やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

序文
 健康長寿の達成は万人の願いであり,その方法に関する知見の集積は個人,そして社会にとって重要な課題としてとらえられます.とりわけ75歳以上の高齢者人口が急速に増加する日本において,要介護状態を予防して健康長寿の延伸を戦略的に実施していく必要があります.
 この要介護状態の予防には,脳血管疾患と老年症候群の予防が最重要課題となります.とりわけ老年症候群の多くは,比較的短期間での積極的な取り組みによって予防や改善効果が期待でき,スクリーニング手法や介入効果の検証が盛んに実施されるようになってきています.老年症候群のなかでも身体的に脆弱した状況は,高齢期に多く観察され,要介護状態の主要な原因となることから注目されています.
 2014年に日本老年医学会は,「高齢期に生理的予備能が低下することでストレスに対する脆弱性が亢進し,生活機能障害,要介護状態,死亡などの転帰に陥りやすい状態で,筋力の低下により動作の俊敏性が失われて転倒しやすくなるような身体的問題のみならず,認知機能障害やうつなどの精神・心理的問題,独居や経済的困窮などの社会的問題を含む概念」として,“フレイル”を提唱しました.フレイルに関する研究は多く報告されていますが,その含まれる概念の範疇が広範であり,スクリーニングや介入方法に関して一定の見解は得られていない状況にあります.そのため,現在までに何が明らかにされ,何がわからない状態にあるかを整理する必要があると考えられました.
 本書においては,フレイルの基礎的理解,評価方法,予防方法,実践報告,類似概念との相違について5つのステップでまとめ,フレイルを有する高齢者の保健,医療,介護をする方々の興味と実践を喚起することを目的としました.フレイルの予防や改善のためには,(1)できるだけ早期に兆候を発見する,(2)多角的な視点から対象者を評価することで改善可能な問題を把握する,(3)対象者の能動的な活動を引き出すことが重要であると考えられます.そのためには,臨床家の方々がフレイルに対する意識を向上させ,具体的な方法と信念をもって対象者に接していく必要があり,それなくして対象者の能動的な活動を生じさせることは難しいでしょう.本書は上記の趣旨に基づいて,現場で使える知識と考え方を網羅した構成にしており,一人でも多くの臨床家がフレイルを理解し,実践するうえでの参考になれば望外の喜びです.
 2015年8月10日
 編者 島田 裕之
 序文(島田裕之)
ステップ1 フレイルを理解する
 1.フレイルの判定と予防の重要性(牧迫飛雄馬)
  フレイルとは/フレイルの定義と判定方法/フレイルのもたらす弊害/フレイル予防の重要性
 2.フレイルの有症率と危険因子(吉田大輔)
  海外におけるフレイルの有症率/日本におけるフレイルの有症率
  フレイルを有する高齢者の特徴/フレイルの危険因子と保護因子
 3.フレイルと生活機能障害の関係(土井剛彦)
  生活機能障害とは/フレイルと生活機能障害
  入院(入所)と生活機能障害との関係性にフレイルが与える影響
 4.老年症候群とフレイル(鈴木みずえ)
  老年症候群の特徴とフレイル/高齢者の転倒の特徴/転倒リスク評価(転倒予測)とフレイル
  フレイルから転倒予防を含めた高齢者のアセスメント/フレイル予防を含めた転倒予防の介入
ステップ2 フレイルを評価する
 1.フレイルの一次スクリーニング(佐竹昭介)
  フレイルの評価法/基本チェックリストとは
  介護予防事業の現状/基本チェックリストによるフレイル評価の妥当性・有用性
  高齢者総合診療における基本チェックリストの応用
 2.筋量・筋力検査とフレイル(山田陽介)
  臨床現場で応用可能な筋量推定法/骨格筋組織の質的(組成)評価/筋力の評価法
 3.歩行機能検査とフレイル(中窪 翔)
  高齢者の歩行機能評価/フレイルにおける歩行機能/臨床で実施可能な評価指標とその基準値
 4.身体活動検査とフレイル(原田健次)
  身体活動とフレイル/身体活動を計測する方法/質問紙法と加速度計の利点と欠点
 5.栄養検査とフレイル(大塚 礼)
  低栄養とは/どのように個人の栄養状態を評価するのか
  低栄養スクリーニング指標/低栄養予備軍をスクリーニングするには
 6.認知機能・心理検査とフレイル(堤本広大)
  フレイルと認知機能/認知機能および認知機能検査とは/領域別の認知機能
  NCGGFATについて/フレイルと心理検査
 7.知的・社会活動検査とフレイル(大久保善郎)
  知的活動とフレイル/知的活動の検査/社会活動(関係)とフレイル(疾患への脆弱性)
  社会活動の検査
ステップ3 フレイルを予防する
 1.筋量・筋力向上によるフレイル予防(山田 実)
  フレイル予防・改善のための筋力トレーニング
  フレイル予防・改善のためには高負荷なトレーニングが必要か
  フレイル予防・改善のためのウォーキングプログラム
 2.歩行機能向上によるフレイル予防(永井宏達)
  高齢者の歩行機能の重要性/高齢者の歩行様式の特徴/高齢者の歩行と二重課題能力
  一般高齢者の歩行能力を向上させるための運動介入
  フレイルな高齢者の歩行能力を向上させるための運動介入/二重課題能力改善に着目した運動介入
 3.身体活動向上によるフレイル予防(原田和弘)
  日常の身体活動がフレイル予防に果たす役割/日常生活における身体活動向上の実践法
 4.栄養によるフレイル予防(甲田道子)
  フレイルと栄養の関係/高齢者の特徴/食生活改善の具体的方法/注意点
 5.認知機能向上・心理状態改善によるフレイル予防(上村一貴)
  フレイルと認知機能/運動介入による認知機能向上のエビデンス
  有酸素運動による認知機能向上効果/レジスタンストレーニングによる認知機能の向上効果
  マルチタスクトレーニングによる認知機能向上効果/多角的運動介入による認知機能向上効果
 6.知的・社会活動によるフレイル予防(大久保善郎)
  フレイル予防に有効な知的活動/社会活動によるフレイル予防/就労/ボランティア活動
  スポーツ・レクリエーション組織への参加/閉じこもり予防
 7.病院でのフレイルのケアと対処(湯野智香子 正源寺美穂 泉 キヨ子)
  急性期病院における高齢患者の現状とフレイル/入院中の高齢患者におけるフレイルの悪化要因
  フレイルに関して急性期病院で困っていること・取り組みの実際
  病院でのフレイルのケアと対処について今後の課題
ステップ4 フレイル予防の実践例から学ぶ
 1.地域(介護予防事業)での実践(李 成普j
  要介護高齢者に対する歩行支援機器の適用可能性について
  要介護高齢者に対する歩行支援機器の適用可能性について
 2.病院での実践(井平 光)
  急性期病院におけるフレイル/病院での実践例/リハビリテーション以外の過ごし方
 3.在宅医療での実践(大島浩子 鈴木隆雄)
  在宅医療におけるフレイルと訪問看護/在宅療養高齢者におけるフレイルの取り組み
 4.通所リハビリテーション・通所介護での実践(吉松竜貴)
  評価のポイント/運動処方のポイント/その他のポイントーADL向上について
 5.入所施設での実践(平瀬達哉)
  介護老人保健施設とフレイル/当施設のフレイルに対する取り組み
  入所者に対する短期集中リハビリテーションの効果について/今後の展望
ステップ5 フレイルの理解を深める
 1.フレイル研究Update(「 成琉)
  フレイル予防の重要性/フレイルの評価に関する研究動向/フレイルの予防・介入に関する研究動向
 2.フレイルとサルコペニア(堀田 亮)
  サルコペニアとは/サルコペニアの判定と測定法について/フレイルの類似点と相違点
 3.フレイルとロコモティブシンドローム(橋立博幸)
  ロコモティブシンドロームとは/ロコモティブシンドロームの判定方法
  ロコモティブシンドロームとフレイルの類似点と違い

 索引