発刊にあたって
わが国における尿沈渣検査の標準法は,1995年の『JCCLS GP 1-P 2』の刊行,その改訂版である2000年の『JCCLS GP 1-P 3』の刊行によって確立され,尿沈渣鏡検業務に携わる者には高い専門知識と鑑別能力の向上が求められている.
『JCCLS GP 1-P 3』の刊行から8年が経過したが,この間,尿沈渣検査に関する講習会や研修会が各都道府県の技師会などで活発に開催されるようになり,教本や図譜などの出版物も相次いで発刊された.また,2006年には認定一般検査技師制度が発足し,ますます尿沈渣検査の正確度・精密度が高まるものと期待される.
このような状況のもと,尿沈渣検査は大きく前進したが,その一方で依然として実際の尿沈渣鏡検業務で,細胞の鑑別に苦慮している検査技師も少なくない.
この原因としては,第一に尿沈渣検査における明確な鑑別基準がないことがあげられる.講演者または執筆者による尿沈渣成分の解説は,大部分が感覚的で,何が判定の決め手となったのかを具体的に示されていないことが多い.また,もう一つの原因としては,講習会や研修会,教本や図譜などで取り扱う大部分の写真が,典型的なものに限られていたためと考えられる.日常の尿沈渣鏡検業務では典型的なものだけでなく,当然のごとくわかりにくい細胞成分も検出される.しかし,講習会や研修会では時間的な制約があり,また教本や図譜では写真の枚数に制限があるため,提示される大分部の写真は典型例にとどまることが多い.
そこで,本書は鑑別基準を設定し,これをもとに問題を解きながら,尿沈渣成分(主に細胞成分)の鑑別法を修得してもらうことを主眼に作成した.
「基礎編」では項目ごとに鑑別基準を設定し,基本的な見方を解説した.一方,「問題編」では段階的に学べるように4項目に分け,問題と解答が見やすいように見開きで構成した.問題に用いた写真には,実践的に実力が身につくように典型的とはいえない特徴の少ない細胞も多く含めた.
「I基礎力を確かめる 数は何コ?」では赤血球や白血球を取り上げた.赤血球では出血の由来,白血球では種類の鑑別も含まれ,さらに病態を推定するなど活用を広げてほしい.「II比較で見る 答えはどっち?」では類似した2つの細胞を並べて見ることで,なにが鑑別点になるかを見極める訓練になると考える.「III総合力を試すポイントはどこ?」では形態または性状が類似した8種類の細胞の中から,同一由来の細胞や悪性細胞などを選ばせる問題である.総合的な鑑別能力が必要とされる.「IV尿沈渣所見から考える 病態は何?」では,尿沈渣異常からいかにして病態を導きだすか学んでいただきたい.尿沈渣の読みの力が試される.
本書は鑑別基準から導く自己採点型の実践的な問題集である.日常の尿沈渣鏡検業務で判定困難な細胞に遭遇した場合は,いかにして鑑別点を見つけ出すかが重要なカギとなる.鑑別能力の向上に少しでもお役に立てば幸いである.
本書の出版にあたって,種々ご教示頂いた臨床各科の先生,画像診断部の方々,病理部および細胞診断部の方々に心から御礼を申し上げる.
また,私達をいつも温かく見守り続けてくださった当院細胞診断部の故都竹正文技師長に感謝と哀悼の意を表する.
文末ながら,多大なご支援をいただいた医歯薬出版株式会社編集部 桃井輝夫氏に深謝する.
2008年3月
著者一同
わが国における尿沈渣検査の標準法は,1995年の『JCCLS GP 1-P 2』の刊行,その改訂版である2000年の『JCCLS GP 1-P 3』の刊行によって確立され,尿沈渣鏡検業務に携わる者には高い専門知識と鑑別能力の向上が求められている.
『JCCLS GP 1-P 3』の刊行から8年が経過したが,この間,尿沈渣検査に関する講習会や研修会が各都道府県の技師会などで活発に開催されるようになり,教本や図譜などの出版物も相次いで発刊された.また,2006年には認定一般検査技師制度が発足し,ますます尿沈渣検査の正確度・精密度が高まるものと期待される.
このような状況のもと,尿沈渣検査は大きく前進したが,その一方で依然として実際の尿沈渣鏡検業務で,細胞の鑑別に苦慮している検査技師も少なくない.
この原因としては,第一に尿沈渣検査における明確な鑑別基準がないことがあげられる.講演者または執筆者による尿沈渣成分の解説は,大部分が感覚的で,何が判定の決め手となったのかを具体的に示されていないことが多い.また,もう一つの原因としては,講習会や研修会,教本や図譜などで取り扱う大部分の写真が,典型的なものに限られていたためと考えられる.日常の尿沈渣鏡検業務では典型的なものだけでなく,当然のごとくわかりにくい細胞成分も検出される.しかし,講習会や研修会では時間的な制約があり,また教本や図譜では写真の枚数に制限があるため,提示される大分部の写真は典型例にとどまることが多い.
そこで,本書は鑑別基準を設定し,これをもとに問題を解きながら,尿沈渣成分(主に細胞成分)の鑑別法を修得してもらうことを主眼に作成した.
「基礎編」では項目ごとに鑑別基準を設定し,基本的な見方を解説した.一方,「問題編」では段階的に学べるように4項目に分け,問題と解答が見やすいように見開きで構成した.問題に用いた写真には,実践的に実力が身につくように典型的とはいえない特徴の少ない細胞も多く含めた.
「I基礎力を確かめる 数は何コ?」では赤血球や白血球を取り上げた.赤血球では出血の由来,白血球では種類の鑑別も含まれ,さらに病態を推定するなど活用を広げてほしい.「II比較で見る 答えはどっち?」では類似した2つの細胞を並べて見ることで,なにが鑑別点になるかを見極める訓練になると考える.「III総合力を試すポイントはどこ?」では形態または性状が類似した8種類の細胞の中から,同一由来の細胞や悪性細胞などを選ばせる問題である.総合的な鑑別能力が必要とされる.「IV尿沈渣所見から考える 病態は何?」では,尿沈渣異常からいかにして病態を導きだすか学んでいただきたい.尿沈渣の読みの力が試される.
本書は鑑別基準から導く自己採点型の実践的な問題集である.日常の尿沈渣鏡検業務で判定困難な細胞に遭遇した場合は,いかにして鑑別点を見つけ出すかが重要なカギとなる.鑑別能力の向上に少しでもお役に立てば幸いである.
本書の出版にあたって,種々ご教示頂いた臨床各科の先生,画像診断部の方々,病理部および細胞診断部の方々に心から御礼を申し上げる.
また,私達をいつも温かく見守り続けてくださった当院細胞診断部の故都竹正文技師長に感謝と哀悼の意を表する.
文末ながら,多大なご支援をいただいた医歯薬出版株式会社編集部 桃井輝夫氏に深謝する.
2008年3月
著者一同
序文
本書をじょうずに活用するために
A.基礎編 各種尿沈渣成分の鑑別基準
I.色調の見方
1.灰色調
2.灰白色調
3.黄色調
4.黒褐色調
5.濃黄色調
6.茶褐色調
II.染色性と染色態度の見方
1.染色性良好・赤紫色調
2.染色性良好・青紫色調または濃赤紫色調
3.染色性良好・赤茶色調
4.染色性不良・不染〜淡桃色調
III.表面構造の見方
1.均質状
2.漆喰状
3.綿菓子状
4.不規則型顆粒状
5.微細顆粒状
6.顆粒成分不規則分布状
7.円形・類円形型顆粒状
8.レース網目状
9.細胞質が薄くしわ状・ひだ状
10.細胞質が厚くひだ状・くぼみ状
IV.辺縁構造の見方
1.曲線状 (1)明瞭 (2)やや不明瞭〜不明瞭
2.角 状 (1)明瞭 (2)不明瞭
3.鋸歯状 (1)明瞭 (2)不明瞭
V.細胞集塊の見方
1.細胞境界 (1)明瞭 (2)不明瞭
2.透明感 (1)弱い〜なし (2)強い
3.結合性 (1)あり (2)なし
4.辺縁構造 (1)明瞭 (2)不明瞭
5.細胞配列 (1)多列上皮様配列 (2)渦巻状配列(真珠形成) (3)乳頭状配列 (4)シート状(蜂巣状)配列 (5)シート状(敷石状)配列 (6)柵状配列 (7)花冠(放射)状配列 (8)管腔形成 (9)紡錘状配列 (10)束状配列
VI.特殊な細胞
1.線毛を有する上皮細胞
2.リポフスチン顆粒含有細胞
3.異物含有細胞
4.白血球浸潤細胞
5.結晶・塩類付着細胞
6.細胞質内封入体細胞
7.コイロサイト
8.核内封入体細胞
9.相互封入像
10.層状(輪状)構造
B.問題編 実践! 実力STEP UP
I.基礎力を確かめる 数は何コ?(Q1〜Q4) 34〜37
II.比較でみる 答えはどっち?
1.無染色(Q1〜Q30) 38〜67
2.S染色(Q1〜Q30) 68〜97
III.総合力を試すポイントはどこ?
1.無染色(Q1〜Q5) 98〜107
2.S染色(Q1〜Q5) 108〜117
IV.尿沈渣所見から考える 病態は何?(症例1〜17) 118〜151
・尿中色素とは
・生細胞・新鮮細胞・死細胞・崩壊細胞
・ヘモジデリン顆粒と尿細管障害との関連性は?
・大食細胞の上皮様変化って何?
・角化とは
・膨化状って何?
・悪性細胞と正常細胞(または良性細胞)との関連性は?
・尿細管上皮細胞を型別に分ける意義は?
本書をじょうずに活用するために
A.基礎編 各種尿沈渣成分の鑑別基準
I.色調の見方
1.灰色調
2.灰白色調
3.黄色調
4.黒褐色調
5.濃黄色調
6.茶褐色調
II.染色性と染色態度の見方
1.染色性良好・赤紫色調
2.染色性良好・青紫色調または濃赤紫色調
3.染色性良好・赤茶色調
4.染色性不良・不染〜淡桃色調
III.表面構造の見方
1.均質状
2.漆喰状
3.綿菓子状
4.不規則型顆粒状
5.微細顆粒状
6.顆粒成分不規則分布状
7.円形・類円形型顆粒状
8.レース網目状
9.細胞質が薄くしわ状・ひだ状
10.細胞質が厚くひだ状・くぼみ状
IV.辺縁構造の見方
1.曲線状 (1)明瞭 (2)やや不明瞭〜不明瞭
2.角 状 (1)明瞭 (2)不明瞭
3.鋸歯状 (1)明瞭 (2)不明瞭
V.細胞集塊の見方
1.細胞境界 (1)明瞭 (2)不明瞭
2.透明感 (1)弱い〜なし (2)強い
3.結合性 (1)あり (2)なし
4.辺縁構造 (1)明瞭 (2)不明瞭
5.細胞配列 (1)多列上皮様配列 (2)渦巻状配列(真珠形成) (3)乳頭状配列 (4)シート状(蜂巣状)配列 (5)シート状(敷石状)配列 (6)柵状配列 (7)花冠(放射)状配列 (8)管腔形成 (9)紡錘状配列 (10)束状配列
VI.特殊な細胞
1.線毛を有する上皮細胞
2.リポフスチン顆粒含有細胞
3.異物含有細胞
4.白血球浸潤細胞
5.結晶・塩類付着細胞
6.細胞質内封入体細胞
7.コイロサイト
8.核内封入体細胞
9.相互封入像
10.層状(輪状)構造
B.問題編 実践! 実力STEP UP
I.基礎力を確かめる 数は何コ?(Q1〜Q4) 34〜37
II.比較でみる 答えはどっち?
1.無染色(Q1〜Q30) 38〜67
2.S染色(Q1〜Q30) 68〜97
III.総合力を試すポイントはどこ?
1.無染色(Q1〜Q5) 98〜107
2.S染色(Q1〜Q5) 108〜117
IV.尿沈渣所見から考える 病態は何?(症例1〜17) 118〜151
・尿中色素とは
・生細胞・新鮮細胞・死細胞・崩壊細胞
・ヘモジデリン顆粒と尿細管障害との関連性は?
・大食細胞の上皮様変化って何?
・角化とは
・膨化状って何?
・悪性細胞と正常細胞(または良性細胞)との関連性は?
・尿細管上皮細胞を型別に分ける意義は?