やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

序文
 徒手理学療法(manual physical therapy)とは,理学療法の治療方法の1 つで,神経筋骨格系の機能異常を用手的に治療する方法の総称であり,国際的にも広く用いられている治療技術である.世界理学療法士連盟(World Confederationfor Physical Therapy:WCPT)でも,1978 年にサブグループ(International Federation of Orthopaedic Manipulative Therapists:IFOMT)として認定している専門分野である.また,この団体の呼称については,2008 年のIFOMT総会で変更が議題にあがったが,定款上の制約と時間の問題で決定することができず,2009 年7 月1〜 15 日に,インターネットのフォーラムを用いて特別会議を開催し,7 月23 日に多数決で,国際整形徒手理学療法士連盟(International Federation of Orthopaedic Manipulative Physical Therapists:IFOMPT)と改称された.したがって本書の表題も,これに倣って『整形徒手理学療法』とした次第である.
 余談になるが,(社)日本理学療法士協会もJFOMT(Japanese Federation of Orthopaedic Manipulative Therapists)を組織し,2005 年にはRegistered Interest Groups(RIG)の承認を受け,2008 年6 月11 日ロッテルダムで開催されたIFOMPT総会の席上において,世界で第22 番目の加盟国として認定されている.
 私(砂川)が,徒手療法や関節モビライゼーション,マニプレーションという言葉を聞くようになったのは1980 年のころである.ちょうどそのころ,共同監修者である富 雅男教授(藍野大学)が,ドイツのハム市にあるKlinik fur Manuelle Therapieでマニュアル・メディシンの医師コースを終了され,そこで数年間,医師のグットマン教授の指導を受けながら臨床を経験したということをお聞きした.そこで,日本で徒手理学療法のコースを開催することを提案し,富教授が懇意にされていたカルテンボルン教授を招聘して,ノルディック・システムのオリジナルを日欧マニュアル・メディシン研究会の名称(1998 年に日本整形徒手療法協会〔JOMTA〕と改称)のもとで,1988 年5 月から日本で導入することになった.
 カルテンボルン教授の理論・技術に初めて接したときには,まず,実証的医療に基づいた臨床推論過程や,エビデンスに裏打ちされた詳細な理論と,さらに繊細な治療技術に驚嘆したことを覚えている.「この技術はなんとしても日本に定着させなければならない」,「とくに若い理学療法士には絶対に必要である」,「この技術は整形徒手理学療法の範囲を超えて,どのような理学療法技術についても応用できる技術だ」と感じたことを記憶している.当時使用していたテキストは,基礎コースだけでも,ドイツ語,英語,ノルウェー語の7 冊があったのだが,日本語のテキストはなく,詳細な技術の手順や,内容の理解には苦労を伴った.そこで今回,継続開催しているノルディック・コースが11 期生をスタートさせるに伴い,教科書作成の機会をいただいたのを契機にして,四肢コースの進行に合わせた内容に統一して活用しやすく工夫をした本書を発行した次第である.
 本書の構成は,第1 章で整形徒手理学療法の歴史と基本的な概念を述べ,第2 章では,整形徒手理学療法の適応として疼痛・関節・筋の特性について解説し,それぞれの治療概念を述べている.第3 章では,モビライゼーション,ストレッチ,トレーニングの基礎技術を解説し,第4 章では評価と治療原理を述べ,第5 章では各部位別に,機能解剖と関節運動,触診の手順,テストと治療,関節モビライゼーション,ストレッチ,オートストレッチ,マッサージ,スタビライゼーションの順で記載し,第6 章では,症状局在化テスト,鑑別診断の項を設けて,初心者でも理論については理解できるような記載に努めた.しかし,実技については,本文中でも触れられているが,習熟した指導者の下で正確に習得されることをお勧めする.未経験者にとっては,一見,同じように見える操作も,まったく違う内容のことがある.「似て非なるもの」を見極めないことは危険きわまりないのだということを肝に銘じていただきたい.
 最後になるが,写真撮影には深尾卓史君,モデルには勢登香織君と水谷裕美君の協力をいただいた.ここにお礼を申し上げる.また,出版に際しての丁重な助言や,遅れ遅れの原稿にも気長に接していただいた医歯薬出版編集部に対して厚くお礼申し上げる.
 2011 年11 月
 監修者
 富 雅男
 砂川 勇
 序文

第1章 Kaltenborn-Evjenth Internationalの歴史と概念
 1 徒手医療の歴史
  1 近代以前の徒手療法
  2 近代以降の徒手療法
 2 整形徒手理学療法の基本的概念
  1 はじめに
  2 運動器について
  3 関節のモビライゼーション
  4 筋のストレッチ
  5 関節のスタビライゼーション
  6 神経のストレッチとモビライゼーション
第2章 整形徒手理学療法の適応
 1 疼痛
  1 疼痛とは
  2 慢性痛
  3 内臓痛および関連痛の種類と適応,整形徒手理学療法の適応・禁忌について
  4 疼痛の評価と治療概念
 2 関節
  1 関節の基本的構造
  2 拘縮: 関節拘縮の病態学
  3 拘縮に対する評価と治療概念
 3 筋
  1 骨格筋・腱の構造と特性
  2 筋力・筋持久力
  3 筋力増強のメカニズム
  4 トレーニング
第3章 整形徒手理学療法の技術基礎
  1 技術を学ぶということ
  2 関節モビライゼーションの基礎
  3 ストレッチの基礎
  4 トレーニングの基礎
  5 マッサージの基礎
  6 技術習得の原則
第4章 整形徒手理学療法の評価・治療基礎
  1 評価の重要性と原則
  2 OMPT評価の基本的考え方
  3 OMPT評価の内容
  4 評価の流れ
  5 関節障害におけるテスト結果の解釈
第5章 整形徒手理学療法の手技
 1.肩関節
  肩関節
   機能解剖と運動
    肩甲上腕関節
   検査手順
   関節モビライゼーション
    肩甲上腕関節
  肩甲帯
   機能解剖と運動
    胸鎖関節,肩鎖関節
   検査手順
    胸鎖関節,肩鎖関節
   関節モビライゼーション
    胸鎖関節,肩鎖関節,肩鎖関節・肩甲骨
   ストレッチ
    小胸筋,大胸筋,大円筋,広背筋,肩甲下筋,上腕三頭筋
   マッサージ
    棘上筋・肩甲下筋・棘下筋・上腕二頭筋腱,上腕二頭筋,棘上筋,棘下筋
   肩関節周囲のトレーニング(スタビライゼーション)
    1)トレーニング概要
    2)トレーニング構成
    3)筋力トレーニング
 2.肘関節― 前腕
  肘関節
   機能解剖と運動
   検査手順
   関節モビライゼーション
    肘関節
  前腕
   機能解剖と運動
   検査手順
   関節モビライゼーション
    遠位橈尺関節,近位橈尺関節,腕橈関節,腕橈関節・橈尺関節
   ストレッチ
    長橈側手根伸筋,短橈側手根伸筋,長短橈側手根伸筋・尺側手根伸筋,(総)指伸筋,示指伸筋,(総)指伸筋・示指伸筋・小指伸筋,回外筋,腕橈骨筋・回外筋・上腕筋,浅指屈筋,深指屈筋・浅指屈筋・長掌筋,円回内    筋,円回内筋尺骨頭・方形回内筋
   マッサージ
    手指・手関節伸筋群
 3.手関節― 手指
  手関節
   機能解剖と運動
   検査手順
   関節モビライゼーション
    手関節,手関節(手根骨)
  第一手根中手関節
   機能解剖と運動
   検査手順
   関節モビライゼーション
    手根中手関節
  手指
   機能解剖と運動
    近位指節間関節,遠位指節間関節,第二〜五中手指節関節,母指の中手指節関節
   検査手順
   関節モビライゼーション
    手指
  中手骨
   機能解剖と運動
   関節モビライゼーション
    中手骨
   ストレッチ
    短母指屈筋,長母指屈筋,長母指屈筋・短母指屈筋・母指対立筋・母指内転筋,長母指伸筋・短母指伸筋・長母指外転筋,背側骨間筋,掌側骨間筋,虫様筋,短母指外転筋,母指内転筋・第一掌側骨間筋,母指対立筋・母指内転筋,母指内転筋・第一背側骨間筋・母指対立筋,小指外転筋,小指外転筋・第四掌側骨間筋・第四虫様筋,小指対立筋
 4.股関節
  股関節
   機能解剖と運動
   検査手順
   関節モビライゼーション
    股関節
   ストレッチ
    ハムストリングス, 大殿筋・内転筋群,ハムストリングスを除いた伸筋群・内外転筋群・内外旋筋群, 外旋筋(梨状筋),腸腰筋,大腿四頭筋(大腿直筋),大腿筋膜張筋,中殿筋・小殿筋,恥骨筋・短内転筋・長内転筋・大内転筋・簿筋,薄筋・長内転筋群,内転筋群,長内転筋群,恥骨筋・長短内転筋・大内転筋・股関節伸筋群・外旋筋群・内転筋群,外旋筋群,内旋筋群
   マッサージ
    ハムストリングス・大腿筋膜張筋,外旋筋群・殿筋群
   股関節トレーニング
    1)トレーニング概要
    2)トレーニング構成
 5.膝関節
  膝関節
   機能解剖と運動
   検査手順
   関節モビライゼーション
    脛骨大腿関節,膝蓋大腿関節
   ストレッチ
    大腿四頭筋,大腿二頭筋短頭,膝窩筋
   マッサージ
    大腿四頭筋,大腿二頭筋短頭,膝窩筋・側副靱帯
   膝関節周囲のトレーニング(スタビライゼーション)
    1)トレーニング概要
    2)安定筋の強化
    3)安定筋と股関節周囲筋の収縮
    4)CKCトレーニング
    5)全身協調性トレーニング
 6.下腿― 足関節
  下腿
   機能解剖と運動
   検査手順
   関節モビライゼーション
    遠位・近位脛腓関節,近位脛腓関節
  足部と足関節
   機能解剖と運動
   検査手順
   関節モビライゼーション
    楔舟関節・距舟関節,第四,五中足骨-立方骨・立方骨-第三楔状骨,舟状骨,踵立方関節・距踵関節,距踵関節,距腿関節
   ストレッチ
    前脛骨筋,前脛骨筋・長趾伸筋・長母趾伸筋・(短趾伸筋),長母趾伸筋,長趾伸筋,第三腓骨筋,長母趾伸筋・短母趾伸筋・長趾伸筋・短趾伸筋・第三腓骨筋・(前脛骨筋),腓腹筋・ヒラメ筋・足底筋,腓腹筋・ヒラメ筋・足底筋・後脛骨筋,ヒラメ筋・長腓骨筋・短腓骨筋・後脛骨筋,後脛骨筋,長腓骨筋・短腓骨筋
   マッサージ
    前距腓靱帯・アキレス腱,腓腹筋・前脛骨筋
  中足部
   機能解剖と運動
   検査手順
   関節モビライゼーション
    遠位・近位中足骨間
  足趾
   機能解剖と運動
   検査手順
   関節モビライゼーション
    足趾
   ストレッチ
    長趾屈筋,長母趾屈筋,長母趾屈筋・短母趾屈筋・長趾屈筋・短趾屈筋・虫様筋,短母趾屈筋,母趾内転筋・短母趾屈筋外側頭
第6章 症状局在化テスト
 1 誘発・緩和テスト
  1 誘発・緩和テストの手順と条件
  2 誘発・緩和テストの実際
 2 鑑別診断

 Kaltenborn-Evjenth International(KE-I)による整形徒手理学療法国際認定講習会概要
 Kaltenborn-Evjenth International(KE-I) による整形徒手理学療法国際認定講習会テーマと講習日数
 索引