やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

序文
 現在,わが国では,高齢化社会の到来によって慢性呼吸器疾患患者数が増加し,呼吸リハビリテーション(呼吸リハ)や呼吸ケアは欠かすことのできない医療介入となっている.さらに,呼吸器疾患の多様性に対応するために,国内外において診療ガイドラインの改訂が常に行なわれており,医療従事者には患者の管理や治療に関して即応性や柔軟性が求められている.
 2013年10月,米国胸部疾患学会(ATS)と欧州呼吸器学会(ERS)の呼吸リハに関する国際的ステートメントが7年振りに大きく改訂された.この中で呼吸リハは「徹底した患者のアセスメントに基づいた包括的な医療介入に引き続いて,慢性呼吸器疾患患者の身体および心理的な状況を改善し,長期の健康増進に対する行動のアドヒアランスを促進するために患者個々の必要性に応じた治療が行なわれるものである」と新しく定義され,オーダーメイドの医療介入の重要性が強調された.また,慢性閉塞性肺疾患(COPD)においては,増悪の予防に関するアクション・プランに始まり,患者教育,自己管理,呼吸リハ,包括的ケアというように,今後あるべき呼吸リハの管理・治療指針の方向性も示された.
 身体活動とは,日常生活活動と運動を合わせたものである.COPD患者では軽症であっても日常生活における身体活動が低下しており,近年,身体活動は生存率とも深く関連していることが明らかになってきている.こうしたことから,身体活動の向上が喫緊の課題となっており,上述のATS/ERSステートメントにおいても重要な柱として位置づけられている.
 診療ガイドラインが次々と改訂されるこのような状況において,改訂のスピードに遅れないようにするために,本書では,まず,最新の診療ガイドラインを紹介した.そして,身体活動の評価および向上について言及し,今後,取り組むべき呼吸リハの方向性に関して最先端の情報を提供するように試みた.最新のガイドラインとその潮流を示したのち,身体活動の重要性を説明し,続いて新しい患者教育のあり方について概説してから,最後に疾患別の呼吸リハと具体的な包括的ケアを提示するという構成である.疾患別の呼吸リハおよび包括的ケアの項では,まず,具体的な臨床例を提示し,続いてそれぞれの疾患に対する呼吸ケア・リハの実践的な解説を行なっている.現在,呼吸ケア・リハの現場にいる方々は,自分の興味のある分野の実践編から読んで頂いても十分に役立つ内容であると自負している.
 本書は,現在,呼吸ケア・リハにおける臨床の各専門領域で活躍している新進気鋭の先生方を中心にお願いした結果,全体で45人という大執筆陣となった.このような本書の編集に際しては医歯薬出版の戸田健太郎氏には多大なる尽力を頂いた.心から感謝を申し上げたい.
 本書が明日からの呼吸ケア・リハの実践に役立ち,この分野の発展に少しでも寄与できるのであれば,著者らの望外の喜びである.
 2014年10月
 塩谷隆信
 高橋仁美
 編著者一覧
 序文

第1章 呼吸リハビリテーションと身体活動
 1.呼吸リハビリテーションの潮流(塩谷隆信)
  (1)呼吸リハと統合ケアの概念
  (2)呼吸リハの構成と科学的エビデンス
  (3)呼吸リハのプログラムとその効果
 2.身体活動
  (1)身体活動と日常生活活動(塩谷隆信)
  (2)身体不活動と全身併存症(塩谷隆信)
  (3)身体活動とサルコペニア(菅原慶勇)
  (4)身体活動の評価(川越厚良)
 3.患者教育(桂 秀樹)
第2章 疾患別呼吸リハの実際
 1.慢性閉塞性肺疾患(COPD)(江田由香理)
 2.慢性閉塞性肺疾患(COPD)の急性増悪(宮崎慎二郎)
 3.特発性間質性肺炎(小川智也)
 4.気管支喘息(石川 朗)
 5.肺癌(岡山太郎)
 6.嚥下障害,誤嚥性肺炎(都築 晃,水谷公司,加賀谷斉)
 7.脳血管障害(今川英俊)
 8.心不全(熊丸めぐみ)
 9.肺高血圧症(稲垣 武)
 10.神経筋疾患(小児)(三浦利彦)
 11.神経筋疾患(成人)(宮川哲夫,小西かおる)
 12.頸髄損傷(本間優希)
 13.無気肺(横山仁志)
 14.肺移植(玉木 彰)
 15.胸部外科手術後(山下康次)
 16.上腹部外科手術後(瀬崎 学)
 17.急性呼吸促迫症候群(ARDS)(花田匡利,神津 玲)
第3章 包括的ケア
 1.薬物療法
  (1)肺癌(佐藤一洋)
  (2)慢性呼吸不全(浅野真理子,須藤和久)
  (3)COPD/喘息(佐野正明)
 2.吸入指導(駒瀬裕子)
 3.酸素療法(石原英樹)
 4.運動療法と理学療法(佐竹將宏)
 5.作業療法(岩井晶子)
 6.栄養療法と栄養指導(塩谷隆信,山田公子)
 7.通所呼吸リハ(津田 徹,津田雅子,加賀美由旗,金田瑠美)
 8.慢性期NPPV(阿部博樹)
 9.在宅呼吸ケア(中田隆文)
 10.在宅療養支援診療所(武知由佳子)
 11.訪問ケア・リハ(長濱あかし)
 12.誤嚥ケア・リハ(井上登太)
 13.喀痰吸引(伊藤登茂子)

 索引

 COLUMN
  #001 COPD患者への歩数増加の促進は全身性炎症改善に寄与する可能性がある(高橋仁美)
  #002 急性増悪の発症には運動耐容能,栄養状態が強く関係(高橋仁美)
  #003 間質性肺疾患患者に対する呼吸リハビリテーションの効果(高橋仁美)
  #004 NHCAP(医療・介護関連肺炎)という概念(加賀谷斉)
  #005 本邦初の,神経筋疾患・脊髄損傷に対する呼吸リハビリテーションガイドライン(高橋仁美)
  #006 ABCDEバンドルとは(高橋仁美)
  #007 COPDにおける栄養補助食品(山田公子)
  #008 ノルディック・ウォークによる呼吸リハの効果(高橋仁美)