序
EBM(evidence-based medicine:根拠に基づく医療)の考え方がわが国に紹介されて数十年が経過し,EBP(evidence-based practice:根拠に基づく実践)が各領域で展開されてきました.近年,治療の標準化の観点から,EBMの手法に基づいた診療ガイドラインやクリニカルパスなどが作成されてきており,日常の臨床場面においても「診療ガイドラインでは…」という会話を耳にすることが増えてきました.
「診療ガイドラインで推奨されているから長下肢装具を作成して,歩行練習をしましょう!」
この発言は一見,非常に適切な臨床決断にみえますが,実際はどうでしょう.「長下肢装具を本当に使い切れるのでしょうか?」「長下肢装具じゃないとだめでしょうか?」「短下肢装具では無理なのでしょうか?」と疑問がわきます.診療ガイドラインに従って臨床行為を展開していくことは当然の流れかもしれませんが,診療ガイドラインは拘束力をもつ文書ではありませんし,診療ガイドラインが適用できないこともあることを理解したうえで臨床決断を図ることが必要になります.診療ガイドラインは,根拠の質,対象者の価値観や益と害,資源などを加味して推奨度を提示している文書です.しかし同時に,臨床決断を行ううえでの手助けをする文書にほかなりません.これらのことを理解しておくことは診療ガイドラインを活用するためにも非常に大切なことです.「診療ガイドラインに記載されているから問題がない」というのではなく,診療ガイドラインに記載されているが,目の前の対象者に適用しても問題ないかを確認することが求められます.そして,診療ガイドラインを参考にしつつも,それ以外の研究結果等も参考にして,対象者とともに意思決定を共有していくことが重要なのです.
診療ガイドラインを誤解することなく,的確に使えるユーザーとなるためには,診療ガイドラインについて正しく理解すること,さらに,実際に診療ガイドラインを適用する場合の注意点や適用できない場合の対応等について,実例をとおして理解を深めることが必要だと感じてきました.そこで,診療ガイドラインについて理解を深めていただくことを目的とした書籍が必要ではないかと考え,本書を企画するにいたりました.
本書では,診療ガイドラインとはどのようなものかという点と,診療ガイドラインのもとになる研究を批判的に吟味するための基礎知識について最初に解説し,そのうえで,診療ガイドラインの作成過程,診療ガイドラインの質評価,診療ガイドライン活用の実際について解説しています.本書を読み解いていただき,日々の臨床において,診療ガイドラインを的確に活用し,対象者と適切な意思決定の共有(shared decision making:SDM)が展開されることを期待しています.
2017 年4 月
編者を代表して
日 正巳
EBM(evidence-based medicine:根拠に基づく医療)の考え方がわが国に紹介されて数十年が経過し,EBP(evidence-based practice:根拠に基づく実践)が各領域で展開されてきました.近年,治療の標準化の観点から,EBMの手法に基づいた診療ガイドラインやクリニカルパスなどが作成されてきており,日常の臨床場面においても「診療ガイドラインでは…」という会話を耳にすることが増えてきました.
「診療ガイドラインで推奨されているから長下肢装具を作成して,歩行練習をしましょう!」
この発言は一見,非常に適切な臨床決断にみえますが,実際はどうでしょう.「長下肢装具を本当に使い切れるのでしょうか?」「長下肢装具じゃないとだめでしょうか?」「短下肢装具では無理なのでしょうか?」と疑問がわきます.診療ガイドラインに従って臨床行為を展開していくことは当然の流れかもしれませんが,診療ガイドラインは拘束力をもつ文書ではありませんし,診療ガイドラインが適用できないこともあることを理解したうえで臨床決断を図ることが必要になります.診療ガイドラインは,根拠の質,対象者の価値観や益と害,資源などを加味して推奨度を提示している文書です.しかし同時に,臨床決断を行ううえでの手助けをする文書にほかなりません.これらのことを理解しておくことは診療ガイドラインを活用するためにも非常に大切なことです.「診療ガイドラインに記載されているから問題がない」というのではなく,診療ガイドラインに記載されているが,目の前の対象者に適用しても問題ないかを確認することが求められます.そして,診療ガイドラインを参考にしつつも,それ以外の研究結果等も参考にして,対象者とともに意思決定を共有していくことが重要なのです.
診療ガイドラインを誤解することなく,的確に使えるユーザーとなるためには,診療ガイドラインについて正しく理解すること,さらに,実際に診療ガイドラインを適用する場合の注意点や適用できない場合の対応等について,実例をとおして理解を深めることが必要だと感じてきました.そこで,診療ガイドラインについて理解を深めていただくことを目的とした書籍が必要ではないかと考え,本書を企画するにいたりました.
本書では,診療ガイドラインとはどのようなものかという点と,診療ガイドラインのもとになる研究を批判的に吟味するための基礎知識について最初に解説し,そのうえで,診療ガイドラインの作成過程,診療ガイドラインの質評価,診療ガイドライン活用の実際について解説しています.本書を読み解いていただき,日々の臨床において,診療ガイドラインを的確に活用し,対象者と適切な意思決定の共有(shared decision making:SDM)が展開されることを期待しています.
2017 年4 月
編者を代表して
日 正巳
序文(日正巳)
第1章 EBMと診療ガイドライン(藤本修平)
EBMの成り立ちとエビデンスの3 つの側面
診療ガイドラインを用いたヘルスコミュニケーションへ
診療ガイドラインとは
診療ガイドラインの役割について
診療ガイドラインと治療への患者参加
診療ガイドラインの質と普及
第2章 エビデンスの評価と批判的吟味に必要な知識
1 研究デザイン・エビデンスレベルとは(藤本修平,今 法子)
リハビリテーション分野における研究デザインの必要性
研究デザイン総論
エビデンスレベルとエビデンス総体
ビッグデータ時代におけるエビデンスレベルの意味と観察研究の重要性
2 診断検査の研究を解釈するうえで必要な知識(紙谷 司)
診断検査とは
検査の有用性の評価について
診断検査の研究におけるバイアス
リハビリテーション領域における診断検査の研究の例と解釈について
診断検査の研究の評価ツール
3 介入研究を解釈するうえで必要な知識(竹林 崇)
介入研究とは
ランダム化比較試験における交絡とは
ランダム化比較試験における盲検化とその限界
ランダム化比較試験を読む際に気をつけること
4 横断研究,コホート研究,ケース・コントロール研究を解釈するうえで必要な知識(廣江貴則)
横断研究
縦断研究
論文を読む際に注意すべきこと
さらに質問紙設計や統計解析の手法を詳しく学びたい方へ
5 メタアナリシス,システマティックレビューを解釈するうえで必要な知識(杉田 翔)
はじめに
システマティックレビューとメタアナリシスの意義
システマティックレビュー,メタアナリシスにおいて生じるバイアス
研究の異質性について
メタアナリシスを読むうえで知っておくべき指標
バイアス評価について
システマティックレビューとメタアナリシスの質の評価
6 症例報告(ケースシリーズを含む),ナラティブレビューを解釈するうえで必要な知識(小向佳奈子)
症例報告の役割
シングルケースデザインの解釈に必要な分析方法の知識
ナラティブレビューの特徴と臨床応用の危険性について
これから症例報告を行う人へ
7 質的研究を解釈するうえで必要な知識(大浦智子)
質的研究と混合法の紹介
質的研究のエッセンスと混合法の論文を解釈するうえで必要な知識
ナラティブ情報を臨床にどのように活かすか
第3章 診療ガイドラインの基礎知識
1 診療ガイドラインと作成過程の実際(大寺祥佑,藤本修平)
診療ガイドライン作成の意義
診療ガイドラインの作成方法・総論
まとめ
2 診療ガイドラインの質評価について(佐々木 祥,藤本修平)
診療ガイドラインの質評価とは
診療ガイドラインの質評価指標
第4章 診療ガイドラインの活用法
1 診療ガイドラインとshared decision making(SDM)(藤本修平,今 法子,尾川達也)
診療ガイドラインとヘルスコミュニケーションとしてのSDM
SDMとは
SDMの方法論
SDMの評価指標
Decision Aidsとその役割をもつ診療ガイドラインについて
診療ガイドラインをもとにSDMで何を共有するか
2 教育における診療ガイドラインの活用法(日正巳)
はじめに
診療ガイドラインの概要理解を促進するための教育
学内教育における診療ガイドラインの教育的活用法
臨床教育における診療ガイドラインの教育的活用法
3 エビデンスと診療ガイドラインの活用の実際
脳卒中(ADL向上)(中村 学)
脳卒中(歩行の回復)(酒井克也)
神経難病(筋萎縮性側索硬化症)(有明陽佑)
下肢重度外傷(荒木浩二郎)
整形疾患(坪内優太)
腰痛予防・産業理学療法(福谷直人)
心不全(小久保 徹)
慢性腎不全(小久保 徹)
地域リハビリテーション(尾川達也)
褥瘡(吉川義之)
嚥下障がい(福岡達之)
双極II型障がい(稲富宏之,田中宏明,芳賀大輔)
日本語索引
外国語索引
第1章 EBMと診療ガイドライン(藤本修平)
EBMの成り立ちとエビデンスの3 つの側面
診療ガイドラインを用いたヘルスコミュニケーションへ
診療ガイドラインとは
診療ガイドラインの役割について
診療ガイドラインと治療への患者参加
診療ガイドラインの質と普及
第2章 エビデンスの評価と批判的吟味に必要な知識
1 研究デザイン・エビデンスレベルとは(藤本修平,今 法子)
リハビリテーション分野における研究デザインの必要性
研究デザイン総論
エビデンスレベルとエビデンス総体
ビッグデータ時代におけるエビデンスレベルの意味と観察研究の重要性
2 診断検査の研究を解釈するうえで必要な知識(紙谷 司)
診断検査とは
検査の有用性の評価について
診断検査の研究におけるバイアス
リハビリテーション領域における診断検査の研究の例と解釈について
診断検査の研究の評価ツール
3 介入研究を解釈するうえで必要な知識(竹林 崇)
介入研究とは
ランダム化比較試験における交絡とは
ランダム化比較試験における盲検化とその限界
ランダム化比較試験を読む際に気をつけること
4 横断研究,コホート研究,ケース・コントロール研究を解釈するうえで必要な知識(廣江貴則)
横断研究
縦断研究
論文を読む際に注意すべきこと
さらに質問紙設計や統計解析の手法を詳しく学びたい方へ
5 メタアナリシス,システマティックレビューを解釈するうえで必要な知識(杉田 翔)
はじめに
システマティックレビューとメタアナリシスの意義
システマティックレビュー,メタアナリシスにおいて生じるバイアス
研究の異質性について
メタアナリシスを読むうえで知っておくべき指標
バイアス評価について
システマティックレビューとメタアナリシスの質の評価
6 症例報告(ケースシリーズを含む),ナラティブレビューを解釈するうえで必要な知識(小向佳奈子)
症例報告の役割
シングルケースデザインの解釈に必要な分析方法の知識
ナラティブレビューの特徴と臨床応用の危険性について
これから症例報告を行う人へ
7 質的研究を解釈するうえで必要な知識(大浦智子)
質的研究と混合法の紹介
質的研究のエッセンスと混合法の論文を解釈するうえで必要な知識
ナラティブ情報を臨床にどのように活かすか
第3章 診療ガイドラインの基礎知識
1 診療ガイドラインと作成過程の実際(大寺祥佑,藤本修平)
診療ガイドライン作成の意義
診療ガイドラインの作成方法・総論
まとめ
2 診療ガイドラインの質評価について(佐々木 祥,藤本修平)
診療ガイドラインの質評価とは
診療ガイドラインの質評価指標
第4章 診療ガイドラインの活用法
1 診療ガイドラインとshared decision making(SDM)(藤本修平,今 法子,尾川達也)
診療ガイドラインとヘルスコミュニケーションとしてのSDM
SDMとは
SDMの方法論
SDMの評価指標
Decision Aidsとその役割をもつ診療ガイドラインについて
診療ガイドラインをもとにSDMで何を共有するか
2 教育における診療ガイドラインの活用法(日正巳)
はじめに
診療ガイドラインの概要理解を促進するための教育
学内教育における診療ガイドラインの教育的活用法
臨床教育における診療ガイドラインの教育的活用法
3 エビデンスと診療ガイドラインの活用の実際
脳卒中(ADL向上)(中村 学)
脳卒中(歩行の回復)(酒井克也)
神経難病(筋萎縮性側索硬化症)(有明陽佑)
下肢重度外傷(荒木浩二郎)
整形疾患(坪内優太)
腰痛予防・産業理学療法(福谷直人)
心不全(小久保 徹)
慢性腎不全(小久保 徹)
地域リハビリテーション(尾川達也)
褥瘡(吉川義之)
嚥下障がい(福岡達之)
双極II型障がい(稲富宏之,田中宏明,芳賀大輔)
日本語索引
外国語索引

















