序文
救急医療を行う医師と,リハビリテーションを担当する医師とで小児頭部外傷の本を執筆したいと思ったのは10年あまり前のことである.当時はまだ頭部外傷に対する関心も薄く,高次脳機能障害への理解も少なく,このような企画に耳を傾けてくれる出版社はなかった.
2001年に国の高次脳機能障害支援モデル事業が始まったことをきっかけに,少しずつ頭部外傷や高次脳機能障害への関心が高まってきた.病院を拠点として行われていた国の支援モデル事業が5年間で終了した後,各県に高次脳機能障害地域支援センターが設置され,地域に根ざした支援が行われるようになった.それと並行して高次脳機能障害をもつ患者さんの家族会(「日本脳外傷友の会」)が発足し,当事者の繋がりも全国に広がっていった.その結果,成人では頭部外傷などによる高次脳機能障害の支援体制はある程度整った.しかし小児に対しては未だにほとんど手が差し伸べられていない.「日本脳外傷友の会全国大会」は毎年1回持ち回りで行われているが,昨年(2012年)富山で行われた第12回全国大会では,初めて小児の特集が組まれた.小児の分野に少しずつ力が入れられ始めたのが現状であると言えよう.
「第I編 急性期」の部分を執筆された荒木 尚先生から患者さんを紹介いただくようになって10年が経過したが,いつも渾身の力を込めて診療される先生の姿勢に感服し続けてきた.先生が小児救急医療を専門としたきっかけが,すでに絶版となっている「小児頭部外傷」の本を手にしたことだとうかがい,本書の出版を実現するにあたっては,ぜひ先生のお力を借りたいと思ってきた.同時に,神奈川県総合リハビリテーションセンターで私と仕事をしている若い小児科医と一緒にリハビリテーションの部分を書きたいとも思っていた.また,頭部外傷は治療以前に予防が重要であることから,予防安全対策,外傷後てんかんの予防などについてスペシャリストの協力もいただきたいと思っていた.そのような思いが結実したのが本書である.執筆者の皆さま,医歯薬出版担当編集者にも心から感謝申し上げる.
本書の企画内容は,2012年度日本小児神経学会共同研究支援として登録されたものである.学会から支援されている研究をこのような形で普及させられることも嬉しい限りである.頭部外傷を受ける子どもが減少すること,外傷を受けた子どもがより良い治療を受けられることを願ってやまない.
本書でアイマスクをかけずに掲載している写真は,ご本人またはご家族の承諾をいただいている.あらためて感謝申し上げる.また本文中,「当院」とは(特に断りがない場合),「神奈川県総合リハビリテーションセンター」を指している.
2013年4月
栗原まな
救急医療を行う医師と,リハビリテーションを担当する医師とで小児頭部外傷の本を執筆したいと思ったのは10年あまり前のことである.当時はまだ頭部外傷に対する関心も薄く,高次脳機能障害への理解も少なく,このような企画に耳を傾けてくれる出版社はなかった.
2001年に国の高次脳機能障害支援モデル事業が始まったことをきっかけに,少しずつ頭部外傷や高次脳機能障害への関心が高まってきた.病院を拠点として行われていた国の支援モデル事業が5年間で終了した後,各県に高次脳機能障害地域支援センターが設置され,地域に根ざした支援が行われるようになった.それと並行して高次脳機能障害をもつ患者さんの家族会(「日本脳外傷友の会」)が発足し,当事者の繋がりも全国に広がっていった.その結果,成人では頭部外傷などによる高次脳機能障害の支援体制はある程度整った.しかし小児に対しては未だにほとんど手が差し伸べられていない.「日本脳外傷友の会全国大会」は毎年1回持ち回りで行われているが,昨年(2012年)富山で行われた第12回全国大会では,初めて小児の特集が組まれた.小児の分野に少しずつ力が入れられ始めたのが現状であると言えよう.
「第I編 急性期」の部分を執筆された荒木 尚先生から患者さんを紹介いただくようになって10年が経過したが,いつも渾身の力を込めて診療される先生の姿勢に感服し続けてきた.先生が小児救急医療を専門としたきっかけが,すでに絶版となっている「小児頭部外傷」の本を手にしたことだとうかがい,本書の出版を実現するにあたっては,ぜひ先生のお力を借りたいと思ってきた.同時に,神奈川県総合リハビリテーションセンターで私と仕事をしている若い小児科医と一緒にリハビリテーションの部分を書きたいとも思っていた.また,頭部外傷は治療以前に予防が重要であることから,予防安全対策,外傷後てんかんの予防などについてスペシャリストの協力もいただきたいと思っていた.そのような思いが結実したのが本書である.執筆者の皆さま,医歯薬出版担当編集者にも心から感謝申し上げる.
本書の企画内容は,2012年度日本小児神経学会共同研究支援として登録されたものである.学会から支援されている研究をこのような形で普及させられることも嬉しい限りである.頭部外傷を受ける子どもが減少すること,外傷を受けた子どもがより良い治療を受けられることを願ってやまない.
本書でアイマスクをかけずに掲載している写真は,ご本人またはご家族の承諾をいただいている.あらためて感謝申し上げる.また本文中,「当院」とは(特に断りがない場合),「神奈川県総合リハビリテーションセンター」を指している.
2013年4月
栗原まな
I 急性期
(荒木 尚)
1 疫学
1 はじめに
2 疫学
2 用語と分類
1 解剖病理学的分類
2 重症度分類
3 CT分類
3 小児の特殊性
1 解剖学的特徴
2 頭蓋骨の特徴
3 病態
4 診断と検査
1 小児蘇生に対応するための環境整備
2 初期治療における要点
3 画像診断
5 急性期頭部外傷の外科的治療
1 治療法
2 予後
3 成人頭部外傷による頭蓋内血腫の手術ガイドライン
4 乳幼児例と年長児例での相違点
6 神経集中治療
1 頭蓋内圧(ICP)モニタリング
2 脳潅流圧(CPP)の治療閾値
3 ICP調節のための治療選択 First-tier therapy
7 虐待による頭部外傷
1 受傷機転
2 病態
3 我が国の乳児急性硬膜下血腫診断における特殊性
II 慢性期
1 統計(栗原まな)
1 受傷原因
2 急性期の状況
2 後遺症の基礎知識(栗原まな)
1 小児脳外傷の回復過程
1 脳画像の変化
2 小児脳外傷の回復過程
2 小児脳外傷後遺症の全体像(栗原まな)
1 小児脳外傷後遺症の特徴
2 小児脳外傷後遺症の概略
3 身体障害(栗原まな)
4 知的障害(栗原まな)
5 高次脳機能障害(栗原まな)
6 外傷後てんかん(栗原まな)
1 てんかん群と非てんかん群の比較
2 外傷後てんかんの特徴
3 症例
7 外傷後てんかん 予防に関する実験治療(丸 栄一)
1 脳外傷によるてんかん原性の獲得
2 実験てんかんモデルによる抗てんかん原性薬の検討
3 てんかん発症の予防に関する臨床的試み
8 内分泌疾患(藤田弘之)
1 はじめに
2 下垂体機能低下症
3 中枢性思春期早発症
4 おわりに
3 小児脳外傷に対する診療状況の変化(栗原まな)
1 初診までの状況
2 後遺症の内容
3 当院入院中の状況
4 当院退院後の状況
4 リハビリテーションの実際(栗原まな)
1 総論
1 小児のリハビリテーションの特徴
2 リハビリテーションの基本
3 評価
4 評価尺度
2 障害受容・家族会
1 障害受容
2 家族会
3 実践状況
機能障害に合わせたスタッフの関わり
スタッフの役割
1 医師の役割
2 理学療法士の役割
3 作業療法士の役割
4 言語聴覚士の役割
5 臨床心理士の役割
6 医療ソーシャルワーカーの役割
4 小児高次脳機能障害のリハビリテーション
1 小児高次脳機能障害に対するリハビリテーションの基本
2 小児高次脳機能障害の評価
3 小児脳外傷後の高次脳機能障害の症状とその対応
4 高次脳機能障害をもつ小児の教育
5 学習障害の教育プログラム
6 高機能自閉症の教育プログラム
7 注意欠陥多動性障害の教育プログラム
5 成人期への移行(栗原まな)
1 神奈川県総合リハセンターの実態
6 症例
1 虐待が疑われた例(栗原まな)
2 身体障害を主体とする小学生例(飯野千恵子)
3 高次脳機能障害を主体とする中学生例(吉橋 学)
4 高次脳機能障害の支援を受けずにいた症例(吉橋 学)
5 小児期に脳外傷を受傷し成人になった例(栗原まな)
6 軽微な脳外傷後に高次脳機能障害を残した例(栗原まな)
7 成人を対象とする高次脳機能障害地域支援センターが在宅支援の中心となった小児例(栗原まな)
8 福祉機器の導入により在宅生活が可能となった重度の身体障害をもつ小児例(栗原まな)
9 乳児期に受傷した脳外傷例への長期対応(荒木 尚・栗原まな)
7 福祉制度(吉橋 学)
1 福祉制度
1 医療費の助成制度
2 福祉手当
3 入所・通所サービス
4 特別支援教育
2 障害者手帳
1 身体障害者手帳
2 療育手帳
3 精神障害者保健福祉手帳
3 身体障害診断書の書き方
4 精神障害者保健福祉手帳診断書の書き方
8 自賠責診断書の書き方(吉橋 学)
III 付録・コラム
付録
学校の取り組み(津久井悦子)
自動車安全面への取り組み(粟野正浩・高橋裕公・吉田 傑)
コラム
小児高次脳機能障害の実態調査(栗原まな)
最近の海外の報告から(栗原まな)
虐待による脳外傷(栗原まな)
軽症脳外傷(宍戸 淳)
補装具・日常生活用具(栗原まな)
住宅内における小児頭部外傷の予防:キッズデザインの視点から(西田佳史・北村光司)
発達障害者支援法(栗原まな)
索引
(荒木 尚)
1 疫学
1 はじめに
2 疫学
2 用語と分類
1 解剖病理学的分類
2 重症度分類
3 CT分類
3 小児の特殊性
1 解剖学的特徴
2 頭蓋骨の特徴
3 病態
4 診断と検査
1 小児蘇生に対応するための環境整備
2 初期治療における要点
3 画像診断
5 急性期頭部外傷の外科的治療
1 治療法
2 予後
3 成人頭部外傷による頭蓋内血腫の手術ガイドライン
4 乳幼児例と年長児例での相違点
6 神経集中治療
1 頭蓋内圧(ICP)モニタリング
2 脳潅流圧(CPP)の治療閾値
3 ICP調節のための治療選択 First-tier therapy
7 虐待による頭部外傷
1 受傷機転
2 病態
3 我が国の乳児急性硬膜下血腫診断における特殊性
II 慢性期
1 統計(栗原まな)
1 受傷原因
2 急性期の状況
2 後遺症の基礎知識(栗原まな)
1 小児脳外傷の回復過程
1 脳画像の変化
2 小児脳外傷の回復過程
2 小児脳外傷後遺症の全体像(栗原まな)
1 小児脳外傷後遺症の特徴
2 小児脳外傷後遺症の概略
3 身体障害(栗原まな)
4 知的障害(栗原まな)
5 高次脳機能障害(栗原まな)
6 外傷後てんかん(栗原まな)
1 てんかん群と非てんかん群の比較
2 外傷後てんかんの特徴
3 症例
7 外傷後てんかん 予防に関する実験治療(丸 栄一)
1 脳外傷によるてんかん原性の獲得
2 実験てんかんモデルによる抗てんかん原性薬の検討
3 てんかん発症の予防に関する臨床的試み
8 内分泌疾患(藤田弘之)
1 はじめに
2 下垂体機能低下症
3 中枢性思春期早発症
4 おわりに
3 小児脳外傷に対する診療状況の変化(栗原まな)
1 初診までの状況
2 後遺症の内容
3 当院入院中の状況
4 当院退院後の状況
4 リハビリテーションの実際(栗原まな)
1 総論
1 小児のリハビリテーションの特徴
2 リハビリテーションの基本
3 評価
4 評価尺度
2 障害受容・家族会
1 障害受容
2 家族会
3 実践状況
機能障害に合わせたスタッフの関わり
スタッフの役割
1 医師の役割
2 理学療法士の役割
3 作業療法士の役割
4 言語聴覚士の役割
5 臨床心理士の役割
6 医療ソーシャルワーカーの役割
4 小児高次脳機能障害のリハビリテーション
1 小児高次脳機能障害に対するリハビリテーションの基本
2 小児高次脳機能障害の評価
3 小児脳外傷後の高次脳機能障害の症状とその対応
4 高次脳機能障害をもつ小児の教育
5 学習障害の教育プログラム
6 高機能自閉症の教育プログラム
7 注意欠陥多動性障害の教育プログラム
5 成人期への移行(栗原まな)
1 神奈川県総合リハセンターの実態
6 症例
1 虐待が疑われた例(栗原まな)
2 身体障害を主体とする小学生例(飯野千恵子)
3 高次脳機能障害を主体とする中学生例(吉橋 学)
4 高次脳機能障害の支援を受けずにいた症例(吉橋 学)
5 小児期に脳外傷を受傷し成人になった例(栗原まな)
6 軽微な脳外傷後に高次脳機能障害を残した例(栗原まな)
7 成人を対象とする高次脳機能障害地域支援センターが在宅支援の中心となった小児例(栗原まな)
8 福祉機器の導入により在宅生活が可能となった重度の身体障害をもつ小児例(栗原まな)
9 乳児期に受傷した脳外傷例への長期対応(荒木 尚・栗原まな)
7 福祉制度(吉橋 学)
1 福祉制度
1 医療費の助成制度
2 福祉手当
3 入所・通所サービス
4 特別支援教育
2 障害者手帳
1 身体障害者手帳
2 療育手帳
3 精神障害者保健福祉手帳
3 身体障害診断書の書き方
4 精神障害者保健福祉手帳診断書の書き方
8 自賠責診断書の書き方(吉橋 学)
III 付録・コラム
付録
学校の取り組み(津久井悦子)
自動車安全面への取り組み(粟野正浩・高橋裕公・吉田 傑)
コラム
小児高次脳機能障害の実態調査(栗原まな)
最近の海外の報告から(栗原まな)
虐待による脳外傷(栗原まな)
軽症脳外傷(宍戸 淳)
補装具・日常生活用具(栗原まな)
住宅内における小児頭部外傷の予防:キッズデザインの視点から(西田佳史・北村光司)
発達障害者支援法(栗原まな)
索引