やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

まえがき
 MMT(manual muscle testing:徒手筋力検査)は,人間のさまざまな自動的な関節運動を実現させている筋肉が発揮する力を客観的に量的に評価できる方法として発展を遂げ,医療系職種の人々によって臨床現場では頻繁に用いられています.とりわけ理学療法士や作業療法士は,医療現場はもとより介護保険下の現場まで多岐にわたって活躍の場を広げており,それぞれの現場において患者さんや高齢者の筋力を評価する際には,必ずといってよいほどMMTが用いられています.
 かくいう私は理学療法士であり,学生時代は四苦八苦しながらMMTの学習をしたと記憶しています.そして,臨床実習に出てから初めて実際の患者さんに対してMMTを用い,この筋力測定法が持ち合わせている多大なる長所とともに,いくつかの短所を実感したものでした.あれから15年以上の時が流れて私は現在,教育機関において理学療法士や作業療法士を志す若者に対して講義を行う立場となり,MMTの授業を担当しています.そして,MMTは定期的に改訂が加えられており,現在の教科書は私が学生時代に用いていたテキストの倍以上の分厚さに発展し,複雑さを増しています.学生達に対してMMTの教育を行うなかで頻繁に見受けられることは,「MMTの学習は非常に“つらいこと”と感じている学生が多い」ということです.私自身の学生時代を振り返ってみると,現在の半分以下のページ数の教科書であるにもかかわらず,恥ずかしながらMMTの学習を“つらい”とか“面倒くさい”と感じていたと鮮明に記憶しております.
 MMTの学習を考えたとき,まず基本的な知識として「筋肉の日本語名と英語名」「筋肉の起始部と付着部」「支配神経と髄節レベル」が必要となります.次に,実際の実技では「口頭指示」「抵抗のかけ方」「筋肉の触診」「代償動作の見抜き方」「変法」など,マスターすべき事柄は山積しています.当然のことながら,“MMT嫌い”の学生が発生し,なかにはMMTの知識や技術に対して不安を抱えた状態のままで臨床実習に出ていく学生も案外と見受けられます.
 このような状況を少しでも打開したいと考え,私どもは本書の製作を手がけました.本書『新版 目でみるMMT』は,2010年に刊行した2冊の本,『目でみるMMT下肢』と『目でみるMMT頭部・頸部・体幹・上肢』をひとつにまとめて最新の内容にリニューアルしたものですが,基となった2冊の製作にかかわったスタッフのほとんどは理学療法士を志す現役大学生であり,あくまでも学生目線で製作された背景があります.以下は本書の特徴です.
 ・測定手順が「連続性のある画像」で表現されており,読者は測定手順を眼で追いながら確認することができます.この連続した画像を繰り返し眺めることによって,測定手順のリアルなイメージを記憶することができます.
 ・1つの運動における段階5(normal:正常)〜段階0(zero:不可)までの評価に関する「6段階すべての流れ」が見開き2ページ内に掲載されています.
 MMTには数多くの測定手順が存在していますが,この見開きページを繰り返し眺めることによって,多数存在する測定手順の「流れ」をスピーディーに確認することができます.
 ・付録1には「筋の英語名の暗記法」を紹介しました.ぜひ活用してみてください.
 ・付録2では「肢位別MMTの“検査イメージ”」を即座に確認できる表を準備しました.被検者の肢位はどれか?検者の立ち位置はどうか?抵抗を加えるのはどこの部分か?など,必ず確認しておくべき重要事項です.MMTの実技試験における直前の確認,臨床実習における事前の自己学習の強い味方となってくれるでしょう.
 ・付録3には重要暗記事項を一覧表にしています.MMTの試験対策に活用してもよし,臨床実習前日に活用してもよし,国家試験で活用してもよし,覚えづらいというMMTへの嫌悪感克服の一助にしてください.
 ・本書では,マスターすべきポイントを赤字で示しています.覚えたい部分を必要に応じて赤色のクリアシートで覆い隠して自己学習に役立ててください.
 ・文章中で用いられている運動名や筋名などの言葉は,できうる限り一般的・普遍的に用いられていると判断できるものを採用し,日本整形外科学会および日本リハビリテーション医学会が公表している資料・先行文献や図書などを参考として掲載しております.
 2010年に刊行した2冊の本,『目でみるMMT下肢』と『目でみるMMT頭部・頸部・体幹・上肢』を製作するうえでのコンセプトは「学生による学生のためのMMT」でした.その改訂版ともいえる本書『新版 目でみるMMT』も当初のコンセプトはそのまま継続しつつ,最新のMMTの手順に準拠した内容になっています.従来から存在しているgold standardの教科書に加え,サブ・テキストとして本書を用いることによって皆様の効率的なMMTの自己学習が実現することを心より願ってやみません.
 2015年8月
 佐藤三矢
 まえがき
 患者さんへの説明の仕方
1.頭部 伸展
2.頸部 伸展
 2-1.頸部 伸展
 2-2.頸部 複合伸展
3.頭部 屈曲(頭前屈)
4.頸部 屈曲
 4-1.頸部 屈曲
 4-2.頸部 複合屈曲
 4-3.一方の胸鎖乳突筋だけを分離観察するための複合屈曲
5.頸部 回旋
6.体幹 伸展
 6-1.体幹 伸展(腰椎部)
 6-2.体幹 伸展(胸椎部)
7.骨盤 挙上
8.体幹 屈曲
9.体幹 回旋
10.肩甲骨 外転と上方回旋
11.肩甲骨 挙上
12.肩甲骨 内転
13.肩甲骨 下制と内転
14.肩甲骨 内転と下方回旋
15.肩甲骨 下制
16.肩関節 屈曲(前方挙上)
17.肩関節 伸展(後方挙上)
18.肩甲平面挙上
19.肩関節 外転(側方挙上)
20.肩関節 水平外転
21.肩関節 水平内転
22.肩関節 外旋
23.肩関節 内旋
24.肘関節 屈曲
25.肘関節 伸展
26.前腕 回外
27.前腕 回内
28.手関節 屈曲
29.手関節 伸展
30.手指の運動
31.股関節 屈曲
32.股関節 屈曲・外転・膝関節屈曲位での外旋
33.股関節 伸展
 33-1.股関節 伸展(股関節全伸展筋群の総和テスト)
 33-2.股関節 伸展(大殿筋単独)
 33-3.股関節 伸展(股関節屈曲拘縮がある場合)
 33-4.股関節 伸展(背臥位でのテスト)
34.股関節 外転
35.股関節 屈曲位からの外転
36.股関節 内転
37.股関節 外旋
38.股関節 内旋
39.膝関節 屈曲(膝屈筋群の総合力)
40.膝関節 伸展
41.足関節 底屈
42.足関節 背屈ならびに内がえし
43.足の内がえし
44.足の底屈を伴う外がえし

 付録1 「筋の英語名」暗記法
 付録2 肢位別MMTのイメージ
 付録3 運動と筋に関する重要暗記事項