やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

監訳の序
 人の姿形は,誰でも基礎的な知識がなくても,観察者の目を通して「観察」することによってなされる.しかし,姿勢を評価するには,単に「観察」するだけでなく,最新鋭の機器を利用したり,例え原始的でも観察者の鋭い目で観察した視覚情報を分析し,解釈することによってなされている.
 この『姿勢アセスメント(Postural Assessment)』は,姿勢と全身および局所の各部との関連性を観察し,分析することによって明らかにされる.例えば,姿勢の変形による不均衡は,精神・心理的ストレス,筋・筋膜の不均衡,関節可動域の制限,関節の不安定性,痛みや不快感による機能不全などが要因となり引き起こされる.
 本書は,こうした姿勢の評価に関して,姿勢の定義から立位と座位における静的な姿勢評価のための検査手段としての評価までを可能にした技術書である.
 また,本書の特筆すべきは,医療,看護,福祉,スポーツ系の初心者から専門家のための姿勢評価の実践書として忙しい臨床においても役立つように評価を迅速に行えるようにしたことである.さらに付録においては,学習段階の理解を深められるように,各章末に質問を載せている.
 最後に,本書の翻訳に対して,読者の皆様からのご批判やご助言をお願いする次第である.
 なお,本書の出版に際し訳者諸氏と完成まで根気よく付き合ってくれた医歯薬出版の各位に深く感謝申し上げる.
 平成26年
 武田 功


 この本を2つのグループの人に捧げる.まず,姿勢評価のワークショップに参加してくれた多くのボディワーカー(bodyworker)に捧げる.そして,姿勢や身体の類似点,相違点をより良く学べるように下着姿で立ってくれたことに感謝する.また,皆様の疑問によって長年このことについて興味を持ち続けられたことに感謝する.つぎに,この本を手にとる姿勢評価に不慣れなすべての人にこの本を捧げる.そして,2つの助言を与える.姿勢評価をはじめなければならない,しかし,この本の内容に同意する必要はない.


シリーズ全体の序文
 マッサージは,今日使われるもっとも古い治療法の一つであるかもしれない.現在,多くのセラピストは,以前にも増して絶えずマッサージ技術を広める活動をしている.これらの技術の多くは,マッサージ師養成校の課程内で教えられている.現在必要なのは,クライエントにマッサージ治療を行うために必要な技術を教えること,臨床的,教育的なより良い教材を提供することである.Human Kinetics社はこれを考慮し,セラピストのためのハンズ・オンガイドを出版した.
 セラピストのためのハンズ・オンガイドシリーズは,マッサージセラピストの領域において,評価や治療の特別な手法を提供している.例えば,オステオパシー(osteopath)やフィットネスのインストラクターなどのボディワーカーにとって有用となるかもしれない.シリーズの各本は,クライエントに対する技術を伝えるための段階的なガイドである.各本はあらゆる技術をフルカラーの写真にて例示している 注).
 助言の箇所では,技術が正確に実行されるのを助ける,役に立つアドバイスを提示している.そして,クライエントについての話の箇所では,特定の問題があるクライエントに対して技術をどのように使うことができるかという例を含んでいる.各本を通して,知識と技術を確かめる質問を載せてある.資格取得試験にパスしようとする場合には,特に有効になるだろう.それに対する解答も記載した.
 以前に学んだ技術に磨きをかける時や,必要な技術を習得し養成課程に合格しようとする時に,あなたはセラピストのためのハンズ・オンガイドシリーズを活用するかもしれない.また,あなたはより良いマッサージ治療を学生とともに探している指導教員であるかもしれない.このシリーズは,理論から実践への移行を容易にできるよう,学習しやすいように段階的に書かれている.セラピストのためのハンズ・オンガイドシリーズには,マッサージ治療を真剣に考えているすべての人が必要とする非常に重要な情報を載せてある.
 注)日本語版は2色刷である.


序文
 学生または専門家であるかにかかわらず,理学療法,オステオパシー,カイロプラクティック,スポーツマッサージ,スポーツ療法,または,ヨガ,ピラティス,フィットネス指導者などのすべてのボディワークに関わる仕事をする人は,全体的な評価の一部として,姿勢評価を行うことの大切さを認識しているだろう.姿勢評価は,筋,筋膜の不均衡があるかどうかや,この不均衡がクライエントの痛みや機能不全の要因となっているかどうかを決定する助けとなる.
 筋,筋膜の不均衡による姿勢を評価することは多くのセラピストによって必要とされる技術である.しかしこれまで,この評価について専門家たちを支援するための情報がほとんどなかった.『姿勢アセスメント(Postural Assessment)』は,観察によって自信をもって的確に評価することができる有効な方法を総合的に助言し,利用者が親しみやすいガイドとして作られている.本書は,姿勢と身体のさまざまな部分との関係性を明らかにすることを重視し,それらの関係性が痛みや不快感を引き起こすことに関与するかどうか,関節可動域の増減が関節の安定性に影響を及ぼすかどうかなど,有益な情報となるよう目指している.また,立位と座位の静的な姿勢評価に重点をおいている.姿勢評価の検査手段として,全くの初心者のために書かれており,どのように一般的によくある姿勢を確認するのか,どのように観察したことを理解すれば良いのかといった,なにをどのようにみるべきかを考えることが本書によってできるようになるだろう.
 本書は,2つの部分で構成されている.第I部では,姿勢評価をなぜ行うのか,誰に対して行うべきか,いつどこで行うべきか,行うメリットはなにか,などの疑問に対し,どのように姿勢評価を開始し,答えを導き出すのかを説明している.導入部分では姿勢に影響を及ぼす因子や理想的な姿勢について学習すると同時に,どのように姿勢評価を行う環境を作るのか,どのような機材が必要か,どれくらいの期間,なぜ,どのように所見を記録するかを述べている.線画は骨のランドマークを示しており,これは後の章のなかでも使用する.
 第II部では,姿勢評価の基本について,どこで開始し,なにを観察すれば良いのかを説明している.クライエントを後方,側方,前方,もしくは座位から観察し,各章を同じ形式で構成した.身体の一部は線画で示され,その部位を評価する方法が簡潔に述べてあり,それに続いて,所見の意味を説明している.例えば,クライエントの肩関節が内転していれば,どの筋が短縮しているのか,どの筋が伸張され弱化しているのか,といった評価結果がなにを意味するか説明している.所見の意味の箇所では,さまざまな姿勢が示唆する,その姿勢に影響を与える基本的な筋系について説明している.それらは実際にクライエントを観察した時に関連づけるのに役立つだろう.
 第II部の第3〜6章を通して,各姿勢がなにを意味するのかについて述べている.その理由は,筋がどのように機能するか,伝統的な仮定に基づいて姿勢を分析するためである.専門家として自分自身の経験に基づいて,他の多くのことよりもいくつかの提案を重視している.これらのことは,自分自身の考えを発展させる出発点となるのに役立つだろう.筆者の経験において,ボディワーカーはクライエントの評価方法と治療方法の両方を著しく変化させているので,第II部の説明に賛同できないかもしれない.多くの評価STEPでは,これらの説明の根拠を示すことができるように,簡単に行えるテストを掲載している.例えば,肩甲骨が前方突出している人は,菱形筋が伸張され弱化して,前方の胸筋が短縮している可能性があるなど,所見がなにを意味するのか,どのようにすれば確認することができるのかを率直に疑問に思ってほしい.おそらくさらに重要なのは,正しい姿勢のためになにをすべきで,なにをすることができるかであるが,それについては本書では言及していない.本書は,観察を行うことを目的としており,所見からなにをするかということを目的とするものではないからである.
 姿勢評価に関してこのテキストをまとめることは,興味深い過程であった.筆者は,筋骨格解剖学と生理学について伝統的な見解を支持する教育者に就いていた.それゆえ,手技の中心にはこの知識が活かされている.しかしながら,個々の筋が働く方法について,伝統的な見解に対する疑問であっても,解剖学や生理学分野の進歩には注意を払う必要がある.姿勢評価に関して,結論を決定づけるために情報を探すことをお勧めする.例えば,“Anatomy and Actions of the Trapezius Muscle”Johnson,Bogduk,Nowitzke,and House(1994)の論文では,僧帽筋の作用についての誤った考えに異議を唱え,どのようにして慣例的に叙述されたのか44頁にわたる考案を行っている.もう一つ最近の論文においては,Thomas Myerら(2001)が腰筋が股関節の屈曲や胸腰部の回旋に関与するかどうかを疑問視している.
 付録では,見解を記録するためのすべての表を掲載している.これらの表には,立位や座位で,前方,側方,後方からの姿勢評価を行う際に各STEPを通して観察した結果を書き込む部分がある.
 他のセラピストのためのハンズ・オンガイドシリーズと同様に,段階的な形式によって助言するとともに評価を迅速に行えるようになっている.各章の最後には,自分の学習段階がテストできるように質問を載せている.このシリーズの他の本とは違い,本書では,解剖学的な関係について理解しやすいように,写真よりも主に単純な線画を使用している.
 セラピストはクライエントを全体的に捉え,身体の一部と他の部分がどのように関連しているのか,どのように身体機能が相互に関係しているのかを評価する必要がある.新しい技術を推し進めようとする時,セラピストはすべての情報を理解しようとし,困惑させられる.したがって,本書では,身体の評価を区分化して行っていることを許してほしい.これについての評価手順は,情報を理解しやすいように小さくまとめている.どのような職業であっても,身体をより良い状態にして人を助ける仕事に関わる人には,本書の価値を理解してもらいたい.


謝辞
 はじめに,姿勢評価の本についてのアイデアが良いと思ってくれたHuman Kinetics社の前編集者であるJohn Dickinsonに感謝する.また,アイデアを気に入り,正式に提案を受け入れてくれたLoarn Robertsonに感謝する.
 最終的に掲載されなかった写真も含め,この本のために撮影を引き受けてくれた被検者の皆様の恩恵も受けている.読者に理解してもらえるように多くの写真からより良い写真を選択する必要があり,この選択なしではこの本は完成しなかったであろう.夕暮れのロンドンにおいて,下着姿で長い間,撮影に協力してくれた皆様の寛大さに感謝する.
 加齢による姿勢への影響を,写真で実証してくれた両親のBruce RobertsonとPatricia Robertsonには深く感謝したい.また,すぐに撮影を承諾してくれたSiva Rajahとその撮影を手伝ってくれたTatina Semprini,お願いした通り熱心でユーモアある写真撮影を実行してくれたEmma Kellyに感謝の意を表する.警察官というあなたの職業が,再度一緒に仕事することを妨げないように望んでいる.
 原稿を読んで意見をくれた以下の人に感謝したい.理学士〔BSc(Hons)〕でオステオパシー博士(DO,osteopath)であるCameron Reidとオステオパシー専攻の4年生であるZara ValentineとJason Bianchiに感謝したい.
 また,表紙の写真 注)の作成に協力してくれたモデルのRichard Lewisとロンドンの美しいスタジオでの撮影を許可してくれたSAS Martial Arts AcademyのSifu Andrew Sofosの2人に感謝を述べたい.
 最後に,本書をまとめるのを手伝ってくれたHuman Kinetics社のスタッフ,Loarn Robertson,Amanda Ewing,Brendan Shea,Kali Cox,Nancy Rasmus,Dawn Sillsに感謝する.
 注)日本語版は表紙を変更している.
 監訳の序
 シリーズ全体の序文
 序文
 謝辞

第I部 姿勢評価入門
第1章 姿勢評価の序論
 1. 姿勢とはなにか?
 2. どのような因子が姿勢に影響を及ぼすか?
 3. 理想的な姿勢はあるか?
 4. なぜ姿勢評価を行うか?
 5. 誰に姿勢評価を行うか?
 6. どこで姿勢評価を行うか?
 7. いつ姿勢評価を行うか?
 8. おわりに
 ・Quick Questions
第2章 姿勢評価の準備
 1. 必要な道具
 2. 所要時間
 3. 姿勢評価のSTEP
 4. 標準的アライメント
 5. 所見の記録
 6. 注意事項と安全管理
 7. おわりに
 ・Quick Questions
第II部 姿勢評価を行う
第3章 後方からの姿勢評価
 1. 上半身
  STEP 1 両耳の位置関係
  STEP 2 頭頚部の傾斜
  STEP 3 頚椎の回旋
  STEP 4 頚椎のアライメント
  STEP 5 肩の高さ
  STEP 6 筋の大きさと筋緊張
  STEP 7 肩甲骨の内転と外転
  STEP 8 肩甲骨下角
  STEP 9 肩甲骨の回旋
  STEP 10 翼状肩甲骨
  STEP 11 胸椎
  STEP 12 胸郭
  STEP 13 皮膚のしわ
  STEP 14 上肢の肢位
  STEP 15 肘の肢位
  STEP 16 手の肢位
  STEP 17 その他の観察
 2. 下半身
  STEP 1 腰椎
  STEP 2 腸骨稜
  STEP 3 上後腸骨棘
  STEP 4 骨盤の回旋
  STEP 5 殿部のしわ
  STEP 6 大腿の大きさ
  STEP 7 内反膝と外反膝
  STEP 8 膝関節の後部
  STEP 9 ふくらはぎ(腓腹部)の大きさ
  STEP 10 ふくらはぎ(腓腹部)の正中線
  STEP 11 アキレス腱
  STEP 12 内果と外果
  STEP 13 足部の肢位
  STEP 14 その他の観察
 ・Quick Questions
第4章 側方からの姿勢評価
 1. 上半身
  STEP 1 頭部の肢位
  STEP 2 頚椎
  STEP 3 頚椎と胸椎の連結部
  STEP 4 肩の肢位
  STEP 5 胸郭
  STEP 6 腹部
  STEP 7 腰椎
  STEP 8 その他の観察
 2. 下半身
  STEP 1 骨盤
  STEP 2 筋の大きさ
  STEP 3 膝関節
  STEP 4 足関節
  STEP 5 足部
  STEP 6 その他の観察
 3. 全体的姿勢を比較すること
 ・Quick Questions
第5章 前方からの姿勢評価
 1. 上半身
  STEP 1 顔面
  STEP 2 頭部の肢位
  STEP 3 筋緊張
  STEP 4 鎖骨
  STEP 5 肩の高さ
  STEP 6 丸まった肩
  STEP 7 胸部
  STEP 8 運搬角
  STEP 9 上肢
  STEP 10 手と手関節
  STEP 11 腹部
 2. 下半身
  STEP 1 骨盤の側方傾斜
  STEP 2 骨盤の回旋
  STEP 3 足の肢位
  STEP 4 筋の大きさ
  STEP 5 外反膝と内反膝
  STEP 6 膝蓋骨の肢位
  STEP 7 膝関節の回旋
  STEP 8 Q角
  STEP 9 脛骨
  STEP 10 足関節
  STEP 11 足部の肢位
  STEP 12 扁平足と凹足
  STEP 13 その他の観察
 3. 全体的観察:体型
 ・Quick Questions
第6章 座位の姿勢評価
 1. 後方からの観察
  STEP 1 頭頚部の肢位
  STEP 2 肩の高さ
  STEP 3 胸部
  STEP 4 股関節と大腿部の肢位
  STEP 5 足部の肢位
 2. 側方からの観察
  STEP 1 頭頚部の肢位
  STEP 2 胸部
  STEP 3 肩の肢位
  STEP 4 腰椎,骨盤,股関節
  STEP 5 膝関節
 ・Quick Questions

 付録:姿勢評価表
  後方からの姿勢評価表
  側方からの姿勢評価表
  前方からの姿勢評価表
  座位の姿勢評価表
 Answers to Quick Questions
  第1章
  第2章
  第3章
  第4章
  第5章
  第6章

 参考文献
 著者について