やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに
第2版発刊にあたって
■臨床検査技師の業務拡大
 2014年6月18日の臨床検査技師等に関する法律の一部を改正する法案が成立し,また,法律施行規則も一部改正され,2015年4月1日から施行されました.この法改正により臨床検査技師の業務範囲が拡大され,臨床検査技師が行ってもよい行為として次の業務が追加されました.
 (1)検体検査
  (1)鼻腔拭い液,鼻腔吸引液,咽頭拭い液などの採取
  (2) i)表皮,ii)体表,iii)口腔粘膜の採取
  (3) i)皮膚や体表・口腔粘膜の膿の採取
    ii)鱗屑,痂皮その他の体表の付着物の採取
  (4)綿棒を用いて肛門から糞便を採取すること
 (2)生理学的検査
  (1)基準嗅覚検査および静脈性嗅覚検査
  (2)電気味覚検査およびろ紙ディスク法による味覚定量検査
 ただし,(1)については採血に準じた行為であるので,臨床検査技師がこれらの行為を行うに当たっては,「医師,または歯科医師からの具体的な指示」を受けて行うことが求められています.また,(2)-(1)のうち,静脈性嗅覚検査(アリナミン検査)においては,臨床検査技師は「静脈内へのアリナミン注射液の注射行為」はやってはならないことになっているので,注意すべきです.
 さて,こうした業務拡大に伴い,本書『臨床検査技師のための医学英語』も若干の追加,改訂を行うことになりました.上記の業務のなかで,日常,最も頻繁に遭遇するのはインフルエンザや溶連菌などの感染症において行う鼻腔,咽頭の拭い液の採取でありましょう.それに,皮膚や口腔粘膜の膿や付着物の検体採取にも,時に遭遇するかもしれません.こうした検体採取については,第11章「咽頭拭い試料や鼻咽頭粘液試料の採取」に追加しました.一方,現実問題として,臨床検査技師が綿棒を用いて肛門から糞便を採取する場面はそう多くはないと思われますので,第4章「便検査」のなかに例文をいくつか追加すれば充分ではないかと考えます.
 生理学的検査で新たに追加された嗅覚や味覚の検査については,臨床現場で外国人相手に臨床検査技師が行う機会はそれほど多くはないと思われましたので,今回の改訂では割愛し,将来の課題としました.また,臨床検査技師が行ってよい検査にMRIが含まれていますが,これも今暫くは診療放射線技師の独擅場のテリトリーとして続くものと思われますので,同様に将来の臨床現場の状況をふまえて検討課題として見送ることにしました.
■わが国の在留外国人
 法務省速報値によれば,2018年12月現在,わが国の在留外国人は約273万人にのぼります.そして毎年数万人ずつ増加傾向にあります.国籍別では中国が76万人,それに韓国45万人,ベトナム33万人,フィリピン27万人,ブラジル20万人と続きます.在留外国人はすでにわが国の人口の2%になり,50人に1人は外国人ということになっています.これらの国の方が英語を話すとは限りませんが,意思疎通のためには事実上の「世界共用語」である英語を介して行うことが実用的でありましょう.ちなみに,在留外国人を国籍・地域別でみると,英語を母国語とする国はアメリカが第8位(57,000人)にランクインするだけです.
 合法的にわが国で被雇用者となっている方々は,法律で義務付けられているため雇用主が毎年法定健診を受けさせなくてはなりません.また,学生や旅行者も,病気になった場合には市中の医療機関を受診しますので,当然,臨床検査技師が外国人と接する機会は今後ますます増えてくるものと思われます.したがって,海外からお見えの受診者とスムーズに意思疎通できるように,英会話力すなわち,聞く能力と話す能力を重点的に身に付けておく必要があります.
 そうした意味で,今回の改訂では臨床検査技師の皆さんがより良い発音に接することができるように,付録に音声(ダウンロード形式)をお付けしました.この音声は何回も何回も繰り返し聞いて,ネイティブの発音に慣れていただくと同時に,自分が発音するときにもそれに近い発音になるよう練習していただきますようお願い致します.では,みなさんGood luck !
 2019年7月
 西元慶治
 奈良信雄

第1版発刊にあたって
 20世紀後半から,わが国にも急速にグローバル化の大きな波が押し寄せてきた.
 グローバル化という言葉そのものがもはや陳腐化しているほど,日本に住む他国籍人はとても多くなった.実際,街角や電車内で,他国籍の人に遭遇することは決してめずらしくはない.都会ばかりの現象ではなく,地方にいても聞き慣れない言葉をつい耳にする.むしろボーダレスの時代といってよい.
 こうした社会情勢の変化を反映して,病院を訪れる他国籍人はめっきり多くなっている.かつて,他国籍の人は,言語の問題から,病気にかかると特定の病院だけに集中していた.それが今や,どの病院にもさまざまな国籍をもつ患者さんが来院してくるようになった.
 こうなると,臨床検査技師も,少なくとも英語を話したり理解できなければならなくなる.心電図検査や呼吸機能検査を行うにしても,英語で的確に指示できなければ,正確な検査を行うことはできない.採血するにしても,患者さんの不安をのぞいてテキパキと採血するには,患者さんとうまくコミュニケーションをとらなければならない.そのためには,患者さんと気楽に英語で話せる余裕が必要であろう.ジョークの一つでも出れば,患者さんの検査に対する不安感は遠のくはずだ.
 また,私たち日本人が,海外へ出ることも多くなった.観光ばかりでなく,臨床検査技師として海外の病院で活躍している人も多い.いきおい,英語のテキストや論文が読解できなければならなくなる.新しい知識や技術を導入するには,日本だけでなく,積極的に海外の論文を読んだり,国際学会に参加することも必要といえる.
 ところで,わが国では,大多数の人が中学・高校で少なくとも6年間は英語教育を受けている.しかし,とかくこれまでの英語教育は実用的でなく,役に立たないとの批判が多い.実際,6年以上の英語教育を受けた人なら読めるであろう簡単な英語の文章を全く理解できなかったり,また病院に来た他国籍の人に一言も話かけることができないといった状況をしばしば目の当たりにする.
 グローバル化社会でも通用する臨床検査技師の育成を目指して,本書を編集することになった.その方針は,あくまでも実用的であり,役立つ書物にすることとした.前半は,採血や臨床生理検査などの場面で,患者と接する際にごく自然に英会話ができるように,実際の場面を想定した会話を掲載した.後半は主として,英語で書かれたテキストがスラスラ読める実力を養うことに主眼をおいた.さらに,検査に訪れる患者の愁訴や病名も理解できるように,医療を行う際に必要な英語をアラカルトとして掲載した.いずれも臨床検査の現場で役立つものばかりである.
 英語に限らず,語学の学習で最も大切なことは,慣れることである.英語の文章をどしどし読み,下手でもよいからともかく口に出して話してみる.あるいは他国籍の人の話に耳を傾ける.そうしたトレーニングの一助になるよう,本書を大いに活用していただきたいと思う.臨床検査技師を養成する大学,短期大学,専門学校などの教科書として,また現場で活躍される臨床検査技師の参考書として,ぜひとも活用していただきたい.
 なお,正確な英語であることを期すために,本書は明治大学教授のマーク・ピーターセン先生のご校閲をあおいだほか,マサチューセッツ大学内分泌代謝科のロバート・柳澤貴裕先生,それに知人のリナ・アンダーソン・冨澤夫人には多大のご教示や協力をいただいた.また,海上ビル診療所の臨床検査技師,前田純子氏には現場でよく使う表現の収集に尽力いただいた.この場をお借りして各位に深く感謝申し上げる次第である.にもかかわらず,本書の内容になんらかの欠陥があるとしたら,それはひとえに著者の責に帰すべきものである.また本書の編集には,医歯薬出版(株)編集部のご協力をあおいだ.臨床検査技師に真に役立つ英語のテキストを目指して,資料を整えていただいたり,現場の声を聴取していただいた.ここに重ねてお礼申し上げる.
 2000年1月
 奈良信雄
 西元慶治
第I編 実用会話編
 CHAPTER 1 やさしい英語,役立つ英語
  1 誤解なく,気分よく,要領よく
  2 機能的な会話
   命令文:魔法のことば Please/Let'sを使った命令文/疑問文を使った命令文
  3 英会話:奥の手
  4 初対面でのあいさつ
  5 検査室
   患者さんの呼び入れ/あいさつ・よいマナー
 CHAPTER 2 血液検査
  1 採血します
  2 問診のいろいろ
  3 採血の準備,そして採血
 CHAPTER 3 尿検査
  1 尿検査をします
  2 生理中ですか?
  3 採尿の指示
 CHAPTER 4 便検査
  1 便検査をします
  2 肛門からの糞便検体の採取
 CHAPTER 5 心電図検査
  1 心電図検査を始める前に
  2 電極の装着と記録
  3 負荷心電図 その1
  4 負荷心電図 その2
  5 ホルター心電図
 CHAPTER 6 超音波検査
  1 超音波検査を始める前に
  2 体位の指示
  3 特定の超音波
  4 呼吸の指示,その他
  5 超音波検査が終わったら
 CHAPTER 7 呼吸機能検査
 CHAPTER 8 脳波検査
 CHAPTER 9 聴力検査
 CHAPTER 10 眼の検査
  1 眼圧測定検査
  2 眼底写真
 CHAPTER 11 咽頭拭い試料や鼻咽頭粘液試料の採取
  1 採取行為の許可・同意の取り方
  2 検体採取と会話の流れ
第II編 論文・学会発表・文献編
 CHAPTER 1 英語論文・国際学会の基礎知識
  1 英語論文を読み,書くための基礎知識
   国際学術誌の種類/論文の投稿/検索法/論文の構成/投稿に当たり
  2 国際学会で発表するための予備知識
   学会への登録/発表の準備/発表
 CHAPTER 2 文献の読み方
  1 検査総論
   検査の事前準備/基準範囲/検査結果に影響を与える因子
  2 検査項目
   アルブミン/ ASTおよびALT/甲状腺ホルモン/網赤血球/プロトロンビン時間/ヘリコバクター・ピロリ抗体/α-フェトプロテイン
  3 検査法
   尿検査/グラム染色/ライト染色/心電図検査/心電図波形と間隔
  4 検査と疾患
   急性骨髄性白血病/甲状腺機能亢進症/A型肝炎
 CHAPTER 3 臨床検査に関する用語
  1 検査関係用語
   臨床検査に関する用語/装置,機器類/試薬,検査器具など/文具類
  2 外国製品の説明書
付録 英語アラカルト
 1 からだの表現
  体表/内部臓器
 2 症状の表現
  全身的な症状/眼,耳,鼻,のど,口,歯の症状/消化器症状/循環器症状/呼吸器症状/皮膚症状/神経症状/排泄行為/婦人科系/症状の表現の例文
 3 疾患名
  循環器疾患/呼吸器疾患/消化器疾患/腎疾患/血液疾患/内分泌疾患/代謝疾患/アレルギー性疾患/膠原病/神経疾患/感染症/遺伝子・染色体異常
 4 診療科の名称と専門医の呼称
 5 診療部門
 6 医療スタッフ
 7 略語一覧表