やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

本書の出版にあたって
 私は,超音波検査が大好きです.特に超音波検査画像と他画像,手術標本,病理標本を対比することが大好きです.画像と病理を対比すると,「画像診断は正しいのに,画像から想像した病変と,実際の病変とが大きく異なる」といったことも経験します.この対比の結果を,院内の症例検討会でフィードバックしたり,多くの研究会や学会で発表したりしました.馬場三男先生(北九州市立八幡病院)とは,そんな活動のなかでお会いしました.
 馬場先生が主催している九州の勉強会へ出席した時に,馬場先生が「ある出版社が,超音波検査画像と病理の対比に関する雑誌連載を企画している.若杉君,やる気ないか」と仰いました.非常に光栄なことであり,「はい,やります」と即答しました.そして医歯薬出版の会議室で,札幌厚生病院の市原真先生,当時は網走厚生病院にいらした放射線技師の長谷川聡洋さん,Medical Technology編集部の五十嵐達矢氏とお会いしました.今から6年以上前のことです.この企画を私にご紹介くださった馬場三男先生に感謝いたします.
 この企画では,みんなが医歯薬出版の会議室に集まり,症例を提示して,それに対する臨床側の意見,病理側の意見,症例の問題点などを語り合いました.その内容を市原先生が素早くパソコンに入力し,1日前後で草稿にまとめてくれました.その仕事の速さ,文章力の高さには驚きました.提示された症例の画像のなかで,雑誌に掲載すべきものを選定してくれたのは長谷川さんでした.私の冗長な画像資料のなかから症例の主題に合う画像を選ぶのには苦労されたのではないかと推察します.お二人には感謝すること大です.連載の途中からは,私の年来の友人である放射線技師の金久保雄樹さん(水海道さくら病院)も症例を出してくれて,討論に参加してくれました.非常に感謝しています.そして,本企画のために貴重なプレパラートを御貸与くださった亀田総合病院臨床病理科の星和栄先生・成田信先生,千葉西総合病院病理科の斉藤隆明先生・大村光浩先生には,感謝してもしきれません.そして私事でありますが,長年家のことを放って仕事に没頭する私を許してくれた妻には,この場を借りてお詫びします.
 連載の評判はとても良く,私も学会などで「Medical Technologyの連載を読みました.本当に勉強になりました」と声をかけられることが多くありました.連載された症例に新しく4症例を加えて,このたび素敵な単行本ができました.この本が出版できたのは,医歯薬出版の多くの方々のご協力のおかげです.
 この企画では,座談会の内容を記事にすることの難しさを感じました.うっかりすると主題と若干ずれた方向へ話が脱線することがあります.そこを市原先生がうまくコントロールしながら,重要なところだけをまとめてくださいました.私も連載の時には音読も含めて10回以上原稿を読み直し,細部にわたって確認を行いました.しかし,あらためて単行本の校正原稿を読み直すと,いろいろなところが気になり,市原先生らとご相談して修正を加えました.読者の皆さんにおかれましては,Medical Technology連載記事と単行本を読み比べて,修正された部分を探すのも本書の楽しみ方になると思います.なぜこの部分が修正されたのかを考えることも,勉強になります.また,読者の皆さんが本書により画像と病理を対比することの楽しさをわかってくだされば,本書の出版は大成功といえるでしょう.
 最後に,本書にかかわってくださった多くの方々に,重ねて感謝いたします.本当にありがとうございました.
 若杉 聡


「病理」が気になる皆さんへ
 2015年2月初旬のことです.札幌厚生病院検査室内の,応接コーナーとは名ばかりの古ぼけたソファで,薄いインスタントコーヒーを手に,私と医歯薬出版の五十嵐達矢氏,長田伊織氏は,膝を突き合わせて苦悩していました.ある雑誌企画の,実現に向けた糸口がなかなか見つからなかったのです.
 お二人は,「超音波検査画像と病理組織像を対比する企画」を長年温めていらっしゃいました.しかし,誌面のイメージはなかなか定まりませんでした.画像と病理とを,誌面でただ横に並べて比べれば「対比」になるだろうか? 画像と病理を両方解説するのは,放射線科医なのか,それとも病理医なのか.前例がほとんどない企画のヒントを探っていたお二人は,学会で講演していた私を見かけて,お声をかけてくださいました.超音波検査に携わる方々のなかには,「病理」が気になる人が多くいらっしゃいますから,私のような病理医にも,さまざまな「病理解説」のお仕事が舞い込んできます.
 しかし……タイミングというのはおそろしいもので,当時私は,「画像・病理対比」を文章化することに限界を感じていました.何度かブログなどで「対比」を言語化しようと試みてはいたものの,どうもしっくりこないなーと,落ち込んでいる真っ最中だったのです.なぜうまくいかなかったのか? 今ならわかります.当時の私の「病理解説」は,エゴイスティックだったからです.
 臨床検査技師や診療放射線技師,医師などから,画像に関する疑問が提示されるたびに,私は画像と病理組織像とを照らし合わせて,絵合わせをして,パワーポイントに組んで説明していました.しかしこの間,私はずっと,すべての作業を一人で行っていました.なぜなら,そもそも誰と一緒にやっていいのか,わからなかったのです.少しずつ「対比」の経験を積み上げてはいたものの,私の症例ストックは,「病理学的に興味深いもの」ばかりでした.それが悪いわけではないですが,臨床の現場で日々プローブを握る方々からすれば,マニアックで,クイズ・ゲーム的なものばかりだったと思います.私の一方的な病理解説をまとめた文章は,オタクの好きが詰まった同人誌のようで,一部の「同好の士」にしか読んでもらえない,偏ったものでした.
 現場の皆さんに,本当に役立ててもらえるような「病理」をお目にかけるには,どうしたらよいだろうか? お二人の編集者と相談を重ねるうち,ふと,「画像と病理という,異なる世界を照らし合わせるのだから,執筆者も複数いるべきではないか」というアイデアが湧きました.目を皿のようにして画像を見まくっている人,診療現場の目線から生まれる「病理はどうなっているんだ!」という疑問を大事にしている執筆者が,どこかにいらっしゃるのではないか.そういう人に画像を提示してもらい,私は病理組織像をどんどんお見せして,ディスカッションしてはどうか.これこそが「対比」ではないか.
 私の超音波の師匠である北九州市立八幡病院の馬場三男先生に,「対比相手」をご紹介いただけないかとご相談したところ,「長きにわたり,超音波と病理を対比しながら形態学を修められ,対比に関するご著作も上梓されている方がいらっしゃいます」と,一人の先生をご紹介いただきました.それが,本書の主筆である若杉聡先生です.さらに,超音波,CT,MRIといった多様なモダリティを通じて複数の視点を持ち寄ってくださる,長谷川聡洋さん,金久保雄樹さんにもご参加いただきました.こうしてついに,座談会形式での「対比企画」がローンチしたのです.連載は大好評で,書籍にもまとめることができました.
 本書には講演のまとめも載っていますが,やっぱり,コアを占める座談会パートが最高です.加えて個人的な思いで恐縮ですが,私はこの企画を通じて,「臨床の役に立つ病理」のことが一段と好きになりました.パルス幅にあわせて病理画像にグリッド引くアイデアなんか,座談会形式でなければ絶対に思い付きませんでしたからね.関係各位に心より感謝申し上げます.「病理」,おもしろいですよ.
 市原 真
CASE 01 見えなかった穴
CASE 02 周りが気になる病変
CASE 03 なぜか見えた血流
CASE 04 点状高エコーの正体
CASE 05 癌なのか炎症なのか
CASE 06 変化したエコーレベル
番外編(1) 超音波検査画像と病理の対比
 「超音波スクリーニング研修講演会2016五反田」より
CASE 07 エコーレベルを決めるもの
CASE 08 なぜか浸潤していない
CASE 09 読み誤った深達度
CASE 10 広基性にも有茎性にも見える
CASE 11 なぜか厚く見えたハロー
CASE 12 典型的な所見が揃わない
番外編(2) 肝腫瘍の超音波検査画像×病理組織所見
 「病理との対比で読み解く超音波の夕べ」より
CASE 13 石灰化が豊富で高エコー
CASE 14 石灰化はないけど高エコー
CASE 15 造影されない結節
CASE 16 高エコーに見えた腫瘍
CASE 17 病変範囲がわからない
CASE 18 ハローと外側陰影をつくるもの 肝転移の検討 前編
CASE 19 モダリティにより見え方が違う 肝転移の検討 後編
番外編(3) 胆嚢腫瘍の超音波検査画像×病理組織所見
 「病理との対比で読み解く超音波の夕べ」より
CASE 20 少し不思議な肝転移
CASE 21 病変が描出しづらかった理由
CASE 22 ハローの厚みが不均一
CASE 23 結節の違和感の正体
CASE 24 合っているようで合っていない
CASE 25 茎とサイズと良悪性と
CASE 26 病理を見ると疑問が出てくる

 索引