やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

発刊にあたって
 このたび,日本超音波検査学会書籍委員会の編集により,「血管超音波テキスト」が発刊されることになった.既刊である「心臓超音波テキスト」および「腹部超音波テキスト」に続き3冊目の超音波テキストである.これらのテキストが多くの会員のご要望に応え誕生したことは大変意義深いことであり,これにより超音波検査のさらなる知識・技術の習得の手助けになれば望外の慶びである.
 超音波検査はご存じのように既に広く普及し,現在では量より質が求められていることは周知のことである.専門性の高い本検査は医師から技師へと受け継がれ,専門技師による資格制度取得へと関心が注がれつつある.本会のサポート学会でもある日本超音波医学会の超音波検査士認定制度は広く世の中に認知され普及し,今では我々技師の勉学の登竜門とさえなっている.しかしながら,たとえ専門資格を取得したとしても,ハイレベルを維持していくにはたゆまない努力,日々研鑽が求められることはいうまでもなく,基礎的演習の反復,新しい知識・情報の吸収が必要である.今回発刊の「血管超音波テキスト」は,最近急速に発展してきた血管超音波検査の知識・技術のエッセンスをまとめたもので,頸部血管,腹部大動脈血管,下肢動脈・静脈血管の検査にはなくてはならない検査技術のノウハウが記載されている.どうぞ常にお手元におき勉学の一助としていただきたい.
 1974年に本会が発足してから,今年で31年目を迎える.本会の研究発表会もちょうど30回目の記念大会開催が東京にて予定され,この記念すべき年に本書を会員の皆様方にお届けできることはこの上ない慶びである.本書の発刊に際して,長期にわたり労をとっていただいた書籍委員の皆様方に深く感謝申し上げる.また,ご多忙にも関わらずご執筆いただいた先生方に厚くお礼を申し上げるとともに,発刊にご協力をいただいた医歯薬出版(株)並びに関係者の皆様方に感謝の意を申し上げる.
 平成17年2月
 日本超音波検査学会理事長 増田 喜一

序文
 このたび,平成13年の「心臓超音波テキスト」,平成14年の「腹部超音波テキスト」に続き,「血管超音波テキスト」を刊行するに至った.最初の企画から2年近くを要したが,その間にも血管超音波への関心は衰えることなく,逆に循環器内科,脳外科,代謝性疾患の分野など,臨床の広い領域においてますますその需要が高まってきている.実際に,血管疾患の診断学に特化したいくつかの研究会も発足し,超音波検査を中心に精力的な普及活動を行っている.日本超音波検査学会においても,講習会や機関紙などを通じて,血管超音波検査の技術的解説や検査の進め方,判読方法などについて先駆的な医師および技師のノウハウを伝えてきた.本書はその集大成と考えていただきたい.
 血管疾患の検査は,血管造影,CT,MRIなどの画像による形態的診断法と,脈波伝播速度(Pulse Wave Velocity;PWV),足関節・上腕血圧比(Ankle Brachial Pressure Index;ABI,ABPI)などの機能的診断法に大別される.血管疾患を診断するうえではその両者ともが重要であるが,超音波検査は断層像による形態診断と,血流情報を介しての機能診断の両者が可能であり,その情報量は多大である.さらに,超音波検査の持つ手軽さと反復性,経済性などを考慮すると,現在もっとも優れた検査法であるといっても過言ではない.
 しかしながら,血管超音波検査は腹部や心臓の超音波検査に比べきわめて歴史の浅い領域であり,断面の設定方法ですらようやく統一化・標準化の動きが出てきたというのが現状である.最近になって多くの教科書が発刊されたり,それ以上に多くの講習会も開催されたりしているが,大多数の会員諸氏の周囲には良き指導者がいないのが実状であり,経験に裏打ちされ,実際に即した技術や知識を伝授してもらえる機会は思いのほか少ない.そこで本書では,この領域において第一線で活躍中の方々に,長年の経験の中で培ってきた日常検査の中で真に役立つ技術や知識に重点をおいて,“超音波検査に携わる技術者の会”の刊行するテキストとしてふさわしい内容になるよう留意してご執筆いただいた.
 本書の構成は,まず血管超音波検査における装置設定と総合的な走査手技について解説し,各論としての頸動脈,四肢動脈,四肢静脈,大動脈の各章で,検査のポイントや判読に際しての注意点などについて述べた.大動脈領域は心臓のテキストの一部に解説されていることが一般的であり,その場合内容的にも量的にも必ずしも満足のいくものでないことが多い.本書では大動脈疾患も血管病変のひとつとして,十分な頁数を割いて詳細に解説した.既刊の「心臓超音波テキスト」,「腹部超音波テキスト」に倣って,ワンポイントアドバイスやひとくちメモを多用し,筆者がとくに伝えたい技術的事項やトピックス的な情報を本文とは別に解説した.巻末には各領域の解剖図をまとめて掲載し,日常検査の中で簡単な解剖アトラスとして使えるよう留意した.
 本書の発行に際して,構想から発刊まで多大の労をおとりいただいた書籍編集委員各氏,多忙の中でご執筆いただいた皆様,さらに編集・発刊にご協力いただいた医歯薬出版(株)ならびに関係の皆様に心から感謝の意を申し上げる.
 本書が血管超音波検査の技術書として検査に携わる方々のお役に立ち,ひいては超音波検査技術の発展に寄与することを願ってやまない.
 平成17年3月
 書籍編集委員長 戸出 浩之
発刊にあたって(増田喜一)
序文(戸出浩之)
執筆者一覧

第1章 血管超音波検査法の装置設定と走査手技
 I.血管超音波検査の基本
  1.血管超音波検査の背景
   1)血管病変への関心
   2)超音波装置の進歩
  2.血管超音波検査の特徴
   1) 非侵襲性・簡便性・経済性・即時性
   2)生理的状況下での形態と機能の評価
   3)広い対象範囲に対し一画像の視野は狭い
   4)多様な検査目的
  3.血管疾患の分類
   1)動脈疾患
   2)静脈疾患
  4.血管超音波検査の習得
   1)超音波に関する基礎知識
   2)装置に関する知識
   3)血管走行の解剖学的知識
   4)各疾患の病態生理
   5)検査の進め方
   6)報告書の作成
 II.血管超音波検査における各手法とその役割
  1.断層法
  2.ドプラ法
   ■ドプラ法の原理
    1)カラードプラ法
    2)パルスドプラ法
    3)連続波ドプラ法
 III.血管の表示法
 IV.装置の設定
  1.断層法
   1)ゲイン
   2)STC
   3)ダイナミックレンジ
   4)フォーカス
   5)ティシュハーモニックイメージング
   6)モニタ画面
  2.ドプラ法
   1)カラー表示方法
   2)関心領域(ROI)
   3)流速レンジ
   4)フィルタ
   5)ドプラゲイン
   6)スイープ速度
 V.よい検査のための走査テクニック
   1)探触子の選択が重要
   2)まず横断像,ついで縦断像
   3)超音波ビームと血管壁を直交させる
   4)多方向から観察する
   5)探触子で押し過ぎない
 VI.評価に際しての注意点
   1)ドプラ法の角度依存性
   2)サンプリングボリュームの大きさ
   3)かならず左右の血管を見比べる
   4)石灰化病変の評価
   5)アーチファクトとの鑑別
第2章 頸部動脈
 I.解剖
  1.総頸動脈系
  2.椎骨動脈系
 II.検査の目的
  1.狭窄や閉塞の有無の評価
  2.全身の動脈硬化度の評価
  3.人工心肺装置を使用する心臓・大血管手術前の評価
  4.治療効果の評価
  5.頸部血管疾患の有無の評価
 III.検査の進め方
  1.必要な装置
  2.体位と探触子の持ち方
  3.頸部血管の画像表示法
  4.検査の実際
   1)頸部動脈へのアプローチ
   2)検査の流れ
   3)所見記載例
 IV.評価方法
  1.参考検査手順
  2.動脈硬化を評価する
   1)内・中膜複合体厚計測
   2)血管径計測
   3)plaque score
   4)stiffness parameter β
  3.プラーク性状の評価
   1)表面性状評価
   2)内部性状評価
  4.血流情報から評価
  5.頸動脈狭窄性病変を評価する
   1)頸動脈の狭窄率算出
   2)血流速度測定による狭窄性病変の評価
  6.治療後評価
  7.頸動脈以外の病変を評価
 V.症例
  1.内膜摘除術(CEA)
  2.腕頭動脈狭窄
  3.大動脈弁狭窄
  4.右中大脳動脈狭窄
  5.内頸動脈狭窄
第3章 四肢動脈
 I.解剖
  1.上肢動脈の解剖
  2.下肢動脈の解剖
 II.検査の目的
 III.検査の進め方
  1.検査前の注意点
   1)患者の状態と検査室の環境
   2)一般理学検査による病態の把握
   3)超音波装置の条件と探触子の選択
 2.末梢血管超音波検査の実際
   1)病変血管枝の検索
   2)病変部位の診断
   3)病変部位の血流評価
 IV.評価方法
  1.狭窄による血流動態の変化
   1)狭窄,閉塞性病変の評価方法
  2.治療効果の判定と経過観察
 V.症例
  1.慢性閉塞性疾患
   1)閉塞性動脈硬化症
   2)閉塞性血栓血管炎
  2.急性動脈閉塞症
  3.その他の閉塞性動脈疾患
   1)胸郭出口症候群
   2)膝窩動脈捕捉症候群
   3)膝窩動脈外膜嚢腫
  4.四肢動脈瘤
  5.治療,検査に伴う動脈穿刺に合併する血管損傷
   1)仮性末梢動脈瘤
   2)動静脈瘻
 VI.評価時の注意点
  1.検査前の注意
  2.ドプラ入射角は60°以内で
第4章 四肢静脈
 I.解剖
  1.上肢静脈の解剖
  2.骨盤内静脈の解剖
  3.下肢静脈の解剖
   1) 深部静脈
   2) 表在静脈
   3) 穿通枝
 II.検査の目的
  1.静脈血栓の危険因子からみた解剖学的特徴
  2.静脈の還流動態
   1) 正常の静脈還流動態
   2) 閉塞時の静脈還流動態
   3) 表在静脈弁不全時の静脈還流動態
   4) 深部静脈閉塞と弁不全,表在静脈弁不全合併時の静脈還流動態
 III.検査の進め方
  1.探触子の選択
  2.機器の設定
   1) 断層法
   2)カラードプラ法
   3)パルスドプラ法
  3.画像の表示
  4.静脈エコーで行う基本的な操作
  5.検査手順
   1)深部下肢静脈の検査手順
   2)表在下肢静脈瘤の検査手順
 IV.評価方法
  1.深部静脈血栓症
   1)評価項目
   2)検査の実際
  2.静脈瘤
   1)評価項目
   2)検査の実際
   3)術前マーキング
  3.その他の評価方法
   1)血液透析療法の内シャント評価
   2)冠動脈バイパス手術の術前マーキング
   3)リンパ浮腫の鑑別
 V.症例
  1.静脈瘤
  2.血栓性静脈炎(表在性静脈炎)
  3.深部静脈血栓症
   ■上肢深部静脈血栓症
  4.内シャントトラブル
  5.動静脈瘻
  6.静脈外膜嚢腫
第5章 大動脈
 I.解剖
  1.大動脈の解剖学的特徴と断面設定
   1)走行および名称
   2)探触子の選択
   3)アプローチ部位と正常像
  2.胸部大動脈の観察
 II.検査の目的と進め方
  1.大動脈疾患の種類
  2.大動脈疾患のチェックポイント
   1)血管壁性状
   2)血管の形態
 III.症例
  1.大動脈瘤
   1)真性大動脈瘤
    ■腹部真性大動脈瘤
    ■腹部真性動脈瘤の合併症の評価
    ■仮性大動脈瘤
   2)胸部大動脈瘤
   3)胸腹部大動脈瘤
  2.大動脈解離(解離性大動脈瘤)
   ■偽腔閉塞型解離
   ■真腔と偽腔の鑑別方法
   ■腹部限局型解離
  3.Marfan症候群
  4.高安動脈炎(大動脈炎症候群)
  5.大動脈縮窄症
  6.Leriche症候群
 IV.大動脈手術後の評価
 V.大動脈観察上の注意点(アーチファクトを含む)
   1)血管径の計測
   2)低エコーの血栓
   3)壁在血栓と解離との鑑別
   4)アーチファクトが解離様にみえる
   5)腹部大動脈瘤の壁在血栓とまぎらわしいもの
   6)真性大動脈瘤内の渦巻き状の血流

付:血管超音波のための解剖図譜
  頸部の動脈
  上肢の動脈・静脈(掌側)
  下肢の動脈・深静脈
  下肢の皮静脈
  体幹の動脈・静脈

目次*ワンポイントアドバイス*
 I.血管超音波検査法の装置設定と走査手技
  (1)下腿領域の描出方法
  (2)ドプラ入射角を小さくするためには
 II.頸部動脈
  (1)内頸動脈と外頸動脈の個人差
  (2)動脈硬化の生じやすい部位
  (3)椎骨動脈の走行形態
  (4)塞栓性閉塞かの鑑別
  (5)頸動脈洞の押し過ぎには要注意
  (6)血管側面の病変を見逃さない
  (7)狭窄率の測定
  (8)内頸動脈と外頸動脈の起始部での鑑別法
  (9)パルスドプラ血流パターンからの病変の推測
  (10)結果報告に必要なこと
  (11)IMTの測定精度は装置の条件設定により異なる
  (12)多方面から観察する
  (13)内頸動脈閉塞の確診法
  (14)流速測定に向く探触子を使う
  (15)プリセットは微調整が必要
  (16)血流波形から狭窄性病変の存在を疑う
  (17)患者の血行動態は変化する
  (18)リニアでイメージをつかみセクタで計測
  (19)見やすい症例でアプローチに習熟し,鎖骨下動脈(狭窄症例)に応用する
 III.四肢動脈
  (1)自覚症状
  (2)動脈拍動の触知と血管性雑音の聴取
  (3)カラードプラ法での流速レンジの設定
  (4)末梢血管のドプラ血流評価を行う前に
  (5)血管短軸スキャン操作による血流記録
  (6)四肢動脈病変の性状および形態診断
  (7)四肢動脈病変のドプラ血流波形の記録
  (8)狭窄部最大流速測定の注意点
  (9)カテーテルインターベンション実施のための評価ポイント
 IV.四肢静脈
  (1)深部静脈血栓の塞栓化
  (2)tissue priority
  (3)下肢の浮腫,腫脹
  (4)静脈内もやもやエコー
  (5)静脈血流の増強方法
  (6)腸骨静脈領域の偽陽性に注意
  (7)血液凝固線溶系検査
  (8)急性期血栓と慢性期血栓の鑑別
  (9)見落としを減らすために
  (10)深部静脈の逆流確認
  (11)一次性静脈瘤と二次性静脈瘤の鑑別
  (12)鎖骨下静脈のアプローチ
 V.大動脈
  (1)penetrating atherosclerotic ulcer(PAU)
  (2)anechoic crescent sign(AC sign)
  (3)わかりやすいレポートを書こう
  (4)“炎症性”腹部大動脈瘤
  (5)腹部大動脈瘤に対するステントグラフト療法

目次●ひとくちメモ●
 I.血管超音波検査法の装置設定と走査手技
  (1)ティシュハーモニックイメージング
  (2)MTIフィルタ
 II.頸部動脈
  (1)multidetector-row computed tomography;MDCT
  (2)労災保険の二次健診に頸動脈超音波検査を採用
  (3)内中膜複合体(IMC)厚(IMT)とは
  (4)プラーク(plaque)の定義と記載
 III.四肢動脈
  (1)末梢血管超音波画像の表示方法
  (2)カラードプラ断層法での病変部の検出方法
  (3)病変部位の表記
  (4)糖尿病に伴うASOについて
 IV.四肢静脈
  (1)内転筋管
  (2)Virchowの3成因
  (3)呼吸性変動の観察
  (4)ミルキング操作
  (5)ストリッピング術
  (6)結紮術,硬化術
  (7)ヒラメ静脈血栓症
  (8)表在静脈と深部静脈の血栓症
  (9)iliac compression syndrome(腸骨静脈圧迫症候群)
  (10)奇異性塞栓症
  (11)静脈高血圧症
  (12)スティール症候群