やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社



 生化学の分野は近年めまぐるしい発展をとげ,膨大な内容と化している.それに反して今回(2000年4月から)のカリキュラム改正は時代の変化に即した内容の更新は当然ながら,時間的には縮小の方向ですすまざるを得ない状況にある.その結果本書はページ制限のため十分な説明を加えることはできなかった.さらに詳しく勉強をしたい読者は一般生化学の成書をひもといて欲しい.
 本書は生体物質の構造と機能,生体物質の代謝,器官の生化学,遺伝子の生化学,栄養生化学,生化学実習の6部からなっている.いずれの場合も説明文の内容を図表で表現する工夫をした.たとえ文章を読まなくても,必要な知識は図表から視覚的に内容が把握できるのが本書の特徴である.また,本文は最小限の説明で止めてあるため,付随する関連知識を求めたくなる場合を考慮して,図表には本文以外の分子式などの参考データも含めた.
 初めて生化学を勉学する読者にとって何を,どこまで学習をしなければいけない事項なのか判断に迷うことがある.そのため本書では,学習すべき項目と何を表現しようとしているのかを示すために,本文および図表に色づけや網掛けなどで見るべき視点を表現することにした.生化学実習は,実習を行う過程で生体物質や代謝の復習が行えるよう配慮した.さらに紙面の節約も考えて,重複説明を避けるための第○章○参照という関連事項のある場所を表示した.
 生化学はそれ自体で1つの学問分野ではあるが,生命現象を探究するうえでは多くの学問(生理学,微生物学,など)の基礎学問的位置付けにある.基礎学問といえば数学をベースにして,物理学と化学がある.この上に生命現象を探究する専門分野の基礎学問として生化学があるので,他の専門科目などにもいろいろな意味で関連をもっている.
 本書はどのように利用されるべきなのか.読み物として最初から順に読んでいくタイプの本ではない.いちいち文章を読まなくてもわかるという意味で,先生の講義を聴きながら必要な知識を整理していく場合にこそ有効である.雑然と出てくる多くの生体物質の機能を暗記するのではなく,図を使って繰り返し“なるほど”と納得していく過程が大切である.
 本書の内容や記述について,同僚や学生から教えられた点が少なくなく,深く感謝の意を表したい.さらに著者の浅学非才のため不適切なところも多々あると思われる.ご指摘頂ければ幸いである.
 2001年春 著者
序章
 I-生命現象と生化学
 II-生体構成成分
 III-細胞の構成と働き
 IV-細胞の増殖と死
 [まとめ]

第1章 生体物質の構造と機能
 I.糖質
  1-糖の定義と分類
  2-糖の構造と異性体
  3-二糖類および多糖類
  4-酸性ムコ多糖類と複合多糖類
  5-糖の性質
  [まとめ]
 II.脂質
  1-脂質の定義と分類
  2-脂肪酸
  3-中性脂肪
  4-リン脂質
  5-スフィンゴ脂質
  6-テルペン類
  7-脂質の性質
  [まとめ]
 III.タンパク質
  1-アミノ酸,ポリペプチドおよびタンパク質の定義と分類
  2-アミノ酸の構造
  3-アミノ酸の性質
  4-タンパク質の構造
  5-タンパク質の性質
  [まとめ]
 IV.核酸
  1-ヌクレオチドおよび核酸の定義
  2-ヌクレオチドの種類
  3-核酸の種類と構造
  4-核酸の性質
  [まとめ]
 V.酵素
  1-酵素の定義と分類
  2-酵素の特徴
  3-酵素反応論
  4-酵素による代謝調節
  5-補酵素としてのビタミンの働き
  6-酵素の臓器特異性
  7-酵素命令法
  [まとめ]

第2章 生体物質の代謝
 I.糖質代謝
  1-糖質の消化吸収
  2-グリコーゲンの合成と分解
  3-解糖系と糖新生系
  4-NADPH産生系
  5-TCAサイクル
  6-糖の相互変換
  7-オリゴ糖の生合成
  8-臓器間の糖代謝相関
  [まとめ]
 II.脂質代謝
  1-脂質の消化吸収
  2-脂肪酸の合成
  3-トリグリセリド合成とリン脂質,糖脂質の代謝
  4-脂肪酸の酸化分解
  5-コレステロールの代謝
  6-臓器間の脂質代謝相関
  [まとめ]
 III.アミノ酸およびタンパク質代謝
  1-タンパク質の消化吸収
  2- タンパク質の合成・分解と窒素平衡
  3-アミノ酸の脱炭酸反応とアミン
  4-アミノ酸の炭素骨格の分解経路と合成
  5-尿素サイクルとアンモニアの処理
  6-個々のアミノ酸の代謝
  7-臓器のタンパク質代謝の特異性
  [まとめ]
 IV.エネルギー代謝
  1-ATPと仕事
  2-高エネルギー化合物とATP
  3-生体酸化系
  4-代謝とATP生成
  5-基礎代謝と活動代謝
  [まとめ]
 V.核酸代謝
  1-核酸の消化吸収
  2-ヌクレオチドの合成
  3-DNA合成とRNA合成
  4-核酸によるタンパク質合成(翻訳)
  5-核酸の分解
  [まとめ]

第3章 器官の生化学
 I.血液の生化学
  1-血液の成分とその働き
  2-赤血球の生化学
  3-ヘモグロビンの働き
  4-ヘムの代謝
  [まとめ]
 II.水・電解質と酸・塩基平衡
  1-体液の区分と組成
  2-水と電解質
  3-肺,腎と酸・塩基平衡
  4-腎の働きと尿の生成
  [まとめ]
 III.組織および臓器の生化学
  1-結合組織
  2-神経組織
  3-筋肉組織
  4-骨組織
  5-肝臓
  6-眼
  [まとめ]
 IV.内分泌系の生化学
  1-ホルモンの定義と分類
  2-ホルモンの作用機序
  3-個体維持ホルモン
  4-ストレスとホルモン
  5-生殖とホルモン
  6-消化管ホルモン
  7-プロスタグランジンと関連化合物
  [まとめ]

第4章 遺伝子の生化学
 I.遺伝子の構造と発現機構
  1-遺伝子の構造
  2-遺伝子の発現と調節
  3-分子進化
  4-遺伝子操作
  [まとめ]
 II.遺伝子と疾患
  1-遺伝子の変異
  2-遺伝子異常症・分子病
  3-遺伝子検査法
  [まとめ]

第5章 栄養生化学
 I.熱量素,ビタミンおよびミネラル
  1-熱量素の栄養価と相互変換
  2-ビタミン
  3-ミネラル
  [まとめ]

第6章 生化学実習
 I.糖質
  実験〔I〕 グリコーゲンの分離精製
  実験〔II〕 グリコーゲンの酸および酵素水解
 II.脂質
  実験〔III〕 コレステロールの抽出結晶化
  実験〔IV〕 血清脂質の薄層クロマトグラフィー
 III.タンパク質
  実験〔V〕 タンパク質の分子量測定
  実験〔VI〕 タンパク質の塩折と電気泳動
 IV.核酸
  実験〔VII〕 DNAの分離
  実験〔VIII〕 DNAの性質
 V.酵素
  実験〔IX〕 酵素(カタラーゼ)の反応速度
 VI.代謝
  実験〔X〕 酸化Iリン酸化
  実験〔XI〕 タンパク質分解量の測定

代謝マップ…付表I〜IV

 索引