やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに
 リハビリテーション診療に限らず,医療現場には人名のついた病名,検査法,評価法,治療法が溢れている.解剖用語も同様である.いずれも発見や開発にかかわった人物に基づいて名付けられている.学生時代にはこれらを覚えるのに大変苦労したが,医師になり専門分野がある程度絞られてくると,繰り返しその用語を使うようになり,自然と身に付くようになった.しかしその人物についてはあまり詳しく知らないものがほとんどである.
 私が小児整形外科や障害児の診療を専門にしてしばらく経った1996年,東大整形外科の故黒川秀教授から勧められ,米国サンフランシスコで行われた24th Pediatric Orthopedic International Seminarに参加した.このセミナーは小児整形外科学のバイブルともいわれるTachdjian's Pediatric Orthopaedicsの編纂で有名なMihran O Tachdjian先生が主催するもので,彼に会えるだけでも私にとってとても貴重な経験であった.しかしこれに加えてセミナーの特別企画として,多発性先天性脱臼を呈する骨系統疾患の代表であるLarsen症候群を最初に報告したLoren Joseph Larsen先生による同症候群に関する講義があった.当時80歳を超えていたLarsen先生は,70歳近いTachdjian先生にサポートされて演台に登り,彼が報告した最初のLarsen症候群症例についてスライドを使って説明された.私はこの少し前から骨系統疾患の診療に深く携わることになり,Larsen症候群の患者さんも1,2名であるが経験していたので,Larsen先生による臨床所見,X線所見に関する詳細な記述と,これを1つの疾患概念として確立する過程の紹介に魅せられたのを覚えている.このように,後世病名などにその名を残すような人は,医学者,医療者として計り知れない努力をしていることが多く,その生き様は人々を惹きつけるものである.
 本書では,リハビリテーション医学・医療に関係する用語に名を残した人物を取り上げ,用語の起源を交えて解説した.執筆者は私の他,福岡大学病院リハビリテーション科の塩田悦仁先生,文京認知神経科学研究所の武田克彦先生,大分大学医学部整形外科学講座の津村 弘先生,労働者健康安全機構九州労災病院門司メディカルセンターの蜂須賀研二先生といったエキスパートの先生方である.それぞれの先生に専門性を活かして,各用語を担当していただいた.人名が付いている,付いていないにかかわらず,用語を使う際にオリジナルの文献に当たることは非常に大切であり,それを怠ると誤った使い方をしてしまう危険がある.すべての用語のオリジナルを知ることは現実的ではないが,頻用する用語についてはその起源を知り,最初の報告者の意図に沿った使い方を心掛けたいものである.本書がそのきっかけになれば幸いであり,皆様には肩の力を抜いて読んでいただきたい.
 2019年12月
 芳賀信彦
Alzheimer disease
Apgar score
Ashworth scale
Babinski reflex
Barthel index
Bobath method
Borg scale
Broca aphasia
Brodmann areas
Brunnstrom stage
Chaddock reflex
Charcot joint
Chopart disarticulation
Cobb angle
Codman exercise
Down syndrome
Duchenne muscular dystrophy
Frankel classification
Froment sign
Gerstmann syndrome
Hoehn-Yahr grading stage
Horner syndrome
Hugh-Jones classification
Katz index
Lasegue sign
Liepmann disease
Lofstrand crutch
Marfan syndrome
Parkinson disease
Phalen test
Ranvier's nodule
Schwann cell
Seddon classification
Syme amputation
Tinel sign
Trendelenburg sign
von Recklinghausen disease
Wallenberg syndrome
Wernicke aphasia
 索引