やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

第6版の序
 世界保健機関“The world health report 2000”で事務総長Dr.Gro Harlem Brundtlandは「何がよいヘルス・システムにとって役立つのか」,「何がヘルス・システムを公正にするのか」,「われわれは,ヘルス・システムができるだけのことを遂行しているのかどうかを,どのようにして知るのだろうか」と問いかけ,「ヘルス・システムが立案され,管理され,費用が調達される仕方は,人びとの生命及び生活に影響を与えている」,「巧みに遂行されているヘルス・システムと失敗しているヘルス・システムとの相違は,死亡,障害,貧困,屈辱,絶望によって測定されうるだろう.……この領域におけるわれわれの仕事は,イデオロギーよりも証拠に基づいて,すべての人びとにとっての健康の価値と一致していなければならない」,「国家のヘルス・システムの目的達成の最終責任は政府にある.人びとの福祉に対する注意深い,責任のある管理は,よい政府の本質である.……」と記した.
 わが国では,平成10(1998)年に「社会福祉基礎構造改革について(図8─1参照)」,「今後の障害保健福祉施策の在り方について(表8─3参照)」が公表された.それに続く障害者基本計画では,わが国が目指すべき社会として「障害の有無にかかわらず誰もが人格と個性を尊重し支えあう社会(共生社会)」が掲げられている.その理念の実現に向けて,ここ数年間に関連する法律の改正あるいは新たな法律の制定が進められてきた.そして平成17(2005)年6月の「介護保険法の一部改正」,11月には「障害者自立支援法」が成立し,リハビリテーションにかかわる諸制度が急速に拡大している.21世紀初頭,わが国は障害者施策を含めたヘルス・システムの再検討に突入した時代となっている.さらに,現在の盲・聾・養護学校から障害種別を超えた特別支援学校にするための学校教育法の改正も検討されている.
 他方,障害者の身体的,精神的,社会的な自立能力の向上を目指す総合的プログラムとされているリハビリテーションも,物理的および社会的バリアの除去へと視野を拡大している.Schriner(2001)は,現代のリハビリテーション・サービスへの批判を考慮して,個人的特徴が,慣習を含めて,社会制度的基準から外れている人びとに対して不利益を与えている社会的条件に焦点を合わせた実践の必要性を説き,それを変換リハビリテーション(transformative rehabilitation)の実践と呼んでいる.変換リハビリテーションの実践は,建築物や人びとの態度という環境を障害者にとって一層快適にすること,社会制度の改革,コミュニティ・レベルの努力を表している.歴史的に見れば,リハビリテーションという言葉のかなり異なった用法であるが,社会の改造を意味している.
 学術的には,障害の概念をめぐって個人(医学)モデルと社会(政治)モデルとの不毛の対立があったが,これからは個人─社会モデルを中心に据えて,リハビリテーションをとらえ,広く釣合いのとれた見方がリハビリテーション専門職には求められるだろう.
 2006年1月
 中村隆一
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第1章 リハビリテーションとは
 1.障害者と社会
  1.障害者への社会の対応:歴史的変遷
  2.保健医療の進歩と障害者
 2.リハビリテーションの定義と目的
  1.言葉の由来:歴史的にみた意味の多様性
  2.現代に連なる概念
  3.各種の定義をめぐって
  4.リハビリテーションの目的の変遷および社会制度の変革
  5.健康と生活の質
  6.ヘルスケアと生命医学倫理
  7.帰結に関する用語
第2章 病気と障害
 1.病気とは
  1.通俗モデル
  2.古代医学の発展
  3.医学モデルの誕生
  4.精神医学領域の諸モデル
 2.障害とは
  1.障害と構造─機能分析
  2.障害者とは
  3.障害のモデルをめぐって
  4.社会制度の改革
 3.患者と障害者
  1.患者と疾病行動
  2.病者と障害者の役割
  3.障害と偏見
 4.慢性疾患モデル
  1.医学モデルの限界
  2.証拠に基づく医療へ
  3.慢性疾患の自然経過と予防医学
  4.障害予防のための手段
  5.保健医療における対応
  6.障害調整平均寿命
 5.機能志向的アプローチ
  1.機能的状態とは
  2.病理志向的アプローチと機能志向的アプローチ
 6.ヘルスケア・システムと包括的ケア
第3章 人間活動と発達,ハビリテーション
 1.発達とは
  1.発達の定義と発達分析
  2.発達研究の流れと発達理論
 2.人間活動
  1.運動行動の階層構造
  2.人間活動の階層構造
  3.各ライフサイクルにおける発達の特色
  4.発達評価
 3.ハビリテーションとノーマライゼーション
  1.ハビリテーションとは
  2.発達障害
  3.ライフサイクルとハビリテーション・サービス
  4.ノーマライゼーションの影響
  5.障害学からの問題提起
第4章 障害と心理
 1.現代の障害観と国際生活機能分類
 2.健康に関する機能と心理過程
 3.医学的リハビリテーションにおける患者の心理
 4.身体レベル─神経心理学─
  1.神経心理学とは
  2.高次脳機能全般の評価
  3.失認
  4.無視
  5.失行
  6.失語
  7.記憶障害(健忘)
  8.行動異常
 5.個人レベル─臨床心理学─
  1.臨床心理学の視点
  2.障害への心理的適応過程
 6.リハビリテーションにおける心理的諸問題
  1.動機づけ
  2.身体像と幻肢
  3.痛み
  4.心因反応
  5.性の問題
第5章 リハビリテーションの諸段階
 1.発症から社会生活へ
  1.リハビリテーションの目的とゴール
  2.医療施設と福祉施設等
  3.再統合の準備と地域の援助
  4.地域社会とコミュニティ
  5.ケア・システムの連続性
 2. リハビリテーションの諸相
  1.医学的サービスと更生援護
  2.教育的サービス
  3.職業的サービス
  4.社会的サービスと地域リハビリテーション
  5.高齢者サービス
  6.健康寿命と終焉
第6章 リハビリテーションの過程
 1.評価とプログラム
  1.評価とは
  2.リハビリテーションの諸相における評価
  3.リハビリテーション計画とプログラム
 2.チーム・アプローチと専門職
  1.チーム・アプローチ
  2.チームの構造とケース・カンファレンス,プログラムの進行
  3.医学的リハビリテーションにおける諸アプローチ
 3.わが国における各種専門職
 4.リハビリテーションの手段
  1.理学療法
  2.作業療法
  3.言語訓練
  4.聴能訓練
  5.視覚障害者の生活訓練
  6.リハビリテーション・スポーツ
  7.リハビリテーション看護
  8.心理療法
  9.カウンセリング
  10.ソーシャルワーク
  11.補装具,自助具および日常生活用具とその支給体系
  12.職能訓練
  13.リハビリテーション工学と福祉機器
  14.身体障害者補助犬
第7章 機能障害をもたらす主な疾病と外傷,先天異常および精神障害
 1.機能障害の諸相
 2.身体障害
  1.視覚障害
  2.聴覚障害
  3.平衡機能障害
  4.音声機能・言語機能,又は咀嚼機能の障害
  5.肢体不自由
  6.内臓の機能障害(内部障害)
 3. 精神障害
  1.統合失調症
  2.躁うつ病
  3.てんかん
  4.アルコール及び薬物による精神障害
 4.知的障害
 5.遺伝相談
第8章 リハビリテーションを支える社会保障体制
 1.社会保障とは
  1.わが国における社会保障制度
  2.社会保障水準
  3.社会福祉基礎構造改革と障害保健福祉施策の動向
 2.保健・医療制度
  1.医療の体系(医療法)
  2.地域保健法と保健所の役割
  3.公衆衛生対策
  4.精神障害者対策の経緯と精神保健制度
  5.難病対策
  6.健康日本21と健康増進法
 3.社会保険制度
  1.わが国の社会保険制度の経緯
  2.社会保険の構成
  3.医療保険制度
  4.年金保険制度
  5.災害補償制度と雇用保険制度
 4.社会福祉と公的扶助制度
  1.社会福祉と公的扶助の違い
  2.社会福祉法
  3.身体障害者福祉法と関連制度
  4.児童福祉法と関連制度
  5.知的障害者福祉法と関連制度
  6.発達障害者支援法
  7.障害者自立支援法と障害福祉サービス
 5.高齢者対策と介護保険
  1.高齢者対策の推移
  2.高齢者対策の理念(高齢者対策基本法)
  3.老人福祉法
  4.老人保健法
  5.介護保険法

 付表
  付表1 ヒポクラテス宣誓
  付表2 世界人権宣言
  付表3 障害者の権利宣言(1975年,国際連合)
  付表4 知的障害者の権利宣言(1971年,国際連合)
  付表5 障害者の職業リハビリテーション及び雇用に関する条約(第159号)(平成4年)
  付表6 身体障害者の職業更生に関する勧告(ILO第99号勧告)
  付表7 障害者基本法
  付表8 障害に関する分類(ナギの分類)(ウッドの分類)
  付表9 国際障害分類
  付表10a 身体障害者福祉法による身体障害者
  付表10b 身体障害者障害程度等級表
  付表11 厚生事務次官通知:療育手帳制度について(昭和48年)による知的障害児(者)の療育手帳の障害程度
  付表12 精神障害者保健福祉手帳の障害等級
  付表13 学校教育法による盲者等の心身の故障の程度
  付表14 障害者の雇用の促進等に関する法律における障害者の定義
  付表15 身体障害者福祉施策の概要
  付表16 社会福祉施設の種類,設置主体,目的および対象者
  付表17 わが国の社会保障体系の長期給付(社会福祉を含む)における義肢・更生用装具・日常生活用具等の支給体系一覧表
  付表18 身体障害者(18歳以上)及び身体障害児(18歳未満)の実態調査
  付表19 社会保険診療における在宅医療
  付表20 老人保健診療における在宅医療
  付表21 要介護認定調査票(基本調査)
  付表22 特定疾患治療研究対象疾患の概要
  付表23 特定疾病
  付表24 各種専門職の養成課程と業務
  付表25 障害者基本計画
  付表26 平成15年4月から支援費制度へ移行したもの,移行しなかったもの
  付表27 補装具新規交付に係る判定事務の簡素化
  付表28 日本医師会の「医の倫理綱領(および注釈)」
  付表29 国際生活機能分類(ICF)

 文献
 和文索引
 欧文索引