序文〜骨転移患者さんのQOL向上のための多職種による包括的アプローチ〜
早期診断や治療の進歩によって,がんと診断されてからの生存期間は延長し,「がんが不治の病であった時代」から「がんと共存する時代」になりつつある現在,人生の質(QOL)を上げる医療をいかに行うかということが重要な課題となっています.
骨転移は,がんの転移巣のなかでも頻度の高いものです.がん患者のうち,臨床上問題となる骨転移を生じるのは10〜15%といわれていますが,生存期間の延長や骨転移の診断技術の進歩によって早期診断が可能になったことなどから,骨転移患者の数は増加しつつあると推測されます.
骨転移によって痛みや病的骨折,運動麻痺を生じると,歩行や日常生活に支障をきたし,QOLは急激に低下してしまいます.病的骨折を生じた群では,生じない群に比べて生命予後が短かったという報告もあります.したがって,骨転移を早期に診断し,適切な“Bone Management”を行うことが必要です.しかし,一方では,慎重になりすぎて過度な安静状態や寝たきりになってしまうと,逆に患者さんの身体機能やQOLが低下してしまいます.骨折のリスクには十分注意しつつ,リハビリテーションを実施し,身体機能を維持・向上させ自分らしい日常生活を過ごしてもらうことも求められます.
このように,早期診断・治療,症状緩和,リハビリテーションを含めた包括的なチームアプローチは,骨転移患者のQOL向上や生命予後改善のためには必須です.チームアプローチは,患者さんに直接関わる職種,主治医や看護師,リハビリテーション関連職種などが,痛みなどの症状から,骨転移の存在を疑うことから始まります.次に,臨床所見や画像読影をもとに,主治医や整形外科医,放射線診断医が骨転移を診断します.そして,主治医や整形外科医,放射線治療医,緩和ケアチーム,リハビリテーションチーム,看護師,ソーシャルワーカーなどの多職種によるカンファレンスやキャンサーボードなどによって,患者さん・家族の希望に沿った最良の治療,症状緩和,リハビリテーションの方針を決定して実行します.
わが国のがん医療では,すべての骨転移患者さんに対して,このようなアプローチが適切に行われているでしょうか?必ずしも十分ではないのが現状ではないでしょうか.骨転移患者に関わるすべての職種が,最善の方法を考えていたとしても,それぞれの情報や技術がうまく連携していないと,患者にとって最良の治療にはなりません.
本書は,骨転移患者さんのQOL向上のための多職種による包括的なチームアプローチを,いかに行っていくかということを具体的に示し,今後基準となる指針作成のきっかけになるものとして企画いたしました.
骨転移診療,リハビリテーションの第一線で活躍なさっている先生方にご協力いただき,多職種の視点から,診断や治療,リハビリテーションやチームアプローチの実際についてまとめることができました.骨転移患者さんのQOL向上に日々努めているすべての職種,チームにとって,明日からの臨床に役立てていただけるものとなれば幸いです.
2014年3月 編者を代表して
大森まいこ(松本真以子)
早期診断や治療の進歩によって,がんと診断されてからの生存期間は延長し,「がんが不治の病であった時代」から「がんと共存する時代」になりつつある現在,人生の質(QOL)を上げる医療をいかに行うかということが重要な課題となっています.
骨転移は,がんの転移巣のなかでも頻度の高いものです.がん患者のうち,臨床上問題となる骨転移を生じるのは10〜15%といわれていますが,生存期間の延長や骨転移の診断技術の進歩によって早期診断が可能になったことなどから,骨転移患者の数は増加しつつあると推測されます.
骨転移によって痛みや病的骨折,運動麻痺を生じると,歩行や日常生活に支障をきたし,QOLは急激に低下してしまいます.病的骨折を生じた群では,生じない群に比べて生命予後が短かったという報告もあります.したがって,骨転移を早期に診断し,適切な“Bone Management”を行うことが必要です.しかし,一方では,慎重になりすぎて過度な安静状態や寝たきりになってしまうと,逆に患者さんの身体機能やQOLが低下してしまいます.骨折のリスクには十分注意しつつ,リハビリテーションを実施し,身体機能を維持・向上させ自分らしい日常生活を過ごしてもらうことも求められます.
このように,早期診断・治療,症状緩和,リハビリテーションを含めた包括的なチームアプローチは,骨転移患者のQOL向上や生命予後改善のためには必須です.チームアプローチは,患者さんに直接関わる職種,主治医や看護師,リハビリテーション関連職種などが,痛みなどの症状から,骨転移の存在を疑うことから始まります.次に,臨床所見や画像読影をもとに,主治医や整形外科医,放射線診断医が骨転移を診断します.そして,主治医や整形外科医,放射線治療医,緩和ケアチーム,リハビリテーションチーム,看護師,ソーシャルワーカーなどの多職種によるカンファレンスやキャンサーボードなどによって,患者さん・家族の希望に沿った最良の治療,症状緩和,リハビリテーションの方針を決定して実行します.
わが国のがん医療では,すべての骨転移患者さんに対して,このようなアプローチが適切に行われているでしょうか?必ずしも十分ではないのが現状ではないでしょうか.骨転移患者に関わるすべての職種が,最善の方法を考えていたとしても,それぞれの情報や技術がうまく連携していないと,患者にとって最良の治療にはなりません.
本書は,骨転移患者さんのQOL向上のための多職種による包括的なチームアプローチを,いかに行っていくかということを具体的に示し,今後基準となる指針作成のきっかけになるものとして企画いたしました.
骨転移診療,リハビリテーションの第一線で活躍なさっている先生方にご協力いただき,多職種の視点から,診断や治療,リハビリテーションやチームアプローチの実際についてまとめることができました.骨転移患者さんのQOL向上に日々努めているすべての職種,チームにとって,明日からの臨床に役立てていただけるものとなれば幸いです.
2014年3月 編者を代表して
大森まいこ(松本真以子)
序文
第1部 骨転移の基本
1 骨転移のメカニズム(大森まいこ)
2 骨転移と疼痛(大森まいこ)
3 転移性骨腫瘍の診断戦略(木辰哉)
4 画像の見方(藤本 肇)
5 原発がんによる骨転移巣の画像所見の特徴(藤本 肇)
6 転移性骨腫瘍の治療戦略(木辰哉)
7 放射線治療(笹井啓資)
8 転移性骨腫瘍の手術(片桐浩久)
9 がんの骨転移に対する薬物治療(高橋俊二)
10 骨セメント(吉松美佐子)
11 疼痛への対応(薬物療法)(大坂 巌)
12 疼痛への対応(物理・運動療法)(大森まいこ)
13 骨転移と骨関連事象(SRE)(大森まいこ・辻 哲也)
14 がん種別の特徴(藤原智洋・榊原浩子・川井 章)
第2部 骨転移のリハビリテーション
1 骨転移リハビリテーションの概要(大森まいこ・辻 哲也)
2 リハビリテーション目標設定,リスク管理の実際(大森まいこ・辻 哲也)
3 脊椎転移のリハビリテーション(大森まいこ・辻 哲也)
4 長管骨・骨盤転移の評価とリハビリテーション(大森まいこ・辻 哲也)
5 転移性骨腫瘍に対する手術後リハビリテーション(片桐浩久)
6 骨転移患者の理学的評価と対応(高倉保幸・國澤洋介)
7 痛みや骨折のリスクを減らす動作法,介助法の検討について(北原エリ子)
8 骨転移患者のADL(作業療法士の視点から)(阿部 薫)
9 評価スケール−身体機能スケールとQOLスケール−(大森まいこ)
10 骨転移患者に対するリハビリテーション時のインフォームドコンセントと同意書−法律上必要とされることについて−(鈴木雄介)
11 がんのリハビリテーションガイドライン(宮越浩一)
第3部 実践編
1 骨関連事象カンファレンス(SREC)について(木辰哉・北原エリ子)
2 がん専門病院におけるチーム医療の取り組み
(1)静岡県立静岡がんセンター(田沼 明)
3 がん専門病院におけるチーム医療の取り組み
(2)四国がんセンター(杉原進介)
4 チーム医療における看護師の役割(栗原美穂)
case1 乳がん 骨関連事象カンファレンス(SREC)で 方針を検討した対麻痺症例(北原エリ子・三浦季余美)
case2 肺がん 骨転移治療後,終末期まで多職種で支援を行った症例(岡山太郎)
case3 食道がん 再発にて大腿骨転移を呈し,在宅復帰を目標にリハビリテーションを施行した症例−術前〜終末期の関わり−(井上順一朗)
case4 食道がん 脊椎全摘術(TES)施行後ロッド破損により再設置した症例(井口暁洋)
case5 乳がん 疼痛によるADL低下に対して日常生活動作指導を行った症例(祝 広香)
case6 乳がん 人工肘関節置換術後に仕事復帰をした症例(田尻寿子)
case7 乳がん 主婦として自宅復帰することを目標に家事動作訓練を行った症例(阿瀬寛幸)
case8 膵がん 上肢麻痺に対して残存能力を用いたアプローチを行った終末期の症例(島ア寛将)
case9 多発性骨髄腫 化学療法中に離床,ADL動作練習を行った症例(櫻井卓郎)
付録
上腕骨(肩から肘にかけての骨)に骨転移がある方の日常生活動作の方法(静岡県立静岡がんセンター 整形外科・リハビリテーション科)
頸椎・胸椎・肋骨に骨転移がある方の日常生活動作の工夫(慶應義塾大学病院 リハビリテーション科)
腰椎・股関節・大腿骨に骨転移がある方の日常生活動作の工夫(慶應義塾大学病院 リハビリテーション科)
索引
第1部 骨転移の基本
1 骨転移のメカニズム(大森まいこ)
2 骨転移と疼痛(大森まいこ)
3 転移性骨腫瘍の診断戦略(木辰哉)
4 画像の見方(藤本 肇)
5 原発がんによる骨転移巣の画像所見の特徴(藤本 肇)
6 転移性骨腫瘍の治療戦略(木辰哉)
7 放射線治療(笹井啓資)
8 転移性骨腫瘍の手術(片桐浩久)
9 がんの骨転移に対する薬物治療(高橋俊二)
10 骨セメント(吉松美佐子)
11 疼痛への対応(薬物療法)(大坂 巌)
12 疼痛への対応(物理・運動療法)(大森まいこ)
13 骨転移と骨関連事象(SRE)(大森まいこ・辻 哲也)
14 がん種別の特徴(藤原智洋・榊原浩子・川井 章)
第2部 骨転移のリハビリテーション
1 骨転移リハビリテーションの概要(大森まいこ・辻 哲也)
2 リハビリテーション目標設定,リスク管理の実際(大森まいこ・辻 哲也)
3 脊椎転移のリハビリテーション(大森まいこ・辻 哲也)
4 長管骨・骨盤転移の評価とリハビリテーション(大森まいこ・辻 哲也)
5 転移性骨腫瘍に対する手術後リハビリテーション(片桐浩久)
6 骨転移患者の理学的評価と対応(高倉保幸・國澤洋介)
7 痛みや骨折のリスクを減らす動作法,介助法の検討について(北原エリ子)
8 骨転移患者のADL(作業療法士の視点から)(阿部 薫)
9 評価スケール−身体機能スケールとQOLスケール−(大森まいこ)
10 骨転移患者に対するリハビリテーション時のインフォームドコンセントと同意書−法律上必要とされることについて−(鈴木雄介)
11 がんのリハビリテーションガイドライン(宮越浩一)
第3部 実践編
1 骨関連事象カンファレンス(SREC)について(木辰哉・北原エリ子)
2 がん専門病院におけるチーム医療の取り組み
(1)静岡県立静岡がんセンター(田沼 明)
3 がん専門病院におけるチーム医療の取り組み
(2)四国がんセンター(杉原進介)
4 チーム医療における看護師の役割(栗原美穂)
case1 乳がん 骨関連事象カンファレンス(SREC)で 方針を検討した対麻痺症例(北原エリ子・三浦季余美)
case2 肺がん 骨転移治療後,終末期まで多職種で支援を行った症例(岡山太郎)
case3 食道がん 再発にて大腿骨転移を呈し,在宅復帰を目標にリハビリテーションを施行した症例−術前〜終末期の関わり−(井上順一朗)
case4 食道がん 脊椎全摘術(TES)施行後ロッド破損により再設置した症例(井口暁洋)
case5 乳がん 疼痛によるADL低下に対して日常生活動作指導を行った症例(祝 広香)
case6 乳がん 人工肘関節置換術後に仕事復帰をした症例(田尻寿子)
case7 乳がん 主婦として自宅復帰することを目標に家事動作訓練を行った症例(阿瀬寛幸)
case8 膵がん 上肢麻痺に対して残存能力を用いたアプローチを行った終末期の症例(島ア寛将)
case9 多発性骨髄腫 化学療法中に離床,ADL動作練習を行った症例(櫻井卓郎)
付録
上腕骨(肩から肘にかけての骨)に骨転移がある方の日常生活動作の方法(静岡県立静岡がんセンター 整形外科・リハビリテーション科)
頸椎・胸椎・肋骨に骨転移がある方の日常生活動作の工夫(慶應義塾大学病院 リハビリテーション科)
腰椎・股関節・大腿骨に骨転移がある方の日常生活動作の工夫(慶應義塾大学病院 リハビリテーション科)
索引