序
臨床検査技師教育が始まって,半世紀を過ぎようとしている.この間,科学技術の進歩はすさまじく,臨床検査技師が従事する様々な領域で次々と新しい機器が導入されてきた.
本書は『医用電子工学概論』からスタートし,その後『医用工学概論』と書名が変更された.この教科では臨床検査技師に求められる理工学的な知識が扱われる.当初は主に電気的な知識が要求されていたが,より幅広い分野に対する教育上の必要性が生じたため,教科の名称と内容に変更が加えられた.医療における技術の革新はとどまることなく続いており,これにつれて教育内容も次第に変化し,拡大してきた.本書は旧版を重ねることでこれに対応してきたが,教科の大綱化や国家試験出題基準の策定などをふまえ,今回,新たに『臨床検査学講座/医用工学概論』を上梓することとなった.
もとより,教育の目的が変更されたわけではなく,趣旨は「臨床検査領域における理工学的計測技術を中心に講義する」ことにある.臨床検査技師をめざす学生は高等学校で理科系の勉強を経験しているが,多くは化学や生物を選択している.昨今の理科系離れは特に物理系において著しいが,医用工学では主として物理的な内容を基本とした項目が取り扱われている.本書では関連する事項をできるだけ丁寧に説明し,覚えることと同時に,しっかりと理解できるように説明したつもりである.
本書は大綱化された指導要領に従って,医用生体工学の概要,電気・電子の基礎,電子回路,記録と表示,生体物性,生体計測,通信・情報処理,個別の医用機器および安全対策を解説している.できるだけ新しい内容になるように努め,古くなって使用されなくなった原理や技術は本質的な意味での重要さがないかぎり省略した.
学ぶべき内容が豊富なうえ,一つひとつの理解に理工学的な知識が要求されるため,必ずしも簡単な教科書とはなっていないかもしれない.また,臨床検査技師をめざす学生にとって,この科目が主要な科目にみえないかもしれない.しかし,臨床検査に利用される機器の多くは理工学に裏づけされた技術の成果である.機器を正しく,また安全に使用するためには,原理や仕組み,取り扱いなどをしっかりと理解しなくてはならない.その基本となる医用工学は実際には検査を支える重要な科目といえる.
本書を通じて医用工学の基礎知識を習得し,また医学と工学のかかわりを理解することを学んで,しっかりとした土台を築いてほしい.本書による学習が,技術革新の結果として今後も次々と開発されるであろう新しい医用機器への対応に役立つならば,望外の喜びである.
2005年2月
著者を代表して 嶋津秀昭
臨床検査技師教育が始まって,半世紀を過ぎようとしている.この間,科学技術の進歩はすさまじく,臨床検査技師が従事する様々な領域で次々と新しい機器が導入されてきた.
本書は『医用電子工学概論』からスタートし,その後『医用工学概論』と書名が変更された.この教科では臨床検査技師に求められる理工学的な知識が扱われる.当初は主に電気的な知識が要求されていたが,より幅広い分野に対する教育上の必要性が生じたため,教科の名称と内容に変更が加えられた.医療における技術の革新はとどまることなく続いており,これにつれて教育内容も次第に変化し,拡大してきた.本書は旧版を重ねることでこれに対応してきたが,教科の大綱化や国家試験出題基準の策定などをふまえ,今回,新たに『臨床検査学講座/医用工学概論』を上梓することとなった.
もとより,教育の目的が変更されたわけではなく,趣旨は「臨床検査領域における理工学的計測技術を中心に講義する」ことにある.臨床検査技師をめざす学生は高等学校で理科系の勉強を経験しているが,多くは化学や生物を選択している.昨今の理科系離れは特に物理系において著しいが,医用工学では主として物理的な内容を基本とした項目が取り扱われている.本書では関連する事項をできるだけ丁寧に説明し,覚えることと同時に,しっかりと理解できるように説明したつもりである.
本書は大綱化された指導要領に従って,医用生体工学の概要,電気・電子の基礎,電子回路,記録と表示,生体物性,生体計測,通信・情報処理,個別の医用機器および安全対策を解説している.できるだけ新しい内容になるように努め,古くなって使用されなくなった原理や技術は本質的な意味での重要さがないかぎり省略した.
学ぶべき内容が豊富なうえ,一つひとつの理解に理工学的な知識が要求されるため,必ずしも簡単な教科書とはなっていないかもしれない.また,臨床検査技師をめざす学生にとって,この科目が主要な科目にみえないかもしれない.しかし,臨床検査に利用される機器の多くは理工学に裏づけされた技術の成果である.機器を正しく,また安全に使用するためには,原理や仕組み,取り扱いなどをしっかりと理解しなくてはならない.その基本となる医用工学は実際には検査を支える重要な科目といえる.
本書を通じて医用工学の基礎知識を習得し,また医学と工学のかかわりを理解することを学んで,しっかりとした土台を築いてほしい.本書による学習が,技術革新の結果として今後も次々と開発されるであろう新しい医用機器への対応に役立つならば,望外の喜びである.
2005年2月
著者を代表して 嶋津秀昭
第1章 医用生体工学の概要
I.検査における医用理工学の役割と環境
1-工学の医療へのかかわり
2-生体の機能検査と機能制御
II.臨床検査の客観性と再現性
1-生体計測の意味
2-生体からの出力観測による計測
III.生体現象の特徴とシステムとしての理解
1-観測レベルの違い
2-ミクロを通したマクロの理解
3-検査の質的向上とシステム化
IV.臨床検査の新たな展開
1-先端的臨床検査の条件
2-生体信号の測定とセンサ
3-新しいセンサ
V.種々の先端応用検査支援技術
1-非侵襲可視化技術の充実
2-通信技術と遠隔測定・遠隔操作
3-検査機器の進化
4-非侵襲計測と治療
5-医療情報システム
VI.医療技術の評価と未来
1-医療技術の評価
2-医療技術の未来
第2章 電気・電子素子の基礎
I.電荷と電場
II.静電誘導
III.静電容量
IV.電流と磁場
V.電磁誘導
VI.直流回路
VII.交流回路
VIII.能動素子
第3章 電子回路
I.増幅器
1-増幅の概要
2-増幅度
3-増幅器の周波数特性
4-増幅器の時定数
5-増幅装置の構成
6-雑音とその対策
II.発振回路
III.濾波回路
IV.テレメータと変調,復調
1-変調
2-復調
3-隔離方式による信号伝達
V.電源回路
VI.デジタル回路
1-ブール代数と基本回路
2-論理回路
3-パルス回路
4-パルス回路の応用
第4章 データの記録・表示装置
I.生体信号について
1-生体信号(データ)の記録
2-データ収集から出力の方法
3-データの処理
II.生体信号の基本構成
1-生体信号の周波数帯域と計測
III.記録器の原理と実際
1-検流計式記録計
2-自動平衡型記録計
3-サーマルアレイ式記録計
IV.表示器の原理と実際
1-ブラウン管オシロスコープ
2-液晶
IV.画像表示
1-超音波診断装置
2-CT(コンピュータ断層撮影)
3-MRI(核磁気共鳴イメージング装置)
4-PET(ポジトロンエミッションコンピュータ断層撮影)
第5章 生体の生理的,物理的性質
I.生体物性とは
1-生体組織固有の特異的な性質
2-物質としての生体の構成
II.生体の電気的性質
1-生体の受動的な電気物性
2-細胞の受動的な電気的性質
3-生体の能動的な電気物性
4-電撃と生体物性
III.生体の機械的性質
1-力と応力
2-弾性率
3-生体物質の力学的特性
4-粘弾性特性
IV.生体の超音波に対する性質
1-超音波の音響特性
2-超音波の生体作用
V.生体の熱に対する性質
1-発熱と作用エネルギー
2-熱の移動
VI.生体の光に対する性質
1-眼球の光学的性質
2-皮膚や組織の光学特性
3-血液の光学特性
4-太陽光に対する光学特性
VII.生体の磁気,電磁波に対する性質
1-静的な磁界に対する性質
2-低周波磁界に対する性質
3-高周波磁界に対する性質
4-生体から発生する磁界
5-生体内に混入した磁性体による磁場
第6章 生体からの情報収集
I.生体情報とその計測の特殊性
1-生体計測の必要条件
2-生体情報計測装置の基本構成
II.生体の電気現象と検出電極
1-生体電気と体積(容積)導体
2-検出電極の電極電位と分極電圧
3-不分極電極としてのAg-AgCl電極
4-生体情報検出のための増幅器への結合条件(整合性)
5-生体電気現象としての磁場計測
III.生体の物理・化学現象と変換器(トランスデューサ)
1-トランスデューサに対する要求事項
2-変位・圧力トランスデューサ
3-振動・音響トランスデューサ
4-流速・流量トランスデューサ
5-熱・温度トランスデューサ
IV.化学センサとバイオセンサ
1-血液ガス分析に用いる電極センサ
2-化学センサとバイオセンサ
3-成分ガスセンサ
第7章 通信情報処理における電子計算機の役割
I.電子計算機と情報処理
1-データと情報
2-データの種類・収集・処理
3-データと通信
4-医学における情報の活用
II.医療情報システムの実際
1-病院情報システム
2-診療支援システム
3-地域医療支援と情報提供ネットワーク
4-各種医療支援システム
5-救急医療情報システム
III.検査情報システムとその条件
1-検査情報システムの目的
2-検査情報システムの開発
3-検査システムの自動化
IV.電子計算機の歴史と将来
1-電子計算機の歴史
2-電子計算機の進歩
3-マイクロプロセッサの利用
4-電子計算機の基本的要件
V.電子計算機の基本構造
1-基本的構成と基礎論理回路
2-CPUと主記憶ユニット
3-データの表現と基本命令の構成
4-記憶装置の制御・入出力制御
5-インターフェイス
第8章 医用機器:生体現象測定記録装置
I.電極を用いる検査機器
1-心電計
2-脳波計
3-筋電計
4-眼振計
II.センサ(トランスデューサ)を用いる検査機器
1-心音計
2-脈波計
3-呼吸機能検査装置
4-経皮的血液ガス分析装置
5-平衡機能計(重心動揺計)
III.画像診断装置
1-超音波診断装置
2-磁気共鳴診断装置(MRI)
3-X線診断装置
4-X線CT
5-熱画像診断装置(サーモグラフィ)
6-核医学診断装置
第9章 安全対策
I.医療機器と安全
II.物理的エネルギーの生体作用と安全限界
III.安全対策の基本
IV.電気的安全
1-電撃に対する安全性
V.病院電気設備
1-医用接地方式
2-非接地配線方式
3-非常電源
VI.電気的安全性の測定
1-測定用器具(MD)
2-測定用電圧計
3-測定用電源ボックス
4-漏れ電流および患者測定電流の測定法
5-接地線抵抗の測定
6-接地端子の簡易検査
7-EPR(等電位)システムの点検
VII.システム安全
1-システム安全の考え方
2-機器・システムの信頼性について
3-機器のヒューマンエラー対策
VIII.電磁的な安全
1-電磁的両立性(EMC)
2-EMIとimmunity
3-雑音対策
第10章 実習
1-はじめに
2-電気回路実験の一般的な注意
実習 1 電気回路・測定の基礎:オームの法則,キルヒホッフの法則
実習 2 オシロスコープの操作
実習 3 C-R回路の過渡応答特性と周波数特性
実習 4 LRC直列回路の基本過渡応答特性
実習 5 半導体(ダイオード)の特性
実習 6 トランジスタの静特性
実習 7 電界効果トランジスタ(FET)の特性
実習 8 演算増幅器(オペアンプ)を用いた増幅回路
実習 9 記録器の特性
実習10 トランスデューサ(変換器)
実習11 安全と雑音(ME機器の安全対策/漏れ電流の測定/電磁誘導,静電誘導の測定)
・索引
I.検査における医用理工学の役割と環境
1-工学の医療へのかかわり
2-生体の機能検査と機能制御
II.臨床検査の客観性と再現性
1-生体計測の意味
2-生体からの出力観測による計測
III.生体現象の特徴とシステムとしての理解
1-観測レベルの違い
2-ミクロを通したマクロの理解
3-検査の質的向上とシステム化
IV.臨床検査の新たな展開
1-先端的臨床検査の条件
2-生体信号の測定とセンサ
3-新しいセンサ
V.種々の先端応用検査支援技術
1-非侵襲可視化技術の充実
2-通信技術と遠隔測定・遠隔操作
3-検査機器の進化
4-非侵襲計測と治療
5-医療情報システム
VI.医療技術の評価と未来
1-医療技術の評価
2-医療技術の未来
第2章 電気・電子素子の基礎
I.電荷と電場
II.静電誘導
III.静電容量
IV.電流と磁場
V.電磁誘導
VI.直流回路
VII.交流回路
VIII.能動素子
第3章 電子回路
I.増幅器
1-増幅の概要
2-増幅度
3-増幅器の周波数特性
4-増幅器の時定数
5-増幅装置の構成
6-雑音とその対策
II.発振回路
III.濾波回路
IV.テレメータと変調,復調
1-変調
2-復調
3-隔離方式による信号伝達
V.電源回路
VI.デジタル回路
1-ブール代数と基本回路
2-論理回路
3-パルス回路
4-パルス回路の応用
第4章 データの記録・表示装置
I.生体信号について
1-生体信号(データ)の記録
2-データ収集から出力の方法
3-データの処理
II.生体信号の基本構成
1-生体信号の周波数帯域と計測
III.記録器の原理と実際
1-検流計式記録計
2-自動平衡型記録計
3-サーマルアレイ式記録計
IV.表示器の原理と実際
1-ブラウン管オシロスコープ
2-液晶
IV.画像表示
1-超音波診断装置
2-CT(コンピュータ断層撮影)
3-MRI(核磁気共鳴イメージング装置)
4-PET(ポジトロンエミッションコンピュータ断層撮影)
第5章 生体の生理的,物理的性質
I.生体物性とは
1-生体組織固有の特異的な性質
2-物質としての生体の構成
II.生体の電気的性質
1-生体の受動的な電気物性
2-細胞の受動的な電気的性質
3-生体の能動的な電気物性
4-電撃と生体物性
III.生体の機械的性質
1-力と応力
2-弾性率
3-生体物質の力学的特性
4-粘弾性特性
IV.生体の超音波に対する性質
1-超音波の音響特性
2-超音波の生体作用
V.生体の熱に対する性質
1-発熱と作用エネルギー
2-熱の移動
VI.生体の光に対する性質
1-眼球の光学的性質
2-皮膚や組織の光学特性
3-血液の光学特性
4-太陽光に対する光学特性
VII.生体の磁気,電磁波に対する性質
1-静的な磁界に対する性質
2-低周波磁界に対する性質
3-高周波磁界に対する性質
4-生体から発生する磁界
5-生体内に混入した磁性体による磁場
第6章 生体からの情報収集
I.生体情報とその計測の特殊性
1-生体計測の必要条件
2-生体情報計測装置の基本構成
II.生体の電気現象と検出電極
1-生体電気と体積(容積)導体
2-検出電極の電極電位と分極電圧
3-不分極電極としてのAg-AgCl電極
4-生体情報検出のための増幅器への結合条件(整合性)
5-生体電気現象としての磁場計測
III.生体の物理・化学現象と変換器(トランスデューサ)
1-トランスデューサに対する要求事項
2-変位・圧力トランスデューサ
3-振動・音響トランスデューサ
4-流速・流量トランスデューサ
5-熱・温度トランスデューサ
IV.化学センサとバイオセンサ
1-血液ガス分析に用いる電極センサ
2-化学センサとバイオセンサ
3-成分ガスセンサ
第7章 通信情報処理における電子計算機の役割
I.電子計算機と情報処理
1-データと情報
2-データの種類・収集・処理
3-データと通信
4-医学における情報の活用
II.医療情報システムの実際
1-病院情報システム
2-診療支援システム
3-地域医療支援と情報提供ネットワーク
4-各種医療支援システム
5-救急医療情報システム
III.検査情報システムとその条件
1-検査情報システムの目的
2-検査情報システムの開発
3-検査システムの自動化
IV.電子計算機の歴史と将来
1-電子計算機の歴史
2-電子計算機の進歩
3-マイクロプロセッサの利用
4-電子計算機の基本的要件
V.電子計算機の基本構造
1-基本的構成と基礎論理回路
2-CPUと主記憶ユニット
3-データの表現と基本命令の構成
4-記憶装置の制御・入出力制御
5-インターフェイス
第8章 医用機器:生体現象測定記録装置
I.電極を用いる検査機器
1-心電計
2-脳波計
3-筋電計
4-眼振計
II.センサ(トランスデューサ)を用いる検査機器
1-心音計
2-脈波計
3-呼吸機能検査装置
4-経皮的血液ガス分析装置
5-平衡機能計(重心動揺計)
III.画像診断装置
1-超音波診断装置
2-磁気共鳴診断装置(MRI)
3-X線診断装置
4-X線CT
5-熱画像診断装置(サーモグラフィ)
6-核医学診断装置
第9章 安全対策
I.医療機器と安全
II.物理的エネルギーの生体作用と安全限界
III.安全対策の基本
IV.電気的安全
1-電撃に対する安全性
V.病院電気設備
1-医用接地方式
2-非接地配線方式
3-非常電源
VI.電気的安全性の測定
1-測定用器具(MD)
2-測定用電圧計
3-測定用電源ボックス
4-漏れ電流および患者測定電流の測定法
5-接地線抵抗の測定
6-接地端子の簡易検査
7-EPR(等電位)システムの点検
VII.システム安全
1-システム安全の考え方
2-機器・システムの信頼性について
3-機器のヒューマンエラー対策
VIII.電磁的な安全
1-電磁的両立性(EMC)
2-EMIとimmunity
3-雑音対策
第10章 実習
1-はじめに
2-電気回路実験の一般的な注意
実習 1 電気回路・測定の基礎:オームの法則,キルヒホッフの法則
実習 2 オシロスコープの操作
実習 3 C-R回路の過渡応答特性と周波数特性
実習 4 LRC直列回路の基本過渡応答特性
実習 5 半導体(ダイオード)の特性
実習 6 トランジスタの静特性
実習 7 電界効果トランジスタ(FET)の特性
実習 8 演算増幅器(オペアンプ)を用いた増幅回路
実習 9 記録器の特性
実習10 トランスデューサ(変換器)
実習11 安全と雑音(ME機器の安全対策/漏れ電流の測定/電磁誘導,静電誘導の測定)
・索引








