序文
消化管疾患は日常診療で遭遇する頻度が高く,口腔から肛門までの広範な部位に様々な病態が発現するために,その臨床診断はひじょうに重要である.従来,この領域の診断に関しては,優れた先達らの努力により各種のX線造影検査や内視鏡検査が開発され,日常臨床において広く用いられてきた.とくに,食道,胃,大腸においては,早期病変のスクリーニングや精密診断について,ほぼ完成の域に達したといえる.また,最近では小腸病変においても新しい内視鏡手技が開発され,その精度向上についての検討が精力的に行われている.
一方,腹部超音波検査についても,診断装置の著しい進歩や多くの知見の集積により,その診断法が確立されてきた.非侵襲的でreal-timeの評価が可能であるという超音波診断の特性は,他の画像診断法に対して大きなadvantageを有しているため,消化器領域の診断体系のなかでfirst stepの検査法として位置づけられるようになった.
肝胆膵領域の疾患群における超音波検査の重要性については述べるまでもないが,各種の消化管疾患についても超音波診断が積極的に行われ,その有用性が認識されてきた.最近では,消化管疾患の超音波診断が学会のシンポジウムのテーマに取り上げられることも多く,診断能の現状および将来性に対する関心や期待が寄せられている.
急性腹症を呈する疾患群のなかで消化管病変が占める割合は思いの外大きいが,重症度が高いためにX線造影検査や内視鏡検査が躊躇されることも多い.こうした場合でも,超音波検査はbed-sideで簡便に施行できるため,第一選択とすべき検査法となっている.緊急超音波検査により,多くの重要な情報が短時間に入手できるため,次の診療過程に迅速に移行することが可能である.さらに,超音波検査を随時繰り返して病状の経時的変化を観察することは,治療効果の判定や治療方針の変更に有用である.
消化管の悪性疾患については,早期病変の拾い上げは困難であるが,進行例では病変の存在診断や鑑別診断が比較的容易に施行できる.また,周囲臓器への浸潤,リンパ節や肝臓への転移,癌性腹膜炎の合併などについて詳細に検索することにより,病態の全体像を速やかに把握することが可能となる.
小腸病変についても,超音波検査が有力な診断手段として活用される.腸管の拡張や閉塞,腸管壁の肥厚などの異常所見を正確に捉えることにより,様々な小腸疾患の病態が評価可能である.最近では,従来推測されていたよりも小腸病変の頻度が高いことが知られており,超音波検査を積極的に施行して,小腸における病変の有無を判定することが重要と考えられる.
以上のことを鑑みて,消化管疾患の超音波診断についての書を上梓することとした.本書においては,消化管の解剖から始めて,基本的な超音波走査法,各種消化管疾患の概念や特徴的な超音波像について簡潔に記載し,理解を助けるために重要なポイントを適宜挿入した.さらに,消化管病変に対するカラードプラ法を用いた血流動態の評価についても言及した.初心者をはじめとして,熟練者にとっても参考になることを基本方針として,本書の執筆に当たった.処々で不備な点も見受けられるであろうが,その点については忌憚のないご批評・ご批判をいただければ,著者らにとって幸甚である.
最後に,ともすれば挫けそうになる我々を叱咤激励してくださり,本書の発刊に御尽力いただいた医歯薬出版株式会社編集部 法野崇子氏に深甚なる謝意を表します.
2006年2月
岩崎信広・岡部純弘
消化管疾患は日常診療で遭遇する頻度が高く,口腔から肛門までの広範な部位に様々な病態が発現するために,その臨床診断はひじょうに重要である.従来,この領域の診断に関しては,優れた先達らの努力により各種のX線造影検査や内視鏡検査が開発され,日常臨床において広く用いられてきた.とくに,食道,胃,大腸においては,早期病変のスクリーニングや精密診断について,ほぼ完成の域に達したといえる.また,最近では小腸病変においても新しい内視鏡手技が開発され,その精度向上についての検討が精力的に行われている.
一方,腹部超音波検査についても,診断装置の著しい進歩や多くの知見の集積により,その診断法が確立されてきた.非侵襲的でreal-timeの評価が可能であるという超音波診断の特性は,他の画像診断法に対して大きなadvantageを有しているため,消化器領域の診断体系のなかでfirst stepの検査法として位置づけられるようになった.
肝胆膵領域の疾患群における超音波検査の重要性については述べるまでもないが,各種の消化管疾患についても超音波診断が積極的に行われ,その有用性が認識されてきた.最近では,消化管疾患の超音波診断が学会のシンポジウムのテーマに取り上げられることも多く,診断能の現状および将来性に対する関心や期待が寄せられている.
急性腹症を呈する疾患群のなかで消化管病変が占める割合は思いの外大きいが,重症度が高いためにX線造影検査や内視鏡検査が躊躇されることも多い.こうした場合でも,超音波検査はbed-sideで簡便に施行できるため,第一選択とすべき検査法となっている.緊急超音波検査により,多くの重要な情報が短時間に入手できるため,次の診療過程に迅速に移行することが可能である.さらに,超音波検査を随時繰り返して病状の経時的変化を観察することは,治療効果の判定や治療方針の変更に有用である.
消化管の悪性疾患については,早期病変の拾い上げは困難であるが,進行例では病変の存在診断や鑑別診断が比較的容易に施行できる.また,周囲臓器への浸潤,リンパ節や肝臓への転移,癌性腹膜炎の合併などについて詳細に検索することにより,病態の全体像を速やかに把握することが可能となる.
小腸病変についても,超音波検査が有力な診断手段として活用される.腸管の拡張や閉塞,腸管壁の肥厚などの異常所見を正確に捉えることにより,様々な小腸疾患の病態が評価可能である.最近では,従来推測されていたよりも小腸病変の頻度が高いことが知られており,超音波検査を積極的に施行して,小腸における病変の有無を判定することが重要と考えられる.
以上のことを鑑みて,消化管疾患の超音波診断についての書を上梓することとした.本書においては,消化管の解剖から始めて,基本的な超音波走査法,各種消化管疾患の概念や特徴的な超音波像について簡潔に記載し,理解を助けるために重要なポイントを適宜挿入した.さらに,消化管病変に対するカラードプラ法を用いた血流動態の評価についても言及した.初心者をはじめとして,熟練者にとっても参考になることを基本方針として,本書の執筆に当たった.処々で不備な点も見受けられるであろうが,その点については忌憚のないご批評・ご批判をいただければ,著者らにとって幸甚である.
最後に,ともすれば挫けそうになる我々を叱咤激励してくださり,本書の発刊に御尽力いただいた医歯薬出版株式会社編集部 法野崇子氏に深甚なる謝意を表します.
2006年2月
岩崎信広・岡部純弘
第1章 消化管超音波検査の基礎
1 消化管の正常構造と超音波像
消化管壁の層構造
消化管壁の正常US像
2 部位別消化管描出の方法とコツ
食道
胃
十二指腸
小腸
大腸
よくある質問とポイント
第2章 消化管疾患の超音波像
1 食道
1)食道癌
2)食道アカラシア
3)逆流性食道炎
2 胃
1)胃癌
2)胃悪性リンパ腫
3)胃潰瘍
4)急性胃粘膜病変
5)胃寄生虫症
6)肥厚性幽門狭窄症
7)巨大皺襞症(Menetrier病)
8)消化管間葉系腫瘍
3 十二指腸
1)十二指腸潰瘍
2)十二指腸狭窄
3)十二指腸異物
4 小腸
1)イレウス,腸閉塞
2)腸重積症
3)メッケル憩室
4)急性上腸間膜動脈閉塞症
5)SLE腸炎
5 虫垂
1)急性虫垂炎
2)虫垂粘液嚢腫
3)虫垂癌
6 大腸
1)大腸癌
2)大腸悪性リンパ腫
3)炎症性腸疾患
潰瘍性大腸炎
クローン病
4)虚血性大腸炎
5)大腸憩室炎
6)薬剤性大腸炎
偽膜性大腸炎
薬剤性出血性大腸炎
7)感染性腸炎
サルモネラ腸炎
腸炎ビブリオ
腸管出血性大腸菌性腸炎
エルシニア腸炎
カンピロバクター腸炎
腸チフス
MRSA腸炎
ロタウイルス腸炎
ノロウイルス腸炎
8)腸管(型)ベーチェット病
9)その他
下剤による腸管壁の変化
病変部の経時的変化
7 腹膜・腹壁
1)悪性腹膜中皮腫
2)癌性腹膜炎
3)腸管膜脂肪織炎
4)炎症性腸管膜腫瘤
5)硬化性腹膜炎
6)腸間膜嚢胞
7)腹壁内膿瘍
8)腹膜疾患の超音波像のまとめ
・索引
1 消化管の正常構造と超音波像
消化管壁の層構造
消化管壁の正常US像
2 部位別消化管描出の方法とコツ
食道
胃
十二指腸
小腸
大腸
よくある質問とポイント
第2章 消化管疾患の超音波像
1 食道
1)食道癌
2)食道アカラシア
3)逆流性食道炎
2 胃
1)胃癌
2)胃悪性リンパ腫
3)胃潰瘍
4)急性胃粘膜病変
5)胃寄生虫症
6)肥厚性幽門狭窄症
7)巨大皺襞症(Menetrier病)
8)消化管間葉系腫瘍
3 十二指腸
1)十二指腸潰瘍
2)十二指腸狭窄
3)十二指腸異物
4 小腸
1)イレウス,腸閉塞
2)腸重積症
3)メッケル憩室
4)急性上腸間膜動脈閉塞症
5)SLE腸炎
5 虫垂
1)急性虫垂炎
2)虫垂粘液嚢腫
3)虫垂癌
6 大腸
1)大腸癌
2)大腸悪性リンパ腫
3)炎症性腸疾患
潰瘍性大腸炎
クローン病
4)虚血性大腸炎
5)大腸憩室炎
6)薬剤性大腸炎
偽膜性大腸炎
薬剤性出血性大腸炎
7)感染性腸炎
サルモネラ腸炎
腸炎ビブリオ
腸管出血性大腸菌性腸炎
エルシニア腸炎
カンピロバクター腸炎
腸チフス
MRSA腸炎
ロタウイルス腸炎
ノロウイルス腸炎
8)腸管(型)ベーチェット病
9)その他
下剤による腸管壁の変化
病変部の経時的変化
7 腹膜・腹壁
1)悪性腹膜中皮腫
2)癌性腹膜炎
3)腸管膜脂肪織炎
4)炎症性腸管膜腫瘤
5)硬化性腹膜炎
6)腸間膜嚢胞
7)腹壁内膿瘍
8)腹膜疾患の超音波像のまとめ
・索引








