やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

序文
スペシャリストから学ぶ知識とコツで,呼吸機能検査はもっと楽しくなる
 呼吸機能検査は,呼吸器疾患の診断の補助,換気障害の程度や治療効果判定,術前評価など,臨床のさまざまな場面で必要不可欠であり,呼吸器診療の根幹となっている.
 一方,検査の現場に目を向けると,学術的な原理や検査方法は確立されているが,苦手とする検査者も少なくない.その理由として,患者の協力が必要という性質上,検査の誘導にコミュニケーションが欠かせないこと,十分な知識や経験をもって検査を行う必要があることに加え,物理,化学などの学術的な内容も少なからず苦手意識の壁になっている.
 そのような現状をふまえ,臨床検査学雑誌『Medical Technology』では2022年に全12回で「呼吸機能検査の苦手意識をなくそう!」を連載した.第一線で活躍する呼吸領域のスペシャリストにそれぞれのテーマで解説をお願いし,検査の現場で役立つ知識や技術を伝えてきた.その熱意に対しては予想以上の高評価をいただき,大きな励みとなった.
 また,教育現場に目を向けると,2022年入学者の臨地実習より適用となった『臨地実習ガイドライン2021』で必ず実施させる行為にスパイロメトリーが追加されるなど,現場で臨床検査技師が実際に発揮できる技術・知識が求められていることがうかがえる.
 これらの経緯から,本書では雑誌連載記事をアップデートし,さらに充実した内容として多くの方にお届けすべく,再編した.呼吸生理学や呼吸機能検査に対する苦手意識を克服し,楽しく,魅力的な領域の一つととらえていただけることを願って,書籍として発行する次第である.
 新たに追加した内容は,総論部分の1章「呼吸機能検査が見えてくる,楽しくなる基礎知識」の「1.やさしく学ぶ呼吸生理のメカニズム」「2.呼吸器疾患の病態生理に役立つ呼吸生理のキーワード」「3.呼吸機能検査で用いる記号・専門用語・法則など」「5.呼吸・循環の相互関係から検査前に押さえておきたい知識とデータ」である.
 また,2章以降の各論においても,連載内容に加えて最新の知見や技術を盛り込み,米国胸部疾患学会(ATS),欧州呼吸器学会(ERS)のガイドラインや感染症対策も網羅した.スペシャリストが実践で培ってきた検査に関するコツや工夫などが図解を中心に紹介され,アップデートされている.
 本書は,呼吸機能検査を学ぼうとしている方から初学者を指導する中堅以上の臨床検査技師,そしてその他のメディカルスタッフの方々にもわかりやすい内容になっている.ぜひ,今まで苦手意識があり,敬遠していた呼吸生理や呼吸機能検査,そして血液ガス・酸塩基平衡の領域について本書を通じて好きになっていただきたい.そして,本書で紹介した知識や技術,そしてコツなどを日常の検査やプライマリーケアに活用いただけたら幸いである.
 最後に,執筆をいただきました先生方,編集協力をいただいた山本雅史先生,そして本書の出版にご尽力いただいた,医歯薬出版の白石泰夫社長,ならびに編集・作成にあたり,川岸,湯本,両氏に多くの時間を割いてご尽力いただいたことに深く感謝申し上げます.
 2024年8月
 鈴木範孝
 (元 総合病院国保旭中央病院 診療技術局 中央検査科)
1章 呼吸機能検査が見えてくる,楽しくなる基礎知識―呼吸機能検査を始める前に換気を中心としたアウトラインを学ぶ
 1 やさしく学ぶ呼吸生理のメカニズム―換気のポイントを理解する〜肺の構造と機能〜(鈴木範孝)
 2 呼吸器疾患の病態生理に役立つ呼吸生理のキーワード―病態理解に必要なキーワード(田淵寛人)
 3 呼吸機能検査で用いる記号・専門用語・法則など―日常よく見かける記号や法則の基礎を理解する(乙部菜摘)
 4 呼吸機能検査装置の精度管理(並木 薫)
 5 呼吸・循環の相互関係から検査前に押さえておきたい知識とデータ―知っておきたい呼吸機能に影響する心疾患とそのアプローチ(中野英貴 寺崎英理)
2章 呼吸機能検査の基礎知識と患者対応技術を学ぼう―検査の概要,感染症対策,検査対応技術を学ぼう
 1 呼吸機能検査の種類と全体像を理解しよう!(田邊晃子)
 2 心理学的知識・原理を考慮した検査室への導入と検査対応のシミュレーションを頭に入れよう(田村東子)
 3 呼吸機能検査の感染対策を学ぼう(田淵寛人)
3章 スムーズな検査の実践へ―押さえておきたい呼吸機能検査技術と理論・原理
 1 得意になれる! 肺活量・努力肺活量(池田勇一)
 2 得意になれる! 機能的残気量(FRC)肺拡散能力(DLco)(山本雅史)
 3 得意になれる! クロージングボリューム検査(高谷恒範)
 4 得意になれる! オシロメトリー(藤澤義久)
 5 睡眠時無呼吸検査(情野千文)
 6 呼気一酸化窒素(呼気NO)測定の理論と技術を学ぼう(松本久子)
4章 呼吸機能検査と血液ガスの関係,周術期の臨床応用を学ぶ
 1 呼吸器疾患の典型例から呼吸機能・血液ガスの関係を学ぶ(家城正和)
 2 手術と呼吸機能検査(意義とデータの読み方)(加藤政利)
5章 呼吸機能パラメータの臨床での使用
 日常的に遭遇する2つのケースを中心に(鈴木範孝)

 索引