はじめに
わが国は世界がこれまで経験したことのない超高齢社会となりました.超高齢社会では多疾患患者が増えるため,障害も単一ではなく,重複障害という新たな課題に直面しています.したがって,重複障害者に対するリハビリテーション(以下リハ)医療のニーズが予想以上に高まっているのです.
重複障害リハは,多疾患による重複障害に基づく身体的・精神的影響を軽減させ,症状を調整し,生命予後を改善し,心理社会的ならびに職業的な状況を改善することを目的として,メディカルチェック,臓器連関や障害連関への対応,運動療法,食事療法と水分管理,薬物療法,教育,精神・心理的サポートなどを行う,長期にわたる包括的なプログラムです.
これまでのリハのガイドラインは,原則的に単一疾患・障害を対象としているため,臨床現場では,重複障害者に対するリハをどのように実施すべきかに関し,少なからず戸惑いがみられます.重複障害リハでは,臓器連関や障害連関が存在しているため,その組み合わせ次第では,ある障害には有効なリハが他の障害にも有効であったり,逆に有害であったりします.重複障害者にもリハは積極的に行われるべきものですが,たとえば脳卒中片麻痺患者の歩行は,健常者と比べエネルギーの消費が大きく,同じ運動でも脳卒中発症前より心臓にも高負荷となります.したがって脳卒中に慢性心不全を合併している場合には,運動療法の中止基準は心不全のものに従い幾分マイルドな運動に留めるなど,全身状態やリスクの十分な把握を行い,重複障害など状況に応じた個別プログラムを作成することが重要なのです.
このように,重複障害のリハ医学・医療を担うには,各臓器に特異的な問題とともに,脳・心・肺・骨関節などの臓器連関を考慮することが必要です.そのためには,循環・腎・呼吸・代謝疾患の病態生理と障害,心電図,呼吸機能検査,血液ガスデータなどの基本的理解や心・腎・肺・脳・骨関節などの臓器連関の理解が必要です.
本書は,重複障害者に対してどのようなリハが安全かつ有効であるかを,主に東北大学病院での具体的な経験症例を示しながら,臓器連関の視点や最新のエビデンスを交えながら解説した実践書です.本書を一読することで,重複障害リハの正しい方法が驚くほど短時間で身につき,明日からの診療に十分な自信を持って対応できます.編集者の意図に快く賛同してくださった執筆者各位に深く感謝するとともに,企画・編集で何かと手を煩わせた医歯薬出版の鷲野正人氏にも感謝します.本書により,重複障害を正しく理解するスタッフが増え,その「技」と「環境」を駆使し,重複障害者の機能予後・生命予後やQOLの向上にますます貢献することを期待します.
2020年4月
上月正博
わが国は世界がこれまで経験したことのない超高齢社会となりました.超高齢社会では多疾患患者が増えるため,障害も単一ではなく,重複障害という新たな課題に直面しています.したがって,重複障害者に対するリハビリテーション(以下リハ)医療のニーズが予想以上に高まっているのです.
重複障害リハは,多疾患による重複障害に基づく身体的・精神的影響を軽減させ,症状を調整し,生命予後を改善し,心理社会的ならびに職業的な状況を改善することを目的として,メディカルチェック,臓器連関や障害連関への対応,運動療法,食事療法と水分管理,薬物療法,教育,精神・心理的サポートなどを行う,長期にわたる包括的なプログラムです.
これまでのリハのガイドラインは,原則的に単一疾患・障害を対象としているため,臨床現場では,重複障害者に対するリハをどのように実施すべきかに関し,少なからず戸惑いがみられます.重複障害リハでは,臓器連関や障害連関が存在しているため,その組み合わせ次第では,ある障害には有効なリハが他の障害にも有効であったり,逆に有害であったりします.重複障害者にもリハは積極的に行われるべきものですが,たとえば脳卒中片麻痺患者の歩行は,健常者と比べエネルギーの消費が大きく,同じ運動でも脳卒中発症前より心臓にも高負荷となります.したがって脳卒中に慢性心不全を合併している場合には,運動療法の中止基準は心不全のものに従い幾分マイルドな運動に留めるなど,全身状態やリスクの十分な把握を行い,重複障害など状況に応じた個別プログラムを作成することが重要なのです.
このように,重複障害のリハ医学・医療を担うには,各臓器に特異的な問題とともに,脳・心・肺・骨関節などの臓器連関を考慮することが必要です.そのためには,循環・腎・呼吸・代謝疾患の病態生理と障害,心電図,呼吸機能検査,血液ガスデータなどの基本的理解や心・腎・肺・脳・骨関節などの臓器連関の理解が必要です.
本書は,重複障害者に対してどのようなリハが安全かつ有効であるかを,主に東北大学病院での具体的な経験症例を示しながら,臓器連関の視点や最新のエビデンスを交えながら解説した実践書です.本書を一読することで,重複障害リハの正しい方法が驚くほど短時間で身につき,明日からの診療に十分な自信を持って対応できます.編集者の意図に快く賛同してくださった執筆者各位に深く感謝するとともに,企画・編集で何かと手を煩わせた医歯薬出版の鷲野正人氏にも感謝します.本書により,重複障害を正しく理解するスタッフが増え,その「技」と「環境」を駆使し,重複障害者の機能予後・生命予後やQOLの向上にますます貢献することを期待します.
2020年4月
上月正博
はじめに
第1章 重複障害のリハビリテーション総論
1.イントロダクション(上月正博)
2.重複障害の病態解釈と障害構造のとらえ方(佐藤房郎)
第2章 重複障害のリハビリテーションの基本
運動処方の基本と重複障害リハビリテーションの診療手順(上月正博)
第3章 重複障害のリハビリテーションの実際
1:視覚障害を有する心筋梗塞患者へのリハビリテーション(高橋 諒)
2:聴覚障害を有する呼吸障害患者へのリハビリテーション(鈴木文歌)
3:側弯変形を有する脳卒中患者へのリハビリテーション(佐藤房郎)
4:腎障害を有する脳卒中片麻痺患者へのリハビリテーション(辻村 淳)
5:呼吸障害を有する心不全患者へのリハビリテーション(新國悦弘)
6:腎不全を有する心不全患者へのリハビリテーション(木村(秋月)三奈)
7:肺高血圧症を有する心不全患者へのリハビリテーション(木村(秋月)三奈)
8:心不全・呼吸不全を有する超肥満患者へのリハビリテーション(高橋珠緒)
9:運動器疾患を有する心筋梗塞患者へのリハビリテーション(竹内雅史)
10:運動器疾患を有する末梢動脈疾患患者へのリハビリテーション(柿花隆昭)
11:呼吸障害を有する運動器疾患患者へのリハビリテーション(渡邉裕志)
12:補助人工心臓を有する脳卒中患者へのリハビリテーション(泉 香苗)
13:小児麻痺後遺症を有する乳がん・上肢リンパ浮腫患者へのリハビリテーション(高橋久美子)
14:僧帽弁形成術後の脳梗塞患者へのリハビリテーション(高橋晴美)
15:認知症を有する失語症患者へのリハビリテーション(遠藤佳子)
16:循環器疾患を有する失語症患者へのリハビリテーション(遠藤佳子)
17:運動器疾患を有する高次機能障害患者へのリハビリテーション(遠藤佳子)
18:リンパ浮腫を有するがん患者へのリハビリテーション(小玉 岳)
19:がんを治療中の運動器機能障害患者へのリハビリテーション(坪田 毅)
20:慢性肺疾患のため気管切開術を施行した早産・超低出生体重児へのリハビリテーション(齋藤悟子)
21:循環器疾患や呼吸器疾患などを有する関節拘縮患児へのリハビリテーション(齋藤悟子)
22:集中治療後症候群・フレイルを有する大動脈弁狭窄症患者へのリハビリテーション(竹内雅史)
23:下肢切断を合併した透析患者へのリハビリテーション(柿花隆昭)
24:摂食嚥下障害を有する呼吸障害患者へのリハビリテーション(國枝顕二郎,藤島一郎)
25:肝肺症候群患者へのorthodeoxiaを考慮したリハビリテーション(上月正博)
26:糖尿病を有する心筋梗塞患者へのリハビリテーション(河村孝幸)
27:NASH/NAFLDを有する肥満患者へのリハビリテーション(原田 卓)
column重複障害リハの現場から
チームワークを良くするコツ(上月正博)
重複障害の予後予測(辻村 淳)
「ことば」セラピーの重要性(上月正博)
リハとこころ〔木村(秋月)三奈〕
全人的ケア(高橋晴美)
消化器がん治療中に片麻痺?(小玉 岳)
ICU重症患者への運動療法(上月正博)
患児の成長とともに(新國悦弘)
付録
1.心機能関係指標正常値一覧
2.METs換算表
3.eGFR男女・年齢別早見表
4.標準失語症検査(SLTA)
5.高次脳機能検査法一覧
6.身体障害者障害程度等級表
7.介護保険制度における施設サービス
8.介護保険制度における在宅の要介護者等へのサービス
9.要介護認定の認定調査票(基本調査)
索引
第1章 重複障害のリハビリテーション総論
1.イントロダクション(上月正博)
2.重複障害の病態解釈と障害構造のとらえ方(佐藤房郎)
第2章 重複障害のリハビリテーションの基本
運動処方の基本と重複障害リハビリテーションの診療手順(上月正博)
第3章 重複障害のリハビリテーションの実際
1:視覚障害を有する心筋梗塞患者へのリハビリテーション(高橋 諒)
2:聴覚障害を有する呼吸障害患者へのリハビリテーション(鈴木文歌)
3:側弯変形を有する脳卒中患者へのリハビリテーション(佐藤房郎)
4:腎障害を有する脳卒中片麻痺患者へのリハビリテーション(辻村 淳)
5:呼吸障害を有する心不全患者へのリハビリテーション(新國悦弘)
6:腎不全を有する心不全患者へのリハビリテーション(木村(秋月)三奈)
7:肺高血圧症を有する心不全患者へのリハビリテーション(木村(秋月)三奈)
8:心不全・呼吸不全を有する超肥満患者へのリハビリテーション(高橋珠緒)
9:運動器疾患を有する心筋梗塞患者へのリハビリテーション(竹内雅史)
10:運動器疾患を有する末梢動脈疾患患者へのリハビリテーション(柿花隆昭)
11:呼吸障害を有する運動器疾患患者へのリハビリテーション(渡邉裕志)
12:補助人工心臓を有する脳卒中患者へのリハビリテーション(泉 香苗)
13:小児麻痺後遺症を有する乳がん・上肢リンパ浮腫患者へのリハビリテーション(高橋久美子)
14:僧帽弁形成術後の脳梗塞患者へのリハビリテーション(高橋晴美)
15:認知症を有する失語症患者へのリハビリテーション(遠藤佳子)
16:循環器疾患を有する失語症患者へのリハビリテーション(遠藤佳子)
17:運動器疾患を有する高次機能障害患者へのリハビリテーション(遠藤佳子)
18:リンパ浮腫を有するがん患者へのリハビリテーション(小玉 岳)
19:がんを治療中の運動器機能障害患者へのリハビリテーション(坪田 毅)
20:慢性肺疾患のため気管切開術を施行した早産・超低出生体重児へのリハビリテーション(齋藤悟子)
21:循環器疾患や呼吸器疾患などを有する関節拘縮患児へのリハビリテーション(齋藤悟子)
22:集中治療後症候群・フレイルを有する大動脈弁狭窄症患者へのリハビリテーション(竹内雅史)
23:下肢切断を合併した透析患者へのリハビリテーション(柿花隆昭)
24:摂食嚥下障害を有する呼吸障害患者へのリハビリテーション(國枝顕二郎,藤島一郎)
25:肝肺症候群患者へのorthodeoxiaを考慮したリハビリテーション(上月正博)
26:糖尿病を有する心筋梗塞患者へのリハビリテーション(河村孝幸)
27:NASH/NAFLDを有する肥満患者へのリハビリテーション(原田 卓)
column重複障害リハの現場から
チームワークを良くするコツ(上月正博)
重複障害の予後予測(辻村 淳)
「ことば」セラピーの重要性(上月正博)
リハとこころ〔木村(秋月)三奈〕
全人的ケア(高橋晴美)
消化器がん治療中に片麻痺?(小玉 岳)
ICU重症患者への運動療法(上月正博)
患児の成長とともに(新國悦弘)
付録
1.心機能関係指標正常値一覧
2.METs換算表
3.eGFR男女・年齢別早見表
4.標準失語症検査(SLTA)
5.高次脳機能検査法一覧
6.身体障害者障害程度等級表
7.介護保険制度における施設サービス
8.介護保険制度における在宅の要介護者等へのサービス
9.要介護認定の認定調査票(基本調査)
索引














