訳者の序
英国の名門Cambridge大学のR.H.Whitaker,N.R.Borley両先生によって,1994年に初版が著されてから幾度もの改訂を重ねる名著,“Instant Anatomy”は,英国を中心に欧米の研修医,医療系学生やコメディカルスタッフなどに定評のある解剖学参考書である.ここに待望の日本語版をお届けすることとなった.
原著者らは,長年にわたる臨床現場の第一線で活躍した経験をもとに,解剖学の初学者にとっては学習のまとめとなる参考書として,また,解剖学をすでに学んだ医学生や研修医にとっては臨床の研鑽を積む上で必要な解剖学的知識の復習に携帯できる参考書として,原著を世に送り出した.そのなかには,他の解剖学書にない斬新でユニークな編集によって,解剖学的知識を大胆なシェーマで簡潔に示し,見開きページのテキストで臨床にも役立つ解剖学的な情報を補うといった工夫が数多く散りばめられていた.訳者も初めて原著を手にして脳神経の図を見たときに,まるで東京の地下鉄路線図のように神経線維の走行が可視化されていることに驚嘆したものである.そこで,原著をぜひ日本語にして多くの医療系学生や医療関係者の皆さんに紹介したいと考え,このたび,医歯薬出版の多大なるご協力によってようやく上梓することができた.
本書の日本語訳にあたっては,日本の解剖学教育の実情に照らして,原著をより実用的な参考書として日本語化することが原著者らの望むところであると考え,原著にある独特の表現などを日本の初学者にも理解しやすいように出来る限り意訳しわかりやすくまとめた.また,図版や表などについても原著の版元であるBlackwell社のご好意とご理解のもとに日本の医学教育に沿うように適宜修正し,編集上の工夫を盛り込んで原著の再構成を試みた.このような日本語版の制作にあたっては,誤りの無いように細心の注意を払って臨んだが,万一わかりにくいところや不備などがあれば訳者の責である.ご指摘いただければ幸いである.日本語化の工夫によって,原著の斬新な魅力を日本の読者の皆様に伝えた上で,読者の皆様が実用的に携帯できる一冊として本書を活用していただければと心から願っている.
最後に,翻訳にあたっては東京医科大学の樋口要先生に下原稿のまとめをお手伝いいただいた.また,元筑波大学のAndrei Maria Stefana先生に翻訳上の助言をいただいた.両先生のご助力に御礼を申し上げたい.そして,遅筆の訳者のペースメーカとして,絶えず本書の進行を見守り,原書版元への修正連絡などご尽力を頂いた医歯薬出版編集部の戸田健太郎氏に心から感謝する.
2013年8月 樋口 桂
原著第3版の序
第2版を上梓してから,多くの医学部卒業生やMRCS試験通過者の解剖学的な知識の水準が顕著に下がってきている.学習すべき新しい知識が増えている他の科目に圧迫されているというのはひとつの要因だと考えられるが,「解剖学はもはや,かつてほど重要でなくなった」と多くの人が感じていることも,別の要因の背景としてあるだろう.しかし,解剖学は医学における言語であること,そしてどんなにシンプルな臨床診査であっても解剖学の基礎の理解を当然の前提としていることを考慮すれば,そのような心構えは納得できるものではない.学生の知識のレベルを適切なレベルに保ち,理解しやすく簡潔な形で教材を提供することが,我々解剖学教育者の責務だと考えている.
我々がこの本で目指しているのは,初版からずっと,解剖学を学習する学生に,使い勝手が良く,素早く参照できる本を提供することである.この第3版では,項目を選り抜いて体表解剖の章を追加した.項目の選択は,臨床において一般的に取り扱う内容,あるいは各種テストに際して学生から頻繁に質問を受ける内容を基準としている.また,いくつかの新しいイラストを必要な箇所に追加した.
ご意見やご指摘はこれからもいつでも受け付けたい.正しく明確な解剖学の知識を学習しそれを享受する人の間で,この第3版も引き続き評価されるものと信じている.
ROBERT WHITAKER
NEIL BORLEY
Cambridge and Cheltenham,2005
原著第2版の序
我々にとってこの本の成功はうれしい驚きであり,とくにこの本に対して建設的な意見を提供してくれた学生や同僚に深い感謝の意を表したい.内容的な誤りや誤表記,脱落などが当初はいくつかあったのだが,この機会にそれらのほとんどが訂正できたと思っている.
「それぞれの筋をイラストで図示してはどうか」,という意見はあったが,その誘惑には応えなかった.そもそも,そういった情報は他のページ数の多いテキストに載っており,なによりも,学生の間で評価されている本書の「コンパクトさ」が損なわれるのではないかと考えた.しかし一方で,自律神経系の章では,とくに頭部,頸部,腹部などの面で拡充を図った.なぜなら,自律神経系の内容は多くの学生にとっていまだに疑問に満ちた領域だと考えたからである(ここだけに限らないかもしれないが).いうまでもなく,これらの内容は,神経学の基礎・腹部の診察などにおいて,臨床的にとても重要である.海綿静脈洞の図に関しては,我々が多用している側面図を加えた.このことによって,すべての教科書で慣例的に使われている冠状断の視点だけの図よりも多くの要素が加わり,この重要な領域についての理解が高まると考える.人によっては,あまり重要だとされないような解剖学の内容も大きく取り上げていることを批判されるかもしれない.しかしあえてそうしたのは,学生にとってこのような内容を理解する難しさや,他のテキストからこの内容の概要を見つけ出す困難さを我々は強く認識しているからである.
近年の必修科目に対する考え方の変化や外科研修医の教育プログラムの組み方によって,解剖学教育の範囲が制限されているなかで,我々はこれからも高い水準を保って解剖学を教えていく決心している.
若い外科医達にとってこの第2版が便利なテキストだけではなく,インスピレーション源になることを願っている.
ROBERT WHITAKER
NEIL BORLEY
Cambridge and Oxford,2000
原著初版の序
動脈や神経の道筋を調べようと有名な解剖学のテキストを開いても,その情報はいくつかの章に分散していて,要約のようなものは載っていないことに頭を悩ませた経験はないだろうか?そういうときは,素早く参照できて,すべての事項が簡潔に示されている辞書のような本があればいいのに,と思うはずだ.
我々は,そのような簡潔かつ素早く使える本を製作したいと考えた.もちろん,この本は解剖学をゼロから学ぶためのテキストではなく,もっと中身の詰まった長期間にわたって活用できるテキストへの橋渡しとして位置づけていることは強調しておきたい.本書は,既に解剖学の実質的な知識をいくらか身につけており,確認したいことを正確に,素早く調べたいという人のために設計されている.
筆者は両者ともつい最近まで大学院で解剖学を学んでいた学生であり,医学部の学部生に解剖学を教えていた立場でもある.その学生,筆者本人の両方が対面した問題が記憶に新しい.この本は,その記憶・考えを踏まえて書かれている.
主に医学部生および大学院で外科を学んでいる将来の外科医向けにこの本を考案している.これら両グループの人にとって本書はよく適したものとなるであろう.しかし,経歴に関わらず,経験をつみながら解剖学的な事項の再確認を必要とする臨床医や,看護師,理学療法士,臨床放射線技師など他の専門職種においても大いに利用してもらいたいと考えている.
このサイズの本なので,必然的に掲載する事項はある程度精選しており,他の大書に書かれているようなあまりに細かい点は提示しない方針をとっている.
筆者のオリジナルの図版は,医学系イラストレーターのJane Fallowsによるグラフィックプログラムで描き直しが施されている.彼女の技術と忍耐に対して,限りなく深い感謝の意を表したい.
ROBERT WHITAKER
NEIL BORLEY
Cambridge,1994
英国の名門Cambridge大学のR.H.Whitaker,N.R.Borley両先生によって,1994年に初版が著されてから幾度もの改訂を重ねる名著,“Instant Anatomy”は,英国を中心に欧米の研修医,医療系学生やコメディカルスタッフなどに定評のある解剖学参考書である.ここに待望の日本語版をお届けすることとなった.
原著者らは,長年にわたる臨床現場の第一線で活躍した経験をもとに,解剖学の初学者にとっては学習のまとめとなる参考書として,また,解剖学をすでに学んだ医学生や研修医にとっては臨床の研鑽を積む上で必要な解剖学的知識の復習に携帯できる参考書として,原著を世に送り出した.そのなかには,他の解剖学書にない斬新でユニークな編集によって,解剖学的知識を大胆なシェーマで簡潔に示し,見開きページのテキストで臨床にも役立つ解剖学的な情報を補うといった工夫が数多く散りばめられていた.訳者も初めて原著を手にして脳神経の図を見たときに,まるで東京の地下鉄路線図のように神経線維の走行が可視化されていることに驚嘆したものである.そこで,原著をぜひ日本語にして多くの医療系学生や医療関係者の皆さんに紹介したいと考え,このたび,医歯薬出版の多大なるご協力によってようやく上梓することができた.
本書の日本語訳にあたっては,日本の解剖学教育の実情に照らして,原著をより実用的な参考書として日本語化することが原著者らの望むところであると考え,原著にある独特の表現などを日本の初学者にも理解しやすいように出来る限り意訳しわかりやすくまとめた.また,図版や表などについても原著の版元であるBlackwell社のご好意とご理解のもとに日本の医学教育に沿うように適宜修正し,編集上の工夫を盛り込んで原著の再構成を試みた.このような日本語版の制作にあたっては,誤りの無いように細心の注意を払って臨んだが,万一わかりにくいところや不備などがあれば訳者の責である.ご指摘いただければ幸いである.日本語化の工夫によって,原著の斬新な魅力を日本の読者の皆様に伝えた上で,読者の皆様が実用的に携帯できる一冊として本書を活用していただければと心から願っている.
最後に,翻訳にあたっては東京医科大学の樋口要先生に下原稿のまとめをお手伝いいただいた.また,元筑波大学のAndrei Maria Stefana先生に翻訳上の助言をいただいた.両先生のご助力に御礼を申し上げたい.そして,遅筆の訳者のペースメーカとして,絶えず本書の進行を見守り,原書版元への修正連絡などご尽力を頂いた医歯薬出版編集部の戸田健太郎氏に心から感謝する.
2013年8月 樋口 桂
原著第3版の序
第2版を上梓してから,多くの医学部卒業生やMRCS試験通過者の解剖学的な知識の水準が顕著に下がってきている.学習すべき新しい知識が増えている他の科目に圧迫されているというのはひとつの要因だと考えられるが,「解剖学はもはや,かつてほど重要でなくなった」と多くの人が感じていることも,別の要因の背景としてあるだろう.しかし,解剖学は医学における言語であること,そしてどんなにシンプルな臨床診査であっても解剖学の基礎の理解を当然の前提としていることを考慮すれば,そのような心構えは納得できるものではない.学生の知識のレベルを適切なレベルに保ち,理解しやすく簡潔な形で教材を提供することが,我々解剖学教育者の責務だと考えている.
我々がこの本で目指しているのは,初版からずっと,解剖学を学習する学生に,使い勝手が良く,素早く参照できる本を提供することである.この第3版では,項目を選り抜いて体表解剖の章を追加した.項目の選択は,臨床において一般的に取り扱う内容,あるいは各種テストに際して学生から頻繁に質問を受ける内容を基準としている.また,いくつかの新しいイラストを必要な箇所に追加した.
ご意見やご指摘はこれからもいつでも受け付けたい.正しく明確な解剖学の知識を学習しそれを享受する人の間で,この第3版も引き続き評価されるものと信じている.
ROBERT WHITAKER
NEIL BORLEY
Cambridge and Cheltenham,2005
原著第2版の序
我々にとってこの本の成功はうれしい驚きであり,とくにこの本に対して建設的な意見を提供してくれた学生や同僚に深い感謝の意を表したい.内容的な誤りや誤表記,脱落などが当初はいくつかあったのだが,この機会にそれらのほとんどが訂正できたと思っている.
「それぞれの筋をイラストで図示してはどうか」,という意見はあったが,その誘惑には応えなかった.そもそも,そういった情報は他のページ数の多いテキストに載っており,なによりも,学生の間で評価されている本書の「コンパクトさ」が損なわれるのではないかと考えた.しかし一方で,自律神経系の章では,とくに頭部,頸部,腹部などの面で拡充を図った.なぜなら,自律神経系の内容は多くの学生にとっていまだに疑問に満ちた領域だと考えたからである(ここだけに限らないかもしれないが).いうまでもなく,これらの内容は,神経学の基礎・腹部の診察などにおいて,臨床的にとても重要である.海綿静脈洞の図に関しては,我々が多用している側面図を加えた.このことによって,すべての教科書で慣例的に使われている冠状断の視点だけの図よりも多くの要素が加わり,この重要な領域についての理解が高まると考える.人によっては,あまり重要だとされないような解剖学の内容も大きく取り上げていることを批判されるかもしれない.しかしあえてそうしたのは,学生にとってこのような内容を理解する難しさや,他のテキストからこの内容の概要を見つけ出す困難さを我々は強く認識しているからである.
近年の必修科目に対する考え方の変化や外科研修医の教育プログラムの組み方によって,解剖学教育の範囲が制限されているなかで,我々はこれからも高い水準を保って解剖学を教えていく決心している.
若い外科医達にとってこの第2版が便利なテキストだけではなく,インスピレーション源になることを願っている.
ROBERT WHITAKER
NEIL BORLEY
Cambridge and Oxford,2000
原著初版の序
動脈や神経の道筋を調べようと有名な解剖学のテキストを開いても,その情報はいくつかの章に分散していて,要約のようなものは載っていないことに頭を悩ませた経験はないだろうか?そういうときは,素早く参照できて,すべての事項が簡潔に示されている辞書のような本があればいいのに,と思うはずだ.
我々は,そのような簡潔かつ素早く使える本を製作したいと考えた.もちろん,この本は解剖学をゼロから学ぶためのテキストではなく,もっと中身の詰まった長期間にわたって活用できるテキストへの橋渡しとして位置づけていることは強調しておきたい.本書は,既に解剖学の実質的な知識をいくらか身につけており,確認したいことを正確に,素早く調べたいという人のために設計されている.
筆者は両者ともつい最近まで大学院で解剖学を学んでいた学生であり,医学部の学部生に解剖学を教えていた立場でもある.その学生,筆者本人の両方が対面した問題が記憶に新しい.この本は,その記憶・考えを踏まえて書かれている.
主に医学部生および大学院で外科を学んでいる将来の外科医向けにこの本を考案している.これら両グループの人にとって本書はよく適したものとなるであろう.しかし,経歴に関わらず,経験をつみながら解剖学的な事項の再確認を必要とする臨床医や,看護師,理学療法士,臨床放射線技師など他の専門職種においても大いに利用してもらいたいと考えている.
このサイズの本なので,必然的に掲載する事項はある程度精選しており,他の大書に書かれているようなあまりに細かい点は提示しない方針をとっている.
筆者のオリジナルの図版は,医学系イラストレーターのJane Fallowsによるグラフィックプログラムで描き直しが施されている.彼女の技術と忍耐に対して,限りなく深い感謝の意を表したい.
ROBERT WHITAKER
NEIL BORLEY
Cambridge,1994
訳者の序
原著第3版の序
原著第2版の序
原著初版の序
1.動脈
2.静脈
3.リンパ系
4.自律神経系
5.脳神経
6.脊髄神経
7.デルマトームと末梢神経分布
8.筋
9.関節
10.骨化の時期
11.頭蓋と脊柱にある孔
12.体幹と四肢にあるスペース
13.さまざまな構造の位置(脊椎レベル)
14.咽頭弓の派生物
15.体表解剖
原著第3版の序
原著第2版の序
原著初版の序
1.動脈
2.静脈
3.リンパ系
4.自律神経系
5.脳神経
6.脊髄神経
7.デルマトームと末梢神経分布
8.筋
9.関節
10.骨化の時期
11.頭蓋と脊柱にある孔
12.体幹と四肢にあるスペース
13.さまざまな構造の位置(脊椎レベル)
14.咽頭弓の派生物
15.体表解剖