やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

序文
 わが国は歴史上で世界のどの国も経験したことのない超高齢社会となり,リハビリテーション(以下,リハ)対象の患者数は増加の一途をたどっています.リハとは,患者さんの身体的,精神的,社会的な自立能力の向上を目指す総合的なプログラムであり,障害の機能回復のみならず,生活機能向上,復職,家屋改造,介護負担の軽減,生活の質向上,再発予防などを含んだ広範なものです.リハ患者さんや家族は疾病,機能状態,予後,在宅生活や介護負担など広範な領域でさまざまな悩みや問題を抱えており,リハスタッフは,これらの問題に適切に対処して,リハ患者さんや家族の頼りになれることに大きな誇りとやりがいを感じています.
 しかし,リハスタッフが単独あるいは比較的少数で勤務する病院や施設も多くあります.そのため,リハスタッフが相談相手に恵まれず,診療や運営上でさまざまな問題に遭遇する際に「モヤモヤ」を抱えてしまうことが少なくありません.従来のリハに関する教科書や雑誌には,リハ技術やリハ医療情勢を知識として伝えるものはあっても,「モヤモヤ」に答えてくれるものには巡り合えませんでした.
 本書は,「JOURNAL OF CLINICAL REHABILITATION」(臨床リハ)誌に2010〜2013 年の4 年間にわたり連載した「リハ医のモヤモヤ解決! こんなときどうする?」を元にまとめたものです.診療・運営現場での具体的な「モヤモヤ」に対して,経験豊富なリハスタッフを執筆者とし,実例(成功例,あるいは失敗例)も織り込みながら,リハスタッフにその日から役立つ情報を伝授していただく斬新な試みとして多くの読者に好評を博しました.
 書籍化にあたり,リハビリテーション運営編,他科・他院交渉編,リハビリテーション形態変更編,スキルアップ編に分類,整理し,データや情報を最新のものに改めるとともに,テーマの最初にサマリーを記載することで,重要なポイントが一目でわかるようにしました.また,新たな項目も加えて一層充実したものとなりました.さらに,コラムにはオムニバス的に整形外科や内科など他科からリハ科に移った著名なリハ医の体験談や感想,「こんなリハ科医は嫌われる」に加えて,「いっしょにやりたいこんなドクター」などリハチーム医療で協働するスタッフの貴重な意見も収載しました.
 本書の企画にご賛同くださり,多忙な時間を割いて執筆をお引き受けくださった執筆者各位に心から謝意を表するとともに,企画,編集で何かと手を煩わせた医歯薬出版のCR編集部にも感謝します.
 本書は,リハ医,リハに興味のある他科医師のみならず,看護師,理学療法士,作業療法士,言語聴覚士,医療ソーシャルワーカーなどリハスタッフの日常臨床の現場での「モヤモヤ」の解決書として役立つとともに,本書をあらかじめ通読することで,「モヤモヤ」の発生を未然に防止する役割も果たせるように構成されています.執筆者各位から送られる明快な解答で,わが国におけるリハの現場での「モヤモヤ」を一気に吹き飛ばし, 患者さん・家族のみならず,リハスタッフの笑顔が輝く毎日になることに少しでも貢献できれば,編著者として望外の喜びです.
 2014 年5 月
 上月正博
I章 リハビリテーション運営編
 1 スタッフ募集がうまくいかない(下堂薗 恵)
 2 スタッフが定着しない(浅見豊子)
 3 リハビリテーション患者さんの意欲が乏しい(上出杏里,粳間 剛,安保雅博)
 4 スタッフ・療法士がついてこない(白倉賢二)
 5 設備・備品が乏しい(小山照幸)
 6 リハビリテーション科の経営を改善したい(藤島一郎)
 7 忙しいリハビリテーション医の業務を効率化させるには(石田健司)
 8 家庭との両立が難しい(大串 幹)
 9 (研修医の)リハビリテーション科希望者が少ない〔大森まいこ(松本真以子)〕
 10 リハビリテーションマインドを育てたい(万歳登茂子)
 11 コミュニケーションがうまくいかない(出江紳一)
 12 病院の接遇を改善したい―病院は医療で患者さんをもてなす現場(細野高志)
 13 病院のアメニティをよくしたい(近藤国嗣)
 14 患者さんの希望を断るときに上手に対応したい(坂田佳子)
 15 後遺症やリハビリテーションの終了を適切に説明したい(渡邉裕志)
II章 他科・他院交渉編
 1 他科医とうまくいかない(上月正博)
 2 他科との連携をよくしたい(森原 徹,長谷 斉・他)
 3 円満に転科したい(木村浩彰)
 4 大学病院とうまく連携したい(小山 聡,進藤順哉,丸山純一)
 5 ブログを設けたい(若林秀隆)
 6 リハビリテーション医仲間をつくりたい(道免和久)
III章 リハビリテーション形態変更編
 1 大学内に回復期リハビリテーション病棟を開設したい(今井晋二)
 2 リハビリテーション病院・リハビリテーション施設を新設したい(武居光雄)
 3 地域にリハビリテーションを根づかせたい(畑野栄治)
 4 急性期リハビリテーション病院に勤める準備をしたい(長谷川千恵子, 生駒一憲)
 5 回復期リハビリテーション病棟に勤める準備をしたい(小川美歌)
 6 リハビリテーション病院を併設したい(竹川節男)
 7 在宅ケアを中心に開業したい(森 英二)
 8 老健の管理医( 施設長) への就任を要請されたら(小林恒三郎)
 9 ビルでリハビリテーション科を開業したい(竜江哲培)
IV章 スキルアップ編
 1 リハビリテーション科専門医・リハビリテーション認定医になりたい(菊地尚久)
 2 運動器リハビリテーションを勉強したい(千田益生)
 3 心大血管リハビリテーションを勉強したい(牧田 茂)
 4 呼吸器リハビリテーションを勉強したい(前野 崇)
 5 内部障害リハビリテーションを勉強したい(伊藤 修)
 6 がんのリハビリテーションを勉強したい(辻 哲也)
 7 脳血管疾患等リハビリテーションを勉強したい(千葉春子, 生駒一憲)
 8 小児リハビリテーションを勉強したい(芳賀信彦)
 9 摂食・嚥下リハビリテーションを勉強したい(馬場 尊)
 10 社会(支援)制度に精通したい(高岡 徹)
 11 患者さんのデータ管理をうまくしたい(近藤克則)
 12 研究テーマをうまくみつけたい(赤居正美)

 Column
  こんなリハ医は嫌われる―15 の条件(上月正博)
  一緒にやりたいこんなドクター“いいドクター,困ったドクター”〜療法士より(高橋哲也)
  現場でのマナー(上月正博)
  ご意見番窓口からのメッセージ(上月正博)
  患者さんから暴力・暴言などを受けた場合(上月正博)
  リハ, リハ医, リハ専門医, リハ認定医は一心同体か(上月正博)
  リハを包括的に本当に行っているか(上月正博)
  リハ医がもっと幸せになるには(上月正博)
  生活の質をみているか(上月正博)
  生命予後を延ばすことを考えているか(上月正博)
  内科医へリハ科・日本リハ医学会への参入を呼び掛けるメッセージ(上月正博)
  整形外科医からリハ医に転向して思うこと(芳賀信彦)
  内科からリハ科に移った体験談―なぜ私はリハを専門とするようになったか(牧田 茂)
  神経内科からリハビリテーション科へ(生駒一憲)
  内科からリハ科に移った医師の体験談(伊藤 修)
  心臓外科からリハ科に転向した医師のひとり言(小松恒弘)
  日本の医療・リハが世界をリードする―欧米医療モデルはもはや見本にならない!(上月正博)

 索引