やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社


 尿検査は,サマリア人やギリシャの医師ヒポクラテスらによって,紀元前に施行されたのが始まりで,当時でも病気との関連づけがなされており,検査の重要性が指摘されていた.現在でも,腎・泌尿器疾患の診断と治療には必要不可欠な検査であるのは周知の事実である.その理由として,尿検査が非侵襲的な検査のため繰り返し行えることや,診断と治療に役立つ情報量の豊富なことがあげられる.尿沈渣検査は,先人による長年の教育活動ならびにアトラスの刊行により普及してきた.2000年には尿沈渣検査法『JCCLS GP1P3』が刊行されたことによって,各施設において尿沈渣検査に携わる技師が,高度な知識と鑑別技術を習得することができるようになったことも,臨床の現場では重要視されるようになった一因である.しかし,近年では包括的診療報酬制度の導入により,尿検査(とくに尿沈渣検査)は減少している状況である.この原因として,迅速性の欠如と質的に高い付加価値情報を提供できなかったことなどがあげられる.
 著者らが本書を企画するにあたっては,各種尿沈渣成分について尿沈渣検査,病理学,血液学,微生物学に携わる技師の専門性を生かし,一つの細胞や成分についてさまざまな知識をもちより,新たな質的に高い付加価値情報を提供する必要性を感じたことが発端となっている.さらに,腎・泌尿器疾患の診断と治療のプロセスにおいて,EBMに基づいた尿沈渣に関する最新のデータを提供し,患者の立場にたったチーム医療へ参画する必要性を認識したためである.
 本書は,尿沈渣成分および尿中離細胞について,それぞれの専門職が自らの専門性を生かせるような構成となっている.起源を明確にするため,できるかぎり関連のある臓器と組織における各種成分の形態を掲載している.染色法は無染色法とSternheimer染色法(S染色)を基本とし,ギムザ染色(MGG染色)やパパニコロウ染色(Pap染色)なども用いている.上皮細胞類の詳細な情報を得るためには,最新のThinlayer法によって塗抹標本を作製し,免疫組織細胞化学法を用いて細胞の由来などを明確にした.さらに,細胞の内部構造や表面構造については,電顕を用いて光学顕微鏡では観察できなかった形態を提示することができた.
 本書を繰り返し参照することにより,一つの細胞および成分から新たな視点に満ちたさまざまな情報を得ることができるものと確信する.本書が,一人でも多くの臨床検査技師および医療従事者に活用され,尿沈渣検査が多くの可能性を秘めていることを感じていただくとともに,腎・泌尿器疾患に病む人々の治療につながる新たな質的に高い付加価値情報の発信源となれば幸いである.
 最後に,本書刊行のために尽力された潟Gスアールエル女子医大事業部の徳田忠弘事業部長,寺島誠司氏および医歯薬出版株式会社編集部法野崇子氏に心から御礼申し上げる.
 2006年3月
 横山 貴
 堀田 茂
I 採尿法
 1.自然尿
 2.カテーテル尿
 3.前立腺マッサージ後尿
 4.尿路変更術後尿
 5.洗浄液
 6.採尿時間による尿の種類
  1)早朝尿
  2)随時尿3
  3)蓄尿
II 尿の性状
 1.尿量
  1)多尿
  2)乏尿
  3)無尿
 2.尿色調
 3.混濁
III 尿沈渣標本の作製
 1.標準法
 2.簡易法
 3.特殊法
IV 尿沈渣成分の固定および保存法
 1.方法1(癌研法)
  1)成分
  2)調製方法
  3)使用方法
 2.方法2(市販尿細胞保存液・固定液)
 3.方法3(電顕用固定液)
  1)成分
  2)調製方法
  3)使用方法
V 尿沈渣成分の染色法
 1.免疫組織細胞化学法
  1)高感度酵素標識ポリマー法(ENVISION法)
  2)蛍光抗体法
  3)二重染色法
 2.電顕法
  1)同一試料による光顕・電顕観察用試料作製法
  2)TEM試料作製方法
  3)SEM試料作製方法
VI 尿沈渣成分の鏡検法と顕微鏡の取り扱い
 1.鏡検法
  1)鏡検
  2)尿沈渣成績の記載法
 2.顕微鏡の使い方
  1)明視野観察用顕微鏡
VII デジタルカメラによる撮影方法と画像処理
 1.市販コンパクトデジタルカメラを利用した顕微鏡写真の撮影方法
  1)デジタルカメラとは
  2)撮影に適したデジタルカメラ
  3)撮影方法
 2.Microsoft Photo Editorを使用した簡単な画像処理
  1)明るさ,コントラスト,ガンマ値の変更
  2)色調の変更
  3)解像度の変更
  4)サイズの変更
  5)画像のトリミング
VIII 尿沈渣検査の精度管理
 1.内部精度管理
 2.外部精度管理
IX 腎・尿路系の解剖
 1.腎臓
 2.泌尿生殖器
X 各種尿沈渣成分の鑑別
 血球類
  1.赤血球
  2.白血球
  3.臨床医からの一言
 上皮細胞類
  1.尿細管上皮細胞
  2.移行上皮細胞(尿路上皮細胞)
  3.扁平上皮細胞
  4.円柱上皮細胞
  5.封入体細胞
  6.異型細胞
   A.異型細胞を検出するための有力所見
   B.組織由来別の異型細胞の特徴
    1)移行上皮癌細胞(尿路上皮癌細胞)
    2)扁平上皮癌細胞
    3)腺癌細胞
   C.ワンポイントアドバイス
  7.その他の細胞
   1)ヒトパピローマウイルス感染細胞
   2)ヒトポリオーマウイルス感染細胞
  8.臨床医からの一言
 円柱類
  1.起源(由来)
  2.機能
  3.円柱の判別基準
  4.基本円柱
   1)硝子円柱
   2)上皮円柱
   3)顆粒円柱
   4)ろう様円柱
   5)脂肪円柱
   6)赤血球円柱
   7)白血球円柱
  5.その他の円柱
   1)空胞変性円柱
   2)ヘモジデリン円柱
   3)ミオグロビン円柱
   4)Bence Jonesタンパク円柱
   5)塩類・結晶円柱
   6)無染円柱
  6.臨床医からの一言
 結晶・塩類
  1.起源(由来)
  2.通常結晶
   1)無晶性塩類(尿酸塩,リン酸塩)
   2)シュウ酸カルシウム結晶
   3)尿酸結晶
   4)リン酸カルシウム結晶
   5)リン酸アンモニウムマグネシウム結晶
   6)尿酸アンモニウム結晶
   7)炭酸カルシウム結晶
  3.異常結晶
   1)ビリルビン結晶
   2)チロシン結晶
   3)ロイシン結晶
   4)コレステロール結晶
   5)シスチン結晶
   6)2,8ジヒドロキシアデニン結晶
   7)薬剤結晶
  4.臨床医からの一言
 微生物・寄生虫類
  1.細菌
  2.真菌
  3.原虫(トリコモナス)
  4.寄生虫(ビルハルツ住血吸虫)
  5.臨床医からの一言
 その他
  1.ヘモジデリン顆粒
  2.mulberry cell,mulberry body
  3.精液成分と性腺分泌物
  4.糞便,繊維,花粉,ダニ
  5.臨床医からの一言

 参考文献
 索引
 協力企業一覧