やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

序文
 本書の第1版の執筆にあたり,私は自分が必要と信じる多くの要求をできるだけ満たしてきた.リハビリテーション診療における物理療法の適応について,理解しやすいように,利用しやすいように記述し,また広汎な領域で詳細に記述するようにした.また物理療法の基礎研究や生理学的原理から,臨床適用時の評価法,患者の最終的な予後を最も高めるために,最善の物理療法の選択と運用について詳細に実際的な記述を心がけた.本書の第1版,第2版は熱狂的に迎えられ,賞賛のご意見が寄せられ,多くの教育現場へ導入され,そして多数の臨床スタッフに購入いただき,本書の必要性が示された.
 この新しい版では,旧版の良いところは残し,最新のアップデートな情報を読者に伝え,記載されている内容をさらに明確なものとするため全力を尽くした.本書では,すべての物理療法が安全に施行できるように,容易に理解できるガイドラインであるように努めてきた.また,適切な物理療法の介入を,安全に効果的に選択し導入できるよう,科学的理論的根拠やエビデンスに基づいた基礎データのエッセンスも提供してきた.研究報告の増加により,本書では,その質に基づいて,臨床適応を決定する際によりさらに重要なものとなってきた.リハビリテーション分野の研究や開発の進歩にあわせて,改訂にあたっていくつかの新しい特色を加えた.
 旧版では,レーザーや光線療法のトピックスを電磁波の章で簡潔に扱っていた.改訂版では,レーザーと光線療法を独立した新しい章として加えた.2002年のFDA(米国食品医薬品局)の認定をクリアし,すでに多くの臨床施設で一般的で必須の治療となったためである.改訂版では,レーザーや光線療法の原理について論じ,この介入の適応と禁忌,臨床的な治療のガイドラインと臨床ケーススタディを追加した.
 改訂版での2つ目の大きな変更点はカラーページの追加である.旧版からの図も,新しくデザインしフルカラー(日本語版では一部を除きモノクロで掲載しています)で図の品質を改善した.クリニカル・パール(Clinical Pearl)がすべての章において臨床的重要ポイントを強調するために加えられた.臨床症例研究(CLINICAL CASE STUDIES)では,構造・機能障害,日常活動,社会参加の各レベルのICFの障害モデルに合わせて改訂した.
 校閲者(reviewer)や読者の意見・要求に答え,重要な用語と概念に対する用語集をすべての章に配置した.その用語は本文中は太字で示し,用語集をその章の終わりに配置した.入門学習には,これらの用語集に基づく実際の語彙使用例が,アップデートされるEvolveウェブサイトにも配置した.
 Evolveウェブサイトにも大きな変更を加えた.ここには,ボードスタイルでの練習問題や図解が,本文の参照リストからMedlineにリンクするほか,さらなるリソースへリンクしている.指導用のEvolveウェブサイトでは,研究活動と同様にすべての学生が利用できるよう,パート2のすべての章の内容(能力チェックリストを含む)やすべての図や本文が,パワーポイントの発表用に使えるように電子媒体で提供される.また,用語集,臨床症例研究,適用技術と電気刺激,超音波,レーザー光線ハンドブックのPDFファイル版も,学習用または臨床のクイックリファレンスガイドとしてEvolveウェブサイトにおいて利用できる.

訳者 第3版の序
 本改訂版では,生理学・病理学・生化学・分子生物学など最新の基礎医学分野の記載が更新され,システマティックレビューやメタアナリシスの記載など臨床ガイドラインとしての体系が整備され,物理療法の専門書としての完成度をさらに高めた.
 パート1では,物理療法の関与する障害を病理別に分類し,第2章「炎症と組織修復」では組織解剖学,第3章「疼痛」では感覚神経系・自律神経学,第4章「筋トーヌス異常」では小児発達・運動生理学,第5章「運動制限」では骨関節系の解剖生理,第10章「牽引」では脊椎の解剖生理,第11章「圧迫」ではリンパ血管系の基礎生理を必要十分に網羅し,リハビリテーション医学教科書にも匹敵する包括的内容が簡潔にまとめられた.
 パート2では,物理療法別に,その特性・原理・疾患への適用法を実践的に示している.2002年FDAが認可したレーザー光線療法が新章として設けられ(第12章),各章では,関節リウマチや線維筋痛症など原因・治療法が未知の疾患群についても最新の研究論文を紹介し,物理療法の可能性が解説されている.
 すべての章末で,多数の引用文献に加え,ウェブサイトや参考書・教科書(発行元),物理療法機器製造元(ホームページ),データベースを列挙し,いつでもネットワークにアクセスできるよう発展性のある先進的専門書となった.
 第3版では,物理療法を単独で用いるのではなく,リハビリテーション治療の一環であることを理念として強調している.介入前後に,リハビリテーション評価による短期ゴールの設定と,予後を見据えた長期ゴールの設定と治療というスタイルを,診療録の具体的記入法や症例検討を通して示している.ICF分類の機能障害,活動の低下,社会参加という項目別に,評価とゴールを全ケースレポートにて一覧表で示すと同時に問題点と回答を示し,リハビリテーション医療における物理療法の役割と限界,専門医への紹介のタイミングも適切に示している.
 段落ごとにクリニカル・パールとして要点が示され,読みにくい学術書を身近なものとした.クリニカル・パールを読み進めるだけでも臨床実践上有用な情報がすぐに喚起される.巻末には,臨床現場に持ち込める実践的なハンドブックが添付され,電気刺激・超音波・レーザー光線などの機器設定や身体の適用部位の図解などが示されることで実用性が高まった.英文原著では,多くの図・写真がカラー化されたが,日本語版ではコストの関係でカラー頁を制限したことをご了承願いたい.
 わが国の高齢化率(65歳以上人口;厚生労働省2009年9月の推計)は22.7%となり,今後の医療においては,日常生活の自立と,QOL(生活の質)の高い健康寿命の延長をめざすリハビリテーション医療に重きがおかれる.理学療法士をはじめとするコメディカルスタッフは,チーム医療のなかでその役割や責任が増す.本書は,コメディカルスタッフと医師が共通の認識の下にチーム医療を行ううえで,物理療法をキーとして基礎医学から臨床実践までの幅広い領域を効率よく学習し,さらに広く深い基礎・臨床分野へ自身のスキルアップを誘導するための魅力にあふれたものとなった.本書の翻訳に関われたことに感謝したい.
 2010年1月
 訳者 渡部一郎

監訳者 第1版の序
 Michelle H.Cameronによる「Physical Agents in Rehabilitation」を目にしたとき,長年求めていた物理療法の本が手に入った感があった.
 リハビリテーションの歴史のなかでは,「人間らしく生きる権利の回復」の手段として,物理療法はきわめて重要視されてきた.温泉はヨーロッパにおいても日本においても昔から親しまれており,温泉に行くことがリハビリテーションであるとまでいわれるほどに一般に普及した.しかし,人々が多く住まう都市から遠く離れた温泉を利用した転地リハビリテーション医療は,今日では,在宅を中心として自立を求めるリハビリテーションの流れのなかで,人々の活動や社会参加に十分寄与しないと考えられるようになった.そこで温泉などで使われていた物理療法を近代的な方法で抽出し,温泉へ行かなくとも都市の病院で簡便に利用できる物理療法が主流となってきた.これらはホットパックなどの温熱療法や,渦流浴やプールなどの水治療法であり,赤外線療法や圧迫などであった.さらにその後,超音波療法や低周波療法などの電気療法が物理療法に加わった.
 このような物理療法の歴史のなかで,温熱療法や水治療法の適応・禁忌などが明確になり,さらに牽引療法,超音波療法,ジアテルミー,電気治療などにおいても,その生理的作用や適応が明らかになってきた.物理療法の生体への作用に科学的メスが入り,適用時間,程度,頻度など,各種の物理療法の適用上のパラメーターが明確になってきた.今日では,痙縮などの亢進した筋のトーヌスの減弱,関節拘縮の緊張寛解,疼痛の緩和などを目的として物理療法が日常的に利用され,物理療法は都市の病院でも一般的な治療法となった.
 本書には物理療法の原理,作用,適応にかかわる最先端の研究が網羅されており,データや文献も十分に記載されている.物理療法の機構とその作用の基礎を学ぶためには最適な本である.リハビリテーション医学における物理療法の今後の研究の方向性が示唆されており,物理療法の研究や治療に携わる人々のよき指針となると思われる.
 2003年5月
 監訳者を代表して 眞野行生

監訳者 第2版の序
第1版監訳者 眞野行生先生にささげる
 2003年に,“Physical Agents in Rehabilitation”の日本語版「EBM物理療法-根拠・意思決定・臨床適応」を発刊し,いろいろな先生方から問い合わせ・ご意見をいただくなど好評に迎えられた.わが国では,この種の体系的な教科書が少なく,また本書が,最新の物理療法に関する膨大な原著論文から,現在解明されている物理療法の作用機序・適応を正確に提供し,さらに臨床適応上の処方や注意点など具体的に記載しており,研究者や臨床家に即座に役立つ内容であることも好評の原因であろう.このため,当時としては比較的高価であったにもかかわらず増刷もされてきた.
 日本語版が店頭に並ぶと同時に,米国での原著第2版発刊の知らせを受けた.米国執筆陣の熱意による速やかなバージョンアップであり,日本語版の発刊の遅れを反省した.
 原著第2版では,最新の知見に関するアップデートは全編に及び,さらに米国で発刊された理学療法学会実践ガイドライン“Guide to Physical therapist practice”第2版(2003改定)との整合性のもと,すべての章末の症例検討の記載方法が改定された.わが国でも,厚生労働省・各医学会を中心としてEBMに基づくガイドラインが出版され,現在では,疾患別にはほとんどすべての領域をカバーしているが,これに相当する物理療法に関する実践ガイドラインは存在しない.そのため,米国版の記述・引用をそのまま利用することとした.また第8章の電気治療は担当著者が変更され全面的な新作となった.
 翻訳は前回の担当者を中心に効率よく進められ,ようやく本書の発刊の運びとなった.本書が,わ国の物理療法に携わる多くの療法士,医師,看護師,技師,工学士,研究者の臨床・研究の指針となり,わが国の物理療法の実情に沿う物理療法学の発展に寄与することを願う.
 なお,第2版翻訳改訂作業中,第1版監訳者のお1人である眞野行生先生がお亡くなりになった.眞野先生は,北海道大学の大学院講座,診療施設の創設者であるばかりではなく,わが国のリハビリテーション医療の中心的指導者であった.“Physical Agents in Rehabilitation”をわが国に紹介し,北海道大学のリハビリテーション医学講座教室員への翻訳と指導についてリーダシップを発揮された.ここに謹んで眞野行生先生に深謝し,この本をささげ,ご冥福をお祈りしたい.
 2005年12月
 監訳者 渡部一郎
第1章 物理療法と使用法の紹介
 物理療法とはなにか
 物理療法の分類
 医学とリハビリテーションにおける物理療法の歴史
 リハビリテーションアプローチ
 リハビリテーションにおける物理療法の役割
 一般的な物理療法の禁忌と注意事項
 物理療法器の選択
 物理療法の効果
 確証のある治療(エビデンスに基づく治療)
 物理療法の併用療法
 異なるヘルスケアシステムにおける物理療法の使用
 章のまとめ
 追加資料
 用語集
 文献
パート1 病理と患者の抱える問題
第2章 炎症と組織修復
 炎症と創傷治癒の段階
 慢性炎症
 治癒過程に影響する要因
 個々の筋骨格組織の治癒
 臨床症例研究
 章のまとめ
 追加資料
 用語集
 文献
第3章 疼痛
 疼痛の種類
 疼痛の受容と伝達のメカニズム
 疼痛の調節とコントロール
 疼痛の測定・評価
 疼痛の記録
 疼痛管理法
 臨床症例研究
 章のまとめ
 追加資料
 用語集
 文献
第4章 筋トーヌス異常
 筋トーヌス
 筋トーヌス異常
 筋トーヌスの測定
 筋トーヌスと筋活動の解剖学的基礎
 異常な筋トーヌスとその結果
 臨床症例研究
 章のまとめ
 追加資料
 用語集
 文献
第5章 運動制限
 運動の種類
 運動制限のパターン
 運動を制限する組織
 運動制限を引き起こす病理拘縮
 運動制限の診察・評価
 可動域評価手技の禁忌と注意事項
 運動制限に対する治療法
 運動制限の治療における物理療法の役割
 臨床症例研究
 章のまとめ
 追加資料
 用語集
 文献
パート2 物理療法
第6章 温熱療法:寒冷と温熱
  熱エネルギーの物理学的原理
 ・寒冷療法(クリオセラピー)
  寒冷の効果
  寒冷療法の適応
  寒冷療法の禁忌と注意事項
  寒冷療法の副作用
  適用技術
  記録
  臨床症例研究
 ・温熱療法
  温熱の効果
  表在性温熱の適応
  温熱療法の禁忌と注意事項
  温熱療法の副作用
  適用技術
  記録
  臨床症例研究
  寒冷療法か温熱療法かの選択
  章のまとめ
  追加資料
  用語集
  文献
第7章 超音波
 はじめに
 超音波の効果
 超音波の臨床適応
 超音波療法の禁忌と注意事項
 超音波の副作用
 適用技術
 記録
 臨床症例研究
 章のまとめ
 追加資料
 用語集
 文献
第8章 電気治療
 用語
 序論と歴史
 電気治療の効果
 電気治療の臨床適応
 電気治療の禁忌と注意事項
 電気刺激の副作用
 適用技術
 記録
 臨床症例研究
 章のまとめ
 追加資料
 用語集
 文献
第9章 水治療法
 水の物理的特性
 水治療の生理効果
 水治療法の利用
 水治療法の禁忌と注意事項
 水治療法の副作用
 適用技術
 水治療(プール,感染制御を含む)の安全性の問題
 記録
 臨床症例研究
 章のまとめ
 追加資料
 用語集
 文献
第10章 牽引
 脊椎牽引の効果
 脊椎牽引療法の臨床適応
 脊椎牽引療法の禁忌と注意事項
 脊椎牽引の副作用
 適用技術
 記録
 臨床症例研究
 章のまとめ
 追加資料
 用語集
 文献
第11章 圧迫
 外的圧迫の効果
 圧迫の臨床適応
 圧迫療法の禁忌と注意事項
 圧迫の副作用
 適用技術
 記録
 臨床症例研究
 章のまとめ
 追加資料
 用語集
 文献
第12章 電磁波照射療法:レーザーと光線療法
 用語
 電磁波照射療法の紹介
 レーザーと光線のイントロダクション
 レーザーと光線の作用
 レーザーと光線療法の臨床適応
 レーザーと光線療法の禁忌と注意事項
 レーザーと光線療法の適用技術
 記録
 臨床症例研究
 章のまとめ
 追加資料
 用語集
 文献
第13章 紫外線療法
 紫外線の物理的特性
 紫外線の効果
 紫外線の臨床適応
 紫外線照射の禁忌と注意事項
 紫外線の副作用
 適用技術
 紫外線療法
 記録
 紫外線灯
 臨床症例研究
 章のまとめ
 追加資料
 用語集
 文献
第14章 ジアテルミー
 ジアテルミーの物理的特性
 ジアテルミーアプリケーターの種類
 ジアテルミーの効果
 ジアテルミーの臨床適応
 ジアテルミーの禁忌と注意事項
 ジアテルミーの副作用
 適用技術
 記録
 ジアテルミー装置の選択
 臨床症例研究
 章のまとめ
 追加資料
 用語集
 文献
電気刺激,超音波,レーザー光線ハンドブック

 索引