支え,かつ活力ある超高齢社会のパイオニアとして,ご活躍をお願いしたい.
 では,介護保険法のスタートに向けてボンボヤージュ.
 1999年10月 編者を代表して 遠藤英俊
編集・執筆者一覧
はじめに

I部 要介護認定制度の枠組みとその実務
 1.介護保険制度の概要
  介護保険導入の背景
  現行制度の問題点
  介護保険の目的
  介護保険の仕組み
  国・都道府県および市区町村の責務
  保険給付の種類
 2.介護認定審査会
  要介護認定と介護認定審査会
  介護認定審査会委員およびその構成
   委員の構成
   合議体の設置
   介護認定審査会委員の研修
  介護認定審査会会長職務の代行者の指名
  合議体の長およびその職務の代行者の指名
  介護認定審査会の議決
  審査および判定
  介護認定審査会意見
  認定
  認定の処理と効力
  認定の見直し
  住所移転時の認定
  都道府県による共同設置等の支援
  不服審査
 3.要介護認定の手順
  介護認定審査会による判定(二次判定)とは
  介護認定審査会における要介護認定等の手順
   事前チェック
   認定審査会当日
   介護認定等の審査と判定の手順
  審査および判定に当たっての留意事項
   過去に用いた審査判定資料の取り扱い
   一次判定の結果を<状態像の例>と比較する場合の取り扱い
   委員が審査判定に加われない場合
   介護認定審査会への委員および事務局員以外の参加
   記録の保存
   国への報告
  要介護状態区分の変更等の際に勘案しない事項について
  基本調査結果の一部修正
   すでに当初の一次判定の結果で勘案された心身の状況
   根拠のない事項
  二次判定における一次判定結果の変更
   すでに当初の一次判定結果で勘案された心身の状況
   根拠のない事項
   介護に要する時間とは直接的に関係しない事項
   客観化できない心身の状況
   心身の状況以外の状況
  「認定審査会が付する意見等」の検討
   認定有効期間を定める場合
   サービス種類の指定を行う場合
 4.要介護認定等一次判定
  一次判定
  樹形モデル
  未知の対象者の要介護認定等基準時間の推計
  一次判定の限界
  調査項目の組合せが極めてまれな事例の警告
  例外的な事例の処理について
  認定調査票(基本調査)
 5.中間評価項目について
  中間評価項目
   中間評価項目の区分
   中間評価項目ごとの個人別得点
   中間評価項目の活用
  要介護度別・中間評価項目群別の調査所見
 6.要介護認定等二次判定
  二次判定
  審査および判定の手順
  基本調査結果の一部修正
  <状態像の例>との比較
  一次判定結果の変更ができる場合
  一次判定結果の変更ができない場合
  <状態像の例>を探す方法
   得点レーダーチャートによる方法
   群ごとの得点分布による方法
  中間評価項目要介護度別平均得点の利用
 7.特記事項のみかた
  特記事項とは
  特記事項の読みかた
  特記事項の項目
   介護行為の種類(直接生活介助・間接生活介助・問題行動関連介助・機能訓練関連行為・医療関連行為)
  特記事項のみかた
   麻痺・拘縮に関連する項目について
   移動等に関連する項目について
   複雑な動作等に関連する項目について
   特別な介護等に関連する項目について
   身の回りの世話等に関連する項目についてコミュニケーションに関連する項目について
   問題行動に関連する項目について
   特別な医療について
  認定調査票(特記事項)
 8.主治医意見書のみかた
  主治医意見書とは
  主治医意見書の役割
  主治医意見書の読みかた
   傷病に関する意見
   特別な医療
   心身の状態に関する意見(障害老人の日常生活自立度・痴呆性老人の日常生活自立度・理解および記憶・自分の意思の伝達能力・問題行動の有無・精神・神経疾患の有無・身体の状態)
   医学的管理の必要性からみた介護に関する意見
   介護サービス(入浴サービス,訪問介護等)における医学的観点からの留意事項
   その他特記すべき事項
  おわりに
  主治医意見書
 9.特定疾病のみかた
  特定疾病の症候・所見のポイント
   疾病名・症状・所見
  主な特定疾病の診断基準のみかた
   筋萎縮性側索硬化症
   後縦靱帯骨化症
   骨折を伴う骨粗鬆症
   シャイ・ドレーガー症候群
   初老期における痴呆
   脊髄小脳変性症(オリーブ橋小脳萎縮症・皮質性小脳萎縮症・Machado-Joseph病・遺伝性オリーブ橋小脳萎縮症・遺伝性皮質性小脳萎縮症・歯状核赤核淡蒼球ルイ体萎縮症・遺伝性痙性対麻痺・フリードライヒ運動失調症)
   脊柱管狭窄症
   早老症
   糖尿病性神経障害,糖尿病性腎症および糖尿病性網膜症
   脳血管疾患(脳血栓症・脳栓塞症・脳出血・くも膜下出血)
   パーキンソン病
   閉塞性動脈硬化症
   慢性関節リウマチ
   慢性閉塞性肺疾患
   両側の膝関節または股関節に著しい変形を伴う変形性関節症
  おわりに
 10.その他の情報のみかた
  コンピュータによって分析・判定された結果の項目および内容
   要介護認定にかかる5分野と要介護認定等基準時間
  その他の情報
 11.介護認定審査会意見
  介護認定審査会における意見
   認定の有効期間を定める場合の留意事項
   サービス種類の指定を行う場合
   被保険者が留意すべき事項に関する意見
 12.広域介護認定審査会の場合
  広域連合と一部事務組合
   広域連合とは
   広域連合と一部事務組合の比較
   広域連合の活用例
   財政支援措置の充実
  広域連合と介護保険
   広域連合が望ましい理由
   介護保険の広域化実施の利点
   介護認定審査会の広域開催の利点
   広域介護認定審査会での留意点

II部 事例からみた介護認定審査の実際
介護認定審査会の全体的状況把握のために
 要介護1→要介護2・状態像以外を加味する
  審査
  判定
  介護認定審査会意見
  判定上の問題点の整理
  状態像のみかたと適応について
自立
 自立→自立・委員の多数決による
  生活保護の利用者の「自立」をどうみるか
  制度の狭間をどうするか
  状態像のみかたと適応について
 自立→要支援・中間評価項目のみかた
  介護保険適用の境界線
  共通認識の判定にどうもっていくか
  状態像のみかたと適応について
要介護2 軽度の介護を要する事例
 要介護2→要介護2・よくある例
  判定はケアプランをどこまで考慮するか
  状態像のみかたと適応について
 要介護2→要介護2・問題行動の解釈
  「問題行動のある事例」か「問題行動のない事例」か
  状態像のみかたと適応について
要介護4 重度の介護を要する事例
 要介護4→要介護3・援助困難事例だが
  特記事項のみかた
  グレーゾーンをどう判定するか
  状態像のみかたと適応について
 要介援4→要介護3・複数の状態像を勘案
  特定疾病と他の状態像
  状態像のみかたと適応について
 要介援4→要介護4・再調査の意見付き
  介護保険か医療保険か
  介護保険でどこまで引き受けられるか
  状態像のみかたと適応について
要介護5 最重度の介護を要する事例
 要介護5→要介護5・主治医意見書による
  主治医意見書をどうみるか
  状態像のみかたと適応について
 要介援5→要介護5・不明確な状態像
  状態像のはっきりしない事例
  二次判定のむずかしさ
  状態像のみかたと適応について

III部 参考法規および参考資料
 1.介護保険法等
  介護保険法(抜粋)
  厚生省令第58号「要介護認定等に係る介護認定審査会による審査及び判定の基準等に関する省令」
 2.介護認定審査会運営要綱
  要介護状態区分の変更等の際に勘案しない事項について
 3.要支援状態および要介護状態区分別状態像の例
  要支援
  要介護1
  要介護2
  要介護3
  要介護4
  要介護5
  状態像の例(中間評価項目)
  日常生活自立度の組合せによる要介護度別分布
  要介護度別にみた中間評価項目の平均得点
 4.要介護認定の実施と事前サービス調整等について
  平成11年度中の要介護認定の実施について
  介護保険事前サービス調整について
  介護予防・生活支援サービスについて
  特養入所希望者への対応について
  要介護認定に関して想定される状況と対処方針

IV部 介護認定審査会でよく使われる用語・略語の解説
あとがき