やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社



 2000年を期して臨床検査技師学校のカリキュラムが改正されることになり,時代の要請から新たに専門基礎分野として「保健・医療・福祉と医学検査」という科目が加えられることになった.
 戦後わが国は,壊滅した医療施設の復旧と国民皆保険を推進するため,もっぱら医療施設と医療職種の充足,拡充に努めてきたが,その結果,今や日本の医療制度は“かかりやすさ”という点では世界一を誇るようになった.
 しかし一方で,すべてが過剰気味となり,患者が医療施設を選択できる状態にまでなった.また近年,人口の高齢化や医療技術の高度化に伴って医療費が高騰し,毎年1兆円くらいずつ増加し,今や30兆円に達するようになった.そしてこれを支払う政管健保,組合健保,国保などはいずれも大赤字となり,財政的に破綻に瀕している.
 このような背景から厚生省は,21世紀のわが国の医療政策として,まず強い医療費抑制政策を打ち出している.このため,今やどこの病院も経営や財政運営に努力しなければならず,その影響は臨床検査の分野にも及んでいる.病院は検体検査の外注化,委託化,自動化などを進め,院内検査室の効率的運用と合理化を図りつつある.
 次に,少子高齢化社会に対応するため,保健・医療・福祉の一番の柱として「公的介護保険制度」を発足させ,また要介護老人を収容する施設の拡充や,介護職種の増員に努めている.
 21世紀に臨床検査技師として医療界で働くためには,まずはわが国の保健・医療・福祉に関する制度をよく理解している必要があるとの認識から,このたびのカリキュラム改正において「保健・医療・福祉と医学検査」を学校教育の場においても教えることになったのである.
 本書では,わが国の社会保障制度から始まって,保健・医療・福祉制度の概要のほかに,医学の歴史,患者の取り扱い,医の倫理など,医療人として働くうえで必要な多くの基本的な事項を含めた.また医療チームの一員として十分な協力ができるよう,ほかの医療職種の職務についても学ぶようにした.
 諸君が単なる職人的技師に終わらず,幅広い知識と教養をもった医療人として生きていくために,ぜひこの新しい教科の重要性を認識し,一生懸命勉学されることを望む次第である.
 2000年初春 星 和夫
はじめに
   1―健康と病気
   2―医学と医療
   3―キュアからケアへ
   4―hospital

第1章――医学の歴史
 I.医学の起源
 II.原始医術
 III.古代の医学
   1―メソポタミアの医学
    [1]医神ニンギシダ
    [2]生薬
    [3]外科手術
    [4]『ハンムラビ法典』と医書
   2―エジプトの医学
    [1]医神トート
    [2]Kahun Papyrus
    [3]ミイラづくり
   3―ギリシアの医学
    [1]アスクレピオスの神殿医学
    [2]アスクレピオスの杖
    [3]ヒポクラテスの液体病理学
    [4]ヒポクラテスの誓い
    [5]ヒポクラテスの箴言
   4―アレキサンドリアの医学
   5―ローマの医学
    [1]ガレノス
    [2]公衆衛生の発達
   6―インドの医学
    [1]ススルタ
    [2]『Ayurveda』
    [3]検尿
   7―中国の医学
    [1]『准南子』
    [2]『内経』
    [3]『傷寒論』『金匱要略』
 IV.中世の医学
   1―ビザンチン医学
   2―アラビアの医学
    [1]ギリシャ医学の翻訳
    [2]薬学,化学の進歩
    [3]アヴィセンナ
    [4]ラーゼス
    [5]尿検査
   3―中世のヨーロッパ医学
    [1]僧院医学
    [2]らい(ハンセン病)とペストの流行
    [3]サレルノ医学校
    [4]大学の勃興
   4―中世の中国医学
    [1]『諸病源候論』
    [2]陰陽五行説
    [3]本草学
    [4]李朱医学
 V.近世の医学
   1―15〜16世紀の西洋医学
    [1]解剖学の発達
    [2]化学医学派
    [3]外科の発達
   2―17世紀の西洋医学
    [1]血液循環の発見
    [2]顕微鏡の発達
    [3]臨床医学の発達
   3―18世紀の西洋医学
    [1]病理解剖学の発達
    [2]打診法
    [3]種痘
   4―19世紀の西洋医学
    [1]聴診器の発見
    [2]麻酔法の進歩
    [3]微生物学の進歩
    [4]消毒法の発見
    [5]病理学の進歩
    [6]X線,ラジウムの発見
   5―近世の中国医学
    [1]『本草綱目』
    [2]伝統医学
   6―20世紀の医学
    [1]病原微生物の発見
    [2]内分泌学の進歩
    [3]ビタミンの発見
    [4]免疫血清学の進歩
    [5]発癌の研究
    [6]血液型の発見
    [7]化学療法と抗生物質の発見
    [8]公衆衛生の進歩
    [9]外科手術の進歩
    [10]画像診断,核医学の進歩
    [11]医用電子工学の発達
    [12]リハビリテーション医学の発達
    [13]遺伝子治療
 VI.日本の医学
   1―古代
   2―飛鳥・奈良時代
   3―平安時代
   4―室町時代
   5―安土桃山時代
   6―江戸時代
   7―幕末時代
   8―明治維新と日本の医学

第2章――病院の各部門の役割
 I.医師,歯科医師の業務
 II.薬剤部門
 III.看護部門
 IV.臨床検査部門
 V.放射線部門
 VI.リハビリテーション部門
 VII.診療録管理部門
 VIII.給食部門
 IX.医療福祉相談部門
 X.事務部門
 XI.歯科関係
 XII.その他の部門

第3章――わが国の医療制度
 I.医療体系
   1―一次医療
   2―二次医療
   3―三次医療
   4―特殊医療
    [1]精神障害者の医療
    [2]結核対策
    [3]感染症対策
   5―救急医療
   6―周産期医療
   7―難病対策
   8―終末期医療
 II.老人の医療と福祉
   1―老人福祉法と老人保健法
   2―高齢者保健福祉推進十か年戦略
   3―介護保険制度

第4章――医療提供体制
 I.医療施設の種類
   1―一般病院
   2―特定疾患病院
   3―療養型病床群
   4―特定機能病院
   5―地域医療支援病院
   6―臨床研修指定病院
   7―診療所
   8―助産所
 II.病院の設立母体
 III.医療従事者の需給
 IV.医療従事者の身分

第5章――医療法とその改正
   1―第一次医療法改正
   2―第二次医療法改正
   3―第三次医療法改正
   4―21世紀の医療制度
   5―わが国の医療制度の特徴

第6章――医療保険制度
 I.医療保険の種類
   1―被用者保険
   2―国民健康保険
   3―老人保健制度
 II.診療報酬支払い制度
   1―出来高払い方式
   2―包括支払い方式
   3―その他の支払い制度
   4―DRG/PPS
 III.公費負担医療制度
 IV.特定療養費制度
 V.医療保険制度の抜本的改革

第7章――社会保障費と医療財政
   1―社会保障とは
   2\社会保障費と医療費
   3―高騰する国民医療費
   4―医療費高騰の原因

第8章――病院医療の質の維持と向上
   1―医療の質
   2―質の評価
   3―評価の技法
   4―医療指導監査
   5―日本医療機能評価機構

第9章――患者の心理
 I.患者の心理的特徴
   1―心気傾向
   2―自己中心性
   3―依存性
   4―被暗示性
   5―猜疑心
   6―劣等感
   7―攻撃性
 II.病気の経過と患者の心理状態
   1―発病初期
   2―療養期
   3―回復期

第10章――医の倫理と医療従事者の心構え
 I.医療チームの一員としての自覚
    [1]患者指向
    [2]接遇の問題
    [3]他の医療職種との協調
    [4]自己啓発
    [5]経営感覚
 II.患者の権利の尊重
    [1]患者の権利
    [2]インフォームド・コンセント
    [3]プライバシーの保護
    [4]患者の知る権利と病名告知
 III.死をめぐる諸問題
    [1]心臓死と脳死
    [2]脳死と臓器移植
    [3]安楽死と尊厳死

付:データ集
索引