やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社


 早いもので,初版発刊から15年もの年月が経過しました.
 おかげをもちまして9刷を重ね,発行部数は1万を超えました.ご愛読いただいた皆様方には,厚く御礼を申し上げます.
 この15年間に,認定一般検査技師制度が立ち上がり,尿沈渣検査を軸とした一般検査研修会がさかんに行われるようになりました.2010年には尿沈渣標準法の改訂版「尿沈渣検査法2010」(GP1-P4)が発刊され,赤血球や円柱,ウイルス感染細胞などの分類法や報告法が一部改訂されています.また,悪性細胞の検出法も進歩を遂げ,早期発見が可能となってきました.このような状況下で,「ポケットマニュアル尿沈渣」改訂版の待望論を耳にし,今回の運びとなった次第です.
 「ポケットマニュアル尿沈渣」初版は,これまでのどの既刊書よりも尿沈渣成分の鑑別知識・能力が身につき,しかも見やすく,読みやすく,わかりやすく,の3つをコンセプトに企画しました.図表を多用し,総数462枚のカラー写真は,どの施設でも行える無染色法とS染色法を中心に,簡素にまとめるように心がけました.
 第2版でも,初版のコンセプトを大切に作成しております.「I.ここがポイント尿沈渣」の項では,必要に応じて文章や図の内容を変更しています.「II.各種尿沈渣成分の解説」の項では,要所に組織像を加え,大部分が写真8枚1組とする見開きで構成し,特徴や鑑別ポイントなどを下段に記載しました.「III.実践!比較でみる尿沈渣成分の鑑別法」の項では,無染色・S染色問題がそれぞれ20問あります.鑑別ポイントを見つけ出し,答えを導いてください.また,新しい試みとして,「IV.尿沈渣像から考えられる病態は?」の項は,五者択一問題としました.尿沈渣像から病態を推定してみてください.II〜IVで使用したカラー写真は,すべて新たに選択したもので,総数596枚と初版より大幅に増やしております.
 本書では,「尿沈渣検査法2010」と異なり,異型細胞類はあえて悪性細胞類として提示しています.その理由として,尿沈渣に出現する悪性細胞類は,必ずしも異型性を示すとはかぎらないからです.悪性細胞類は,核異型の「有または強」群と「無または弱」群に大別されます.尿沈渣から検出される悪性細胞類は,尿路に面した悪性腫瘍辺縁部の悪性細胞が脱落したものが大部分です.これらの悪性細胞のなかには,変性・崩壊を起こして小型化し,核の大きさが赤血球大を示して出現するものも少なくありません.すなわち,核異型の「無または弱」群の悪性細胞を見逃さないためには,正常細胞と比べて(1)小さすぎる細胞,(2)小さすぎる核,(3)薄くみえる細胞のチェックが重要です.また,悪性細胞は脂肪顆粒を含有して出現することが多く,(4)脂肪顆粒を含有した細胞(とくに尿路上皮系細胞,扁平上皮系細胞)のチェックも重要です.これらの悪性細胞については,各項で取り上げておりますので,その鑑別法を習得してください.また,本書では「相互封入像」の用語は使用しておりません.監修の石川先生より,「相互封入像の表現は適切ではない」とのご指摘があり,「細胞封入像」として解説しております.私自身,尿沈渣検査に携わった当初より専門書には「相互封入像」と掲載されていたため,そのままこの用語を使用しておりましたが,今後は「細胞封入像」として取り扱う所存です.また,核内封入体細胞という用語は使用せず,HSV感染細胞やCMV感染細胞として対応しております.これらのウイルス感染細胞は,常に明瞭な核内封入体を形成して出現するとはかぎらないからです.核内封入体が観察されなくても出現パターンよりこれらのウイルス感染細胞を同定または推定することが可能です.
 本書の出版にあたって,監修いただきましたがん研究会有明病院泌尿器科顧問福井 巖先生ならびにがん研究会がん研究所病理部部長石川雄一先生,そしてイラスト・写真処理をお願いしましたがん研究会有明病院フォトセンター高野 淳氏に心から御礼を申し上げます.また,初版で推薦のお言葉をいただきました伊藤機一先生は,2011年8月20日に永眠されました.ここに改めて感謝の意を表します.文末となりますが,多大なご支援をいただきました医歯薬出版(株)編集部法野崇子氏に深謝申し上げます.
 2016年8月 Rioオリンピック閉会の日に
 八木靖二


第1版の序
 わが国における尿沈渣検査法は,1995年の『JCCLS GP1-P2』の刊行,その改訂版である2000年の『JCCLS GP1-P3』の刊行によって飛躍的に進歩を遂げることができた.また,尿沈渣検査に携わってきた多くの人々の研鑽によって,従来不明とされてきた沈渣成分や判定困難な細胞などが解明されるようになり,これからの尿沈渣鏡検者にはますます高度な知識と鑑別能力が必要になってきた.
 そこで,これまでのどの既刊書よりも尿沈渣成分の鑑別知識・能力が身につき,しかも見やすく,読みやすく,わかりやすく,の三つをコンセプトに企画されたのが本書である.文章は図表を多用し,総数462枚のカラー写真は,どの施設でも行える無染色法とS染色法を中心にこれらを対比させながら,簡潔にまとめるように心がけた.「各種尿沈渣成分の解説」の項は見開きで構成し,左頁には各々6枚一組の写真を並べ,右頁にはその特徴などを記載した.また,「実践!比較でみる尿沈渣鑑別法」の項では,よく似た2種類の成分を取り上げて両者の鑑別のポイントは何かなどを記載したが,鑑別能力を養ううえできっと役に立つ試みと思う.
 本書をコンパクトなサイズにしたのは,読者が白衣のポケットなどに入れて持ち歩きいつでも見て学んでもらえるようにしたかったからである.また,判は小型ではあっても,新しい知見や考え方を随所に加え,内容的には多彩かつ凝縮したものになったと自負している.
 尿沈渣検査の重要性は,改めていうまでもないが,腎・尿路系病変や全身状態の異常を知るうえで不可欠の検査である.本書に提示した各種尿沈渣成分の鑑別法や臨床的関連性,報告の仕方およびコメントの記載例などが医療の現場で少しでもお役に立つことを願う.また,尿沈渣鏡検に携わる臨床検査技師だけでなく,これから臨床検査技師を目指す学生,内科医,泌尿器科医をはじめとした臨床の先生方にも本書を役立てていただければ幸いである.
 最後に,本書の出版にあたって種々ご教示頂いた当院泌尿器科福井 厳部長ならびに臨床各科の先生,病理部および細胞診断部の方々,そして推せんのお言葉を頂いた神奈川県立衛生短期大学伊藤機一学長に心から御礼を申し上げる.また文末ながら,多大なご支援を頂いた医歯薬出版株式会社編集部桃井輝夫氏に深謝する.
 2001年4月 著者一同
 序
 第1版の序
I ここがポイント尿沈渣
 1 尿沈渣をみるにあたって
  1 医師が尿沈渣検査を依頼する目的
  2 尿沈渣検査に携わる技師の心構え
  3 尿沈渣をみるうえで参考となる患者情報
  4 尿沈渣検査上達法
  5 尿定性検査異常と主な疾患
  6 尿検査異常から腎・尿細管疾患診断へのアプローチ
  7 尿沈渣異常と生化学・免疫血清検査による診断へのアプローチ
  8 顕微鏡の正しいセッティングの修得
   (1)コンデンサーの位置
   (2)コンデンサーレンズの開口絞りの調整法
   (3)フィルターによる色の調整法(色の混合)
 2 特殊な採尿法と尿沈渣所見
  1 カテーテル(またはステント)留置尿
   (1)カテーテル留置尿(バルンカテーテル)
   (2)尿管ステント留置尿(ダブルJまたはD-Jカテーテル)
  2 尿路変更術後尿
   (1)回腸(または結腸)導管術後尿
   (2)自己導入型新膀胱形成術後尿
 3 尿沈渣標本作製
  1 作製条件
  2 尿沈渣染色法
   (1)S(Sternheimer)染色
   (2)ズダン(Sudan)III染色
   (3)ベルリン青(Berlin blue)染色
   (4)ルゴール(Lugol)染色
   (5)P-B(Prescott-Brodie)染色
   (6)ハンセル(Hansel)染色
   (7)各種脂質の証明法
  3 保存方法およびその標本作製法(がん研八木法)
   (1)保存液の試薬
   (2)保存液の作製法
   (3)保存方法
   (4)無染色標本作製法
   (5)S染色標本の作製法-1
   (6)S染色標本の作製法-2
   (7)標本作製例
 4 各種尿沈渣成分の鑑別
  1 赤血球
   (1)赤血球の鑑別ポイント
   (2)血尿をきたす疾患
   (3)赤血球の由来と臨床的意義
   (4)非糸球体型赤血球と糸球体型赤血球の分類
   (5)糸球体型赤血球の形態と出現機序
   (6)ネフロン内における浸透圧変化
  2 白血球
  3 円柱類
   (1)円柱の形成
   (2)円柱の形成過程
   (3)円柱の種類と臨床的意義
   (4)円柱の判別基準
   (5)円柱の分類と報告の仕方
  4 上皮細胞類
   (1)泌尿・生殖器系の解剖と出現細胞
   (2)上皮細胞類・悪性細胞類の関連性
   (3)上皮細胞類の鑑別ポイント
   (4)とくに重要な鑑別ポイント
   (5)各種上皮細胞類の形態学的特徴および臨床的背景
  5 悪性細胞
   (1)悪性細胞の形態学的特徴および出現パターン
   (2)尿中悪性細胞の検出ポイント
   (3)各種悪性細胞の形態学的特徴および臨床的背景
  6 結晶・塩類
   (1)結晶・塩類の形態
   (2)結晶・塩類の鑑別方法
 5 尿沈渣成分の正常とみなす基準
 6 報告の仕方およびコメントの記載例
  1 赤血球
  2 白血球
  3 円柱
  4 上皮細胞類
   (1)大型・多核の尿路上皮細胞
   (2)集塊状に出現した尿路上皮細胞
   (3)オタマジャクシ状や線維状などの奇妙な形状を示した扁平上皮細胞
   (4)線維型やヘビ型などの形状を示した特殊型尿細管上皮細胞が,孤立散在性または結晶・塩類円柱に封入・付着して認められた場合
   (5)円形・類円形型やオタマジャクシ型などの特殊型尿細管上皮細胞が孤立散在性または集塊状に出現した場合
   (6)崩壊・変性の強い鋸歯型の尿細管上皮細胞が多数出現し,急性尿細管壊死が考えられた場合
   (7)HPV感染を疑うコイロサイトが認められた場合
   (8)HPoV感染を疑う細胞が認められ,円柱内にも同様の細胞が封入されていた場合
   (9)HSV感染を疑う核内封入体細胞が認められ,尿路上皮由来が示唆された場合
  5 悪性細胞類
II 各種尿沈渣成分の解説
 1 非上皮細胞類
  1 血球類
   (1)赤血球
    (1)非糸球体型赤血球
    (2)糸球体型赤血球
   (2)白血球
    (1)好中球(生細胞)
    (1)好中球(死細胞)
    (2)好酸球
    (3)リンパ球
    (4)単球
  2 大食細胞(1)
   大食細胞(2)
 2 上皮細胞類
  1 基本的上皮細胞類
   (1)尿細管上皮細胞(基本型)
    (1)鋸歯型
    (2)棘突起・アメーバ偽足型
    (3)角柱・角錐台型
   (2)尿細管上皮細胞(特殊型)
    (1)円形・類円形型
    (2)オタマジャクシ・ヘビ型
    (3)線維型
    (4)洋梨・紡錘型
    (5)空胞変性円柱型,顆粒円柱型
    (6)脂肪顆粒型
   (3)尿路上皮細胞
    (1)基本型
    (2)大型・多核化,奇妙な形状,核異常,巨大集塊
   (4)円柱上皮細胞
    (1)前立腺由来
    (2)子宮由来
    (3)尿道由来
    (4)腸上皮由来
   (5)扁平上皮細胞
    (1)基本型,萎縮像,錯角化
    (2)大型・多核化,奇妙な形状,核異常
  2 変性細胞類
   (1)卵円形脂肪体
   (2)細胞質内封入体細胞
    (1)尿路上皮由来
    (2)各種細胞由来
  3 ウイルス感染細胞類
   (1)HSV(単純ヘルペスウイルス)感染細胞
   (2)CMV(サイトメガロウイルス)感染細胞,他
   (3)HPoV(ヒトポリオーマウイルス)感染細胞
   (4)HPV(ヒトパピローマウイルス)感染細胞
 3 悪性細胞類
  1 上皮性悪性細胞類
   (1)尿路上皮癌細胞(1)
   尿路上皮癌細胞(2)
   (2)腺癌細胞(1)
   腺癌細胞(2)
   (3)扁平上皮癌細胞(1)
   扁平上皮癌細胞(2)
   (4)小細胞癌細胞
   (5)神経芽腫(ニューロブラストーマ)細胞
   (6)精上皮腫(セミノーマ)細胞
  2 非上皮性悪性細胞類
   (1)悪性リンパ腫細胞
   (2)白血病細胞
   (3)悪性黒色腫(メラノーマ)細胞
 4 円柱類
  1 硝子円柱
  2 上皮円柱
  3 顆粒円柱
  4 ろう様円柱
  5 脂肪円柱
  6 赤血球円柱
  7 白血球円柱
  8 空胞変性円柱
  9 塩類・結晶円柱
  10 大食細胞円柱
  11 BJ(Bence Jones)蛋白円柱
  12 フィブリン円柱
 5 微生物・寄生虫類
  1 微生物類
  2 寄生虫類
 6 塩類・結晶類
  1 通常塩類,薬剤を疑う塩類
  2 通常結晶類
  3 異常結晶類
 7 その他
  1 ヘモジデリン顆粒,マルベリー小体
  2 扁平上皮の脱核,特殊粘液体
  3 でんぷん粒,類でんぷん小体,花粉,糞便
III 実践!比較でみる尿沈渣成分の鑑別法
  どちらが糸球体型赤血球?もう一方は?
  どちらが上皮円柱?もう一方は?
  どちらが円柱?もう一方は?
  どちらが尿路上皮細胞?もう一方は?
  どちらが尿細管上皮細胞?もう一方は?
  どちらが扁平上皮細胞?もう一方は?
  どちらが白血球?もう一方は?
  どちらが悪性細胞?もう一方は?
  どちらが大食細胞?もう一方は?
  どちらがウイルス感染細胞?もう一方は?
IV 尿沈渣像から考えられる病態は?

 参考文献